《「こんごう」乗艦レポート》
リムパック2026 #2 迎撃ミサイルSM-2発射
- 特集
2026-7-16 19:01
アメリカ海軍が主催する、ハワイ周辺海域での多国間海上演習「リムパック」。30回目となる今回の模様を、護衛艦「こんごう」の艦上から柿谷哲也がお届けします。
「射撃の前はよく寝ろ、と先輩から言われていましたが、昨日は緊張で眠れませんでした」とFCS員 佐藤太亮(さとう・たいすけ)3等海曹。ハワイ時間7月8日(水)、環太平洋合同演習リムパック2026に参加中の護衛艦「こんごう」はこの日、カウアイ島北方のPMRF(太平洋ミサイルレンジ施設)海域でSM-2対空ミサイルの実弾射撃を行う。佐藤3曹は「こんごう」の戦闘指揮中枢(CIC)で射撃指揮装置(FCS)を担当し、ミサイル発射を任されているのだ。

護衛艦「こんごう」は、敵ミサイルの飽和攻撃に対してSM-2対空ミサイルで迎撃する、艦隊防空を一手に担うイージス艦。入隊した隊員がみな憧れる職場である。佐藤3曹もイージス艦に憧れてこの仕事を選んだが、前任地だったイージス護衛艦「はぐろ」ではミサイル発射の際は記録撮影の担当だったという。「自分が発射するのは初めてです。」
使用されるターゲットは海上自衛隊が2021年に調達を開始した、開発されたばかりの最新の地上発射型高速標的機BQM-177A。全長5.18メートル、最高速度マッハ0.95の高速標的で、これまで日本のイージス艦が訓練で使用してきたAQM-37、BQM-74Eを代替する機体だ。筆者が知るところ、世界でもアメリカとサウジだけが使用する高性能機である。これを、カウアイ島にあるPMRFバーキングサンズ基地のホット・ピットから「こんごう」に向けて発射する。
艦橋の最前部中央に立ち、定めた針路と速力を維持する航海長の坂口隼人(さかぐち・はやと)1等海尉。射撃地点にまもなく到達するその時、左舷で見張りをしていた2分隊航海科の松元(まつもと)1等海曹がイルカの群れを目視で探知した。「左30度、海洋生物イルカの群れ、接近中」信号員長の松永(まつなが)曹長が伝える。坂口航海長は、この速力ならイルカの群れは左舷から右舷に抜けると判断した。「抜けてくれ」と心の中で祈る。信号員長は、イルカの群れが右舷に抜け遠ざかっていくことを確認し、CICにいる艦長に伝えた。「周辺に海洋生物なし」。
射撃地点に到達した「こんごう」CICで、艦長の野田1佐がSM-2の射撃を指示する。「標的ターゲット・アルファ、対空戦闘。SM-2、攻撃はじめ」号令がかかり、射撃コンソールの佐藤3曹は発射ボタンを押した。VLS(垂直発射システム)のセルの蓋が開き、アップテークハッチから真上にミサイルの炎が真上に吹き上がると、SM-2はセルの安全幕を突き破ってゴーッと撃ちあがった。艦橋で操艦する坂口航海長の顔が炎の光で染まる。右舷側の見張り員らもSM-2の航跡を追う。


十数秒後、佐藤3曹のコンソールにあるSPY-1のレーダー画面から2機のターゲットのシンボルが消えた。「やった!」佐藤3曹は声を出した。2発のSM-2はBQM-177Aに命中したのだ。
「標的接近で心臓バクバクでした。震える指でボタン押をしました」と佐藤3曹は回想する。
訓練が行われたPMRF海域は、アメリカ海軍の数々のミサイルを試験してきた場所である。また、海上自衛隊のイージス艦に搭載される対空ミサイルも、基本的にはここで装備認定試験(SQT)が行われ、射撃訓練が行われてきた。リムパックに参加する各国も、自国の海域では撃てないミサイル発射をここPMRFで撃てることがリムパック参加の目的の一つとなっている。
それだけにアメリカ側は海域での海洋環境保護の厳しいルールを各国に求めており、「こんごう」の艦橋で周辺のイルカやクジラの動きに注視する必要があるのだ。
「クジラは避けなければならないルールになっています。」と坂口航海長。もしクジラが射撃地点まで付いてきていたら、訓練は一時停止の可能性もあったという。

甲板には、SM-2が打ち出されて煤だらけになったVLSをデッキブラシで擦るVLS員たちがいた。
「みんなが、ちゃんと整備していたから、撃ちだされたんだぞ」とVLS員長の長田海曹長。
みんなは「オーッ」と笑顔。
時にハワイ時間7月8日14時38分、「こんごう」パールハーバー出港の翌日の出来事であった。
(つづく)
「こんごう」乗艦レポート リムパック2026 〜 タイトル一覧 〜
#1 パールハーバー出港
#2 迎撃ミサイルSM-2発射
#3 撃沈訓練 SINKEX
#4 艦上体育と医療搬送体制
#5 ハープーン対艦ミサイル発射
#6 緊迫の対潜戦訓練
#7 毎日が実戦! 厨房の戦い
#8 127mm砲が吼える対地射撃
#9 対空戦訓練 ADEX
#10 「絆」で結ばれた洋上補給
#11 イージス艦から見る星々と人工衛星の恩恵
#12 「ミスターこんごう」
#13 第1水上戦群司令が語る HA/DRにおける日本への期待
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