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世界の軍用機メーカーの趨勢はどうなっているのか? 防衛産業の基礎知識

  • 特集

2024-5-19 19:33

全世界に広がる軍事・防衛産業のメーカーとその関連企業は、軍用機や装備品、ミサイル製造などのほか、通信・レーダーほか時代の波に乗って新たな領域を広げつつある。井上孝司 INOUE Koji

世界の代表的な軍用機メーカーMAP 制作:編集部

欧米はじめ西側のメーカー

 我が国では、三菱重工業、川崎重工業、IHIといった総合重工業メーカーが、事業のひとつとして航空機部門を持つ形になっている。ところが、諸外国では状況が異なる。そのような業界事情がまとまって取り上げられることは意外とないため、地域ごとに主要な防衛メーカーの最新の顔ぶれついて、まとめてみたい。
 まず、各地域で軍用機を手掛けている主要メーカーと代表的な機種には、以下のものがある。※

【アメリカ】
 ロッキード・マーティン:F-35戦闘機、F-16戦闘機
 シコルスキー(ロッキード・マーティン傘下):H-60汎用ヘリ、H-53輸送ヘリ
 ボーイング:F/A-18戦闘機、P-8哨戒機、T-7練習機、CH-47輸送ヘリ、AH-64攻撃ヘリなど
 ノースロップ・グラマン:B-21爆撃機、E-2早期警戒機、F-35戦闘機(製造分担)、F/A-18戦闘機(製造分担)
 テキストロン:T-6練習機、キングエア・プロペラ機シリーズ
 ベル(テキストロン傘下):V-22ティルトローター機、H-1汎用/攻撃ヘリ、V-280ティルトローター機

【ヨーロッパ】
 BAEシステムズ(英):ユーロファイター戦闘機、次期戦闘機プログラムGCAP、F-35戦闘機(製造分担)
 ダッソー・アビエーション(仏):ラファール戦闘機、次期戦闘機FCAS
 エアバス(国際共同):A400M輸送機、ユーロファイター戦闘機、次期戦闘機FCAS、各種ヘリコプター
 レオナルド(伊):ユーロファイター戦闘機、次期戦闘機プログラムGCAP、F-35戦闘機(製造分担)、M346練習機、C-27輸送機、各種ヘリコプター
 サーブ(スウェーデン):JAS39グリペン戦闘機、T-7練習機(製造分担)
 ピラタス(スイス):PC-7練習機、PC-12ターボプロップ機、PC-21練習機
 アエロ・ボドホディ(チェコ):L-39練習機、L-159練習機
 PZL(ポーランド):M28ターボプロップ機、S-70i汎用ヘリなど

 各社の年間売上データを見ると、一見、「大きなおカネが動く業界だな」と思える。しかし、全世界の企業売上ランキング「フォーチュン500」の2022年版を見ると、航空宇宙・防衛産業界で売上トップのロッキード・マーティンは55位だ。以下、プラット&ホイットニーの親会社・レイセオン・テクノロジーズ(2023年7月、RTXコーポレーションに社名変更)が58位、ボーイングが60位。100位以内はここまでで、次は101位のノースロップ・グラマンである。
 こうした防衛関連メーカーと比較すると、アマゾンやマイクロソフト、アップルの方がずっと規模は大きい。ちなみに、1等賞は流通大手のウォルマートである。世界的に見ると、それほどミリタリーよりも大きな業界はまだまだある。

【その他(中露を除く)】
 TAI(トルコ):TF-X次期戦闘機
 ヒンダスタン航空機(インド):テジャス戦闘機
 ドゥラブ(ドゥルーブ)など各種ヘリコプター
 エンブラエル(ブラジル):A-29スーパーツカノ練習機など
 KAI(韓国):T-50練習機/攻撃機シリーズ、KT-1練習機など

ロッキード・マーティンを中心に開発した第5世代ステルス戦闘機のF-35。航空自衛隊でもF-35Aを運用中だが、垂直離着陸が可能なF-35Bも配備計画が進んでいる。 写真:ロッキード・マーティン

軍用機を手がけるのは航空機メーカーだけではない

 さて、先に挙げた各社のうち、ボーイング、エアバス、エンブラエルは特異な存在で、旅客機を主体とする民間機部門の売上比率が大きい。ボーイングは39%、エアバスは70%(ヘリコプター部門を除く)、エンブラエルは46%を民間機部門の売上が占める(ボーイングとエアバスは2022年、エンブラエルは2021年の数字)。
 この3社以外の多くに共通する特徴は、「防衛部門の比率が高い」、「航空機以外にも、さまざまな分野で事業を展開しており、電子機器部門の重要性が増している」、「国際的に事業を展開している」といったところだ。
 ロッキード・マーティンは、ヘリコプターを手掛けるシコルスキーを傘下に収めた後で、イージス戦闘システムなどを手掛ける部門と一本化して「ロータリー&ミッション・システムズ」としている。部門別の売上を見ると、F-35でおなじみのエアロノーティクス部門が41%を占めるが、ミサイル&ファイア・コントロール部門が17%、ロータリー&ミッション・システムズ部門が24.5%と、後二者の合計はエアロノーティクス部門に匹敵する。残りはスペース・システムズ部門だ。
 ノースロップ・グラマンは、航空機部門が32%で、航空機以外(電子機器など)の防衛部門が45%、宇宙部門が30%となる(2021年のデータ)。同社はアライアント・テックシステムズ(ATK)との合併で、ロケットや弾薬の部門が強化された。
 BAEシステムズは航空機部門が54%を占めるが、艦艇部門が24%、陸戦部門が16%、サイバー関連部門が5%と、航空機以外が占める比率が意外と高い(2021年のデータ)。その辺の事情はサーブも似ていて、航空機部門が42%、陸戦部門が26%、艦艇部門が21%。後二者の合計は航空機部門を上回る。サーブは、防衛電子機器の分野でも著名だ。

2022年12月に初公開されたアメリカ空軍の次世代主力爆撃機、B-21レイダー。B-2と比較して、正面から見るとエアインテークやコクピットの窓が小型化されているのがわかる。 写真:ノースロップ・グラマン
エアバスが開発した戦術輸送機A400M。現在、イギリスやドイツ、フランスといった欧州諸国に加え、マレーシアでも運用中。 写真:エアバス

冷戦崩壊後の軍縮による再編

 メーカーのこうした傾向は昔からあったのかというと、実はそうでもない。変化を引き起こした原因のひとつと考えられるのが、冷戦崩壊後に生じた欧米諸国での軍縮と国防費の大幅削減である。多数の専業メーカーが個別に生き残るのが困難になり、同業者同士の合併による規模の追求、あるいは異業種との合併による相乗効果の追求につながった。一方で、航空機部門を手放して装甲戦闘車両と艦艇に注力する、ジェネラル・ダイナミクスのようなメーカーも現れた。
 さらに、コンピュータやセンサー機器をはじめとする防衛電子機器の重要性が飛躍的に高まったため、大手はいずれも防衛電子機器部門に力を入れるようになった。
 では航空・宇宙・電子機器の技術が相乗する製品としてのミサイルはどうだろうか。アメリカでは複数の大手がそれぞれミサイル部門を持つが、ヨーロッパでは国を跨いだ再編成が発生して、ミサイル専業
メーカーのMBDAが誕生した。ロシアでも、ミサイルはヴィンペルやアルマーズ・アンテイといった専門メーカーが手掛けている。
 このほか、海外にも積極的に進出して、グローバルに拠点を持つ事例が増えている。BAEシステムズがその典型例で、本拠地のイギリスだけでなくアメリカが第二の柱となった。さらにスウェーデン、中東、オーストラリアにも拠点を持ち、それぞれで異なる事業を展開している。
 こうしてみると、航空宇宙・防衛産業の実態は、世間一般のイメージとは、かなり異なったものだといえるのではないか。

中国、ロシア、ウクライナの防衛産業

 一方、いわゆる西側諸国とは異なり、国営企業を中核とする統合路線を採ったのが、中国と旧ソ連諸国である。かつて中国には複数の航空機メーカーがあったが、それらをを国営企業・中国航空工業集団(AVIC)の下に統合した。
【中国】
 瀋陽飛機工業集団:J-11戦闘機、J-15戦闘機、J-16戦闘機、J-31戦闘機
 西安飛機工業公司:H-6爆撃機、Y-20輸送機
 成都飛機工業公司:J-20戦闘機
 昌河飛機工業公司:各種ヘリコプター
 哈爾浜飛機工業集団:各種ヘリコプター
 南昌飛機製造公司:JL-8練習機、JL-10練習機

 旧ソ連は設計局と工場が別々に存在するユニークな分業体制だったが、ソ連崩壊後に発生したさまざまな再編成により、現在のロシアでは統一航空機製造会社(UAC)の傘下に、以下のメーカーがまとまっている。

【旧ソ連】
 スホーイ:Su-27戦闘機シリーズ、Su-57戦闘機
 ミグ:MiG-29戦闘機、MiG-35戦闘機、MiG-31戦闘機
 ツポレフ:Tu-160爆撃機
 ヤコブレフ:Yak-130練習機
 イリューシン:IL-76輸送機シリーズ
 ミル:Mi-8汎用ヘリ、Mi -17汎用ヘリ、Mi-24/35強襲ヘリ、Mi-28攻撃ヘリ
 カモフ:Ka-27汎用ヘリ・シリーズ、KA-50攻撃ヘリ・シリーズ

 1991年の旧ソ連崩壊により、ウクライナに拠点を置いていたアントノフはウクライナ企業となって現在に至る。それがO.K.アントーノウであり、An-124やAn-178などを手掛けている。

写真のMiG-35戦闘機などを開発・製造するミグや、スホーイ、イリューシンなどもUACの傘下企業となった。 写真:UAC

防衛関連メーカーの統合史

 欧米の主要メーカーについて、主な合併・統合の流れをまとめてみた。これまでにも触れたように、航空宇宙・防衛産業全体に大きな再編成が起きたのは、主として冷戦崩壊の直撃を受けた1990年代以降なのだが、その様子が理解できるだろう。
 図には航空機メーカーだけでなく、エンジンや搭載武器、電子機器などを手掛けているメーカーも、いくらか含めた。その理由は、特にアメリカで「軍用機メーカー」と思われている企業の多くが、実は防衛電子機器や搭載兵装も手掛ける総合メーカーに変貌した事情を理解して欲しいためだ。
 欧米では航空宇宙・防衛関連メーカーの多くが防衛部門専業ないし、それに近い事業構造を持っており、その分野に特化して企業体力を高めようとした事情がある。そこから多様な事業を手掛けることで相互のシナジー効果を発揮させようとする例も出てきたわけだ。
 もっとも、実際にやってみたら上手くいかなかったとか、事業構造の見直しで、事業部門単位で売りに出したり、分離独立させたりした例も多い。ノースロップ・グラマンも造船部門を切り離して独立させた。
 また防衛電子機器の部門は、武器システムの高度化につれて重要度が増す一方、どのメーカーでも、売上比率が高くなってきている。この図には入れていないが、防衛電子機器を主軸として枢要な地位を占めるメーカーの一例が、ITT、ハリス、L3コミュニケーションズの3社が合併してできた「L3ハリス・テクノロジーズ」。こちらの分野でも、合併・集約が進む事情は似ているわけだ。ヨーロッパだと、タレスが該当するだろう。
 これだけ見ると「軍用機メーカー」は集約・統合が進んで数が減る一方なようだが、別の動きもある。無人機のような新手の装備は、組織が大きい既存メーカーよりも技術とアイデアを武器に身軽に動ける新興メーカーの方が手を出しやすいため、馴染みのない名前が少なくない。それらが実績を重ねて、既存の大手傘下に入る事例もある。無人偵察機スキャンイーグルでおなじみのインシツ社(Insitu Inc.)が、ボーイング傘下に入ったのが典型例だろうか。

世界の主な軍事関連メーカーの統合の歴史
井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。著書に『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』( 潮書房光人新社)、『空母がよ~くわかる本』(秀和システム)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『無人兵器』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)などがある。共著多数。このほか、「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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