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《インタビュー》豪州に根ざして40年 サーブ・オーストラリアが新型FFM輸出に果たせること

  • 特集

2026-6-20 12:01

豪州向け次期汎用フリゲート(新型FFM)の日豪共同開発で成功の鍵を握るのが、現地企業との協力態勢だ。豪州で40年の実績を持つサーブ・オーストラリアでマネージング・ディレクターを務めるアンディ・キーオ氏に、日豪企業の協業の展望についてうかがった。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

サーブ・オーストラリアのマネージング・ディレクター、アンディ・キーオ氏 写真:稲葉義泰

 現在、日本とオーストラリアはその戦略的友好関係を急速に強化させつつある。とくに、日本がドイツとの競争を勝ち抜いたオーストラリア海軍向けの次期汎用フリゲート導入プログラムへの新型FFM採用は、その象徴ともいうべき事例だろう。

 そんなオーストラリアの地で、これまで40年にわたり事業を展開し、現在では約1000人以上の従業員を擁するまでに成長したのがサーブ・オーストラリアだ。同社は、北欧スウェーデンの主要防衛関連企業であるサーブの現地法人であり、陸海空および宇宙にいたる、あらゆる分野でのビジネスを展開している。

 今回、筆者・稲葉義泰(いなば・よしひろ)はサーブ・オーストラリアの代表を務めるマネージング・ディレクターのアンディ・キーオ氏にインタビューする機会を得た。

潜水艦から始まった、サーブ・オーストラリアの歩み

稲葉義泰(以下、稲葉) :サーブ・オーストラリアの歴史と現在の活動について教えてください。

アンディ・キーオ(以下、アンディ) :弊社の歩みは約40年前、海軍艦艇用のCMS(戦闘管理システム、Combat Management System)および潜水艦分野、具体的にはコリンズ級潜水艦向けのシステムから始まりました。

豪海軍コリンズ級潜水艦「ラスキン」(SSG 78) 写真:US Navy

アンディ :そこから事業は大きく多角化しています。現在でもCMSや戦闘能力分野は中核事業ですが、それに加えて、オーストラリア独自技術を活用した民間向けセキュリティ分野、軍民両用の展開型病院、さらに航空管制システムなど、さまざまな技術分野へと事業を拡大しています。つまり、現在のサーブ・オーストラリアは、はるかに幅広い事業領域を持つ企業になっています。

 一方で、我々の中核能力が戦闘システム分野にあることは変わりません。そして現在では、オーストラリア国内を支援するだけでなく、装備品やサービスを地域各国へ輸出しています。ニュージーランド、カナダ、タイ、ドイツ、ブルガリア、コロンビアなど、非常に多くの国々と協力してきました。

 また、弊社はサーブ製のCMSと連携するコンソールもオーストラリア企業と共同で開発しました。つい先日、海外向けとして100台目となるコンソールの契約を締結したところです。しかし、現在受注している案件を踏まえれば、今後さらに数百台規模へと拡大していくでしょう。また、サーブ・オーストラリアは、サーブ本社(スウェーデン)から「戦闘指揮コンソール分野におけるグローバルリーダー」と位置付けられています。そのため、サーブが世界のどこで製品を販売する場合でも、我々のコンソールが採用されることになります。

サーブ・オーストラリアが製造するコンソール 写真:Saab Australia

稲葉 :現在、オーストラリア政府は防衛力、ひいてはその基盤となる防衛産業の強化につとめています。御社はこの動きに対してどのように関与することが出来るのでしょうか?

アンディ :サーブは、グローバル防衛企業として非常にユニークな存在です。多くのグローバル防衛企業は、自社製品を販売することだけを目的としており、現地には“ショールーム”のような拠点を置くだけです。実際の開発や生産は別の場所で行われ、製品を単に市場へ投入しているに過ぎません。

 しかし、サーブのオーストラリアでの取り組みは異なります。我々は、オーストラリア国内に能力を構築し、オーストラリアへ投資することを重視しています。そして、それを支えているのがイノベーションです。

 同時に、サーブ自身がすべての分野の専門家ではないことも理解しています。世の中には、小規模企業であっても、ある特定の分野に特化し、その分野だけを極めて高い水準で手掛けている企業が数多く存在します。そうした企業は、多くの場合、最高の製品や技術を生み出すことに強い情熱を持つ創業者によって率いられています。

 我々の役割は、そうしたエコシステム全体を理解し、各企業がどのような能力を持っているかを把握することです。そして、防衛当局が求める能力に応じて、それらの企業を結集させることで、単一企業が自社製品だけを販売する場合よりも、はるかに優れた能力を顧客へ提供できるようにしています。

 防衛当局が提示する要求事項を見た際、サーブ単独では保有していない製品や技術が含まれている場合もあります。しかし、我々には、それらを持つ企業を探し出し、統合していく機会があります。その好例が、展開型医療能力(Deployable Health Capability)です。

 現在、我々はオーストラリア国防軍向け展開型野戦病院を管理していますが、その対象は大型MRI装置から体温計に至るまで、14万3000点以上の部品・機材に及びます。しかし、その中にサーブ製品は一つもありません。つまり、我々が行っているのは、優れたパートナー企業を取りまとめることです。例えば、医療分野ではPhilips Global、訓練分野ではオーストラリア企業のAspen、さらに英国のMarshallsなどと連携し、それぞれの強みを統合することで、防衛当局へ必要な能力を提供しています。

オーストラリア国防軍向けの展開型野戦病院(テント内) 写真:Saab Australia

サーブ・オーストラリアと日本企業 護衛艦輸出をめぐる「協業」の可能性

稲葉 :日本が進めるオーストラリアへの新型FFM輸出について伺います。この事業に、御社はどのような支援を提供することが出来るとお考えでしょうか。

アンディ :オーストラリア向けに装備を建造し、引き渡すためには、顧客に対して膨大な量の技術文書を提供し、それを十分に理解してもらう必要があります。顧客側は、自分たちが何を購入しているのか、その安全性はどう担保されているのか、そしてそのシステムがどのような基盤の上に成り立っているのかを完全に理解しなければなりません。したがって、まず必要となるのは、そうした技術文書や要求事項への対応です。

 さらに、オーストラリア側には独自の要求事項が存在しており、我々はそれを十分に認識しています。例えば、サイバー保証(Cyber Assurance)やサイバーセキュリティに関する基準などが挙げられます。我々がこれまで提供してきたシステムにも、オーストラリア独自の要求基準が適用されてきましたが、それらは日本企業が従来用いてきた基準とは異なる場合もあります。

 そのため、我々の役割の一つは、そうした要求事項への理解を深めてもらい、認識を共有し、最終的に顧客側へ安心感と信頼を与えることにあります。またそれ以外にも、訓練システム、兵站システム、部品管理システム、さらには陸上でオーストラリア海軍要員がシステム訓練を行うためのシミュレーターなど、構築すべき要素は数多く存在しています。我々は、その幅広い分野において支援を提供することが可能です。

 もっとも、最終的にどの程度の支援を必要とするかは、三菱電機、富士通、三菱重工業など各企業側の要望次第です。支援内容が限定的な場合もあれば、非常に広範囲に及ぶ場合もあるでしょう。

オーストラリア海軍の次期新型フリゲートに能力向上型が選定された、護衛艦もがみ型(5番艦「やはぎ」) 写真:海上自衛隊

稲葉 :日本企業にとって、そうしたオーストラリア特有の基準や運用環境に適応することは、大なり小なり壁になりそうですね。御社が持つ知見は、具体的にどういった形で日本企業の現地展開を支えることになるのでしょうか。

アンディ :我々サーブ・オーストラリアには、オーストラリア市場における政府を相手とした長年にわたるエンジニアリング経験があります。そして、その知見を活用することで、日本企業によるオーストラリア市場への展開を支援できると考えています。

 したがって、日本企業に対してサーブが支援できることとしては、その装備品が実際に運用される環境を理解する手助けをすることが挙げられます。また、オーストラリアの産業エコシステムや、艦艇が今後30~40年にわたって運用される中で必要となるパートナー企業について理解を深める支援も可能です。

 艦艇というものは、就役後も継続的に能力向上、改修、維持整備が行われます。そして、それは日本国内とは異なる環境の中で進められていくことになります。我々は、そうした長期的な運用・維持基盤への理解を、日本企業に提供できると考えています。

 改めて強調したいのは、サーブ・オーストラリアは時に日本企業にとっての競合企業のように見えるかもしれませんが、最終的な我々の役割は、このプログラムを可能な限り成功へ導くことにある、という点です。なぜなら、このプログラムの成功は、オーストラリアの防衛能力を支えるものであり、ひいてはオーストラリア国民の生活そのものを支える基盤となるからです。だからこそ、我々にとってもこの計画の成功は極めて重要であり、必要とされる限り、あらゆる形で支援を行っていきたいと考えています。

 我々の仕事は、最適な能力を確実に提供することです。そして、我々の強みは、信頼できるパートナーシップを築いている点にあります。そのため、多くの企業が独自技術を携えて我々のもとを訪れ、協力関係を築きたいと考えてくれるのです。

オーストラリア海軍の次期新型フリゲートに能力向上型が選定された、護衛艦もがみ型(5番艦「やはぎ」) 写真:海上自衛隊

稲葉 :一部では日本の国産CMSがオーストラリア海軍での運用に支障を及ぼすのではないか?といった意見が見られます。この点についてはどうお考えでしょうか。

アンディ :私は両者の能力は相互補完的なものだと考えています。もし新型FFMの導入隻数がごく少数、例えば3隻程度であれば、状況は異なっていたかもしれません。なぜなら、新たな戦闘指揮システム(CMS)を導入する場合には、それに対応した兵站体系、訓練体系、さらには後方支援体制まで、一式を新たに構築する必要があるからです。実際、戦闘システムを艦艇へ搭載し、海上で運用可能な状態に持っていくまでには、膨大な作業と努力が必要になります。

 しかし、新型FFMについては11隻という十分な規模の艦隊が存在します。そのため、独自CMSを導入・維持することを正当化できるだけの基盤がすでにあると言えるでしょう。

 一方で、オーストラリアが非常に重視しているポイントの一つが「相互運用性(Interoperability)」です。新型FFMでは、艦載センサーによって各種データが生成されます。しかし、本当に重要なのは、そのデータを他艦へ共有するためのデータリンクであり、逆に他艦から送られてくるデータを新型FFM側でも受信できることです。そうすることで、双方が同一の共通作戦状況図(Common Operational Picture)を共有できるようになります。

 したがって、防衛当局は、この相互運用性の確保について非常に大きな重点を置くことになるでしょう。そして実際、調達プロセスの段階から、相互運用性が確保されるよう十分な検討が行われていたはずです。実際、オーストラリア海軍艦艇に搭載されている「AusCMS」は、アメリカ海軍艦艇のCMSとは異なるシステムです。しかし、それでも我々は同じデータを共有し、共通の作戦状況図を見ることができています。つまり、懸念には及びません。

稲葉 :本日はお時間をいただき、本当にありがとうございました。

アンディ :日本企業の皆さんと共に歩んでいけることを、楽しみにしています。ありがとうございました。

(以上)

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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