《解説》新型レーダーSPY-6に日本が注目しなければいけない理由
- 日本の防衛
2026-4-30 12:00
アメリカの大手防衛関連企業RTXの事業部門であるレイセオンが2026年4月16日、同社が開発・製造する最新鋭の艦載レーダー「SPY-6」について、東京都内でメディア向けのブリーフィングを行いました。稲葉義泰が報告します。

アメリカ海軍の標準レーダとなるSPY-6
SPY-6(スパイ・シックスと読む)は、アメリカ海軍がこれまで運用してきたイージス艦に搭載されているSPY-1Dをはじめ、各種艦艇が搭載する艦載レーダーの後継として、レイセオンにより開発されたものだ。
SPY-6はいくつかの特筆すべき特徴を有している。第1に、イージス艦がこれまで搭載してきたSPY-1Dレーダーと比較して、電波出力の向上などにより探知距離が大幅に延伸している点である。SPY-1Dと比べて、SPY-6では約3倍の探知距離を実現しているとされる。一般的にSPY-1の探知距離は約500kmといわれているため、SPY-6はおおむね1500km程度の探知距離を有していると考えられる。
第2に、レーダーのサイズを柔軟に変更できる点である。SPY-6では「レーダー・モジュラー・アッセンブリ」(RMA)と呼ばれる小型の電波送受信モジュールを組み合わせることで、一つのレーダーを構成している。すなわち、小型モジュールの集合体としてレーダーを構築する方式であり、搭載艦の発電能力や要求性能に応じてモジュール数を増減させることで、性能とサイズを調整することが可能である。
また、従来のSPY-1Dではアンテナの一部が損傷した場合に機能低下が顕著であったのに対し、SPY-6では損傷したモジュールをレーダー背面から交換することで迅速な修復が可能であり、維持整備性の面でも大きな利点を有する。


第3に、能力向上が容易である点が挙げられる。SPY-6はソフトウェア定義されたレーダー、すなわちソフトウェアで駆動するレーダーであるため、レーダーを物理的に構築するハードウェアを変更することなく、ソフトウェアのアップデートによって性能向上を図ることができる。新たな脅威への対応や機能追加も迅速に実施可能であり、運用上の柔軟性に優れる。この点については、後ほど改めて触れることにしよう。
こういった特徴のほかにとりわけ重要なのは、SPY-6がこれからのアメリカ海軍にとっての標準レーダーになるという点である。
SPY-6は、アメリカ海軍の最新鋭イージス艦であるアーレイ・バーク級駆逐艦フライトIIIをはじめ、強襲揚陸艦、輸送艦、空母、フリゲートなど、8艦種60隻以上への搭載が計画されている。さらに、2025年12月に建造が発表されたトランプ級 “戦艦” にも、RMAを37個組み合わせたSPY-6(V)1が搭載されることが明らかにされている。
また、これはまだアメリカ海軍と協議中ではあるようだが、3隻あるズムウォルト級駆逐艦のSPY-3レーダーを、SPY-6(V)3(RMAを9個組み合わせたもの)によって置き換える計画も存在している。

このように、SPY-6は将来のアメリカ海軍水上戦闘艦の中核装備として位置付けられており、いわばアメリカ海軍の次世代標準といえる存在なのである。
さらに、こうしたアメリカ海軍での採用状況と関連して、他国軍向けに「アメリカ海軍とのSPY-6共同購入」というスキームも重要である。これは、対外有償軍事援助(FMS)を通じてSPY-6を取得する際、アメリカ海軍向けのSPY-6と一括発注する方式であり、調達数量の増加によるスケールメリットにより単価の低減が期待できる点が特徴である。
ソフトウェア定義されたレーダーの強み
さて、先ほどSPY-6はソフトウェア定義されたレーダーだと説明した。その意味するところについて、今回来日したレイセオンのネイバル・システムズ & サステインメント(海軍システム&維持管理部門)のバイスプレジデントであるジェニファー・ゴーティエ氏は、次のように説明している。
「SPY-6は今日存在している他のデジタルレーダーと比較して、ソフトウェアに基づく各種のアドバンテージを有しています。ひとつは電子防護(Electronic Protection)です。これにより敵の電波妨害(ジャミング)などに対抗可能で、大変ユニークな機能であり、アメリカ海軍も非常に興味を示しているところです。
また、レイセオンでは自社製品用のソフトウェアを開発する『ソフトウェア・ファクトリー』があり、SPY-6用のソフトウェアもそこで生み出されています。そこで重要なのが、このSPY-6用のソフトウェアは、レイセオンがこれまで開発してきたあらゆるデジタルレーダーのコードや運用に関する経験、さらにこれまでの探知情報に基づく脅威ライブラリなどを用いて生み出されているということです。
また、SPY-6におけるビーム制御はソフトウェアによって行われるため、複数の脅威に同時対処しなければならない場合、これらを全て同時に探知・判別し、脅威度を判定したうえでどの目標にどの程度レーダーのリソースを振り分けるかを自動的に判断してくれます」
つまり、SPY-6の開発には、これまで積み重ねられてきたレイセオンのデジタルレーダー開発の知見と経験がフル活用されているというわけだ。
さらに、レイセオン・ジャパン社長の永井澄生氏によると、SPY-6にはアメリカ海軍が採用したレーダーならではのこんな強みがあるという。
「SPY-6にはオール・スレット・データ(全脅威データ)というものがインストールされます。これは、各艦艇に搭載されるSPY-6が探知した情報はもとより、アメリカ海軍がこれまでSPY-1Dを含めたレーダーで探知した目標データすべてを含むデータベースです」
つまり、アメリカ海軍がこれまで積み上げてきた脅威のデータを、SPY-6では活用することが出来るというわけだ。

日本の防衛産業とのコラボ
さらに、SPY-6は日本の防衛産業にも大きなメリットをもたらしている。レイセオンは、日本国内において長らくレーダー関連事業を手掛けてきた三菱電機および三波(さんぱ)工業と、2024年にアメリカ海軍向けSPY-6の構成部品に関する製造参画のための協業契約を締結している。今回、来日したレイセオンの国際SPYレーダー担当アソシエイト・ディレクターのジョン・トビン氏によると、これら2社による部品製造は「すでに開始されている」といい、さらに調達先はアメリカ海軍に限られるものではないという。
「三菱電機と三波工業による部品製造はすでに開始されています。そして、ここにおける重要な点は、彼らはSPY-6プログラムのために製品を納入しているという点です。それはつまり、SPY-6を運用するのがどこの国かというのは関係なく、彼らは我々の大きなサプライチェーンに組み込まれているということです」
これに関連するのが、昨年発表されたドイツ海軍の次期フリゲートであるF127型用の艦載レーダーとして、SPY-6が採用された件だ。このSPY-6は、アメリカ政府とのFMS契約に基づいて供給されることになるが、このドイツ海軍用SPY-6に、日本の三菱電機と三波工業が製造した構成部品が組み込まれることになるという。つまり、SPY-6を通じて日本企業がレイセオンのグローバルサプライチェーンに参画し、自社製部品をアメリカ海軍や他国海軍で運用されるSPY-6に搭載される機会が与えられたというわけだ。

現在、海上自衛隊では2030年ごろから退役が開始される見込みの、こんごう型護衛艦の後継艦を含め、6隻の新造が予定されているイージス艦用のレーダーに加え、あたご型、まや型のSPY-1Dレーダーを置き換える「バックフィット改修」も模索している。これらのレーダー選定において、これまで見てきたような特徴を踏まえ、SPY-6は有力な候補となっている。
SPY-6レーダーを搭載したアメリカ海軍艦艇
※画像をクリックまたはタップして拡大画像をご確認ください。
(以上)
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