《インタビュー》防衛省・髙橋杉雄さん「日本の防衛における宇宙利用について」
- 日本の防衛
2026-8-20 21:21
今年度末までに「航空自衛隊」が「航空宇宙自衛隊」に再編され、日本の防衛にも宇宙時代が到来します。日本の防衛における宇宙利用について、防衛政策局 戦略企画参事官(取材当時)の髙橋杉雄さんに聞きました。
衛星通信から始まった、自衛隊の宇宙利用
──まず、自衛隊の宇宙利用の経緯を教えてください。1969年の国会決議で、宇宙の利用は「平和の目的に限る」と定められていましたね。
髙橋杉雄(以下、髙橋): 自衛隊の最初の宇宙利用は1970年代に、海上自衛隊によるインテルサット通信衛星の利用から始まりました。自衛隊の宇宙利用がある意味禁止されていた部分があって、自衛隊自身が衛星を運用するのではなく、民間で一般的に使われているサービスを利用することは可能とされていたので、衛星通信を使ったと。その後、民間の地球観測衛星の画像が供給されるようになるとそれも購入しています。そのあたりからですね。
1998年の北朝鮮の弾道ミサイル発射のあとには情報収集衛星が打ち上げられましたが、自衛隊のものではなく、内閣官房が保有し運用しています。
──2008年に制定された宇宙基本法で、宇宙平和利用の定義が「非侵略」に変わりました。
髙橋: 2010年に制定された防衛計画の大綱では宇宙の利用を明記しています。1990年代から自衛隊ではスカパーJSATの商業通信衛星「スーパーバード」に自衛隊用のXバンド中継器を搭載して利用しており、2009年に始まったソマリア・アデン湾での海賊対処活動などに活躍してきました。これを引き継いで2017年から運用開始した「きらめき」は、初の防衛省・自衛隊専用衛星です。

「陸・海・空」に「宇・サ・電」を統合して戦力の量的劣勢を挽回する
──最初は、これまでも利用していた衛星通信を発展させるところから始めたのですね。一方、2018年の防衛計画の大綱では、宇宙利用の扱いがとても大きくなりました。これはどういう事情があったのでしょうか。
髙橋: 2018年の防衛計画の大綱では、「多次元統合防衛力」という概念を掲げました。これは従来の陸・海・空というドメイン(領域)に加え、宇宙・サイバー・電磁波という新たなドメインを統合するコンセプトです。このような領域統合を「クロス・ドメイン」と呼ぶこともありましたが、今は「オール・ドメイン」と呼んでいます。それぞれの独立したドメインを組み合わせるのではなく、一体で考えるべきだからです。
第二期オバマ政権(2013年~2017年)の時期に、アメリカで「サード・オフセット」という戦略が示されました。戦力の量的な劣勢を、ハイテク技術で挽回することをオフセットと言います。ここで、宇宙・サイバー・電磁波を加えたオール・ドメインという考えが示されています。
2010年代には中国のGDPが日本を抜き、軍拡も進んできました。そういう中でどうやてオフセットすればいいのか。質的優越を確保していかないと量的劣勢を補えないという危機感は、むしろ日本ではアメリカより早く持っていました。
──オール・ドメインではありますが、宇宙分野は航空自衛隊が担当し、航空宇宙自衛隊になりますね。
髙橋: 宇宙利用のユーザーは三自衛隊全部です。組織としては、宇宙部隊の予算管理などを誰かが引き受けなければならないので、フォースプロバイダーとして航空自衛隊、航空宇宙自衛隊が担当します。例えばBMD(ミサイル防衛)もJADGE(航空自衛隊の自動警戒管制システム)とイージス艦を連接しているわけですから、同じことですね。
ウクライナ戦争の第一撃は、衛星通信へのサイバー攻撃だった
──宇宙・サイバー・電磁波の分野を統合して意思決定を高速化することで、同じ戦力でも先手をとれるかどうかが変わってきます。ウクライナの戦場ではドローンを含む様々な兵器が使われていますが、スターリンクに代表される宇宙・サイバー・電磁波領域での情報戦が戦況を左右していると聞きます。
髙橋: これからの戦争の最初の一発は、宇宙で行われると思います。実際にウクライナ戦争はまず、ウクライナ軍が指揮系統に使っているヴィアサット(アメリカの商業通信衛星企業)へのロシアのサイバー攻撃から始まりました。
宇宙・サイバー・電磁波は情報という意味で一体です。通信衛星は通信経路だし、宇宙にセンサーを置けばセンサーからの通信が必要になる。それらの通信は電磁波で行うし、電磁波で通信すればサイバーでもある。
重要なのは、意思決定の優勢ですね。単に情報が得られるだけではダメで、早く的確に意思決定するための情報になっていること。アメリカ軍では「メイヴン」というシステムの開発もしています。エクセルのような文書ファイルを手作業で作成して交換していたのでは、時間がかかるし扱いにくい。そこで生成AIの技術をインターフェースに活用して、アウトプットの時間を大幅に短縮しています。
──日本の有事でも、日本の領域や船舶などが直接攻撃されていなくても、日本の宇宙システムが攻撃を受ける状況が考えられます。
髙橋: ちょっとややこしいのは、船と違って衛星には主権が及びません。領土の延長ではないとか、警察権が行使できないといった国際法上の問題があります。ただ、攻撃の第一撃として行われるということは攻撃が準備されているとみなせるので、情勢全般から評価、判断されるでしょう。

2018年の大綱後に整えられてきた自衛隊の宇宙利用システム
──具体的な取り組みは、2018年末の中期防衛力整備計画に記された SSA(宇宙状況把握)からですね。
髙橋: まずSSAから始めましょう、という感じでしたね。2018年の時点では防衛費はそれほど増えていないので、限られた予算で劣勢をどう挽回するかというと、それは宇宙・サイバー・電磁波を統合したオフセットだよねという。今やっているいろんな技術実証は2018年の大綱後の取り組みで、その頃やっていたことが今、だんだん軌道に乗ってきたところです。
──自衛隊が自ら運用する衛星と、民間に委託する衛星がありますね。
髙橋: Xバンド防衛通信衛星「きらめき」はPFI(民間資金活用方式)で、防衛専用の衛星として作ってもらいました。人を育てるには時間がかかりますから、自衛隊で直接運用するのではなく、PFIで調達も運用も含めてやってもらったうえで、衛星通信サービスを提供してもらっています。
地球観測衛星コンステレーションのPFIもあります。民間企業の地球観測衛星の画像を購入する事業です。
──令和8年度は、自衛隊にとって重要な、新しい衛星などの計画が目白押しです。
髙橋: 自衛隊が初めて自分で運用する衛星、SDA(宇宙領域監視)衛星を打ち上げる計画です。SDA衛星は静止軌道付近を機動しながら他の衛星を観測します。令和7年度末の「宇宙作戦群」から「宇宙作戦団」への組織拡充は、SDA衛星の運用体制構築を含んでいます。

今後の技術実証──多軌道観測衛星、戦術AI衛星、HGV探知
髙橋: 多軌道観測衛星の技術実証も計画しています。こちらは他の衛星を下から見上げるようにして観測する衛星です。地上からのSSAと合わせて、SDAの一環と言えます。
──HGV(極超音速滑空弾)の宇宙からの探知も技術実証段階ですね。
髙橋: 今年度はJAXAの宇宙ステーション補給機、HTV-X2号機に防衛省の赤外線センサーを搭載して技術実証を行う計画です。大気圏に突入して空力加熱を受けたHGVの熱を探知するものです。
いわゆる早期警戒衛星はミサイルの発射を探知するものですが、現在は米軍から早期警戒情報の提供を受けています。同じ赤外線センサーでのミサイル探知でも、滑空中のHGV探知はそれより高い解像度を必要とする技術です。

──これからさらに計画されている衛星はありますか。
髙橋: 動いている事業のなかで重要なのが、戦術AI衛星です。地球観測衛星のデータを光衛星間通信で受け取り、衛星に搭載したAIで画像処理して地上へデータを送信するものです。真空の宇宙では、衛星間でレーザー光線で高速通信することができますが、地上との通信では雲に邪魔されない電波通信になるので、宇宙でデータ量を小さく処理しないと時間がかかります。
今、第一段階で考えているのは船の識別。艦船の位置情報判定だけでなく、艦種も機械学習で覚えさせて、どれが何級の艦船かを識別する。その情報を対艦ミサイルに直接送ります。射程1000kmの亜音速ミサイルだと発射から命中まで1時間かかる。その間に艦船は20ノットなら30kmほど移動してしまいますから、目標の船がどこにいるかの情報を送り続ける。そういう中間誘導をしないと絶対当たらないですよね。最後、ミサイルのセンサーの探知範囲に、ちゃんとその船がいる位置まで誘導すると。
次の段階では、はるかに高速なHGVの探知、迎撃の誘導も視野に入れています。
──本日は、ありがとうございました。

◎インタビューは2026年5月末に実施しました。

たかはし・すぎお。防衛省 防衛政策局 戦略企画参事官(取材当時。2026年8月現在、防衛研究所 上席研究官)。1972年、神奈川県生まれ。1995年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1997年、同大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。2006年、ジョージ・ワシントン大学大学院修士課程修了(政治学修士)。同年から防衛研究所に在籍し、政策シミュレーション室長、政策研究部防衛政策研究室長などを経て、現職。専門は国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論。
著書多数。単著に『SFアニメと戦争』、『日本人が知っておくべき 自衛隊と国防のこと』(辰巳出版)など。共著に『ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」』、『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦』(文春新書)など。 写真:編集部
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