ノースロップ・グラマンの「BattleOne」が日本に示した、実現すべき戦闘ビジョン
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2024-5-27 12:00
アメリカの大手防衛企業ノースロップ・グラマン社は5月22、23日(水・木)、東京・市ヶ谷で日本の防衛関係者に向けて「技術協力シンポジウム」を開催した。そのシンポジウムの目玉であった「BattleOne」(バトル・ワン)について、掘り下げて紹介する。
会場には大きなスクリーン
ノースロップ・グラマンは5月22~23日にかけて都内で、「技術協力シンポジウム」を開催した。これには「同社が擁する製品やソリューションを提示して理解を深めてもらう」ことに加えて、「日本で生産パートナーを求めて、自社のサプライチェーンへのアクセスを拡大する」との意図もある。そこで展示されたさまざまな案件の中から、BattleOneのデモンストレーションについて取り上げる。
デモンストレーションの会場に入ると、奥の壁際に大きなスクリーン。唯一、撮影が許可された初期画面に表示されていたのが、先の速報でも掲載したものである。これはあくまで「多国籍連合作戦&領域横断」のイメージだ。
デモンストレーションが始まると、上の写真で人々が見下ろしている戦況モデルが目の前に大きく映し出され、その上に「ネットワーク化された各種センサーから入ってくる、探知・捕捉・追尾している脅威」「友軍の戦闘序列(指揮下にあるユニット)」「個々の脅威に対する、交戦のための武器割り当て」といったリストが浮かび上がった。
飛来する脅威の動向を示す立体的な地図画面も表示された。敵国から発射されたミサイルを示す輝点が、こちらに向けて徐々に接近してくる。そんなイメージだ。ノースロップ・グラマンが作成・公開しているこちらの動画で、雰囲気を掴んでみてほしい。
このほかに「飛来する敵ミサイル」や「それを迎え撃つ味方のミサイル」の動画も表示されたが、実戦用のシステムでは表示しないと思われる。迎撃の場面はあくまで、受け手の理解を助けるためのものだ。
これらの映像が企図しているのは、「さまざまな種類の脅威を一元的に扱い、ひとつの画面に融合表示すること」と「手持ちのさまざまなセンサーやエフェクターは、それぞれが個別に機能するのではなく、ネットワーク化されて一元的に機能すること」への理解を深めること。
敵ミサイルが飛来すると、まず衛星、次にレーダーがそれを捕捉追尾する。それに対して最適と思われる迎撃手段を戦闘序列の中から選択して割り当てる(この時点ですでに、陸・海・空に話がまたがっている)。そしてミサイルを発射して迎撃する。そういう流れを、さまざまな脅威に対して同時並行的に見せる内容である。
BattleOneは製品ではなく、ビジョンである
さて。BattleOneは「製品」ではなく「ビジョン」である。では、どんなビジョンなのか。
陸海空軍や宇宙・サイバー空間を受け持つ軍種が、それぞれ個別に任務にあたるのではなく、一体となって任務にあたろうという考え方だ。また、複数の国が連合を組んで戦闘任務を遂行する場合には、それらが同様に一体となって任務にあたる。
それを支える基盤となるのが、ネットワークである。戦闘機同士、艦艇同士、装甲戦闘車両同士でのネットワーク化なら、すでになじみ深い。しかしそれは、特定の戦闘空間(ドメイン)の中の、そのまた一部に限定されたネットワークである。果たしてそれで、これからの戦闘を戦うことができるのか。
マルチドメインとか領域横断とかいう言葉が喧伝されるようになってしばらく経つが、これは「戦闘空間が陸海空以外の分野にも広がった」という意味ではない。多様化する戦闘空間を一元的に指揮管制することで、初めて「領域横断」になる。単に多様な戦闘空間を並べるだけでは、「領域縦割り」に過ぎない。
キモは「手持ちのすべてのセンサーや武器(エフェクター)を同じネットワークにつないで、統合指揮する」ことにある。ちなみに、エフェクターといっても楽器と組み合わせて使うあれではない。この業界では、ミサイルや爆弾やレーザー兵器など、実際に「破壊効果」を発揮するハードウェアをエフェクターと呼ぶことがある。
ノースロップ・グラマンは以前から、IBCS(Integrated Battle Command System、統合戦闘指揮システム)について、日本向けのアピールに力を入れている。そのIBCSを中核として、陸海空・宇宙を初めとするさまざまな戦闘空間にまたがるネットワークを構築、そこにセンサーやエフェクターをみんなつなぐ。こうすることで、連合作戦を実施する複数国の資産を統合して、領域横断的な対処を可能にしようとする考え方がBattleOneである。
米軍では目下、JADC2(じゃっどしーつー、Joint All Domain Command and Control、統合全領域指揮統制)という戦闘概念を推進しているが、それにつながる考え方がBattleOneであり、そこで中核となる頭脳がIBCSということになる。
デモンストレーションの想定シナリオは防空
今回のデモンストレーションでは、防空・ミサイル防衛の状況が設定された。国境を接する敵国が、陸上から弾道ミサイルや巡航ミサイルを、爆撃機や水上艦から巡航ミサイルを、さらに戦闘機から極超音速ミサイルを、ほぼ同時に撃ち込んでくるとの内容。
対して、こちら側は複数国の連合作戦を実施している。そして、アメリカ製の地対空ミサイルや弾道弾迎撃ミサイル、イージス艦、各種レーダー、そしてミサイル探知用の衛星。さらに同盟国の装備として、さまざまな機種のレーダーや地対空ミサイルなど。そうした装備群が、みんなひとつのネットワークにつながり、一元的に指揮される。
なぜ、そこで一元的な指揮管制が必要なのか。
ネットワーク化する前の考え方は、個々の対空ミサイル・システムが個別に、自前のレーダーで脅威の飛来を探知して交戦するというもの。しかしそれでは、システムを構成する要素、つまりレーダーやミサイル発射器が無力化されれば万事休す。担当するエリア全体が護りを失う。そして、レーダーがカバーできる範囲は限りがあるから、個別に “防御のバブル” が点々と並ぶ形になる。
ところが、防空任務を受け持つセンサーやエフェクターを、作戦地域全体にわたってネットワーク化すると、一部が機能しなくなっても、生き残っている別のセンサーやエフェクターで任務を引き継ぐことができる。しかもデータを融合することで、広い範囲をカバーできるようになる。
それにより、個別の “防御のバブル” が点々と並ぶ形ではなく、全域をカバーできる “大きな傘” ができる。また、離れた場所にある複数のセンサーが同一目標を捕捉追尾してデータを融合することで、単一のセンサーだけでは実現できない、高精度の追尾データを得られる。
そして全体を一元的に見ることで、最善な場所にいる、あるいは最善の能力を持つエフェクターを持ち駒の中から選んで「この脅威と交戦せよ」と指示するわけだ。
情報を分かりやすく見せつつ、全員が一体となって交戦する
ただ、大規模なネットワークを構築して、多種多様な脅威に関する情報を同時並行的に扱うことになると、それを扱う側の負担も増える。すると、全体状況をひと目で把握できるようにすることや、迅速な意思決定を支援する手段を持つことが重要になる。
BattleOneでは、配下のセンサー群が探知した脅威に関する情報をひとまとめにして「トラック・テーブル」を作成する。そこでは脅威の位置や速力、針路に関する情報だけでなく、脅威の種類(弾道ミサイルとか巡航ミサイルとか)も表示する。
迎え撃つ側については、戦闘序列(order of battle)、つまり指揮下にある各種アセットのリストを持っている。そして、個別の脅威ごとに最善の位置、最善の能力を持つエフェクターを割り当てて交戦させる。その割り当ての状況も、IBCSのコンソール画面に表示する。この割り当ては “man-in-the-loop”、つまり必要に応じてオペレーターが介入できる。
こうした仕組みを通じて、戦闘空間ごとの縦割りではなく、すべての戦闘空間に属するアセットが一体となって機能する交戦を実現、それによって脅威に立ち向かおうというのが、BattleOneの考え方だ。
こうした仕組みと「領域横断」の関わり、必然性については、6月21日発売の月刊『Jウイング』(2024年8月号)で詳しく解説する予定だ。
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