《特集》早期警戒機E-2Dアドバンスト・ホークアイと太平洋の防衛
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2026-6-15 11:55
航空自衛隊への導入が進む、新型の早期警戒機E-2Dアドバンスト・ホークアイ。その能力は、太平洋に進出する脅威の監視に欠かせないものになりそうだ。井上孝司が考察する。

航空自衛隊は現在、E-2Cホークアイの後継として、E-2Dアドバンスト・ホークアイの導入を進めている。今の日本を取り巻く状況に照らして、E-2Dはどういった形で国の護りに貢献できるのか、あるいは、どう活用したら国の護りに貢献できるのか。ノースロップ・グラマンから提供いただいた最新の情報などをベースにして、そこに私見も交えながら考えてみたい。
E-2Dアドバンスト・ホークアイは、太平洋正面における警戒監視・指揮管制という観点から見た場合、有用な資産になるための要素を備えている。日本では、今年末までに安全保障戦略を改訂する予定だが、そこでも太平洋正面の重要性は指摘されるだろう。そうした状況との整合性がある。
また、E-2Dは既存の運用基盤やシステムとの高い親和性を有しているだけでなく、すでにあるインフラをそのまま活用できる利点もある。これは、新機種導入に際して不可避となる、要員の養成や維持管理基盤の構築に関わる時間的・経済的な負担を軽減できることを意味する。しかもE-2Dは米海軍との共通装備であり、能力向上や相互運用性の観点からいっても有利な立場にある。そして、高密度な脅威環境、電子戦、サイバー競争下の戦場に対応するための設計がなされている。
こうした利点を活かすことで、我が国の「国の護り」のみならず、同盟国やパートナー国との連携強化を進めるための、ひとつの手段となり得よう。つまり、単に「能力的に優れた装備に更新します」というだけの話では終わらないポテンシャルがあるし、そうしていかなければならない。

早期警戒機がカバーすべき空域が太平洋側に広がっている
冷戦期のように、自国とその周辺で対領空侵犯措置を行うことだけ考えていればよかったときには、基本的には主たる脅威、すなわちソ連を睨んで「北」を向いていれば用が足りた。E-2Cが三沢基地に配備された背景には、そういう事情もあろう。その後の「西方シフト」により、那覇基地にもE-2の飛行隊を置いたが、それとて日本列島の枠内のことである。
ところが、中国海軍が勢力を拡大するとともに、”遠出” ができる大型の水上戦闘艦や空母を揃えて、日常的に太平洋上に出てくるようになったことで、事情が違ってきた。
2022年策定の現行「安全保障3文書」において、すでに「中国の太平洋における活動の増加と、それに対応する警戒監視体制の強化の必要性」が指摘されている。その後も状況は深刻さを増しており、中国海軍の空母が太平洋上で艦上機を飛ばすところまで話が進んでいる。
そういう状況になれば、日本の立場としては、警戒監視の眼を太平洋側にも広げなければならない。艦艇の動向だけでなく、航空機の動向も監視する必要がある。

ところが太平洋方面は日本本土や南西諸島と異なり、陸地が少ない。一方で、カバーすべき範囲はべらぼうに広い。陸地が少ないということは、地上から警戒監視の眼を光らせようとしても限りがあるということだ。実際、小笠原諸島方面には航空自衛隊のレーダーサイトがない。つまり、地上から常続的に空域の情報を監視する手段を欠いている。よしんば、どこかの島嶼にレーダーサイトを設置したとしても、その島から半径数百kmの円内をカバーすることしかできず、その外側には目が届かない。
それならば、地上にレーダーを設置するのではなく、必要に応じてE-2Dみたいな機体を送り込む方が有用性が高い。その主な理由はふたつある。
ひとつは、航空機に搭載することでレーダーを高所に配置できるため、地上・海上から見たときの地平線・水平線の向こう側まで “視界” を押し広げられること。そのため、飛来する脅威、とりわけ低空を飛来する脅威を、より早く探知できる。
もうひとつは機動性。レーダーを載せた航空機は迅速な進出・展開が可能であるから、必要とされるときに必要とされる場所に、迅速に “空中の眼” を送り込める。このことは、利用可能な陸地が少ない太平洋方面に広域監視能力を展開する場面で、とりわけ効果的に機能する。
しかも後述するように、E-2Dは単なる「空中レーダー」ではなく「空飛ぶ指揮所」でもあるから、局地的に情況認識能力と航空戦指揮能力のセットを展開できる。「特定地域限定のJADGE(Japan Aerospace Defense Ground Environment)システム」を配備するようなものである。それにより、陸海空のすべてにまたがる統合防衛のための、タイムリーな状況把握と意思決定支援のための支援を提供する。”眼” だけでなく “頭脳” も一緒に展開できるからである。

E-2Dの強み①──高性能のレーダー
E-2Dは、外見こそE-2Cと大して変わっていないが、中身は全くの別物である。まず、E-2Dでは早期警戒能力の中核となるレーダーの能力を大幅に向上させた。
そのレーダーは、AESA(Active Electronically Scanned Array)化したAN/APY-9。アレイ・アンテナに変わったことで、AN/APY-9では時空間適応処理(STAP : Space-Time Adaptive Processing)の利用が可能になった。これは、時間方向(パルス方向)と空間方向(アンテナ方向)の二次元計測データを用いて、クラッタや干渉波などの不要波を抑止する機能である。
E-2はもともと空母に載せる早期警戒機として開発が始まった経緯があるので、洋上での警戒監視は当然ながら重視されている。しかも、航空機だけでなく、海面スレスレの低空を飛ぶ対艦ミサイルにも目を光らせなければならない。ところが、低空を飛ぶ対艦ミサイルや自爆無人機はサイズが小さく、もともと探知が難しい。そうしたターゲットからの反射波が海面からの反射波に紛れ込んでしまったのでは、捕捉追尾も覚束ない。
こうした事情を考えると、海面からのクラッターによる悪影響を排除してレーダーの探知能力を高めることは、従前からの重要な課題であったし、ゆえに改善の努力が続いてきた。STAPも、そのひとつである。
また、DSSC(Delta System/Software Configuration)ビルド3仕様から、“dwell-based tracker” という機能が加わった。ここでいう “dwell” とは「一定時間」という意味。具体的には、レーダーが特定の空域に対して瞬時ではなく継続的に一定時間、観測を継続する。そして、その間に得られた複数の反射波に関する情報を統合する。それにより、単一のパルスを送受信するだけでは捕捉や追尾が困難な、断続的に現れる探知目標や微弱な探知目標を、より確実に捕捉・追尾できる。
通常のレーダーは全周走査を行い、個々の走査で得られた探知をつなぎ合わせることで追尾を行っている。しかし、電子的にビームを制御できるAESAレーダー・AN/APY-9なら、特定の空域あるいは目標に対して連続してビームを送り、連続的に反射波を捉えることもできる。
おそらく、この機能はステルス性が高い目標に対して有効である。ステルス技術の要諦とは、「連続して明瞭にレーダーに映らないようにすることで、捕捉追尾を困難にする」ことにあるからだ。
こうしてAN/APY-9は、無人機やミサイルのような脅威を含む、各種の航空・海上目標を同時に捕捉追尾可能となり、しかもその数は数千に及ぶ。そして、レーダーが持つ捜索・捕捉・追尾の機能を高めれば、機上の管制員がレーダー・スクリーンから探知情報を読み取るための負担は軽減される。その分だけ指揮統制に集中できるから、より有効な戦闘指揮につなげられると期待できる。

E-2Dの強み②──バトルマネジメント
もうひとつの強みが管制能力。E-2Dは、単なる早期警戒機(AEW : Airborne Early Warning)ではなく、早期警戒管制機(AEW&C : Airborne Early Warning and Control)、つまり管制の能力も備えている。そして、航空自衛隊が全国に展開しているJADGEシステムにおいて、防空指令所のスクリーンに表示しているのと同レベルの画を、E-2Dの機上に備えるディスプレイで表示できるとされる。その画で得た情況認識に基づいて、陸上の防空指令所にいる兵器管制官と同様の仕事ができる道具立てが整っている。
それだけでなく、複数のドメインから取得したデータを統合することで、E-2Dはリアルタイムの共通戦場図を生成して、それを同盟国同士で共有できる。これは、迅速な状況認識と意思決定を実現するために不可欠の要素である。
現代戦、とりわけ航空戦の分野では、状況認識だけでなく、それに基づく迅速な意思決定、言葉を換えれば「指揮統制の優越」「意思決定の優越」が不可欠な要素とみなされている。素早く状況を把握して、それに基づき素早く意思決定をして、敵に先んじることが重要という話である。その基盤をE-2Dが提供するということだ。
また、手持ちの資産を集中運用せずに分散化するとともにネットワーク化することで、敵軍の負担を増やすとともに生残性を向上させる。そこに「指揮統制の優越」「意思決定の優越」を組み合わせる。それが、米軍が推進しているJADC2(Joint All Domain Command and Control、統合全領域指揮統制)の根底にある考えだ。その下で米海軍は、DMO(Distributed Maritime Operations、分散海洋作戦)という戦闘ビジョンを掲げている。それを支えるピースのひとつがE-2Dである。
つまり、E-2Dは洋上において遭遇する各種の脅威を捕捉追尾するだけでなく、それに基づいて平時・有事の作戦行動を指揮する中枢となる。これが、いわゆる「バトルマネジメント」の能力である。それが、海洋における任務の遂行、そして我の「海洋利用の自由」に資することになる。平時でも、国境警備、各種の情報収集、災害発生時の対応といった場面で、状況認識や指揮統制の能力を活用できる。

強化された指揮統制能力とデータリンクによる情報共有
E-2Dの乗員は、E-2Cと同じ5名。正副操縦士に加えて、後方のキャビンに3名の管制員が乗る。ちなみに米海軍の場合、前方から順にレーダー・オペレーター(RO)兼ウェポン・システム士官(WSO)、CICO(任務指揮官)、航空管制士官(ACO)が陣取るが、日本ではこれらの名称は用いられていない。
E-2Dではさらに、副操縦士席にも17インチの情況表示用のディスプレイを追加して、必要に応じて管制業務に “加勢” できるようになった。つまり、管制員の数が一人増えるのと同じことになるので、その分だけ処理能力が飽和する事態を避けやすくなる。
また、ネットワーク関連機能も強化されている。E-2C/DはLink 16戦術データリンクに対応しているから、レーダーの探知情報を他の航空機や艦艇などと共有できる。しかもこれは西側陣営の共通データリンクだから、統合作戦・多国籍の連合作戦を有利に進める一助ともなる。
また、E-2Dのミッション・システムは無人機を統制下に置くこともできる。すると、有人機と無人機を一元的に、E-2Dの統制下で任務に就けるとの話になる。それが具体化すれば、E-2DはMUM-T(Manned and Unmanned Teaming)の中核機能ということになる。
配備・運用の体制はどうありたいか
ただし、太平洋方面に監視の網を拡げるとなると、配備・運用の体制は再考が必要かも知れない。現在、E-2C/Dの部隊は北を睨んだ三沢基地と西を睨んだ那覇基地の二ヶ所。しかし、たとえば硫黄島やその周辺に展開させることを考えると、どちらにしても、いささか距離がある。シンプルに直線距離を測ると、三沢基地から硫黄島まで1,800kmぐらいある。
そこで個人的なアイデアを出してみる。現在はE-767のホームベースになっている浜松基地を、E-2Dも含めた早期警戒機の主作戦基地(MOB : Main Operating Base)として、そこから必要に応じて前進作戦基地(FOB : Forward Operating Base)に “出張” させる形はどうか。
浜松と硫黄島の直線距離は1,200kmを下回るから、三沢基地から進出する場合と比べると、所要時間はざっくり三分の二ぐらいで済むはずだ。行き帰りに要する時間が少なければ、常時オンステーションを維持するために必要な機数も少なくできる。つまり効率的な運用が可能になる。
何も硫黄島に限らず、それ以外の島嶼でも利用可能な飛行場があれば、FOBとして使える可能性はある。空母搭載機として設計されたE-2Dは、大型のAWACS(Airborne Warning And Control System)機と比べると短い滑走路、荷重負担の上限が小さい滑走路でも運用できるから、利用可能な飛行場の選択肢はそれだけ広くなるだろう。


航続距離の延伸と居住性の改善
E-2Dは空母に載せられる規模の機体ということで、小型で航続距離が短いという先入観を持たれそうだが、実際は異なる。航空自衛隊向けのE-2Dは主翼内にも燃料タンクを増設した「ウェット・ウィング」仕様になっており、最大で8時間の飛行が可能だ。(ちなみに米海軍は、機首に空中受油プローブを追加設置して対処しており、アプローチが異なる)
長時間の滞空を可能とする能力は、作戦範囲が広く、かつ利用可能な飛行場が少ない太平洋地域において継続的なオンステーションを実現する際に不可欠のものといえる。より遠方まで進出することも、より長く作戦海域の上空にとどまることもできるからである。
それと関連して、運用現場からのフィードバックを受けて改善されたポイントとして、居住性の改善がある。といっても機体のサイズは変わっていないから、機内空間が物理的に広くなったわけではない。しかし、トイレや電子レンジといった設備の追加は、長時間に渡って機上で任務に就く搭乗員にとってありがたい改善であろう。
E-2Dの将来性
E-2Dに関して、ここまで述べてきた話以外にも、無視できない重要な要素がある。
まず、航空自衛隊は長年にわたってE-2Cを運用してきている。よって、インフラの面でも教育訓練の面でも、機体の整備・維持管理の面でも、そして運用ノウハウの面でも、基盤と知見の蓄積がある。E-2Dの増勢は、その実績や知見の有効活用を可能とする。
また、E-2Dは米海軍との共通装備だ。レーダーにしても通信機器にしても指揮管制機能にしても、米海軍は今後も継続的な能力向上を図るはずだ。すると、アメリカ以外のE-2Dカスタマーは、米海軍における開発成果の恩恵に浴して、同じように能力向上を図ることができる。E-2D(に限らず、昨今のウェポン・システムはたいてい同じだが)のミッション・システムはオープン・アーキテクチャの理念に基づいて設計されているから、新機能の迅速な追加や能力拡張を実現しやすい。
また、ノースロップ・グラマンでは「数十年にわたる協力開発と相互信頼を基盤とし、日本の防衛産業との継続的なパートナーシップおよび共通のコミットメントを示しています」と説明している。つまり、将来的な能力維持あるいは能力向上という点での安心感、日本における確実な維持管理を実現する可能性につながるといえよう。

(以上)
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