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《解説》陸自の空中火力を変える「多用途UAV」──令和8年度防衛予算で調達か?

  • ニュース解説

2026-4-9 21:45

4月7日、令和8年度予算が成立しました。9兆円余となった防衛予算のうち、約2800億円が「無人アセット防衛能力」の構築に振り向けられています。これに先駆けて、陸上幕僚監部は「多用途UAV」の情報提供を求めました。陸上自衛隊の戦い方を大きく変えるこの装備品について、元陸上自衛官が解説します。影本賢治 KAGEMOTO Kenji

 各種UAVの本格的な導入は、自衛隊の航空戦力の構造を根本的に変える事業です。ウクライナ戦争では、TB2をはじめとするUAVがロシア軍の車列や防空システムを偵察・攻撃する場面が繰り返し見られ、UAVが現代の戦場において不可欠な存在であることが実証されました。米国や欧州、中国などUAVの先進各国でもその配備を加速しています。わが国周辺でも安全保障環境の緊迫が続いており、無人機による偵察・攻撃能力の早期獲得が急務となっています。

 防衛省陸上幕僚監部は令和8(2026)年1月30日、「多用途UAV」の導入検討に当たり企業からの情報提供を求めるRFI(情報提供依頼書)を公示しました。多用途UAVに関するRFIは令和7(2025)年3月に続いて2回目です。「多用途UAV」とは一体どのような無人機で、どの機種が、いつ導入されるのでしょうか。

対戦車ヘリ、戦闘ヘリに代わる「多用途UAV」

 陸上自衛隊の航空機に詳しい方なら、「多用途」という言葉を聞いてまず思い浮かべるのは「多用途ヘリコプター」でしょう。UH-2(UH-1Jの後継機として導入中)やUH-60JAなどの多用途ヘリコプターは、空中機動、人員・物資輸送、災害派遣など、幅広い有人搭乗任務をこなせることから「多用途」と呼ばれています。

 しかし「多用途UAV」は、この「多用途ヘリコプター」を無人化したものではありません。

 RFIによると、多用途UAVは「我が国上空や我が国周辺の洋上を長時間飛行し、情報収集、警戒監視、攻撃(電子戦含む。)の機能を有するUAV本体及び管制装置等の機材一式」と定義されています。つまり、多用途ヘリコプターが担う輸送や救難の任務は含まれていません。ここでの「多用途」とは、偵察・監視という「目」の機能と、火力・電子戦による攻撃という「拳」の機能を一つのプラットフォームで兼ね備えることを意味しています。

 では、多用途UAVは何を代替する装備なのでしょうか。防衛力整備計画(令和4年12月閣議決定)では、対戦車ヘリコプター(AH-1S)や戦闘ヘリコプター(AH-64D)を段階的に全廃し、その機能を「多用途/攻撃用UAV」等に移管する方針が示されました。つまり多用途UAVは、「多用途ヘリコプターのUAV版」ではなく、いわば「対戦車ヘリ・戦闘ヘリのUAV版」なのです。

これまで陸自の空中火力の主力だったAH-1S対戦車ヘリ 写真:鈴崎利治

有力候補はトルコ製とイスラエル製

 多用途UAVの候補機種について、防衛省は公式には明らかにしていません。しかし、テストや評価の実施が報じられている機種が2つあります。

バイラクタル TB2S(トルコ・バイカル社)

 バイラクタル TB2Sは、ウクライナ戦争で一躍有名になったバイラクタル TB2の改良型です。衛星リンク機能を追加したことで見通し線外での運用が可能となり、日本の広大な海域での監視にも対応できるようになりました。エンジンはRotax 912レシプロエンジン(100馬力)で、最大滞空時間は約27時間。主翼下の4つのハードポイントに合計150kgまでのレーザー誘導爆弾やミサイルを搭載でき、攻撃能力を備えています。

 陸上自衛隊中央会計隊は令和5(2023)年8月にTB2Sの調査を行う企業の入札を実施し、防衛省は英軍事専門誌ジェーンズの取材に対して「TB2のテストを実施しており、令和7年度に完了する見込みだ」と認めています。また、令和7(2025)年8月には中谷防衛大臣がトルコを訪問し、バイカル社の施設を視察しました。推定価格は1機あたり約7億円(約500万ドル)と比較的安価です。

翼下に対地ミサイルを搭載したバイラクタル TB2 写真:Bayhaluk

ヘロンMk II(イスラエル・IAI社)

 ヘロンMk IIは、イスラエル軍で実戦投入されている最新型UAVです。エンジンはRotax 915 iSレシプロエンジン(141馬力)を搭載し、時速278km/hで最大45時間の飛行が可能とされ、広域監視システムの搭載により、領空を超えることなく広域を監視できる能力を備えています。主翼下のハードポイントには精密誘導兵器を搭載可能で、イスラエル空軍では偵察・攻撃・電子戦の各任務に投入されています。世界20を超える組織で運用されている実績があります。

 和歌山県の白浜空港でヘロンMk IIが飛行している様子が目撃されており、川崎重工が取り扱い企業として関与しているとみられます。防衛省はジェーンズに対して「ヘロンMk IIのテストと評価は令和6年度に完了した」と述べています。推定価格は1機あたり約15億円(約1,000万ドル)です。

2025年11月頃、南紀白浜空港で撮影されたヘロンMk II 写真:BEEF

国産UAVなど、その他の候補

 このほか、SUBARUが防衛装備庁と約6.6億円で「多用途UAV(VTOL)概念実証業務委託」を契約したことが確認されています(令和5年12月、納期は令和7年2月)。SUBARUは陸上自衛隊向けにFFOS(遠隔操縦観測システム)やFFRS(無人偵察機システム)を開発・製造してきた実績があり、国産VTOL型の候補として注目されます。

 また、バイカル社が開発中のTB2T-AIも注目される存在です。AIコンピューターによる自律飛行能力に加え、ターボエンジンを搭載したことで最高速度が約300km/hに向上しています。到達高度も令和7年8月のテスト飛行で40,023フィート(約12,200メートル)に達しています。

 さらに、米ジェネラル・アトミクス社のグレイイーグル25M(MQ-1Cグレイイーグルの近代化型)も候補となり得ます。重油レシプロエンジンHFE 2.0(200馬力)を搭載し、滞空時間は40時間以上。MOSA(モジュラー・オープン・システム・アプローチ)を採用しており、電子戦ポッドやセンサー類を任務に応じて迅速に換装・追加できる拡張性を備えています。グレイイーグル25Mは令和5年12月に初飛行を完了し、米陸軍州兵向けに納入が始まっています。こうした新型機の開発進展が、2回目のRFI発出の背景の一つとなった可能性もあります。

数年後の部隊新編に向け、令和8年度予算に「UAV(広域用)」として計上

 現行の防衛力整備計画(令和4年12月閣議決定)の別表3(おおむね10年後の体制)には、陸上自衛隊に「1個多用途無人航空機部隊」を新編することが明記されています。おおむね10年後とは令和14(2032)年度頃を指します。

 一方、7日に成立した令和8年度予算には、「UAV(広域用)」5式の取得費として111億円が計上されました。UAV(広域用)は「水上艦艇等を遠距離から早期に探知し、指揮官の状況判断及び火力発揮に必要な情報を収集可能なUAV」と説明されていますが、攻撃能力のない機体に限定されてはいません。そもそも、防衛省がこれまで運用実証を行ってきたバイラクタルTB2やヘロンMk IIは、強力な攻撃・電子戦能力をデフォルトで備えています。そういった「多用途UAV」が「UAV(広域用)」の予算で調達される可能性が高いと筆者はみています。

2026年4月8日に公表された「令和8年度予算の概要」の表紙(左)と、「UAV(広域用)」の記述がある19ページ(右)

 さらに、高市政権は安保関連3文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を年末までに前倒しで改定する方針を打ち出しており、「旧来の議論の延長ではない抜本的な改定が必要」としています。ドローンを含む「新しい戦い方」への対応も改定の主要論点の一つになるとみられ、次期計画では多用途UAVの取得規模や部隊編成がさらに拡大・加速される可能性があります。

 第2回RFIにおける情報提供書の提出期限は今年の3月12日でした。この回答をもとに、多用途UAVの機種選定に向けたプロセスは次のステップに進んでいると考えられます。有人の対戦車ヘリや観測ヘリが担ってきた火力発揮と偵察の機能を無人機に移管するという、前例のない規模の有人・無人の転換だけに、その行方から目が離せません。

影本賢治KAGEMOTO Kenji

昭和37(1962)年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。アメリカ陸軍や関連団体が発信する航空関連の様々な情報を翻訳掲載するウェブサイト『AVIATION ASSETS』の管理人。在職中は主に航空機の補給整備に関する業務に携わった。翻訳書に『ドリーム・マシーン』『イーグル・クロー作戦』。

https://aviation-assets.info/

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