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《レポート》海自の新型艦艇 哨戒艦「さくら」「たちばな」が進水、年度内就役へ(11月13日)

  • 日本の防衛

2025-11-21 17:25

2025年11月13日、JMU横浜事業所磯子工場で、海上自衛隊にとって新たな艦種「哨戒艦」の命名式・進水式が執り行われました。稲葉義泰がお伝えします。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

 2025年11月13日(木)、神奈川県横浜市にあるジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場において、海上自衛隊の新艦種である「哨戒艦」の命名進水式が執り行われた。2隻同時進水という、あまり見慣れない方式が採られたこの式典において、1番艦は「さくら」、2番艦は「たちばな」と、それぞれ命名された。

船体を支えていた支綱を切断するための支綱切断斧。当日は宮崎防衛副大臣が支綱を切断した 写真:稲葉義泰

護衛艦や掃海艦に日本周辺の哨戒をやらせてはいられない

 さくら型哨戒艦は、基準排水量1,900トン、全長95m、全幅12.0mと非常に小柄で、武装もわずかに30mm機関砲が1門、艦前部に搭載されているのみだ。じつは、この艦容こそが、まさにこのさくら型が平時の任務遂行を主眼に置いた艦艇であることを如実に示しているといえる。

さくら型哨戒艦の1番艦「さくら」。就役は令和9年1月を予定している 写真:稲葉義泰
1番艦「さくら」と同時に進水した、さくら型哨戒艦の2番艦「たちばな」。就役は令和9年2月の予定 写真:稲葉義泰

 さくら型の主任務は、平時における他国海軍艦艇の監視だ。これまで、日本周辺の海域において活動する、中国やロシアなど周辺諸国の海軍艦艇の動向は、海上自衛隊の護衛艦を追随させる形で監視してきた。しかし近年、中国軍の軍事力増強や活動の活発化にともない、その所要が急増した。そのため、護衛艦では手が回らなくなり、掃海艇や補給艦なども動員して監視せざるを得なくなっていた。これでは、それぞれの艦艇が本来必要とする機能を発揮するための訓練に時間を割くことが出来ず、このままでは海上自衛隊の練度低下につながってしまう恐れがあった。

 そこで、平時の他国艦艇監視を専門に担う艦艇を建造し、他の艦艇を本来の任務に専念させよう、ということで計画されたのがこのさくら型哨戒艦というわけだ。

シンプルに設計した速力25ノットの小型艦 VTOL無人機を後日搭載

 そのようなわけで、さくら型に求められる機能は、あれもこれもこなす必要のある護衛艦とは異なり、非常にシンプルだ。他国の艦艇にくっついて航行し、その動向を光学/赤外線センサーで見張り、それを報告する、それをこなすだけの装備がそろっていれば十分なのである。

 そのため、先述したように武装は最低限に抑えられている一方、速力は25ノットと通常の護衛艦と比べても大きく見劣りしない性能を有している。また、機能が限定され、船体も小柄ということから、乗員数も約30名と非常にコンパクトだ。この省人化に関しては、商船で活用が進められている省人ブリッジに関する技術なども取り入れられているとか。建造費用についても、1〜4番艦あわせて約357億円とのことで、1隻当たりの建造費は約90億円となる。

令和5年度予算の概要で紹介された際の「哨戒艦」の説明 出典:防衛省資料

 航空機運用能力については、艦後部の多目的甲板を使って海上自衛隊が運用しているすべての種類のヘリコプターの発着艦を実施することは可能だという。しかし、それらを搭載する能力は有していない。代わりに、アメリカのShield AI社が開発した垂直離着陸型無人機のV-BATを後日搭載する予定で、これにより遠距離を航行する艦艇の捜索を含めた広域監視能力を有することになる。

さくら型哨戒艦の船体後部には多目的甲板と多目的格納庫があるほか、艦尾には搭載艇の収容スペースが設けられている 写真:稲葉義泰
搭載が予定されている、シールドAI社の垂直離着陸型無人機V-BAT 出典:防衛省資料

情報収集活動や有事における活用も視野に

 とはいえ、このさくら型はただ他国艦艇を監視するだけが仕事ではないようだ。というのも、命名進水式の当日に報道陣に配布された資料によると、電磁波情報収集器材が後日装備されると明記されているためだ。この器材が具体的に何を指すのかは不明だが、機能としては他国軍の通信システムやレーダーなどから発せられる電波情報を収集し、解析する装置ということになるだろう。

 じつは、近年海上自衛隊では、外洋に長期間とどまる艦艇に対して、こうした電子戦支援(Electronic Support Measures)装置を搭載する事例が確認されている。たとえば、うらが型掃海母艦の1番艦「うらが」のマストには、スウェーデンの大手防衛関連企業であるSaab社製のSME-150とCRS-Navalと呼ばれるESM装置が搭載されていることが確認されているが、これはまさに前述の理由による措置だ。とすると、さくら型哨戒艦もおそらく同様の理由で、同様の器材を搭載することが考えらえれる。

 また、先ほど「シンプルさの追求」がさくら型哨戒艦の核であると説明したところだが、有事における活用を見据えて、必要に応じた武装強化も視野に入れられているようだ。2024年5月16日に、海上自衛隊補給本部は「コンテナ式SSM発射装置に関する技術調査」の契約に関する公募を行っている。注目は、応募希望者の資格として挙げられている次の二点だ。

▪12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)、17式艦対艦誘導弾及び90式艦対艦誘導弾の設計及び製造ができる能力を有し、かつ、当該機器に関する技術資料を利用することができること。
▪哨戒艦等のSSM未搭載艦におけるコンテナ式SSM発射装置の装備に関する技術的検討ができること。

 つまり、このコンテナ式発射装置はさくら型哨戒艦への搭載が見込まれ、かつ射程1,000kmを有する12式地対艦誘導弾能力向上型を発射することができる、ということになる。また、対艦ミサイルだけではなく、コンテナ型の機雷敷設装置を搭載することで、機雷敷設艦としても運用することも可能になるだろう。本来のコンセプトからすれば、こうした追加兵装の搭載は不要という見方もできる一方で、有事の際に戦力化できれば有用性が増すというのも一理ある。この点については、今後の海上自衛隊における運用構想次第というところだろう。

式典参列者に配布された「さくら」と「たちばな」の進水記念絵葉書
制作:ジャパンマリンユナイテッド株式会社
制作:ジャパンマリンユナイテッド株式会社

(以上)

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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