日本の防衛と安全保障の今を伝える
[Jディフェンスニュース]

site search

menu

Jディフェンスニュース

《「こんごう」乗艦レポート》リムパック2026 #3 撃沈訓練SINKEX

  • 日本の防衛

2026-7-22 20:40

アメリカ海軍が主催して環太平洋諸国の軍が集う、ハワイ周辺海域での多国間海上演習「リムパック」。護衛艦「こんごう」の艦上から柿谷哲也がお届けします。柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

 環太平洋合同演習「リムパック2026」に参加中の護衛艦「こんごう」。中部甲板ではSSM(艦対艦誘導弾)員らによるハープーン対艦ミサイル射撃に向けた準備が行われている。
「私もミサイル艇でSSM担当でしたが、撃つ機会が無かったので、彼らが羨ましいですねぇ」と、若い海曹・海士の相談役でもある先任伍長の樋高(てたか)海曹長が笑顔で話す。

パールハーバー出港時の護衛艦「こんごう」。ハープーンを収めたSSM発射筒は、艦中央の矢印の位置にある 写真:US Navy

 今回、ハープーンの発射を担当するのはSSM員の梶原(かじわら)3曹だ。
「SSMを発射する機会がなかった先輩がいる中で、自分が撃てる機会に恵まれたことに感謝しつつ、与えられたことをしっかりやって成功させたいと思っています」
 本来なら、戦闘指揮所CICでSSMコンソールを監督するベテラン上島(じょうじま)1曹は、この貴重な機会を若い隊員に経験させたいという理由でSSMの機器室で配置につく。

SINKEXへの海自艦艇の初参加

 本質的な役割が “防空艦” である「こんごう」がなぜ対艦ミサイルの訓練をするのか。それは日本周辺の安全保障環境に深く関係する。
 アメリカ インド太平洋軍は、2018年のリムパックから、陸軍と海兵隊を中心としたマルチドメイン戦の実証を始めた。これは、侵攻を企てる国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)に対抗することを念頭にした、陸・海・空・サイバーなど異なる軍種のアセットを使う新しい統合作戦の戦術である。例えば、中国艦隊が南西諸島や領海に接近してくることを阻止するための積極的防衛がその本質的な目的である。
 マルチドメイン戦を実施するため、アメリカ海兵隊は戦車や上陸部隊を廃止・削減する一方で対艦ミサイルの装備を急ぎ、陸軍はAH-64E攻撃へリを、空軍はA-10C攻撃機を対艦攻撃に使用し、前回2024年ではB-2爆撃機がクイック・シンク爆弾で対艦攻撃するといった、これまでにない使い方をリムパックで実証してきた。陸上自衛隊が地対艦ミサイル連隊を増設し、リムパックに参加し始めているのもその一環である。
 海上自衛隊はリムパック2018からP-1哨戒機がマルチドメイン戦のSINKEX(シンケックス、撃沈訓練)に関わっているが、艦艇部隊の参加は今回が初めてである。それも防空艦である「こんごう」が対艦攻撃をすることは、日本が全力でA2/ADに対処する姿勢を見せている。

2018年からマルチドメインSINKEXに参加しているP-1哨戒機。写真は2024年のもの 写真:柿谷哲也

かつて横須賀を母港としていた 巡洋艦「モービル・ベイ」

 今回、米海軍第3艦隊が選んだ標的艦は、退役したタイコンデロガ級7番艦の巡洋艦「モービル・ベイ」。タイコンデロガ級は空母の防空を担当するために初のイージス戦闘艦として開発され、後から登場したアーレイ・バーク級駆逐艦の配備が進んだことと、SPY-6レーダーを搭載した新型のアーレイ・バーク級フライトⅢ型が登場したことなど、そして老朽化のために退役が進んでいる。砲術長の名取(なとり)1尉も「タイコンデロガ級は好きな形ですね。武骨でカッコいいんですよね」と呟く。
「モービル・ベイ」は1990年に横須賀基地に配備され、後から就役した「こんごう」とは何度も日米年次演習ANNUALEX(アニュアレックス)でチームを組み、「こんごう」が初めて参加したリムパック1994では、バイ・ラテラル・フォース(日米二国間部隊)として僚艦同士、空母「インディペンデンス」と護衛艦「くらま」を経空脅威から守った。「モービル・ベイ」にとって「こんごう」は長年共にしてきた兄弟艦であり、日米同盟を醸成してきた同志である。

2022年2月の演習で、護衛艦「こんごう」(DDG 173)と並んで航行する、現役時代のタイコンデロガ級巡洋艦「モービル・ベイ」(CG 53、手前) 写真:US Navy

 7月9日(木)朝8時、「モービルベイ」を標的にしたSINKEXが始まった。漂泊する「モービル・ベイ」に最後の瞬間が近づく。まずは、アメリカ海軍P-8A哨戒機による対艦ミサイル攻撃。続いてアメリカ陸軍のAH-64Eアパッチによる機銃掃射、カウアイ島からはアメリカ陸軍のHIMARS(ハイマース)ロケット砲システムと陸上自衛隊第8地対艦ミサイル連隊の12式地対艦ミサイル2発が発射された。そしていよいよ、「こんごう」がハープーンを撃つ番が近づく。梶原3曹も緊張はマックスのはずだ。

「お前に撃たれなくてよかった」

 しかし、一向に射撃レンジを監督するPMRFレンジコントロールから射撃許可がでない。どうやらレンジ内に不明船舶が入ってきてしまったようだ。
「達する。本艦のSSM射撃は取りやめになった」
 艦内放送が掛かった。梶原3曹は悔しかった。不明船舶がレンジの外に出ても、「こんごう」の番は回ってこない。空母の艦載機、そして潜水艦の攻撃する時間が決まっているからだ。
 その夜、名取砲術長は、上島1曹を幕僚事務室に呼んだ。
「え~、モービルベイは沈みました。最後はカナダ潜水艦のMk.48魚雷によるものでしょう。いま、日を改めて別の標的艦を追求しています」
 上島1曹は下を向いて「お疲れ様です。ご愁傷様でした」と呟く。そして「自分が乗っていた『さわかぜ』も、標的艦として沈められたんで、寂しさを思い出しました」と一言。
 沈みゆく「モービル・ベイ」は呟いただろう。
「『こんごう』よ、お前に撃たれなくて良かった。日米同盟たのんだぞ」
 艦橋の坂口(さかぐち)航海長は対潜戦の海域に向け艦首を反転させた。
(つづく)

柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

Ranking読まれている記事
  • 24時間
  • 1週間
  • 1ヶ月
bnrname
bnrname

pagetop