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最新レーダーの驚くべき生産拠点
──最高の製品は最高の工場から

2026-9-11 12:00

アメリカ海軍が採用している最新のレーダーSPY-6(V)。イージス艦の新しい眼となる最高品質のレーダーを製造する拠点もまた、驚くべき機能を備えていた。井上孝司 INOUE Koji

アメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦フライトⅢの3番艦「テッド・スティーブンス」。フライトⅢは就役時からSPY-6(V)1を搭載している 写真:HII

最新レーダーを生み出す工場

 アメリカ東海岸、マサチューセッツ州のボストンから北方に向かうと、アンドーバーという街がある。ここで、イージス艦の新しい「眼」、すなわちAN/SPY-6(V)レーダーが作られている。
 アンドーバーの事業所の特徴は、垂直統合にある。レーダー電波を送り出すパワーの源である窒化ガリウム(GaN)半導体素子に始まり、さまざまな電子部品を組み付ける回路基板、それらを組み合わせて構成するレーダー機器といったものが、ここで作られている。半導体チップから完成品の試験・搬出まで、枢要なプロセスがひとつの敷地の中で行われている。
 つまり、キー・コンポーネントを自前で製造できる体制を構築しており、このことはサプライチェーンの安定化、強靱化に寄与する。もちろん、必要に応じて外部のサプライヤーを加えることも可能であるが。

4種の派生モデルと共通コンポーネント

 AN/SPY-6(V)には、AN/SPY-6(V)1〜4という4種類の派生モデルがある。これらは組み合わせる数こそ異なるものの、同じ中核コンポーネントのRMA(Radar Modular Assembly)を共用している。だから、AN/SPY-6(V)3を搭載するコンステレーション級フリゲートの計画は中止になっても、そこで使用するはずだったRMAは他のAN/SPY-6(V)で利用でき、無駄にならない。それに、RMAのような主要コンポーネントを共用することは、製造や兵站支援の効率化に寄与する。
 また、AN/SPY-6(V)はソフトウェア制御型のレーダーだから、ソフトウェアの改善によって能力向上や新機能の追加が可能になる。ソフトウェアも、異なる派生モデルの間で高い共通性を持たせてある。

工場内にSPY-6(V)1から4までの各派生モデルが置かれている。大きさは違うがアンテナを構成するのは共通のRMAだ 写真提供:RTX
SPY-6(V)の中核コンポーネントであるRMA。RMAのボックスにTRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)と呼ばれる板状のパーツが複数ささっている 写真提供:RTX

高品質のデジタル・レーダーを量産する

 AN/SPY-6(V)の出現は、単なる「新型レーダーの登場」ではなく、レーダーの設計・製造に関わる変革でもあった。
▪より遠方で、より早く脅威を探知・識別する
▪航空機、対艦巡航ミサイル、弾道ミサイルなど、多様な脅威に対処できる能力の実現
▪さまざまなクラスの艦に対応できる
▪継続的な能力向上が可能
 といった要求を実現するとともに、その製品を高い品質で安定供給する必要がある。
 レーダー製品は長らく、機械的に、あるいはアナログ電気回路によって制御する時代が続いてきた。しかし、脅威の高度化・多様化に対応するとともに複数の任務を同時にこなすため、米海軍はデジタル化したレーダーの導入を決定した。また、スケーラビリティをもたせて、主要コンポーネントを共用しつつ、大小さまざまな規模のレーダーを生み出すことも求めた。
 それを製造する側は、レーダーの製造を変革するよう迫られた。単に革新的な製品を開発するだけでなく、かつてないレベルの効率と精度で、大規模な量産を行わなければならない。すると、組み立てや試験を手作業で実施するのは現実的ではない。
 RTXの一事業部門であるレイセオンで海軍向けレーダー担当のエグゼクティブディレクターを務めるジェイソン・ラスボーン氏は「組み立てやテストを手作業で行うのは、もはや意味をなさないと認識した。物理的には実行できるが、要求される品質と再現性のレベルでの大量生産は不可能」という。

SPY-6(V)のアンテナは人間と比べるとはるかに大きい。後ろの壁には初めてSPY-6(V)1を搭載したアーレイ・バーク級フライトⅢの1番艦「ジャック・H・ルーカス」の垂れ幕が飾られている 写真提供:RTX

垂直統合と自動化の推進

 そこでレイセオンは、AN/SPY-6(V)の製造に必要なインフラを構築するため、8億ドルあまりの投資を行った。単に新しい工場を作るという話ではなく、垂直統合と高品質を実現する基盤の構築である。
 レーダー製造担当ディレクターを務めるケイシー・ルービー氏は「新たな考え方が、製造から試験に至るまで、あらゆることを見直す原動力となった。変化を具現化する拠点が必要であり、その答えがレーダー開発施設だった」と語る。
 アンドーバーでは、GaN半導体チップを製造するファウンドリ(チップ製造業者)、回路基板の組み立て、レーダーを構成する金属部品の加工など、関連するさまざまな工程を自動的に実現するための施設を整備した。実際、工場の現場を訪れた際には、少ない人手で多数の機械を駆使している様子を確認できた。
 また、部品に無線タグ(RFID)を付けて追跡することで、検査や試験の工程を確実に行えるようにした。個別の部品から完成品に至る工程で何度も検査や試験を行い、その延べ時間は数百時間に及ぶ。最終完成品のレーダーは電波暗室で試験と較正を済ませて、すぐに搭載可能な状態に仕上げてから造船所に送り出す。

テストを行うための電波暗室の様子。アンドーバー工場では、このような大型のレーダーを運び込むための巨大な部屋をいくつか備えている 写真提供:RTX
電波暗室の壁に無数に貼られた電波吸収体。電波の乱反射を防ぐため針山のような電波吸収体が貼られる 写真提供:RTX

アメリカ海軍での大量配備へ

 2026年7月下旬の時点で、AN/SPY-6(V)を搭載して就役した艦が2隻、さらに11隻に搭載済み。細かい実績を見ると、送受信モジュールを5万個以上、RMAを2,000基以上、アンテナ・アレイの数では64基以上、納入したレーダー 一式では17セット以上となる。
 今後10年間で、50隻を超える艦への搭載が見込まれている。そしてレイセオンでは、2028年までに生産量を倍増させる能力を確保している。

バージニア州ワロップス島のアメリカ海軍水上戦闘システムセンターに設置されるSPY-6(V)4のアンテナ。SPY-6(V)4の搭載改修に先立ち、試験が行われる 写真提供:RTX
SPY-6(V)3を搭載した空母「ジョン・F・ケネディ」が海上公試を行う。艦橋正面中央にある四角いアンテナがSPY-6(V)3のもの 写真:US Navy
最初にSPY-6(V)4の搭載改修を受けるアーレイ・バーク級フライトⅡAの「ピンクニー」。「ピンクニー」を皮切りに既存のイージス艦にもSPY-6(V)が搭載されていく 写真:US Navy
井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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