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軍用機メーカー最前線 ②

  • 特集

2023-12-1 01:01

世界の防衛産業をリードするアメリカ、欧州を中心とする主要メーカーを総ざらい。SIPRI (ストックホルム国際研究所)発表の軍用品売上高実績(2021年)をベースに日本とも関わりの深い企業グループや注目のメーカーをピックアップした。*2023年4月(Jウイング2023年6月号)初出の記事です稲葉義泰 INABA Yoshihiro

レオナルド(Leonardo / イタリア)

GCAPにも参画するイタリア随一の防衛企業

 レオナルド社は、1948年に創設されたフィナンツィアリア・メッカニカ・フィンメッカニカ株式会社に源流がある。その後、2000年にフィンメッカニカ株式会社となり、さらに2017年には現在の社名へ改名された。もともとは防衛産業や航空宇宙産業だけではなく、自動車や船舶、さらには鉄道車両などその他の分野にも進出していたが、現在では事業を再編し、防衛・航空宇宙産業へのほぼ一本化を図っている。
 航空産業関連では、自社の傘下に収めたアグスタウェストランド社によるヘリコプター事業や、同じ傘下に収めるアレーニア・アエルマッキ社による航空機事業をそれぞれ引き継いでいる。現在では、統合化された一つの企業として、各部門がそれぞれの分野での製品開発などを担う。日本でも同社製品は数多く採用されており、たとえば海上自衛隊の掃海・輸送ヘリコプターであるMCH-101(AW101)や、海上保安庁で運用されているAW139などがある。グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)、日英伊共同開発の一角。

本社所在地:イタリア・ローマ
軍用品売上高(2021年実績):138億7000万ドル
設立:1948年
グループ社員数:5万人
主な製品名やシステム:W101、AW139、M-34

M-346は練習機として優れた性能を有し、これをベースとした軽攻撃機型M-346FAが2020年に初飛行した。(写真:Leonardo)

エアバス(Airbus / 欧州共同)

旅客機を改造した空中給油機や輸送機を展開

 欧州を代表する航空宇宙企業であり、もともとはアメリカ企業の国際的な航空機市場の独占に対抗する形で創設された。長らく世界の大型旅客機市場をアメリカのボーイング社と二分している。現在のエアバス社には紆余曲折を経てたどり着いており、まずフランスのアエロスパシアル・マトラとドイツのダイムラー・クライスラー・アエロスペース(DASA)の2社共同出資によってエアバスが創設され 、さらにスペインのコンストルクシオネス・アエロナウティカス S.A.(CASA)が合併して、2000年にEADS(European Aeronautic Defence and Space Company)が誕生。その傘下にエアバスが加わった。その後、2013年にEADSがエアバス・グループに改名し、2017年に現在のエアバス社が誕生した。
 現在は民間旅客機事業に加え、軍用輸送機やヘリコプター、宇宙関連分野に進出し、さらにアビオニクスなどの開発も担う。日本でも民間航空機の採用に加え、陸上自衛隊や海上保安庁、警察にもヘリコプターが採用されている。

本社所在地:フランス・トゥールーズ、オランダ・ライデン
軍用品売上高(2021年実績):108億5000万ドル
設立:1970年(エアバス・インダストリーとして)
グループ社員数:12万6000人
主な製品名やシステム:A320、A350、A400M、EC225

エアバス社が開発した戦術輸送機A400M。現在、イギリスやドイツ、フランスといった欧州諸国に加え、マレーシアでも運用中。(写真:MBDA)

タレス(Thales / フランス)

全世界に拠点。自衛隊にも製品を納入する

 タレス・グループは、航空宇宙産業分野や交通系システム、さらに防衛関連分野に手広く進出している企業グループ(コングロマリット)。南北アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカなど、世界43か国で活動しており、現地支社を立ち上げている国も多数ある。そのうちの一つが日本で、タレスジャパンは1973年以来、約50年にわたり日本で活動している。また自衛隊でもタレス・グループの製品を運用しており、代表的なものでは2013年にアルジェリアで発生した邦人人質事件を受けて2015年に急遽導入された陸上自衛隊のブッシュマスター装甲車(タレス・オーストラリアで開発・製造)や、海上自衛隊のもがみ型護衛艦に搭載・運用される無人機雷捜索システムOZZ-5用の高周波合成開口ソナー(HFSAS)「SAMDIS」、さらに航空自衛隊の航空機用のアヴィオニクスや通信システムなどがある。

本社所在地:フランス・ラ デファンス
軍用品売上高(2021年実績):97億7000万ドル
設立:2000年(それ以前はトムソンCSF)
社員数:7万7000人
主な製品名やシステム:ブッシュマスター、ハウケイ、CAPTAS

ヘッドマウントディスプレイ「TopOwl」。左右に装着されている光増幅器によるナイトビジョン機能が付与されている。(写真:Thales)

ダッソー・アビエーション(Dassault Aviation / フランス)

ラファールやミラージュなど名機種を手掛けてきた

 ダッソーと聞くと、ダッソー・ラファールを製造している企業だと思われがちだが、実際にはもう少し複雑だ。まずラファールの製造を含め、航空産業や防衛産業において名が知られる「ダッソー」とは、ダッソー・アビエーション社のこと。そして、親会社がグループ・ダッソーであり、グループ・ダッソーの下に各種子会社が傘下に置かれる形になっている。グループ・ダッソーは持株会社だ(ちなみにフランスで最も古い歴史を持つ日刊紙「ル・フィガロ」も、グループ・ダッソーの子会社[グループ・フィガロ])。
 防衛産業に関係しているのはダッソー・アビエーションで、ラファールに加えてミラージュシリーズやシュペルエタンダールなど、往年の名機から現在も各国で運用されるベストセラー戦闘機を生み出してきた。民間のビジネスジェット機「ファルコン」シリーズも開発・製造しており、フランス軍では哨戒機としても運用される。

本社所在地:フランス・パリ
軍用品売上高(2021年実績):62億5000万ドル
設立:1929年
社員数:1万2440人
主な製品名やシステム:ミラージュ、シュペルエタンダール、ラファール、ファルコンシリーズ

全体的に流線形が特徴的なマルチロール戦闘機のラファールは、陸上運用型に加え艦載型のラファールMも存在する。(写真:Dassault Aviation - C. Cosmao)

サフラン(Safran / フランス)

光学・赤外線センサーは自衛隊や日本の警察でも採用

 サフラングループは、2005年にフランスのエンジンメーカーであるスネクマ社と、同じくフランスの軍用エレクトロニクスや通信システムメーカーであるSAGEM社が合併して誕生した複合企業体(コングロマリット)。エンジンや耐熱材など航空宇宙関係の部品、軍事用の通信システム、光学・赤外線センサー、航法システムなどを取り扱っている。
 とくに光学・赤外線センサーは、日本でも海上自衛隊の艦艇や警察機関のヘリコプターなどに搭載される。また、海上自衛隊の潜水艦に搭載される潜望鏡にも進出するとの話も聞かれる。

本社所在地:フランス・パリ
軍用品売上高(2021年実績):50億5000万ドル
設立:2005年 グループ社員数:8万3000人
主な製品名やシステム:エンジン、光学・赤外線装置、各種航法システム

戦術用パラシュートMMS360。光学機器だけでなくこうした特殊部隊の潜入などに用いられるパラシュートも開発している。(写真:Safran)

サーブ(Saab / スウェーデン)

ビゲン、グリペンなど数々の名戦闘機を開発

 スウェーデン語で「Svenska Aeroplan AB(スウェーデン航空機会社)」という社名のサーブは、当初スウェーデン軍向けの航空機を開発・製造する企業として1937年に創設された。これまで、サーブ35 ドラケン、サーブ37 ビゲン、そしてサーブJAS39 グリペンなど、数々の戦闘機を生み出してきたほか、民間航空機の世界においてもサーブ340など旅客機などで参入している。
 最近ではボーイングとタッグを組み、アメリカ空軍の次期練習機であるT-7の開発にも参画。さらに、陸上自衛隊でも運用されている対戦車火器「カールグスタフ」や各種レーダー、さらに軍艦なども開発・製造している。

本社所在地:スウェーデン・ストックホルム
軍用品売上高(2021年実績):40億9000万ドル
設立:1937年
グループ社員数:1万9000人
主な製品名やシステム:JAS39 グリペン、AT-5、カールグスタフ、シージラフ対空レーダー

マルチロール戦闘機、JAS-39NGグリペンE型。短距離の滑走路でも離着陸できるSTOL性能を有するなど、過酷な環境での運用が可能だ。(写真:FAB)

三菱重工業(Mitsubishi Heavy Industries:MHI / 日本)

日本の軍用機開発に深く関わるトップメーカー

 旧三菱財閥を前身とする独立起業の緩やかな集合体である三菱グループの中でも「御三家」と呼ばれ、中核とされるのが、三菱UFJ銀行、三菱商事、そして三菱重工業である。三菱重工業は、船舶、エネルギー関連、航空機、鉄道車両などあらゆる分野において日本の産業界を引っ張る企業であるが、防衛関連分野においても同様だ。
 海上自衛隊の護衛艦や潜水艦、陸上自衛隊の戦車を含む装甲車両、そして3自衛隊の各種航空機など、陸海空自衛隊で運用される数多くの装備を開発・製造する。
 現在進められている日英伊の戦闘機共同開発プロジェクトである「GCAP(グローバル戦闘航空プログラム)」にも参画している。

本社所在地:東京、横浜
軍用品売上高(2021年実績):40億6000万ドル
設立:1950年 グループ社員数:7万7430人
主な製品名やシステム:UH-60JA、SH-60K、10式戦車、もがみ型護衛艦、そうりゅう型潜水艦

F-2戦闘機はF-16をベースに、日本の地理的特性等へ適合させる形で日米共同で開発された。プロジェクトは三菱重工が主契約社となった。(写真:中井俊治)

ロールス・ロイス(Rolls-Royce / イギリス)

航空機や船舶用エンジンの世界的メーカー

 ロールス・ロイスといえば、言わずと知れた名門自動車ブランドのイメージだが、それはロールス・ロイス・モーターカーズという別会社。防衛関連の製品を扱うのはロールス・ロイス・ホールディングスだ。そもそも両社は1906年にイギリスで創設されたロールス・ロイス社に起源を有するが、紆余曲折を経て自動車部門が分離し、現在の形になった。
 ロールス・ロイス・ホールディングスでは航空機や船舶用のエンジンや発電装置などを開発・製造している。日本では、海上自衛隊の護衛艦用ガスタービンを納入していることでも知られる。

本社所在地:イギリス・ロンドン
軍用品売上高(2021年実績):49億7000万ドル
設立:1987年
社員数:5万人
主な製品名やシステム:スペイ、MT-30、T406/AE1107C

ロールス・ロイス製エンジンはアメリカ空軍でも採用される。写真はC-130J用AE2100エンジンの搭載シーン。(写真:US Army)

UAC(United Aircraft Corporation=統一航空機製造会社 / ロシア)

MiG、Su、ILなどロシア機メーカーを傘下に置く

 UAC(統一航空機製造会社)はロシアの国有企業(公共株式会社)で、軍用および民間航空機の開発・製造を行う。誕生したのは2006年のことで、プーチン大統領の命でミグやスホーイ、イリューシンといったロシアの主要航空機メーカーを統合する形で設立された。
 現在、UACには上述の企業を含む約30社がその傘下に置かれている。民間航空機も製造しているとはいえ、その利益の大半は軍用機の販売を通じたもの。国外への輸出によるものもあるが、現在ではその大半はロシア軍向けの国内市場によって賄われている。

本社所在地:ロシア・モスクワ
軍用品売上高(2021年実績):44億5000万ドル
設立:2006年
グループ社員数:9万8000人
主な製品名やシステム:Su-27、Su-30、Su-57、Mig-29

イタリアのアエルマッキ社[当時]と協定を結んで開発された高等練習機Yak-130。軽攻撃機としても運用可能。(写真:UAC)

ジェネラル・アトミクス(General Atomics / アメリカ)

海保導入の無人機「シーガーディアン」も製造

 ジェネラル・アトミクスは、もともとジェネラル・ダイナミクス社の原子力関連部門として設立された。現在は、系列企業であるジェネラル・ダイナミクス・エアロノーティカル・システム(GA-ASI)などもあわせて幅広い事業を展開している。防衛関連では、アメリカ海軍の空母に搭載されている発艦装置である電磁カタパルト(EMALS)や先進着艦装置(AAG)などのほか、MQ-9「リーパー」シリーズやMQ-20「アヴェンジャー」などの無人機(UAV)の開発・製造している。

本社所在地:アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ
軍用品売上高(2021年実績):28億1000万ドル
設立:1955年
社員数:1万2500人
主な製品名やシステム:EMALS、AAG、各種無人装備

無人航空機であるMQ-9Bシーガーディアン。海上保安庁でも運用が開始され、海上自衛隊も試験運用が開始される予定。(写真:General Atomics)

ラファエル(Rafael Advanced Defense Systems / イスラエル)

ミサイル開発に携わるイスラエル企業

 ラファエル社(正式にはラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ)は、イスラエルをめぐる特殊な情勢の下で数々の装備品を開発してきた実績がある国有企業。もともとは、イスラエル国防軍の技術部門から独立した組織が前身であり、ラファエルの名称を冠することになったのは1950年代のこと。空対空ミサイル「パイソン」や地対地ミサイル「スパイク」、さらに地対空ミサイルシステム「アイアンドーム」など、主に各種の誘導兵器などを開発・製造している。

本社所在地:イスラエル・ハイファ
軍用品売上高(2021年実績):30億1000万ドル
設立:1948年
社員数:8000人
主な製品名やシステム:パイソン、スパイク、アイアンドーム、アイアンビーム

中射程空対空ミサイルの視程外射程(BVR)空対空ミサイルのダービー(左端)、および短距離空対空ミサイルのパイソン5(左から2つ目)。(写真:Rafael)

ヒンダスタン航空機(Hindustan Aeronautics / インド)

インド国産戦闘機TEDBFを開発中

 ヒンダスタン航空機は、英訳の「Hindustan Aeronautics Limited」の頭文字に由来する略称であるHALの名でも知られている。1940年に創業され、第2次世界大戦中にインド政府により国有化された。1961年に初飛行したインド初の国産ジェット戦闘機であるHF-24「マルート」や、現在開発が進められている軽戦闘機「テジャス」をはじめ、各種航空機の開発・製造や、エンジン、航法装置なども手掛けている。また、各国の航空関連企業とも連携し、Su-30MKIやBaeホークなどをライセンス生産している。

本社所在地:インド・ベンガルール
軍用品売上高(2021年実績):33億ドル
設立:1940年
グループ社員数:2万6500人
主な製品名やシステム:テジャス、ドゥルーブ、Su-30MKI

インド国産軽戦闘機であるテジャスを生産しているほか、同機をベースとするインド海軍向けの「TEDBF(双発艦載戦闘機)」を開発中だ。(写真:柿谷哲也)
稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に「『戦争』は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール」(イカロス出版)などがある。

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