《取材記》イラン海軍フリゲート「デナ」撃沈──直前にインドで撮ったイラン艦と海軍司令官
- 日本の防衛
2026-3-9 21:12
米国とイスラエルがイランを攻撃する半月前、インドでは国際観艦式が行われていた。開戦5日目に米原潜の魚雷攻撃で撃沈されるイラン海軍フリゲート「デナ」もそこにいた。観艦式を取材したフォトジャーナリスト柿谷哲也が、「デナ」の最後の姿と戦死を報じられたイラン海軍司令官と交わした会話をお届けする。
イラン艦はインドから戦禍の母国へ向かっていた
2月28日(土)に始まったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃。開戦5日目の夜明け前、アメリカ海軍ロサンゼルス級原子力潜水艦「シャーロット」(SSN 766)が放ったマーク48魚雷により、イラン海軍フリゲート「デナ」が撃沈された。
「デナ」は2月18日(水)にインド東部ヴィシャカパトナムで行われた《インド海軍国際観艦式》に招待され、その後の多国間演習に参加し、戦禍の母国に帰国する途上で攻撃されたのだ。いわば潜水艦「シャーロット」は「デナ」をインド沖で待ち伏せしていたということになる。

ちなみに、このインド海軍観艦式にはアメリカ海軍から駆逐艦「ピンクニー」とP-8哨戒機が参加するはずだったが、両方とも直前にキャンセルされている。「ピンクニー」は修理のためにシンガポールに寄港していたが、出港は2月4日(水)。18日の観艦式には十分に間に合うが、キャンセルとなった。
アメリカは「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の盟友であるインドの観艦式に代替え艦も出さず、そのかわり招待艦に対して刺客を送ったということになる。
対潜能力はほぼゼロの小型艦
「デナ」はイラン海軍最新鋭のモッジ級フリゲートだ。とはいえ、原型は1970年代にイギリスが設計した満載排水量1,290トン級のフリゲートだ。これをベースに2006年からイランが独自で開発したのがモッジ級であり、「デナ」はその4番艦である。

満載排水量1,370トン余り、全長95メートル。イランでは「駆逐艦」と呼んでいるが、国際水準では「フリゲート」もしくは「コルベット」に分類され、日本にはこのような小さな護衛艦はないほどの小型艦である。
中国が開発したC802対艦ミサイルをイランで国内生産した「ヌール」対艦ミサイルが自慢だが、センサー類は乏しく、潜水艦を探知できるソーナーや搭載ヘリコプターは無かった。おそらく「シャーロット」の接近には全く気が付かなかっただろう。
イラン海軍司令官との短い会話、戦死のニュース
沈没2週間前の2月19日(木)、国際観艦式に参加した各国艦の乗員が市内でパレードを行い、「デナ」の乗員19名も参加していた。

その翌日、ノボテル・ホテルで行われたインド洋海軍国際会議「IONS」(Indian Ocean Naval Symposium)にイラン海軍司令部のシャフラム・イラニ少将が参加していた。会議は取材陣シャットアウトだったが、会議の合間にロビーで他の将校らと離れたところで休憩中のイラニ司令官と随行の参謀に筆者は近づいた。
ペルシャ式の挨拶をすると、司令官から手を差し伸べ握手してくれた。
軍事ジャーナリストとして聞くべきことはたくさんあったが、ここでは前回2016年観艦式に続いて今回もイラン艦が参加し、写真が撮れたことに感謝を伝えるにとどめた。筆者が過去に20回もイランを訪問したこと、イランの歴史遺産のすばらしさや、日本人の多くがイランの現状を心配しており、早く経済制裁が解除されることを願っていること、一人でも多くの日本人がイランを訪問するように記事にすることが筆者のミッションであることなど、思いを伝えた。

筆者は最後にペルシャ語で礼を言い、司令官もペルシャ語で「エンシャラー、ヘイリーマムヌーン(神が望むなら、ありがとう)」と答えてくれた。休憩時間の約半分くらいだっただろうか。
アメリカの攻撃開始後、ネット上にイスラエルから出た「イラニ少将戦死」のニュースを見つけて背筋が凍ったが、イラン政府からの公式にはないので、フェイクニュースであると信じている。「デナ」の撃沈はその直後のことであり、連続の衝撃に言葉も出なかった。
魚雷はこうして放たれた
この撃沈について、第1報を報じたのはスリランカ外相だった。「魚雷攻撃を受けた船内から32名を救出」としていた。
一瞬で沈む魚雷攻撃で「船内から救助」はありえず、対艦ミサイル攻撃の誤報ではないかと思ったが、撃沈翌日の米ヘグセス戦争長官による発表と潜望鏡からの映像で、現実の魚雷攻撃であったことを知った。はたして、僅か2,000トンに満たない非力な小型艦に魚雷攻撃が必要だったのか疑問に感じた。



映像のとおり、魚雷は「デナ」艦尾付近の水中で爆発し、バブルジェットにより船体を折り曲げ破壊させた。現代の魚雷は直撃ではなく、近接での爆発で敵艦を損傷させる方法をとっている。
魚雷は発射後、潜望鏡で確認した距離と方位に合わせて命中直前まで有線で誘導する。魚雷のセンサーからの「クローズ・イン」(攻撃範囲内に入った)の信号を発令所が受け取ると、発令所では誘導ワイヤーを切断。魚雷は目の前の艦のすぐ下で爆発する。
一般的に軍艦は敵潜水艦を警戒するためにセンサーを多用するが、それがなければ、艦橋で潜水艦の潜望鏡を探し続ける。しかし「デナ」が攻撃を受けた時刻は夜明け前。対潜戦が得意な海上自衛官でさえ、センサー無しで、目視だけで夜間の海面で潜望鏡を探すというのは簡単ではない。
「シャーロット」は闇夜の不意打ちで沈めたのだが、果たして1隻の小型艦を封じるために高価な魚雷を使う必要あったのか疑問に思う。確実に多くの乗員が犠牲になる魚雷ではなく、上部構造を破壊し、艦を無能化にしつつ人的被害を最小限にできる潜水艦発射型対艦ミサイルも「シャーロット」は搭載していたはずだ。
インド海軍はなぜ助けなかったのか
「デナ」は2月22日(日)から25日(水)まで、インド海軍主催の多国間演習「MILAN 2026」に参加していた。2月25日の朝、ヴィシャカパトナム沖合1.5㎞に投錨。同日、インド空母「ヴィクラント」艦上で演習の閉会式が行われている。

筆者が「デナ」を最後に見たのはこの日の午後4時。アメリカとイスラエルの攻撃開始はその3日後の28日。28日の時点で「デナ」が出港していたのかどうかは発表がない。「デナ」とインド海軍でどのようなやり取りがあったのかは明らかになっていないが、インド海軍側はイベントに招待した立場であるだけに、帰国せずに港に留まるよう勧告することはできたはずだ。
すでに「デナ」がインドを離れていたならば、少なくともインド海軍の管区担当範囲内では、インド海軍は駆逐艦やフリゲートで「デナ」をエスコートすることもできたはずだ。撃沈後にスリランカ海軍が救助に当たっていることから、インド海軍によるエスコートは無かったのだろう。
ちなみに沈没海域はインド南部コチに司令部を置くインド南部海軍軍管区の範囲内である。沈没事案の2日後、「デナ」と行動を共にしていたイラン海軍支援艦「ブシェーフル」は3月5日にスリランカ海軍トリンコマリー基地に、同じく揚陸艦「ラヴァン」は3月6日にインド海軍コチ基地に避難している。インド側もイラン側もヴィシャカパトナム出港前になぜこれが出来なかったのか、両者とも戦局の分析が足りなかったことは明白と言えそうだ。

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