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《レポート》第1回ランドパワー・フォーラム・イン・ジャパン 東京・水道橋で開催

  • 日本の防衛

2025-12-20 22:03

12月17日・18日、東京ドームシティで第1回「ランドパワー・フォーラム・イン・ジャパン」(LFJ)が開催されました。昨年までの「陸上自衛隊フォーラム」を大幅に拡充した国際イベントです。企業展示ブースには88社が出展しました。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

産学官と同盟・同志国が知見を共有し、連携強化に資する

 2025年12月17日(水)と18日(木)の2日間にわたり、東京都文京区にある東京ドームシティ プリズムホールにおいて「ランドパワー・フォーラム・イン・ジャパン」(LFJ)が開催された。これは、陸上自衛隊が主催する国際的なイベントで、「産・学・官及び同盟国・同志国との相互の知見を共有して、産・学・官の連携及び同盟国・同志国との連携強化に資する」ことを目的としている。

12月17日の「Landpower Forum in Japan」オープニング記念撮影。左から、陸上自衛隊教育訓練研究本部長 戒田重雄 陸将、フィリピン陸軍司令官ナファレッテ陸軍中将、オーストラリア陸軍本部長スチュアート中将、米太平洋陸軍司令官クラーク大将、陸上幕僚長 荒井正芳 陸将、マレーシア陸軍司令官ムハンマド陸軍大将、フィリピン海兵隊ブランコ海兵隊司令官、米太平洋海兵隊司令官グリン中将 写真:編集部
陸上自衛隊の展示スペース風景。会場には多くの陸上自衛官のほか、制服の異なるアメリカ、オーストラリア、フィリピン、マレーシアの軍人もいて目立っていた。出展企業の民間人と見分けやすいよう、報道はビブスを着用した 写真:編集部

 会場では、大きく分けて二つのイベントが開催された。一つは、メインステージで行われている基調講演やプレゼンテーションで、こちらは陸上幕僚監部、陸上自衛隊 教育訓練研究本部、陸上自衛隊OB、有識者、同盟国や同志国の現役軍人などが登壇した。もう一つが企業展示で、無人装備や人工知能(AI)をテーマに、国内外から88社(76ブース)もの企業が製品の展示を行った。本稿ではLFJの企業展示ブースで筆者が感じたことを書き連ねていこうと思う。

各種無人機を国内外メーカーがアピール

 今回のイベントのテーマを考えれば当然であるが、会場では国内外の企業が各種無人装備をアピールしていた。陸上自衛隊では、従来の情報収集や偵察を目的とした小型無人機だけではなく、自爆型無人機や徘徊型弾薬、さらにラックから小型爆弾や補給物資などを投下することが出来る少し大型のマルチコプタータイプの無人機など、攻撃や補給任務に投入できる機体に関しても実証試験を含めた導入準備を進めている。

 そうした状況の中で、日本国内からは福島県のイームズロボティクスや愛知県のプロドローンなどが、そうした幅広い任務に投入可能な自社製のマルチコプター型小型無人機を展示した。また、離島防衛の必要性などを踏まえ、長距離を飛行して遠方での情報収集を行う垂直離着陸可能な固定翼型無人機についても需要が増大しているなか、愛知県のテララボや東京都のエアロセンスなどは、ブースでの実機展示を通じてその性能をアピールしていた。

テララボ社のテラ・ドルフィンVTOL無人機。垂直離着陸と長距離飛行が可能 写真:編集部

 一方で、国外企業からはシールドAIが垂直離着陸型無人機のV-BATに関する展示を行っていたほか、アメリカの新興防衛企業であるアンドゥリル(Anduril)が、無人機対処(C-UAS)用のロードランナー(Roadrunner)や情報収集・攻撃用のアルティウス(Altius)などについて、それぞれパネル展示を行っていた。

 なかでも興味深かったのは、エアバス・ヘリコプターズのブースで紹介されていたVSR700だ。VSR700はヘリコプタータイプの無人航空機で、情報収集や物資輸送任務、さらにソノブイ投下能力を付与して対潜作戦などへの投入など、これまでも幅広い運用方法が展示会等の機会を通じて示されてきた。しかし、今回は陸上自衛隊への提案を意識してか、機関砲やミサイルを搭載することによる地上目標への攻撃能力をアピールしていた。

エアバス・ヘリコプターズ・ジャパンの模型展示。中央のVSR700無人ヘリ、右奥のフレックスローター無人機を左手の有人ヘリH145が管制するMUM-T(有人・無人機連携)作戦を表現している 写真:編集部

 担当者によると、これはあくまでも社内での将来構想のひとつということだが、同機はフランス海軍および陸軍での運用が見込まれており、もともとはフランス陸軍を意識した話だったのかもしれない。
 陸上自衛隊では、現在運用している対戦車ヘリコプターのAH-1Sおよび戦闘ヘリコプターのAH-64Dを退役させ、これを無人航空機と武装型の多用途ヘリコプターで置き換えることとしており、この点に関してエアバス・ヘリコプターズの今後の動向が注目される。

SHIELD構想を意識した指揮統制システムも

 一方で、こうした無人機そのものだけではなく、それを運用するための指揮統制システムに関しても、自社システムの売り込みをかけている企業が見られた。

 たとえば、先述したアンドゥリルでは、各種無人アセットやセンサーが捉えた情報をリアルタイムで統合し、有人・無人アセットの協調的な運用を可能にするシステム「ラティス」(Latice)を自社製無人アセット運用の中核に据えている。オープンアーキテクチャを採用しているため、他社製の無人アセットであってもこれに組み込むことが可能で、すでに海上自衛隊ではこのラティスを用いた指揮統制システムのあり方に関する実証を進めている。

 一方で、アメリカの大手防衛関連企業であるアメンタム(Amentum)は、同社が開発を進めている指揮統制システム「メッシュランナー」(MeshRunner)をブースで紹介していた。
 メッシュランナーは、各種の無人航空機、無人車両、有人アセット、現場の兵士、そして後方にある司令部をすべてネットワークで連接するというもので、これにより戦場の可視化が加速することになるという。

アメンタム社「メッシュランナー」指揮統制システムのプロモーション・ムービー 写真:編集部

 たとえば、現場の兵士が電波操作式の無人地上車両で敵情を偵察中に丘の向こう側を見ようとしたとする。しかし、当然そこは電波の見通し線外、つまり死角になってしまうため、操縦が利かなくなってしまう。そこで、上空を飛んでいる無人航空機に通信を中継してもらうことで、UGVを継続して操縦することが出来る。

 さらに、通信状況や利用可能な帯域に制約が生じてしまった場合、すべての無人アセットからの情報をリアルタイムに受け取ることが出来なくなる。そうした場合には、AIによりその状況下で最も重要と思われるアセットとの通信にリソースを集中することで、戦場の様子を継続して共有することが可能となる。現在、アメンタムではイギリス陸軍と協力してメッシュランナーの運用試験を実施しており、今後はこれを多国間の枠組みに広げていくことを計画しているようだ。

 これらの指揮統制システムは、いずれも防衛省が令和8年度防衛予算の概算要求に盛り込んだ新しい沿岸域防衛構想である「SHIELD」に関連するものである。SHIELDは、陸海空にまたがって運用される各種無人アセットを一体的に運用し、侵攻してくる敵を撃破しようというもので、安価な無人アセットにより敵の高価な有人アセットを撃破することによるコスト面での非対称性を敵に対して強要するものだ。

 この構想のカギとなるのは、いかにして各種無人アセットを一体的に運用するかということで、そのためには高度な指揮統制システムが必要となる。そこで、各社はこのSHIELD構想に照準を定め、日本に対して売り込みをかけてきているわけだ。

陸上自衛隊の新型装甲車を意識した話もチラホラと

 ところで、今回開催されたLFJのテーマは「各種無人装備とAI」であったが、じつは企業展示ブースではそれにとらわれない製品紹介も多々見られた。たとえば、オーストラリアのムーグ(MOOG)は、各種機関砲やミサイル、センサーなどを自在に搭載可能な無人砲塔の「RIwP」(Reconfigurable Integrated-weapons Platform:再構成可能な統合武器プラットフォーム)や「フレキシブルミッションプラットフォーム」などを展示していた。

 また、国内代理店を通してではあるが、ラインメタル社製の対空機関砲であるスカイレンジャー30/35もパネル展示されており、このうち35ミリ機関砲を装備するスカイレンジャー35は、小型無人機はもちろん巡航ミサイルやヘリコプター、戦闘機まで対応可能な高性能な防空システムとなっている。ウクライナ戦争を通して、陸上自衛隊では対空機関砲の再評価が進んでおり、とくに高射特科部隊が装備する87式自走高射機関砲の後継についても、その重要性が認識されてきているという。

 じつはこれら二つの展示を紹介したのは、筆者が無作為に選んだためではない。それぞれのブースで、陸上自衛隊の新型装輪装甲車であるパトリアAMVの名前が聞かれたためである。パトリアAMVは、フィンランドの防衛関連企業であるパトリアが開発・製造する装輪装甲車で、陸上自衛隊では96式装輪装甲車の後継として、2025年から順次部隊配備が開始されている。

 そして、このパトリアAMVに搭載する武器システムとして、上記各社は自衛隊や日本製鋼所(パトリアAMVの日本におけるライセンス生産担当企業)などとの協議を行っているという。もしかすると、陸上自衛隊においてパトリアAMVのさらなる派生型を目にする機会が訪れるかもしれない。

(以上)

展示企業一覧

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連番企業名主要展示内容
1株式会社IHI/株式会社IHIジェットサービス無人機、AI、CBRN
2株式会社IHIエアロスペース固体ロケットモーター事業と技術
3アルテアエンジニアリング株式会社AI関連ツール
4イームズロボティクス株式会社支援型ドローン及び多用途ドローン
5池上通信機株式会社無人機、AI関連
6株式会社石川エナジーリサーチ無人航空機、無人機用エンジン、CBRN
7株式会社石森製作所防衛装備用プレス品
8株式会社岩谷技研気球
9株式会社イングスシナノ実装加工技術、貼り合せ加工技術
10株式会社インターマーケットVR戦闘、警備、射撃 訓練シミュレーター
11Vantiq株式会社複数の無人機制御とAI連携
12株式会社AirKamuy固定翼無人機(安価・大量生産・消耗許容)
13エアバス・ヘリコプターズ・ジャパン株式会社無人機、有人機の連携
14株式会社エアロジーラボ無人機、ロボティクス、AI関連
15エアロセンス株式会社無人機、eVTOL、巡視・監視・物資輸送
16英国等企業グループラムジェット弾、高速艇、無人水中探査機
17ST EngineeringAI関連、デジタル化、次世代迫撃砲
18ESRIジャパン株式会社地理空間デジタルツインプラットフォーム
19株式会社FLE無人機、無人機探知機、コンポーネント等
20エプソン販売株式会社機密文書自社内抹消「ペーパーラボ」
21株式会社mmガード無人機、目標発見AI、SAR画像解析AI
22株式会社オフィールジャパン無人機および監視カメラ用赤外線レンズ
23株式会社海外物産無人アセットおよびカウンターUAS
24兼松株式会社無人標的機、無人機
25川崎重工業株式会社(航空宇宙システムカンパニー)無人機、AI関連
26キーサイト・テクノロジー株式会社無人機監視、AI関連
27株式会社グローバルインテリジェンストレーディング(GIT)無人機、AIの紹介
タウルス自律型ミッションシステム搭載巡航ミサイル
アメンタムモバイル統合ネットワークシステム
株式会社エヴァアビエーション無人機を含む装備品の後方支援システム
ユーリカAI駆動型無人艇を含む戦闘支援艇シリーズ
フライバイ多目的VTOL無人機
28株式会社ゲネシスコンマース高々度飛行可能UAV及び隊員携行型UAV
29KELA株式会社AIをサイバー防御の一部として活用
30株式会社構造計画研究所無人機、AI等の防衛技術を支える解析技術
31株式会社国際電気AI関連、無軌道走行標的
32コーンズテクノロジー無人機、AI関連、爆発物処理器材
33Sakana Al株式会社無人機、インテリジェンス、サイバー
34三信電気株式会社無線モバイル映像伝送装置
35JUIDA一般社団法人日本UAS産業振興協議会有人機操縦シミュレータ及び各種無人機
36新明和工業株式会社UAV、UGV用装置、無人機指揮所
37SwarmコンソーシアムSwarm、AI関連、無人機、ロボット
クラスターダイナミクス株式会社
株式会社EfficiNetX
株式会社キビテク
株式会社HoneyBeeTech
38株式会社スギノマシンロボット+センシング、自動加工システム
39株式会社SUBARU無人機
40住商エアロシステム株式会社AI及び無人機
41セントラル警備保障株式会社ドローン及びカウンタードローンシステム
42双日株式会社偵察用無人機
43株式会社ソリッド・ソリューションズ無人機、FCS/RWS、浄水器等
44多摩川精機株式会社無人機全般、eV-TOL、監視
45帝国繊維株式会社フィジカルAI、無人機、歩行ロボット
株式会社Highlanders
46Terra Drone株式会社無人機、AI関連
47株式会社テラ・ラボISR向け多目的長距離UAV-VTOL
48東京計器株式会社AI関連(スタンドアローンAIカメラ)
49東京計器アビエーション株式会社不正ドローン検知システム
株式会社アイランドシックス
50株式会社 東芝AI関連、装備移転候補アイテム
51ニデック株式会社無人機、補給・補修関連
ニデックマシンツール株式会社
52日本エヤークラフトサプライ株式会社無人機、統制システム
53日本海洋株式会社無人機(無線機含む)、米国採用C-UAS
54日本航空電子工業株式会社無人機向け国産フライトコントローラーなど
55日本コントロールシステム株式会社ELINT向け電波収集・解析、AI関連
56日本電気株式会社UGV、AI
57日本無線株式会社ドローンシミュレータ
58ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社可搬型4G/5G基地局
59ハイテクインター株式会社指揮統制、戦術用ビデオエンコーダデコーダ
60パナソニック コネクト株式会社画像解析、ミリ波レーダー、低遅延映像伝送
61株式会社パワート・ジャパン小型無人機用長寿命ガスタービン発電機
62株式会社ビジョンセンシング国産赤外線カメラ
63株式会社日立製作所生成AI、認知戦、車両・無人機、衛星画像
64株式会社フォトロン撮影映像のAI認識・追跡、高速度カメラ
65富士通株式会社指揮統制システム、無人機統制、AI関連
66双葉電子工業株式会社産業用ドローン、送信機
67古河産業株式会社重量物運搬ドローン
68株式会社Prodrone輸送用・耐スプーフィング・小型ドローン
69三菱重工業株式会社 航空機・飛昇体事業部無人機など
70三菱重工業株式会社 特殊車両事業部無人アセット関連
71三菱商事株式会社4足歩行型UGV
72MOOG AUSTRALIA砲塔式兵器システム ミサイルシステム
73BRAVE1 powered by 楽天ウクライナの無人機、AI関連の装備品
74株式会社リアルビズ統合訓練シミュレーション、電子教育教材
75一般財団法人リモート・センシング技術センターAIによる衛星画像物体検出
76ローデ・シュワルツ・ジャパン株式会社電波監視機材、ドローン対策ソリューション
稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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