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《「こんごう」乗艦レポート》リムパック2026 #5 実弾のハープーン対艦ミサイルを発射

  • 特集

2026-8-18 11:04

アメリカ海軍が主催して環太平洋諸国の軍が集う、ハワイ周辺海域での多国間海上演習「リムパック」。護衛艦「こんごう」の艦上から柿谷哲也がお届けします。柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

 前週の訓練では、射撃警戒海域内に不明船が侵入したため、安全管理上の事情でハープーン対艦ミサイルを撃てなかった護衛艦「こんごう」のSSM(艦対艦誘導弾)員ら。この日に向けて準備してきたのに、他人の事情で中止になったようなものだ。落胆は計り知れない。
「いや、次に発射するだけですし、準備はすべて整っているので、気持ちの切り替えとかはなかったです」──SSM員長の上島(じょうじま)1曹はあっさりと語る。発射のためコンソールを操作する梶原(かじわら)3曹も、「完全に切り替えて、やるべきことをやると言い聞かせました」という。
 臨時勤務で護衛艦「はぐろ」から「こんごう」にやってきたSSM員の渕野(ふちの)2曹は、「この数日間はアディショナルタイムと思って、もう一度、手順を確認します」。同じく「はぐろ」から臨時勤務の中里(なかさと)3曹は「一回忘れて、フラットな気持ちで挑みます」と話す。

「こんごう」のSSMの発射方向は設置する舷とは反対方向に向いている。発射を前に記録用カメラの設置位置を検討する上島1曹(奥)と渕野2曹 写真:柿谷哲也

迎えたSSM発射二度目の機会

 再指定された7月17日。朝はドリップコーヒーを淹れるのがルーティンの中里3曹は、この日の朝は食堂の自販機にある缶コーヒーでキリマンジャロを選んだ。「他のより10円高いので、頭がさえるかなと思ったんです」。
 梶原3曹はワッチ(当直)が朝6時まで入っていたので、そのあと朝食を食べて、居室に戻ったが、そのまま寝ずに待機し、レスト・ルームでスマホ・ニュースを見ていた。選んだ缶コーヒーは、やはりキリマンジャロだ。
 渕野2曹も同じく朝6時までワッチがあった。海上自衛官は伝統的に射撃前にはアイロンがかかったきれいな作業服に着替えるそうだ。渕野2曹は薄暗く減光された居室でアイロンのかかった作業服に着替え、レスト・ルームの冷蔵庫に半分残してあった缶コーヒーのブラックコーヒーを取り出し、ソファに座って飲んだ。しかし中里が淹れるドリップコーヒーが一番うまいという。
 3人を束ねるSSM員長の上島1曹はティーバッグの緑茶を選んだ。そして舷側に煙草を吸いに行き、海面を見つめた「予報は荒れてたのに、静かだな」
 8時頃、普段ならCIC(戦闘指揮所)でコンソールにつく上島1曹だが、今回は後輩の3人にCICで経験させ、自身は機器室に入り、CICの音声をモニターした。「みんな大丈夫かな。うまくやれよ」。
 中里3曹がCICに入る。照明が落とされたCIC内は全体的に慌ただしい。最新の情報や交信などを確認する。しばらくして梶原3曹がCICに入ると、中里3曹とコンソールの席を代わった。頭の中でシミュレーションを繰り返す。この号令が入ったら、こう復唱して、などなど。最後に渕野2曹がCICに入り、SSMコンソールに座る二人に声をかけた。「準備大丈夫かー」。二人からは「大丈夫です」と返事があった。まず気がかりなのは、前回射撃中止になった原因の不明船。周辺にいないかチェックする。

艦内に響く発射の轟音

 海域では順番に他の国の艦艇がミサイルを撃つ。前回の射撃が中止になったため、米軍側は「こんごう」のために、各国艦が撃つ回次と回次の間に割り込ませてもらった形になっている。それでも中里3曹は、「回次と回次までの間が長く感じた」と語る。
 梶原3曹は発射2分前から緊張してきた。本人はプライベートでは緊張しない性格だがというが、仕事では多くの緊張するシーンを経験してきた。自衛官人生でトップ10に入るほどの緊張だったという。
 発射10秒前、それまでざわついていたCIC内は異様に静かになったという。機器室でそれまで冷静な気持ちだった上島1曹は、発射10秒前に自覚するほど急にドキドキし、「頼む、しっかり発射してくれ」と心で呟いた。
 先週SM-2対空ミサイルを撃った佐藤2曹が発射スイッチに触れたとき、指が震える感覚があったと語ってくれたが、対艦ミサイル発射キーに触れる梶原3曹の右手の指は震えなかったという。
 渕野2曹は発射キーに触れる梶原3曹の指に注視していた。哨戒長の名取1尉が号令を掛ける。「発射よーい、撃てーっ」。梶原3曹は無心で発射キーをひねった。ミサイルが射出されるまでのほんのわずかな瞬間を渕野2曹は長く感じた。
 ハワイ時間8月17日1300時、梶原3曹が捻った発射キーにより、ミサイル護衛艦「こんごう」の右舷中部甲板に装備されたハープーン対艦ミサイルのブースターロケットが点火し、その瞬間、「ゴーッ」と艦内の全区画にロケットの轟音と振動が響きわたった。
 厨房で夕食を準備する給養員ら、応急兼操縦室でエンジン出力を担当する機関科、5インチ砲の下で次の射撃に向け整備する射撃員、医務室で急患に備え待機する看護員ら、居室のベッドで目を閉じて休んでいる非番の乗員たち──、体感する振動に、皆がいまCICにいる仲間の顔を思い、「これが私たちの仕事」、そう思ったに違いない。

護衛艦「こんごう」の中部甲板から発射されるハープーン対艦ミサイル。「こんごう」には最大8発を搭載できる 写真:柿谷哲也
艦橋の右舷後方窓から撮影した発射シーン。艦載型ハープーンはロケット・ブースターにより発射され、後に分離してミサイル本体のターボジェットエンジンで飛翔する 写真:柿谷哲也

先輩から後輩への「伝承」

 暗く照明が落とされたCICのSSMコンソール上方にあるモニター画面には撃ちだされるハープーンが映っていたが、梶原3曹はコンソール画面を注視し、発射シーンを見るいとまはない。コンソール上の項目が正常発射を示していることを確認することに集中していた。そしてすべてを確認し、「自分のやるべきことは全てできた」と思った。
 中里3曹は「やったー! あ~ こんな感じで飛ぶんだ」と思いつつ弾着まで時間のモニターをする。渕野2曹は他の人が見えないように、ちいさくガッツポーズした。中部甲板に設置された無人カメラは、燻る煙が払われ、ランチャーに空いた穴と、真っ青な空に翻る自衛艦旗を映し出していた。
 今回、機器室からCICをモニターした上島1曹は語る。「私は、SSMの仕事しか知りません。その仕事ができるのも、通信や電測など、射撃に至るまでほかの部署がしっかりそこまでしてくれて、周りの支えで初めて撃てるんです」。強い海軍、強い艦とはこうして出来上がってくのだろう。そしてもう一つ、「伝承」が艦を強くするという。
「私はもう50過ぎですから、若い人に経験させていくべきと思っています。私が護衛艦『さわかぜ』に勤務していた時代、先輩たちは故障探求で回路図を見るのがものすごく上手くて、それでもさらに勉強していました。私もそれにならって回路図を普通に引けるようになりました。『さわかぜ』『しまかぜ』の先輩達がいてくれて本当に良かったと思っています。射前準備とか、工程とか、撃った経験のある人が次に伝承していかないといけないと思います」。その極意を聞いてみた。「疲れているときに教わっても、身に入らないですから、教えるのは本人が興味を持った時が一番です。自分もそうでしたから」。

射撃を終えたSSM員たちは語る

 梶原3曹「私は、去年初めてイージス艦に乗りました。そしてすぐにSSM員長から発射の機会をいただいて、なんてラッキーボーイなんだ、『こんごう』に乗れて本当によかったと思ったんですよ。発射の機会に恵まれたことは誇りに思います」。
 中里3曹「長く5インチ砲を担当していていたので、SSMは数年前からなんです。それも『はぐろ』のSSMは国産でしたが、『こんごう』のSSMはアメリカ製ですから、資料も全部英語で読みまくりました。2年前に『はぐろ』で発射を担当したので、異なるミサイルを担当できてよかったです」。
 渕野2曹「自衛官人生で最も大きな出来事だったと思います。さらに言えば、後輩に伝えるために必要なことだったと思っています。これまでいろいろ助言をくださった『はぐろ』のSSM員長、『こんごう』上島員長の言葉による気づき、皆に感謝したいと思います」。続く後輩に対しては、「自分が思っていることがすべて正しいとは思わないこと。若い乗員の意見を素直に聞き、自分の考えだけで判断しないこと。自分が誤った指導をしていれば、素直に謝る。そういうふうにしていきたい。人生で出会った先輩たちのいいところを全部受け継ぎたいと思っています」
「こんごう」SSM員長上島1曹の言う「伝承」。記者から見た彼らには、間違いなく着実に伝承されているようだ。強い彼ら、そして強い艦、ここにあり。

発射後、ランチャーの点検作業に掛かる中里3曹。ハープーンのランチャーはミサイルのキャニスター(収納ケース)を兼ねており、再使用はできない 写真:柿谷哲也
野田艦長(左)に発射後のランチャーを説明する梶原3曹(中央)と上島1曹。SM-2ミサイルと違い、「周辺に煤が残っていないことが意外だった」と上島1曹 写真:柿谷哲也

「こんごう」乗艦レポート リムパック2026 〜 タイトル一覧 〜

 #1 パールハーバー出港
 #2 迎撃ミサイルSM-2発射
 #3 撃沈訓練SINKEX
 #4 艦上体育と医療搬送体制
 #5 実弾のハープーン対艦ミサイルを発射

柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

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