[国会答弁]NHK番組における陸自幹部候補生学校の教官による沖縄戦についての発言に関する質問答弁
- 日本の防衛
2025-5-20 09:30
防衛省は令和7(2025)年5月16日(金)8時36分、第217回国会における閣議資料のうち、「NHK福岡放送局が制作・放映した番組における陸上自衛隊幹部候補生学校の教官が候補生たちに述べた沖縄戦についての発言に関する質問主意書」を報道に公開した。
その質問主意書と答弁書を以下に転載する。
質問主意書
令和7年5月7日提出
質問第174号
NHK福岡放送局が制作・放映した番組における陸上自衛隊幹部候補生学校の教官が候補生たちに述べた沖縄戦についての発言に関する質問主意書
提出者 屋良朝博
2025年1月31日から同年2月1日にかけて、九州・沖縄地区において日本放送協会(NHK)福岡放送局制作のドキュメンタリー番組「ザ・ライフ 戦後80年目の自衛隊幹部候補生たち」(以下「同番組」という。)が放映された。同番組の中で、福岡県久留米市に所在する幹部自衛官を養成する陸上自衛隊幹部候補生学校(以下「同学校」という。)が沖縄などで実施している、沖縄戦に関する研修(以下「同研修」という。)の模様が紹介され、一人の教官(以下「同教官」という。)が候補生たちに対し、軍民一体となって犠牲を広げた地上戦の実態を称賛し、旧日本軍の勇戦をたたえたかのような発言があった。
これを踏まえて、以下質問する。
一 第二次世界大戦の末期、日米両軍による激戦地となった沖縄県伊江島における戦闘では、島民は米軍の猛攻撃の中で逃げ場を失い、犠牲者は島民の半数に及ぶと言われている。同番組では、沖縄における同学校の現地教育で、同教官が候補生たちに向かって「軍民一体となって戦闘が行われたのが伊江島の戦闘と言われています。」、「自分たちの土地は自分たちで守る覚悟があるのかな。郷土は。」、「女性、老人、子ども、郷土を守ろうとして必死になる考え、思いは同じなのかなと感じる事はできますね。」と発言(以下「同発言」という。)する場面がある。他方、総務省のホームページの伊江村における戦災の状況(沖縄県)では、「戦時中日本軍の将兵には「戦陣訓」の「生きて虜因の辱めを受けず」という方針が徹底され、捕虜になる前に自決することが規範とされてきたが、軍民一体化した沖縄の戦場には、一般住民まで強要されたところから敵の捕虜になればスパイとみなして処する、という軍の方針は一般住民をも呪縛した。」との一節が置かれている。同教官は、当該一節で示されている史実を念頭に置き、候補生たちに同発言を行ったものと考えられるが、私の認識に間違いはないのか、政府の見解を示されたい。
二 防衛省・自衛隊は、自衛官募集のホームページにおいて、同学校について「初級幹部自衛官としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練を行う機関」であると設置目的を明示するとともに、「初級幹部としての必要な知識と技能を学びながら、幹部としての資質を養っていきます。具体的には防衛基礎学、戦術、戦史、戦闘戦技訓練、服務、防衛教養、実技などの課目があります。」と教育訓練の内容を具体的に紹介している。
1 同発言は、同学校の設置目的及び同学校が行っている教育訓練の趣旨に合致しているのか、政府の見解を示されたい。
2 同学校は、戦争で一般国民も自衛隊とともに犠牲をいとわず戦闘すべきであるとの考えを、将来の自衛隊幹部に伝授する方針であるのか、政府の見解を示されたい。
三 同番組における同研修の沖縄県読谷村での現地教育では、米軍に占領された飛行場を破壊するために投入され、多大な犠牲を出した義烈空挺隊の玉砕碑の前で、同教官が候補生たちに向かって「あの隊員たちについては、笑っているのがほとんどだったよね。」、「要は、君らにそれがつくれるのかという話。みんなは1か月後には部隊に赴任をする。赴任をした後にああいった隊員を育てなくちゃならない。有事の際、喜んで行ってきますという人たちを。じゃないと兵士として戦えないでしょう、当然。」と候補生たちを鼓舞する場面が撮影されている。
1 義烈空挺隊の作戦は、その犠牲の大きさからも特攻と考えられる。そのような特攻作戦を幹部自衛官候補生に奨励することが、同学校の思想なのか、政府の見解を示されたい。
2 これまでに海外に派遣された自衛隊員のうち、例えば、イラク人道復興支援活動やソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動に自身の派遣が決まった際、笑顔を見せたり、喜んで行ってきます等の発言を行った者はいるのか、可能な限り明らかにされたい。
四 同番組では、同教官による一連の発言に関するNHKの取材に対し、同学校側が「教官の発言は学校の見解ではなく遺憾です。」と回答したことが紹介されている。
1 同学校側が回答として述べている「学校の見解」とはどのようなものか、詳細を明らかにされたい。
2 同学校側は、回答として「遺憾」と述べているが、何に対しての「遺憾」であるのか、政府の見解を示されたい。
3 同教官による一連の発言は、同学校が同研修を実施した目的から逸脱しており、候補生たちに対して不必要な精神的圧迫を加えるものと言わざるを得ないと考える。同研修の終了後に、候補生たちから、同研修中にハラスメントを受けた等の申告はなかったのか、明らかにされたい。
4 同学校のように、特定の教育・訓練を行うことを目的として政府内に設置された学校において、NH K等の報道機関から教育・訓練が行われている実際の場面についての取材の申込みがあった場合、指導内容に優れ、かつ、指導者として模範的な者が実際の取材に応じることになると思われる。同教官は、同学校の中で模範的な指導者であるとして適切な方法で選抜された者であったのか、政府の見解を示されたい。
5 同学校において行われている研修を担当する教官を決定する場合、どのような要素をもつ者が研修の担当教官としてふさわしいのか、政府の見解を示されたい。
右質問する。
答弁書
衆議院議員屋良朝博君提出NHK福岡放送局が制作・放映した番組における陸上自衛隊幹部候補生学校の教官が候補生たちに述べた沖縄戦についての発言に関する質問に対する答弁書
一について
御指摘の「同教官」の「同発言」は、「同教官」の個人的な見解を述べたものであり、その一々についてお答えすることは差し控えたい。なお、政府としては、先の大戦において、沖縄は国内最大の地上戦を経験し、多くの方々が犠牲となり、筆舌に尽くし難い苦難を経験されたと承知している。このような悲惨な経験を風化させることなく、次の世代に継承することが重要であると認識している。
二の1について
陸上自衛隊幹部候補生学校は、自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)第33条の2に規定する「陸上自衛隊の初級幹部としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練を行うこと」を目的としており、御指摘の「同教官」の「同発言」は、同学校の設置目的に合致しない。また、同学校において行われる一般幹部候補生課程については、陸上自衛隊の教育訓練に関する訓令(昭和38年陸上自衛隊訓令第10号)第29条第2項に規定する「幹部としての資質を養うとともに、初級幹部として必要な基礎的な知識及び技能を修得させる」ことを趣旨としており、「同教官」の「同発言」は、同学校の教育訓練の趣旨に合致しない。
二の2について
陸上自衛隊幹部候補生学校では、二の1についてで述べた設置目的及び教育訓練の趣旨に基づき教育を行っているところであり、御指摘の「戦争で一般国民も自衛隊とともに犠牲をいとわず戦闘すべきであるとの考えを、将来の自衛隊幹部に伝授する方針」ではない。
三の1について
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、陸上自衛隊幹部候補生学校においては、御指摘の「特攻作戦」を「奨励」していない。なお、政府としては、先の大戦において、沖縄は国内最大の地上戦を経験し、多くの方々が犠牲となり、筆舌に尽くし難い苦難を経験されたと承知している。このような悲惨な経験を風化させることなく、次の世代に継承することが重要であると認識しており、同学校としても同様の認識である。
三の2について
お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の「自身の派遣が決まった際」の個別の発言等について、逐一把握していないため、お答えすることは困難である。
四の1及び2について
お尋ねについては、陸上自衛隊幹部候補生学校が、日本放送協会福岡放送局に対し、令和7年1月29日に電子メールにより「陸上自衛隊幹部候補生学校においては、「先の大戦において、沖縄は、国内最大の地上戦を経験し、多くの方々が犠牲となり、筆舌に尽くし難い苦難を経験されたと承知しております。多くの住民の皆さんの尊い命が犠牲となり、二度とこのような悲惨なことを繰り返してはなりません。」という認識に立っております。こうした認識の下、陸上自衛隊幹部候補生学校における教育では、特に、第32軍司令部の首里からの撤退後に住民の皆さんが多数戦禍に見舞われた事実を取り上げ、将来の陸上自衛隊の幹部になる者に対して、国土戦の実相や、有事における国民保護の重要性等について教育を行っています。本課程においても、幹部候補生に対し、昨年10月の校内教育、12月の沖縄戦史現地教育の事前教育、研修地である喜舎場、前田高地等における教育、移動中の車内での教育などの機会を捉えて、こうした内容を繰り返し教育しております。今回、御指摘のあった教官の発言は、幹部候補生学校の見解ではなく、このような発言があったことは遺憾です。幹部候補生学校長は、当該教官に対し、速やかに指導し、本人も深く反省しています。また、学校職員に対し、今後は、現地において、上官が教官を指導できる態勢をとることを指示しました。また、幹部候補生に対し、御指摘のあった教官の発言を是としていないことや、二度と悲惨な戦争を繰り返してはならないこと、万一の際における国民保護の重要性、幹部自衛官としての責任の重さ等についてあらためて教育を実施しました。」と回答したとおりである。
四の3について
御指摘の「一連の発言」について、現時点においては、陸上自衛隊幹部候補生学校において、「ハラスメントを受けた等の申告」があったとの報告は受けていないが、今後、報告があった場合には、厳正に対処していく。
四の4について
お尋ねは個別の人事に関する事柄であり、その詳細を公にすることは、人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから、お答えすることは差し控えたい。
四の5について
陸上自衛隊幹部候補生学校の教官については、二の1についてで述べた同学校の設置目的を踏まえ、知識、経験、能力、適性等を総合的に勘案して選考しているところである。
(以上)
Ranking読まれている記事
- 24時間
- 1週間
- 1ヶ月
- 《告知》『DSEI Japan 2025 展示ブース観覧ガイド』の公開について
- DSEI Japan 2025が5月21日から過去最大規模で開催へ——日本企業は170社が参加
- 人事発令 3月24日付け、1佐人事(陸自87名、海自81名、空自86名)
- [国会答弁]NHK番組における陸自幹部候補生学校の教官による沖縄戦についての発言に関する質問答弁
- 中谷防衛大臣が記者会見 空自T-4墜落事故、ヘリによる領空侵犯ほか(5月16日)