【講演録】ノースロップ・グラマン 池田有紀美さん「安全保障を志す学生の皆さんへ」
- 日本の防衛
2025-12-31 18:02
2025年9月6日、東京都江東区の大正記念館で「全国学生安全保障カンファレンス in 東京」が開かれました。同カンファレンスのスポンサーとして登壇した、米国ノースロップ・グラマン社の日本オフィス副代表 池田有紀美さんの講演をお届けします。
日本におけるノースロップ・グラマンの知名度

聞き手 稲葉義泰(以下、稲葉)
では、会場からのご質問を1つ取り上げさせていただきます。
「ノースロップ・グラマンの日本のサイトは、他の海外防衛企業よりも充実している、力が入っていると感じるのですが、どのような方針が背景にあるのでしょうか?」
語り手 池田有紀美(以下、池田)
ありがとうございます。お褒めの言葉をいただきまして。
どこからお話しましょうか。まず、私たちの会社は、近年国際ビジネスに力を入れています。
これはなぜかというと、地域における安全保障環境の悪化と、これを踏まえて日本政府が2022年以降に防衛予算を増やし始めたことによって、この地域でのビジネスによる貢献を重視しなきゃいけない、と会社として目が向いてきたことが背景にあります。
その証拠に今年4月、当社のCEOであるキャシー・J・ウォーデンが自ら来日して、メディアの方にインタビューいただいたりですとか、日本政府の政策決定者の皆様と様々な意見交換をさせていただきました。
やっぱり、日本の皆さんにノースロップ・グラマンについて知っていただきたい、という強い思いがあります。
皆さんに聞いてみたいんですけど、アメリカの防衛産業企業でぱっと思いつく会社を1つか2つあげてくださいって言ったら、まずどこを言いますか?
参加者 D
すぐ思いつくのはロッキード・マーティンさんですね。
参加者 E
私はベル社が一番最初に。
池田
そうですか。面白い。なるほど。
ということですよね。つまり、ノースロップ・グラマンじゃないわけですよね。
会場
(笑)
稲葉
皆さん、心の中で思っていましたよね! ノースロップ・グラマンが1番だろうと。
池田
ちょっとそれを期待しつつ……(笑) いや、でも違うんだろうな……と思いつつ、聞いてみたんですけど、予想通りです。ありがとうございます。
そういう状況なのでですね、ぜひノースロップ・グラマンについて知っていただきたいということで、日本語のホームページにも力を入れています。
引き続きアップデートしていきますので、皆さんから要望があればどんどん何でも教えてください。要望にお応えして、しっかり更新していきます。
日本におけるノースロップ・グラマンのビジネス展開

稲葉
ところで、せっかくこういう素晴らしいバナーをお持ちいただいたので、御社のビジネスについてお話を伺いたいと思います。
まず、日本でのノースロップ・グラマンさんのビジネス展開について、かいつまんでご説明いただくことは可能でしょうか。
池田
もちろんです。ノースロップ・グラマンは、アメリカを代表する防衛・航空宇宙企業であり、軍用機や無人機、ミサイル防衛、宇宙関連システムなどを包括的に開発・製造するシステムインテグレーターです。もともと軍用機分野で名を馳せたグラマン社と、航空・宇宙および防衛システムに強みを持つノースロップ社が統合して誕生し、現在ではプラットフォームから電子機器、指揮統制・通信ネットワークまでを一体的に提供する企業です。
日本では、70年ぐらいビジネスをしてきています。それこそ、いま日本全国に60人から70人ぐらいの職員がいます。
オフィスはそこの赤坂見附にあるんですけれども、あとは日本全国に、特に各基地にですね、システムのメンテナンス、整備などのために常駐しているスタッフがいます。
例えば、三沢と岩国にですね、E-2というISR(情報収集・監視・偵察)のための航空機があるんですけれども、そのメンテナンスのために常駐していただいています。そういったことで、意外といるんです。

うちは飛行機から始まってはいますけれども、航空機だけじゃなくて、宇宙の技術の会社でもあるんですね。アメリカ政府が運用している衛星の90パーセント以上は実は私たちの会社の製品なんです。
ぜひ覚えて帰っていただきたいのが、「James Webb Space Telescope」(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)です。NASAが使っている、宇宙の仕組みを解明するための最先端の宇宙望遠鏡を開発したのが、うちの会社です。そこは自慢させてください(笑)。

ノースロップ・グラマンが日本で大切にしている3つのこと
池田
私たちの日本におけるビジネスで、大切にしていることを、3つ紹介させてください。
「これをすると約束したことは絶対にします」
まず1つめは「We do、What we promised to do.」です。
「私たちは、これをすると約束したことは絶対にする」。つまり、これは信頼の問題です。私たちはよく「We are your trusted partner.」つまり「私たちは日本の皆さんにとって信頼できるパートナーです」と言います。でも、信頼されるためには、約束を守らなきゃいけないですよね。自分でこの時間に来るって約束したら、遅れちゃダメなんですよね。
例えば電車が遅れたり、タクシーが混雑に巻き込まれちゃったりとか、いろんな制約要因があるから、なかなか難しいんですけど、これはビジネスに置き換えると、例えば「この納期にこのもう防衛装備品を納入します」って言ったら、やらなきゃいけないですよね。
そこは私たちがすごく強く意識していることで、必ず納期に間に合わせて求められたクオリティのものを出します。
「日本の皆さんと一緒に成長します」
2つめは「We grow together with our partners.」です。
これは、私たちはアメリカの会社ですけれども、「日本の皆さんと一緒に成長します」ということです。日本の企業の人たちとのパートナーシップによって、日本の防衛に貢献します。それによって地域の安全保障に貢献して、日米の防衛力強化を目指します。そこが2つ目です。
「輸出を通じて日本の防衛産業をサポートします」
3つ目が「We support Japan's defense business through export.」です。
これは、まだまだこれから日本が進めていかなきゃいけない分野で、輸出ができるような防衛産業の振興をサポートしていくということですね。
政府が現在のような方針に転換して数年経ちますけれども、防衛で、三原則とかですね、政策的なことを転換して、まだまだその産業の中で本当にそれが促進できているかというと、なかなか厳しいところがあるんですね、いろんなところで。
私も日々のビジネスの中で、どうやったらうまく制約を取り払ってサポートできるかということを、ATLA(防衛装備庁)の皆さんとか、日本の企業の皆さんと話してきてるんですけれども、そこをなんとか後押しして、ただ自分たちの製品を売るんじゃなくて、私たちがどうやったら、日本の防衛産業基盤のいい方向への転換に貢献できる形で、私たちの製品を活用していただけるか、そういったことを考えてビジネスをしています。
日本の中小企業、スタートアップとの協業
稲葉
「日本の防衛産業と一緒に育っていく」というところで言いますと、防衛産業というと三菱重工さんとか、川崎重工さんとか、重厚・長大というイメージでした。それが最近は、SME(中小企業)さんをはじめ、いろんな分野でいろんな技術を持った会社さんが、防衛産業に入る機会が増えてきたと思うんです。
御社としては、そういう今まで防衛産業にまったく関わりがなかった会社さんにも目を向けて、防衛産業に参入するきっかけを作ったり、その後を助けるという、そういう考えはございますでしょうか?
池田
ものすごくあります。聞いていただいてありがとうございます。
スタートアップもそうですし、中小企業の皆さんと協業できる機会を模索したいと思っていて、じつは具体的に動いています。
例えば、私達が製品を作るために持たなきゃいけない技術あるいは能力、そこを日本の企業さんが作ることができるのなら、サプライチェーンとして関わっていただいて一緒に協業できる機会があるんじゃないかと。
ひとつここでお話ししておきたいのが、スタートアップさんとの共同事業ですね。
私たちのオフィスは最近、スタートアップとの協力を模索するために、ビジネスの機会を模索し始めました。
日本政府の方針として、スタートアップ企業の成長促進があります。AIとか最先端技術の吸収というのは、大企業に比べてスタートアップさんの方が機動力があって速かったりするので、そういったところから政府も学びたいと思ってるようなんです。そこを、私たち、ノースロップ・グラマンも、スタートアップさんとご協力させていただける機会があるのであれば、パートナーとして協働させていただきたいと思っています。
スタートアップさんとの連携を模索するためにNDA(秘密保持契約)を結んだりとか、今まさに行動してきているところです。
ノースロップ・グラマンの防空 その① GPI
稲葉
ここで、御社の具体的な製品について個別にお伺いできればと思います。
いま日本は「IAMD」(統合防空ミサイル防衛)を含めて、防空能力の強化を喫緊の課題としています。まずはこの点について、さきほどの「shield」を作られるという観点から、御社の製品がどのように貢献できるのか、お伺いできればと思います。
池田
ありがとうございます。このIAMDを含む防衛、防空能力の強化というのは、非常に私たちも重要だと思っています。
日本にとってもちろん課題なんですけれども、最近、米国も「ゴールデン・ドーム」という政策を打ち出して、その中身が具体的にどういうものになるのかというのをみんなが注目しています。
このゴールデンドームがどうなるかはさておき、IAMDに関して、ノースロップ・グラマンの製品はものすごく役立つという風に私たちは認識しています。
具体的には、こちらの「GPI」は「Glide Phase Interceptor」というもので、極超音速兵器に対処するために開発される、日米の共同開発の次世代ミサイル防衛誘導弾です。

従来の迎撃システムでは対応が難しい、大気圏内をマッハ5以上で滑空する極超音速兵器の迎撃というのを主な目的にしています。日米同盟の抑止力の強化に貢献すると非常に期待されておりまして、私たちはこのプログラムをアメリカ側で主導する会社に選ばれたことを、すごく嬉しく思っています。
主な特徴はいま述べた通りですが、ここで話しておきたいのは、その重要性ですね。
我が国周辺の国家によるミサイル発射ですとか、開発の進展というのは、常にニュースで見聞きすると思います。これは国家安全保障上の現実的な脅威で、極超音速兵器の開発は中国、ロシアはもちろん、他の国々も進めてきていて、日本を取り巻く国々なので、このGPIの開発達成は非常に急がれている状況です。
私たちと三菱重工さんで密に連携して、いろんな会議をしながら、様々なレベルでですね、シニアレベル、マネージャーレベル、エンジニアレベルで、日々プログラム開発の実施を進めてきています。
詳細はノースロップ・グラマンの日本語のホームページにも、英語のホームページにもありますので、よかったら見てみてください。動画が結構いろいろあります。
ノースロップ・グラマンの防空 その② IBCS
池田
GPIだけじゃなくて、他の製品の動画も非常に充実しているので、他の製品についても喋っていいですか?
稲葉
もちろんです。
池田
ありがとうございます。
IAMD、防空能力の強化に関しては、GPIだけじゃなくて、もうひとつご紹介したいうちの製品がありまして、「Integrated Battle Command System」略して「IBCS」と言います。
これはC2(指揮管制)能力と、Fire Control(射撃管制)の能力を統合したもので、あらゆるレーダー、攻撃装備、指揮所をつないで、コミュニケーションをかなり効率化させて、戦闘の効率を上げましょう、そして日米の共同相互運用性を高めましょうというシステムなんですね。
ぜひ日米が取り入れるべきシステムだと私たちは考えています。じゃないと、もう本当に共同で戦闘しようとした時に立ち行かないと思うんですね。
わかりやすくお話しすると、例えばバレーボールで、1つのボールを拾う時に2人が行っちゃったら無駄じゃないですか。かといって両方が行かないのもお見合いになっちゃうわけです。戦闘において、日米が共同運用を効果的に行えるよう、指揮・通信、そして火力コントロールにおける無駄・非効率を減らすことができる。
戦闘って、お金と時間の問題というものもあってですね、使う弾数を減らせるともっと長く戦える可能性が高くなります。つまり効率性は、長引く戦闘で勝つ可能性を上げるわけですよね。IBCSはそういったことに貢献できるものです。
なので、IBCSは、防空能力のひとつのパートをなす分野だと認識しています。ここも私たちの会社が貢献できる分野かなと思っています。
稲葉
昨年「BattleOne」という、IBCSのプロモーションのイベントが都内でありましたよね。
それを取材させていただいたんですけれども、可視化された(防空の)ビッグバブルを作るというかたちで、分散化された防空システムが一体となってぶわっと広がるというのがすごくわかりやすく表示されていたと思うんです。
池田
ありがとうございます。
稲葉
そのIBCSとGPIについての、御社のプロモーションの漫画がユニークだなということで。
池田
その漫画、非常によくできていてですね、興味があれば、今度、漫画を皆さんにお配りさせてください。本当に知っていただきたいです。
稲葉
宣伝じゃないですけど、じつはGPIの解説は私が書かせていただきました。
池田
本当にありがとうございます。
日本の防衛を改善するため 日米政府に提案できるという強み
稲葉
もう1点、会場からのご質問よろしいでしょうか。
池田
何でしょう?
稲葉
先ほどの防衛産業のお話に戻ります。
「今後、SME(中小企業)やスタートアップ企業が日本から輸出するとき、御社の製品と組み合わさると米国の輸出規制に引っかかることがあるのではないでしょうか。御社としては、ITAR規制(International Traffic in Arms Regulations、国際武器取引規則)をクリアできるよう、制度面も含めて支援していくということになるんでしょうか」
池田
なるほどですね。
私たちはその点において、「こういった点で制約があるから、ここは政府として政策をこう検討し直すべきじゃないか」ということを、政府に対してコミュニケーションできるという強みがあります。
やっぱり大きい防衛産業なので、アメリカ政府側にも日本政府側にもご提案できるというのは、すごく強みかなと思っていますね。輸出に関する課題に限らず、実際に毎日、本社側ではシニアのリーダーがホワイトハウス周辺でengage(接触)して常に働きかけていますし、私のようなディレクターレベルでもGovernment Relations(政府対応)をさせていただいています。ワシントンDCでも、東京でも、両政府の皆さんに対して、私たちチームとして様々なご提案をさせていただいています。
(その③に続く)
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