《ニュース解説》「迎撃ドローン早期取得プログラム」その必要性とスピード
- 特集
2026-9-28 11:03
防衛装備庁は2026年8月25日、迎撃ドローン「Terra B1」の量産調達契約の締結を発表しました。防衛省初の「早期取得プログラム」に基づくもので、6月5日の公募開始から約3か月というスピード契約の背景を解説します。
令和8(2026)年8月25日(火)、防衛装備庁は「迎撃ドローン早期取得プログラム」に基づき、Terra Drone株式会社と迎撃ドローン「Terra B1」の量産調達契約を締結したと発表しました。6月5日(金)の公募開始から約3か月という、防衛装備品の取得としては異例の速さです。

短期間で装備を取得する「試験的な取組」
防衛装備庁が「迎撃ドローン早期取得プログラムの実施について」(以下「公募文書」)で迎撃ドローンの提案を企業から募る文書を公表したのは、6月5日のことでした。小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)防衛大臣が自身のXアカウントで「【拡散希望】」と付けて告知するという異例の呼びかけもあり、3週間余りの募集期間に38社が提案を寄せました。
装備庁の発表によれば、提案の内容は装備庁から陸・海・空の幕僚監部に提供され、まず海上自衛隊が6月30日(火)から7月6日(月)まで実証試験の公募を行いました。7月15日(水)~8月6日(木)に4社による実証試験が行われ、8月25日にTerra Drone社と量産調達契約が締結されました。なお、4つの区分が何を意味するか、公表された資料からは確認できません。
■実証試験を行った4機種 ※出典:防衛装備庁「迎撃ドローン早期取得プログラムの実証機種の決定について」
| 区分 | 機種名 | 製造企業(参考) | 契約相手方(参考) |
|---|---|---|---|
| タイプ1 | BVQ404 | Beyond Vision(ポルトガル) | エアモビリティ株式会社 |
| タイプ2 | QS INTERCEPTOR | Quantum Systems(ドイツ) | 全日空商事株式会社 |
| タイプ3 | Terra B1 | Terra Drone(日本) | Terra Drone株式会社 |
| タイプ4 | IonStrike | DZYNE Technologies(アメリカ) | 日本海洋株式会社 |
■プログラムの日程 ※出典:防衛装備庁資料。
| 6月5日 | 公募開始(防衛装備庁) |
| 6月29日 | 提案締め切り(38社が提案) |
| 6月30日 ~7月6日 | 海上自衛隊が実証試験の公募 |
| 7月15日 | 実証機種の決定 |
| 7月15日 ~8月6日 | 実証試験(海上自衛隊が企業に委託して実施) |
| 8月25日 | Terra Drone社と量産調達契約を締結 |
| 9月目途 | 納入(公募文書に示された計画) |
小泉大臣は7月3日(金)の記者会見で、「三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)改定に向けた大きなテーマの一つはスピードです」と述べ、このプログラムを「試験的な取組」と位置付けました。この事業は、迎撃ドローンを買う調達であるだけではなく、装備を速く調達できるかどうかを試す実験でもあったのです。
自爆ドローンを迎え撃つドローン
公募文書は、「迎撃ドローン」という言葉を次のように定義しています。
「概ね高度18,000ft未満、速度250kt程度で飛行する無人航空機(重量600kg以下)、特に、長射程自爆型UAV(例えばシャヘド型、HARPY型等)に対処する無人航空機をいう」
ここに並ぶ数字からは大型で高速の機体を思い浮かべがちですが、これは迎撃される側の性能を示したもので、迎撃ドローン自身の性能ではありません。
この定義が名指しした2つのドローンは、いずれも爆薬を積んだ機体ごと目標に突入する「自爆型」の無人機です。シャヘド型はイランで設計され、あらかじめ与えられた目標へ長距離を飛んでいくタイプです。最高速度は200km/h程度で、決して速くはありませんが、安価に大量生産できます。ロシアはこれを「ゲラン」という名称で国産化し、ウクライナの都市へくり返し大量投入しています。HARPY型はイスラエル製で、シャヘド型より高価ですが、レーダーの電波を探して上空で待ち構え、見つけた発信源に突入できます。最高速度は約185km/hと報じられています。

相手と同じ土俵で、より安価に戦う
既存の防空システムが想定してきたのは、戦闘機や爆撃機、ミサイルのように高速で高高度を飛行してくる、少数の高価な目標でした。これに対し、自爆型の無人機は、遅く、低く、安く、そして大量に飛んできます。
対空ミサイルには、数とコストの問題があります。ウクライナの報道機関ウクライナ・プラウダは、迎撃ドローンの解説記事で「それほど大量の高価な防空システムを生産できる国は、世界のどこにもない」と書いています。ペトリオット・ミサイルは1発200万~400万ドルと報じられており、数万ドルの無人機をミサイルで撃ち落とし続ければ、先に力尽きるのは守る側です。
しかも、相手は飛び方を変え続けます。シャヘド型は当初、高度数百メートルから2km程度を直進し、対空機関銃で撃墜されていました。するとロシアは、高度2km超で進入して目標上空で急降下する戦術に変えたり、樹木や地形に隠れられる高度100m程度の極低空を飛んだりするようになりました。
この相手と同じ土俵に立てるのは、ドローンだけです。1機約1,100~2,300ドルと、相手より一桁安く製造でき、低くて遅い飛行領域に進入することができるからです。ウクライナは1日約1,000機という生産速度で迎撃ドローンを製造しています。かつて、最良の対戦車武器は、戦車であると考えられていました。その時と同じことが、ドローンに起こっているのです。
ウクライナ軍総司令官の発言によると、2026年2月にキーウ周辺で撃墜されたシャヘド型の70%は迎撃ドローンによるものでした。
改修し続け、製造し続けるために選ばれた国産機
進化する相手に付き合うには、迎撃する側もドローンを改修し、製造し続けられなければなりません。改修のたびに外国メーカーの承認や輸出許可を待つ体制では、この競争に勝つことはできません。
公募文書を読むと、装備庁もこの問題を意識していることがうかがえます。システムソフトウェア等の技術情報を官側や国内防衛産業に開示することや、輸入品については製造国の輸出許可に要する期間・条件を明記することを求めています。
今回の4機種のうち唯一の国産機がTerra DroneのTerra B1であり、本質的に改修や製造が最も容易な機体であるといえるでしょう。他の3機種は海外製ですが、国産と同じ土俵に載せて比較できるようにしたのかもしれません。
実証試験の結果、量産に選ばれたのは、そのTerra B1となりました。もっとも、この量産調達では「国産であり、国内生産基盤が整備されていること」が要件とされていたと報じられています。海外製の機種も国内で生産する前提で実証試験に臨んでいたので、国産であったことだけがTerra B1が選ばれた理由ではありません。
スピード契約の背景にあるもの
ウクライナがシャヘド型の大量攻撃を受け始めたのは、2022年10月のことでした。それから2年たっても、ウクライナの迎撃ドローンはまだ試験段階にありました。一方、北朝鮮では、2024年8月に自爆型無人機の試験が公開され、その11月には金正恩総書記による量産命令が下されました。
2025年、この二つの流れが同時に加速します。ウクライナでは迎撃ドローンの量産と実戦化が一気に進み、北朝鮮ではロシアの支援を受けてシャヘド型無人機の生産拠点が建設されると報じられるようになりました。装備庁が定義で名指しした機種が隣国で生産されようとし、それに対抗する迎撃ドローンがウクライナで実戦運用されるようになったのです。
これに対し日本は、同年8月末の令和8年度予算の概算要求で、多層的沿岸防衛体制「SHIELD」構想に航空自衛隊の「レーダーサイト防衛用UAV」を盛り込みました。予算上、迎撃型のUAVが登場したのはこれが初めてです。

「キーウ周辺で撃墜されたシャヘド型の70%が迎撃ドローンによるもの」という事実が確認されたのは、2026年2月のことです。令和8年版防衛白書によれば、同じ月、北朝鮮は朝鮮労働党第9回大会で、今後就役させる新たな兵器として「AI無人攻撃システム」などを挙げました。中国の偵察/攻撃型無人機TB-001も日本周辺でたびたび確認されるようになり、白書はこれを爆撃機や潜水艦と並ぶ中国軍の主な活動の一つとして示しています。6月5日に本プログラムが始まったのは、そんな中でのことだったのです。
小泉大臣も7月3日の会見で、北朝鮮の無人機開発と「新たな戦い方を北朝鮮が学んでいる」ことに触れています。脅威は隣まで来て、教訓は出そろっているのに、迎え撃つ専用の装備はない。三つの状況が重なってしまったのです。
スピードはこれからも求められる
迎撃ドローン導入の速さは、脅威と教訓が出そろってから動き出すまでに開いた差を、一気に詰めようとする動きです。公募文書も冒頭に「昨今の安全保障における攻撃型の無人航空機及びそれに対する迎撃ドローンの役割の飛躍的な向上を踏まえ」と書いています。日本は、急激に変わった世界に追いつこうとしているだけなのです。
8月31日(月)に公表された令和9年度概算要求には、「迎撃UAVの取得」として76億円(契約ベース)が計上されました。先に触れた「レーダーサイト防衛用UAV」のように任務の名前で示されるのではなく、「迎撃UAV」という名称の事業が立ったのは、これが初めてです。また、この概算要求では、無人アセットについて「相手方のドローンを安価に迎撃し、反撃能力としても活用」すると述べ、「世界一無人アセットを駆使する組織」への変革を目指すとしています。

ただし、機体を買うだけでは追いついたことにはなりません。ウクライナの経験が示しているのは、クルーの訓練、迎撃ドローンを目標へ導くレーダーとの連接、複数のクルーを束ねる管制、整備・補給の態勢こそが重要だということです。装備庁が実証試験で、納品後の整備・補給・教育の態勢まで評価対象にしているのは、このためだと考えられます。
装備庁はXの公式アカウントで「変化する脅威に対応するため、防衛装備庁は今後も『スピード』を重視した装備調達に挑戦していきます」と表明しています。この速さを一度きりの離れ業で終わらせないことが求められています。
Ranking読まれている記事
- 24時間
- 1週間
- 1ヶ月
- 航空自衛隊がブルーインパルスの2026年度展示飛行スケジュールを更新(5月25日)
- 人事発令 令和8年8月1日・2日・3日付け、1佐職人事(陸自241名、海自20名、空自56名)
- 防衛省が第13回処遇・給与部会を開催 自衛官の給与体系見直し提言取りまとめ(8月24日)、議事録を公開(9月10日)
- 《特集:ブルーインパルス》飛行展示と飛行条件の基礎知識
- 三菱電機、空対空ミサイルAIM-120 AMRAAMの日米共同生産への参画を目指す(4月28日)
- 人事発令 令和8年8月3日付け、将補人事(陸自20名、海自7名、空自13名)
- 《特集》ブルーインパルスが愛知の空へ!「愛知・名古屋2026大会」どこで見る? どこで撮る?
- 土砂災害及び河川氾濫(千葉県)の災害派遣 陸自が捜索活動等を実施(9月22日)
- 《特集》基礎からわかるジェット戦闘機の「世代」 ──ステルス機は第5世代、今後現れる第6世代
- 人事発令 令和8年8月3日付け、将人事(陸自10名、海自6名、空自2名)
- 人事発令 令和8年9月18日付け、1佐職人事(海自1名)
- 航空自衛隊がブルーインパルスの2026年度展示飛行スケジュールを更新(5月25日)
- 人事発令 令和8年8月1日・2日・3日付け、1佐職人事(陸自241名、海自20名、空自56名)
- 《特集》ブルーインパルスが愛知の空へ!「愛知・名古屋2026大会」どこで見る? どこで撮る?
- 防衛省が第13回処遇・給与部会を開催 自衛官の給与体系見直し提言取りまとめ(8月24日)、議事録を公開(9月10日)
- 空自 偵察用無人機RQ-4Bグローバルホークが鳥取県沖で墜落 機体の捜索・回収を継続(9月25日 第7報まで掲載)
- 政府が基本方針を閣議決定 外交力・防衛力強化へ戦略三文書見直し(9月17日)
- 人事発令 令和8年8月3日付け、将補人事(陸自20名、海自7名、空自13名)
- 空幕人事教育部補任課の防衛事務官を停職4月 新宿駅ホームで迷惑行為(9月18日)
- 《特集》5つの艦種で構成される海自の主力艦 基礎から分かる「護衛艦」概論
- 《特集》ブルーインパルスが愛知の空へ!「愛知・名古屋2026大会」どこで見る? どこで撮る?
- 航空自衛隊がブルーインパルスの2026年度展示飛行スケジュールを更新(5月25日)
- 最新レーダーの驚くべき生産拠点 ──最高の製品は最高の工場から
- 人事発令 令和8年9月18日付け、1佐職人事(海自1名)
- 人事発令 令和8年8月1日・2日・3日付け、1佐職人事(陸自241名、海自20名、空自56名)
- 防衛省が第13回処遇・給与部会を開催 自衛官の給与体系見直し提言取りまとめ(8月24日)、議事録を公開(9月10日)
- 人事発令 令和8年9月17日付け、書記官人事(2名)
- 人事発令 令和8年8月3日付け、将補人事(陸自20名、海自7名、空自13名)
- 《特集》5つの艦種で構成される海自の主力艦 基礎から分かる「護衛艦」概論
- 若年定年の自衛官への給付金支給対象者を拡大、政令を公布(7月3日)

