《解説》陸自オスプレイ「可動率40%」の実情を読み解く
- ニュース解説
2025-12-31 10:00
2025年12月24日、「陸自オスプレイの平均稼働率が40%を下回る状態が続いている」「整備員や部品の不足が課題である」「運用上必要となる態勢は確保している」という報道がありました。この数字、この状態が何を意味するのか、元陸上自衛隊 航空機整備幹部の影本賢治が解説します。
NHKが報じた陸自オスプレイの「稼働率40%」
2025年12月24日(水)、陸上自衛隊のティルトローター輸送機V-22オスプレイについて、2021年度から2023年度にかけての「稼働率」が40%を下回っており、2024年度は36.5%だったとするNHKの報道がありました。
陸上自衛隊が保有する全17機のV-22のうち、10機以上が飛行できない状態にあったことになります。1機100億円以上ともいわれる高額な航空機の半分以上が格納庫で眠っているのは、「非効率」だと思えるかもしれません。
◎NHKのニュース記事
- オスプレイの平均稼働率 40%を切る状態続く(2024年12月24日、NHK ONE)
- https://news.web.nhk/newsweb/na/nb-5080021005
- 陸自オスプレイ 平均稼働率40%切る状態続く 整備員不足課題(2024年12月24日、NHK ONE)
- https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015012131000|
「稼働率」と「可動率」──似て非なることを指す同音異義語
今回の報道においては、一般視聴者に分かりやすいよう「稼働率」という言葉を用いたようですが、陸上自衛隊が指標として用いているのは「可動率」であり、報道された値もこちらを指していると考えられます。
「稼働率」とは、「実際に稼働した時間」を「稼働可能時間」で割ったものであり、工場などの生産設備で使われることが多い指標です。これに対し、「可動率」とは、「可動機であった時間」を「保有機であった時間」で割ったものであり、飛行可能な状態にある機体の割合を指します。

軍用機においては、実際に使われているかどうかよりも、いざという時に使えるかどうかが問題であり、その状態を表すバロメーターとして「可動率」が用いられているのです。ちなみに、軍用機の「稼働率」は「可動率」よりもずっと低い値になります。
ヘリコプターや固定翼機の可動率とは比較できない
V-22の可動率が、陸上自衛隊が保有するUH-60多用途ヘリやCH-47輸送ヘリよりも低い水準にあるのは間違いありません。正確な情報はありませんが、これらの機種の可動率は60%を超えていると考えられます。しかし、この比較には注意が必要です。
オスプレイは、固定翼機とヘリコプターの特性を併せ持つ「ティルトローター機」です。これは、一つの機体に「固定翼機としてのシステム」と「ヘリコプターとしてのシステム」の両方が詰め込まれていることを意味します。例えば、ヘリコプターのローターを制御する操縦系統に加えて、固定翼機の主翼や尾翼の舵を制御する操縦系統も必要となります。必然的に搭載機器の種類や数が多くなり、点検や整備にかかる時間も増大します。
多機能かつ高性能なオスプレイの整備期間がヘリコプターや固定翼機より長くなるのは、やむを得ないことです。傾く荷台も持つダンプトラックに、ファミリーカーと同じ整備の手軽さを求めるのは酷というものです。




むしろ、比較すべきなのは米軍のオスプレイかもしれません。米空軍のCV-22の2024年度の可動率は約30%、米海兵隊のMV-22の可動率も50〜60%程度で推移しているとの報道があります。それぞれ最初のオスプレイ部隊が初度作戦能力(IOC)を獲得したのは、空軍が2009年、海兵隊が2007年です。陸上自衛隊のV-22の「40%を切る」という可動率は、導入後間もないことを考慮すれば、十分に健闘していると言ってよいのではないでしょうか。
可動率だけからでは見えない、二つの落とし穴
多くの人は「可動率は100%があるべき姿だ」と考えがちです。もちろん、航空機の可動率も高いに越したことはないのですが、そこには二つの重大な落とし穴が存在します。
第一の落とし穴は、陸上自衛隊内で言う「残時間」(ざんじかん)の問題です。航空機は、一定の飛行時間ごとに計画整備を行わなければなりません。このため、次回整備までに飛行できる時間、すなわち「残時間」がどれだけあるかで、遂行できる任務が決まります。
オスプレイの可動率に特に影響を及ぼす計画整備は、280飛行時間ごとに行う「フェーズ点検」(機体全体を分解点検する大規模な定期整備)であり、その整備期間は数週間に及びます。
極端な例をあげると、全17機が飛べる状態だが全ての機体が次回のフェーズ点検まで「あと1飛行時間」しか残っていない 部隊A(可動率100%) と、飛べる機体は7機しかないが7機ともフェーズ点検から上がったばかりで「あと250飛行時間」たっぷりと残っている 部隊B(可動率約40%) があった場合、有事に役に立つのは明らかに可動率約40%の部隊Bです。1時間で行える任務は考えにくいので、部隊Aは可動率が100%であってもほとんど任務を遂行できません。ガス欠寸前の自動車を何台持っていても仕方ないのと一緒です。

第二の落とし穴は「訓練との逆相関」です。オスプレイの計画整備には、前述のフェーズ点検の他にも定められた飛行時間ごとに必要となる点検があります。また、ローター・ブレードなどのように、飛行時間ごとに交換が必要な部品もあります。これに加えて、故障による非計画整備も必要になります。
| 点検区分 | 実施頻度 | 実施内容 |
|---|---|---|
| ターンアラウンド点検 | 飛行間 | 燃料・油脂類の補給、油脂漏れやパネル脱落等の簡易点検(飛行の有無にかかわらず24時間を過ぎると無効) |
| デイリー点検 | 72時間ごと | 機体全体の点検、FODや安全線の確認 |
| フェーズ点検 | 280飛行時間ごと | 機体全体について、配線・配管の干渉や腐食を詳細に点検(最も重要な部隊整備。A/B/C/Dの4段階をローテーションで実施) |
| 35時間特別点検 | 35飛行時間ごと | ローターハブ、ギアボックス、ナセル内部の点検、エンジンの洗浄 |
| 70時間特別点検 | 70飛行時間ごと | ドライブシャフト、降着装置、アビオニクスの点検 |
| 140時間特別点検 | 140飛行時間ごと | 機体構造、油圧系統の点検 |
| 定期機体整備(PMI) | 72ヶ月(6年)に1回程度 | 後方支援施設で機体全体を分解点検 |
※インターネット情報をまとめたもの
飛行時間が増加すれば、必然的に整備が必要な機体が増えます。整備中の機体が増えれば、可動機の数が減ることになります。つまり、「飛行訓練を行えば可動率が低下する」し、反対に「飛行訓練を行わなければ可動率は向上する」という逆相関の関係にあるのです。
裏を返せば、報道された「可動率の低下」は、輸送航空隊が、V-22という新しい機体の戦力化に向けて「積極的に訓練を実施している」証左であるとも言えるのです。
陸自コメント「運用上必要となる態勢は確保している」の意味
今回の報道によれば、陸上自衛隊は「運用上必要となる態勢は確保している」とコメントしたとのことです。
このコメントは、可動機の数自体は少なくても、即応性を維持できる飛行時間は確保できており、そのための訓練も実施できていることを意味します。前述の「残時間」や「訓練」が適切に管理されていることを示唆しています。
平時に十分な訓練を行い、整備サイクルを回しているからこそ、有事の際には一時的に整備スケジュールを調整し、瞬間的に可動率を跳ね上げて全力を投入する能力を身につけることができるのです。ただし、平時における可動率を高めていく努力も不可欠です。それは有事における即応性の「スタートライン」を高めることとなり、その維持・向上を容易にするからです。
即応性を維持しながら可動率を向上させるには?
即応性を維持しつつ、可動率を向上できるような施策にはどのようなものがあるでしょうか。
足りていない整備員を増やす
整備員数の増加は、整備期間の短縮に直結する、極めて有効な施策です。V-22の導入にあたっては、米国への留学により40名の整備員が養成されましたが、17機の機体数で割ると1機あたり約2名でしかありません。これは、陸上自衛隊の他の機種と比べて明らかに少なく、複雑な機体を整備するには全く足りていません。輸送航空隊は、2020年の新編以来、整備員の育成を進めてきましたが、可動率の向上を図るためには、他の機体に優先して整備員を配置するなど、陸上自衛隊全体での対応が不可欠です。ただし、新人整備員が増加すると、それに対するOJT(実地訓練)が必要になり、通常よりも整備期間が増加して、一時的に可動率が低下する可能性もあります。可動率の向上という成果が実際に表れるまでには、少なくとも2~3年はかかると考えたほうが良いでしょう。
米軍における部品不足の解消
部品の補給は、米軍における部品不足の問題が解決すれば改善すると考えられます。V-22はFMS(対外有償軍事援助。米国政府を通じて装備品を購入する制度)調達であり、機体の購入だけではなく、部品の供給もその多くを米軍に依存しています。その米軍自身が部品不足に陥っているため、陸上自衛隊に十分な部品を供給できない状態になっています。特に、米海兵隊MV-22Bの墜落事故(2022年6月、カリフォルニア州)の原因となったクラッチや、米空軍CV-22Bのでの墜落事故(2023年11月、鹿児島県屋久島沖)の原因となったギアボックスについては、陸上自衛隊も米軍と同じ暫定対策(交換頻度の増加や点検の強化)を行っているため、部品が不足しています。ただし、そのいずれについても、2026年には恒久対策(設計や素材の変更)が完了し、運用機への適用が開始されるため、比較的近いうちに問題が解消するはずです。
佐賀駐屯地への恒久配備
佐賀駐屯地への移駐完了は、V-22の補給整備に大きな効果をもたらそうとしています。V-22を保有する輸送航空隊は、2025年7月、千葉県の木更津駐屯地から佐賀県の佐賀駐屯地に移駐しました。木更津駐屯地での暫定配備は、仮の格納庫や隊舎での勤務を余儀なくされ、何よりも将来の勤務先が不確定であり、隊員たちが安心して教育訓練や補給整備に取り組める環境とは言い難い面がありました。佐賀駐屯地への恒久配備により、地域に根ざした安定した基盤が確立され、隊員たちが訓練に集中できる環境が整いつつあります。このことは、V-22の可動率向上に、間接的ではあるものの大きな効果をもたらすに違いありません。
「可動率を向上せよ」の圧力は無意味どころか有害
ここで強調しておきたいのは、部隊に可動率向上の圧力をかけるようなことがあってはならない、ということです。
2001年、オスプレイの開発段階において、米海兵隊で「レバーマン中佐(Lt. Col. Leverman)事件」と呼ばれるスキャンダルが発生しました。当時、オスプレイ計画は相次ぐ墜落事故により存続の危機にあり、国防総省や議会から高い可動率の達成を強く求められていました。この圧力に晒された飛行隊長のレバーマン中佐は、部下に整備記録の改ざんを指示します。実際には飛行不能な状態にある機体を、書類上は「飛行可能」と報告させたのです。
この改ざんは内部告発によって発覚し、中佐は解任され、オスプレイ計画は信頼を大きく損なうことになりました。この事件から得られた教訓は、「やれることをやっている部隊に対して可動率を向上させるよう圧力を掛けることは、意味がないどころか、有害である」ということです。これは、そのまま陸上自衛隊のオスプレイ部隊にも当てはまります。
可動率よりも大切なのは、いざという時に任務を遂行できるかどうか
V-22の可動率が40%を下回っているという報道は、陸上自衛隊が直面している兵站上の課題を明らかにしました。しかし、可動率の高低よりも重要なのは「可動機がいざという時に確実に任務を遂行できる状態にあるか」という点です。
陸上自衛隊には、目先の数字にとらわれず、飛行訓練や整備訓練を充実させ、真の即応性を高めるための地道な努力を継続することが求められます。そして我々国民も、防衛装備品の運用というものが、工場の「ライン稼働率」とは異なる、複雑で有機的な営みであることを知る必要があるでしょう。
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