《解説》令和8年度防衛予算案──金額は小さいが大量に調達する無人アセット
- ニュース解説
2025-12-31 20:36
2025年12月28日、防衛省は令和8年度の防衛予算案を公表しました。抜本的強化「スタンド・オフ防衛能力」や「統合防空ミサイル防衛能力」など7項目を重点的に増額・整備する内容です。そのうち急速に整備が進む「無人アセット防衛能力」の関連事業について、竹内 修が解説します。
防衛予算案は過去最高の9兆円 円安と物価高が大いに影響
防衛省は2025年12月28日、令和8(2026)年度予算案を公表した。
アメリカ軍再編経費と沖縄に関する特別行動委員会(SACO)関係経費を除いた防衛関係費の要求総額は8兆8,093億円で、令和7年度当初予算の8兆4,748億円に比べて3.9%、金額にして3,345億円の増となった。2022年(令和4)年度に5兆4,00億円だった防衛費は、その後毎年度約1兆円ずつ増加して2025(令和7)年度には8兆円台に達しており、令和8年度予算案では、アメリカ軍再編経費などを含めると、初の9兆円代(9兆0,353億円)となった。
近年の防衛関係費の大幅増は、日本が直面している安全保障環境の厳しさへの対応や、前述したアメリカのドナルド・トランプ政権が同盟国に防衛費の増加を求めていることなどが主な原因だが、円安と物価高も大いに影響している。2022年度に政府が想定していた為替レートは1ドル=108円だったが、2026年度の想定為替レートは1ドル=149円である。
航空自衛隊が導入を進めているF-35Aステルス戦闘機は、量産効果で価格が順調に低下していたことから、2022年度調達分の1機あたりの単価は約96億円にまで下がっていた。しかしその後は、ブロック4ソフトウェアの開発難航による開発コストの増大や原材料費の高騰などにより価格は上昇に転じ、さらに円安が続いていることから、来年度予算案でのF-35A 1機あたりの調達費は、187億円に達している。
輸入品に比べて為替変動の影響を受けにくい国産装備品にも物価高の影響は及んでおり、2025年度には1機あたり約33億円だった陸上自衛隊のUH-2多用途ヘリの機体単価も、来年度予算案では46億円に達している。

抜本的強化の柱・7つの重点整備項目を重点的に整備
2022年6月7日、当時の岸田内閣は発表した経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」の中で、5年以内に防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出した。
防衛省はその方針に則り、2023年度から防衛力の整備を進めているが、とりわけ以下の7項目の整備に重きを置いており、令和8年度の予算案でも7項目の重点整備は堅持されている。
1 スタンド・オフ防衛能力
2 統合防空ミサイル防衛能力
3 無人アセット防衛能力
4 領域横断作戦能力
5 指揮統制・情報関連機能
6 機動展開能力・国民保護
7 持続性・強靱性
海からの敵を食い止める スタンド・オフミサイルの拡充
敵の防空システムなどがカバーする範囲の外側、それも出来る限り遠方から攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」については、陸上自衛隊の 12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型) 、 島嶼防衛用高速滑空弾 、 極超音速誘導弾 、海上自衛隊の 12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型) 、航空自衛隊のF-2能力向上型に搭載する 12式地対艦誘導弾能力向上型(空発型) 、F-35Aに搭載する JSM (Joint Strike Missile)、F-15能力向上機に搭載する JASSM (JASSM: Joint Air-to-Surface Stand-Off Missile(F-15能力向上機に搭載)の調達費と、これらに加えてすでに本体は調達済みの トマホーク巡航ミサイル を装備するための既存装備の改良費など、9,733億円が計上されている。

◎令和8年度予算案のスタンド・オフ・ミサイル関連項目
| 項目 | 計上額 |
|---|---|
| 12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)及び地上装置等の取得 | 1,770億円 |
| 12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)の取得 | 357億円 |
| 潜水艦発射型誘導弾の取得 | 160億円 |
| 島嶼防衛用高速滑空弾及び地上装置等の取得 | 387億円 |
| 極超音速誘導弾及び地上装置等の取得 | 301億円 |
| JSM | 36億円 |
| JASSM | 17億円 |
| トマホーク発射機能の艦艇への付加 | 12億円 |
これらの誘導弾はこれまで自衛隊が導入・運用してきた誘導弾に比べて射程が長く、単純に戦力としてだけでなく、敵対勢力が日本に手を出すことを躊躇させる「抑止力」としての効果が期待されている。
令和9年度中に構築 無人アセットによる多層的防衛体制「SHIELD」
「スタンド・オフ防衛能力」や「統合防空ミサイル防衛能力」などによる迎撃をくぐり抜けて、万が一敵が陸地に迫って来た際に、無人アセット(装備品)を活用して人的損耗を抑えつつ、非対称な戦い方により侵攻を阻止・排除することを目的とするのが「無人アセット防衛能力」である。ここからはそれについて触れていく。
令和8年度予算案では「無人アセット防衛能力」の一環として、UAV(無人航空機)、USV(無人水上艇)、UUV(無人潜水艇)といった各種無人アセットを組み合わせた多層的沿岸防衛体制「SHIELD」(シールド、Synchronized,Hybrid ,Integrated and Enhanced Littoral Defense)を構築する方針が示されており、そのための経費として1,001億円が計上されている。

「SHIELD」は以下の10種類の無人アセットで構成される。
【航空自衛隊】
艦艇攻撃用UAV :長距離を飛行し、敵艦艇等を攻撃する
レーダーサイト防衛用UAV :敵UAVからレーダーサイトを防衛する
【海上自衛隊】
艦載型UAV(小型) :水上艦艇の情報収集・警戒監視能力を向上させ、敵艦艇等を攻撃可能
水上艦発射型UAV :艦艇から発射され、敵艦艇等を攻撃する
【陸上自衛隊】
モジュール型UAV :近距離で情報収集等を行う、一人称視点(FPV)タイプ
小型攻撃用UAV I型 :近距離で車両等を攻撃する
小型攻撃用UAV II型 :中距離で敵艦艇等を攻撃する
小型攻撃用UAV III型 :遠距離で敵艦艇等を攻撃する
小型多用途UUV :敵艦艇等の情報収集等をおこなう
【陸・海自衛隊】
小型多用途USV :敵艦艇等に対し攻撃等をおこなう

このうち艦載型UAV(小型)については、2025年1月にアメリカの防衛企業シールドAIが開発したUAV「V-BAT」が選定されている。その他の9つの無人アセットに関して防衛省は、「具体的な機種を想定して予算要求したが、どの機種になるかについては今後調達プロセスのなかで決まっていく」とし、機種名を伏せている。ただし、SHIELDの構築は令和9年度中を予定しているため、すでに実績のある海外メーカーの開発した無人アセットか、国内メーカーが独自に先行開発していた無人アセットを軸に機種選定が行われるものと思われる。

なお、小型多用途USVと小型多用途UUVは、これまでであれば海上自衛隊で運用されていたと考えられるが、これらを陸上自衛隊が運用することは、陸上自衛隊の変質を物語っていると言えよう。
候補機種はヘロンMk IIとバイラクタルTB2? 陸自の「UAV(広域用)」
SHIELDに含まれない無人アセットでは、陸上自衛隊の UAV(広域用) 5式の取得費として111億円が計上されている。
UAV(広域用)は、2022年に導入構想が明らかにされた、OH-1観測ヘリを後継する「偵察用無人機」と同一のものなのではないかと考えられる。
陸上自衛隊はこの「偵察用無人機」と、やはり2022年に導入構想が発表されたAH-1S対戦車ヘリおよびAH-64D戦闘ヘリを後継する「多用途/攻撃用無人機」の導入にあたって、2023年8月に、トルコのバイカル社が開発した「バイラクタルTB2S」と、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries)が開発した「ヘロンMk II」の調査を行う企業を選定する一般競争入札を行っている。
ヘロンMk IIは、和歌山県の南紀白浜空港でテストを行っていたことが明らかになっている。南紀白浜空港で目撃されたヘロンMk IIの胴体には川崎重工業のマークが描かれており、同社がなんらかの形で協力しているものと見られる。

バイラクタルTB2Sの調査がどのような形で行われるのかは明らかでないが、2025年9月6日付の『フォーブス』は、防衛省の報道担当者が防衛メディア『Jane's』の取材に対して、すでにバイラクタルTB2Sのテストを行っていると回答したと報じている。
また中谷元(なかたに・げん)前防衛大臣は2025年8月19日にトルコを訪問し、同国のヤシャル・ギュレル国防相と会談して、日本とトルコの防衛産業間の交流の実現に向けた議論を開始することで一致した。またバイカル社の視察も行っている。
防衛省は令和8年度予算案についてまとめた資料「防衛力抜本的強化の進捗と予算」で、UAV(広域用)を「水上艦艇等を遠距離から早期に探知し、指揮官の状況判断および火力発揮に必要な情報を収集可能なUAV」と定義している。ヘロンMk IIの洋上情報収集実績については不明だが、ロシアのウクライナ侵攻ウクライナが使用したバイラクタルTB2は、ロシア海軍の艦艇に対するミサイルやUUV(無人水上艇)などによる攻撃の際の目標情報収集でも有用性を実証している
これらの理由からUAV(広域用)の機種選定は、バイラクタルTB2Sを軸に行われるものと思われる。
シーガーディアンUAVで検証する「無人機によるスクランブル」
このほか令和8年度予算案には、令和7年度予算に引き続き洋上哨戒を主任務とするUAS(無人航空機システム)「MQ-9B シーガーディアン」4機と地上設備などの取得費として、765億円が計上されている。

航空自衛隊は、海上自衛隊が実任務で使用していない時間帯にMQ-9Bを借りて、対領空侵犯措置任務にUASを活用することを検討している。令和8年度予算案には検証飛行の経費として、11億円が計上されている。2025年9月13日付の読売新聞は航空自衛隊のMQ-9Bによる試験は3年間行われると報じており、おそらく航空自衛隊はその試験結果を基にUASを緊急発進に使用するか否かを判断することになるだろう。
MQ-9Bは優れた航続能力と情報収集能力を持つUASだが、プロペラ機のため巡航速度は200km/h台と低く、長時間の海洋監視などには適している反面、「緊急」発進には適しているとは言えない。航空自衛隊もその点は承知しているはずなので、本格的にUASを緊急発進任務に使用するとすれば、速度性能の高いジェット機型のUASを導入する可能性も考えられる。
(以上)
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