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《特集》5つの艦種で構成される海自の主力艦 基礎から分かる「護衛艦」概論

  • 特集

2024-5-15 14:53

海上自衛隊の艦艇にはさまざまな艦種がある。

護衛艦に潜水艦、掃海艇、補給艦、輸送艦、ミサイル艇などなど──。

それぞれに然るべき重要な役目があって、これらの艦艇、それに航空機や陸上施設が揃って、海上自衛隊の防衛力が発揮されている。

中でも海上自衛隊の主力となるのが護衛艦だ。岡部いさく OKABE Isaku

DDG「あたご」を従えた「ひゅうが」型DDH1番艦「ひゅうが」。強力な兵装を備えた本級は、護衛艦として初めて全通飛行甲板を備えた画期的なタイプだった。 写真:花井健朗

さまざまな艦種「護衛艦」とは

 海上自衛隊の艦艇の中でも、護衛艦や潜水艦、ミサイル艇、それに掃海艦(艇)は戦うことを任務とする戦闘艦(艇)だ。掃海艇は海中の機雷を掃討するのが役目で、武装は少ないが、戦うフネであることに変わりはない。それ以外でも訓練支援艦や練習艦など、76㎜砲を備えた艦があるが、これらは直接戦闘することを任務としていない。
 そんな戦闘艦艇の中で、護衛艦は敵の水上艦艇や航空機、潜水艦と戦うことを任務としている。海上自衛隊の潜水艦も、潜水艦や敵の水上艦艇と戦う役目を持つが、潜水艦はその名のとおり海面下に潜んで戦うフネで、航空機と戦うことはない。またミサイル艇は対艦ミサイルを主兵装として敵の水上艦艇を攻撃するのが目的だが、小型で近海での行動に特化していて、また対空や対潜作戦のための装備も持っていない。
 それらに比べて、護衛艦は大きく、砲やミサイル、魚雷、CIWSといった多くの兵装を装備して、ヘリコプターを搭載し、レーダーやESM、画像装置、艦首ソナーや曳航ソナーといったセンサーを備え、外洋で対水上戦や対空戦、対潜戦を行うことができるオールラウンドな戦闘能力を持っている。
 護衛艦にもいくつものタイプがあり、対空能力を重視した艦やヘリコプター運用に特化した艦もあるが、総体として護衛艦は、外洋で対水上・対空・対潜のさまざまな状況に対応して戦う艦ということができる。

海自最新のイージス艦「まや」型。写真の2番艦「はぐろ」は従来のDDGが装備していなかった着艦拘束装置を装備。ヘリの運用能力が向上している。 写真:花井健朗
海自初のイージス艦「こんごう」型DDGの2番艦「きりしま」。本級は米海軍のアーレイ・バーク級を原型としつつ、日本独自の要求を盛り込んで誕生した。 写真:花井健朗

「D」を冠する4タイプの護衛艦

 海上自衛隊の護衛艦にはDDH、DDG、DD、DEという「D」を冠する4つのタイプがある。
 3機以上のヘリコプターを搭載、飛行甲板を持ち、ヘリコプターの運用に特化しているのが「ヘリコプター搭載護衛艦DDH」で、「ひゅうが」型と「いずも」型各2隻がこれだ。
 長射程の対空ミサイルを装備して、広域の防空任務を行うのが「ミサイル搭載護衛艦DDG」で、「こんごう」型4隻と、「あたご」型、「まや」型各2隻があり、海上自衛隊のDDGはいずれも多機能レーダーSPY-1と高度な自動戦闘指揮システムのイージスを持つ「イージス艦」となっている。海上自衛隊のDDGは広域防空だけでなく、弾道ミサイル防衛BMDも任務とする。
 8隻の「あさぎり」型、9隻の「むらさめ」型、5隻の「たかなみ」型、4隻の「あきづき」型、2隻の「あさひ」型は、「汎用護衛艦DD」と呼ばれる。ヘリコプターを1〜2機搭載し、近距離対空ミサイルを装備して自艦と周辺の防空を行い、対水上・対潜・対空にバランスのとれた能力を持つ。
 DDよりも小型で、ヘリコプターや対空ミサイルは搭載しないが、アスロック発射機や対艦ミサイルを装備するのが、6隻の「あぶくま」型DEだ。
 このDDやDE、DDGというのはアメリカ海軍の艦種記号と同じ。アメリカ海軍では「駆逐艦=デストロイヤー(Destroyer)」を「DD」という記号で表わしていた。
 また、アメリカ海軍は第二次世界大戦中に船団護衛用の対潜能力重視の小型で低速な駆逐艦を大量に建造し、これらは「護衛駆逐艦=デストロイヤー・エスコート」として「DE」で表わした。
 ミサイル搭載護衛艦は、アメリカ海軍の「ミサイル駆逐艦」と同じDDGと呼ばれる。Gは「Guided Missile:ガイデッド(誘導)・ミサイル」を示す。
 DDHのHはヘリコプターを表わすが、アメリカ海軍にこの艦種記号はない。イタリア海軍が1960〜70年代に建造したヘリコプターを3機以上搭載する駆逐艦に対し、英語国がDDHという艦種記号を当てはめていて、海上自衛隊では「はるな」型と「しらね」型からDDHが始まっている。
 今日の「ひゅうが」型と「いずも」型は、艦首から艦尾まで一面となった飛行甲板を持ち、艦橋構造物は右舷に寄っていて、つまり空母の姿をしている。外国のメディアなどではしばしば日本のDDHを「ヘリコプター空母」と書いたりしているが、どのような艦をどのような艦種名で呼ぶかは、つまるところ各国の自由である。
 諸外国なら「ヘリコプター空母CVH」と呼ばれる艦を日本が「ヘリコプター搭載護衛艦DDH」と呼んでいるのは、それは日本の都合であって、別に間違っているわけではない。

現在「空母化」が進む海上自衛隊最大の自衛艦「いずも」型。1番艦「いずも」はF-35Bを搭載可能とする第一次改修を終えた。 写真:柿谷哲也

新たな艦種FFMの登場

 海上自衛隊は発足当初の1954〜55年に、アメリカ海軍から第二次世界大戦中の駆逐艦DDと護衛駆逐艦DEを2隻ずつ貸与された。このDDが「あさかぜ」型、DEが「あさひ」型で、以来海上自衛隊の護衛艦はDDとDEの2つの系統が建造され、保有されてきた。
 しかしDEの大きさで搭載できる装備では、近年の脅威に対処するには十分ではなく、DEは「あぶくま」型の6 番艦「とね」が1993 年に就役して以来、建造されていない。
 DEは「あさぎり」型DDとともに護衛艦隊直轄の護衛隊に配備されているが、いずれも艦齢が重なり、退役の時期が迫っている。そこで海上自衛隊では、全く新しい構想の護衛艦として「もがみ」型の建造を進めている。
 「もがみ」型は護衛艦でありながら、艦種記号は従来のようにDD、もしくはDEが付かず、FFMとなっている。FFはアメリカ海軍ではフリゲートを示す記号として用いられている。現在のフリゲートと駆逐艦の違いは曖昧だが、一般には駆逐艦より小型で、対空能力が若干小さい水上戦闘艦と考えていいだろう。
 つまり「もがみ」型は諸外国風にいえばフリゲートにあたり、駆逐艦にあたるこれまでの護衛艦とはいささか違う種類の艦ということになる。その末尾のMが示すように、「もがみ」型では対水上・対潜・対空能力に加えて、無人水上艇や水中艇を用いた「機雷戦Mine Warfare」能力も与えられ、「多用途Multi-Purpose」な護衛艦となる。

非ステルス、非VLSの最後の従来型DD護衛艦となった「あさぎり」型DD。写真の1番艦「あさぎり」は全護衛艦で唯一昭和に就役した艦で、最古参の護衛艦だ。 写真:花井健朗
海自唯一のDEとなった「あぶくま」型DEの最終6番艦「とね」。長きにわたる海自DEの歴史は本艦をもって終幕を迎えることになりそうだ。 写真:花井健朗

護衛艦隊隷下に五大基地へ配備

 これら海上自衛隊の護衛艦は、DDHとDDG、「むらさめ」型以降のDDは、第1〜4の4つの護衛隊群の下、第1〜8の8つの護衛隊、「あさぎり」型DDと「あぶくま」型DEは護衛艦隊司令部直轄の第11〜第15の護衛隊に編成されている。この各隊は横須賀、佐世保、舞鶴、大湊、呉に配備されている。
 護衛隊群所属の護衛隊のうち、第1、第2護衛隊群の護衛隊はDDHとDDG各1隻にDD 2隻、もしくはDDG 1隻とDD 3隻という編成となっているが、第3、第4護衛隊群の護衛隊はバラバラで、第3護衛隊のようにDDH 1隻とDDG 2隻にDD 1隻という強力な編成もあれば、第8護衛隊のようにDDG 2隻にDD 2隻という編成、第7護衛隊のようにDD 4隻で編成されている護衛隊もある。
 護衛艦隊直轄の護衛隊のうち、横須賀の第11護衛隊は「あさぎり」型DDのみの3隻編成、呉の第12護衛隊はDD 1隻、DE 2隻の3隻編成、佐世保の第13護衛隊はDDとDE各1隻の2隻、舞鶴の第14護衛隊はDD 2隻とDE 1隻の3隻、大湊の第15護衛隊はDD 1隻とDE 2隻の3隻と、基地によって編成はさまざまだ。
 これらの護衛艦は護衛艦隊司令部の下で保守・整備・維持と乗員の訓練が行われ、任務に際しては、その任務や状況に応じて護衛艦が派遣されて部隊を編成する。
 指揮を執るのは護衛艦隊司令部ではなく、その上に位置する自衛艦隊司令部や、地方総監部の指揮下に置かれる。あるいは他の陸上自衛隊や航空自衛隊との統合作戦では、その統合部隊の司令官の指揮下に入ることになる。
 つまり、護衛艦隊は護衛艦という戦力を提供する「フォース・プロヴァイダー」であり、自衛艦隊司令部や地方総監部はその戦力を指揮・運用する「フォース・ユーザー」ということになるわけだ。スポーツのチームにたとえて、護衛艦を選手とするならば、護衛艦隊はコーチやトレイナー、自衛艦隊司令部や地方総監部が監督といったところだろうか。

「たかなみ」型DDの1番艦「たかなみ」。本級から主砲に127㎜(5インチ)砲、32セルのMk.41VLSという基本構成が確立された。 写真:柿谷哲也
現在最新のDDである「あさひ」型DDの1番艦「あさひ」。新型のソナーシステム、潜望鏡探知レーダーなどの新装備が採用され、対潜戦を重視したタイプとなった。 写真:Jシップス編集部

FFMの充足と海自護衛艦の未来

 しかし、現在建造が進められている「もがみ」型FFMは、これまでの護衛艦とは配備先が異なっている。すでに就役している1番艦「もがみ」と2番艦「くまの」は、護衛隊群ではなく、掃海隊群の直轄艦として、横須賀基地に配備されているのである。掃海隊群には掃海艇や掃海艦、掃海母艦、輸送艦が配属されているが、「もがみ」型はそれらと同じ指揮系統に置かれているのだ。この配備は「もがみ」型の新しい機雷戦能力への期待を示すものともいえる。
 もちろん「もがみ」型FFMは機雷戦だけを任務とするわけではなく、DDなどの護衛艦を補完して対潜・対空・対水上任務に就くこともあれば、今日DDが担当している海賊対処などの外地派遣や、日本周辺海域の監視や警備といった任務もFFMが担当することがあるだろう。さらには災害救助や人道支援、親善友好のための外国訪問なども行うだろう。
 海上自衛隊の護衛艦としては、今後しばらく「もがみ」型が建造されていく。その一方で、「いずも」型DDHはF-35B搭載のための改修が進められ、ますます空母へと近づいていく。また、いろいろと取り沙汰されている「イージス・システム搭載艦」なるものも具体化されていくのだろう。
 それとともに近い将来には本物のイージス護衛艦である「こんごう」型DDGの後継艦や、「むらさめ」型の後継DDも考えなくてはならなくなる。海上自衛隊の護衛艦はこれからもさまざまに進化していくことだろう。

BMD対処中の「こんごう」型DDGを守るため、僚艦防空能力を有する対空重視型DDとして建造された「あきづき」型DD。写真の2番艦「てるづき」から、アスロックが新型に更新された。 写真:花井健朗
シースパローを発射する「むらさめ」型DD最終9番艦「ありあけ」。ステルス性を考慮した船体、VLS化されたミサイル発射機など、以降のDDは本級の発展型といえる。 写真:菊池雅之
海自護衛艦の新艦種、「もがみ」型FFM。現在は掃海隊群直轄となっているが、今後新艦種としての運用の試験が完了すれば、群直轄艦のままということはないだろう。 写真:海上自衛隊

初出:Jシップス 2022年 10月号 Vol.106

岡部いさくOKABE Isaku

1954年埼玉県出身。航空雑誌、艦艇雑誌の編集者、編集長を経て、フリーの軍事評論家として幅広いジャンルで活躍。テレビでの軽妙な語りや、初心者にも分かりやすい解説には定評がある。『世界の駄っ作機』(大日本絵画刊)などの著書、翻訳書も多数。

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