次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第1回 SPY-6(V)のいろは
次世代のレーダーとして注目されているAN/SPY-6をご存知だろうか。米海軍イージス艦への搭載が開始され、この先新しく建造されるすべての艦種に装備される予定のこのレーダーは、次世代のスタンダードと言っても過言ではないだろう。果たしてSPY-6(V)とは何か、その登場は日本にとって何を意味するのか。レイセオン日本支社の社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介しよう。
*本記事は、『Jシップス』2024年8月号(Vol.117)初出の記事を再編集したものです。
新型イージス艦に搭載されたSPY-6(V)
2023年10月に、アーレイ・バーク級駆逐艦フライトⅢの一番手、ジャック・H.ルーカス(DDG125)が就役した。この艦の最大の注目ポイントは、いうまでもなく、新型レーダーAN/SPY-6(V)1 AMDR(Air and Missile Defense Radar)の装備にある。これまで“イージスの眼”として長らく使われてきたAN/SPY-1シリーズに代わる、新世代の多機能レーダーだ。
そのレーダーを搭載したジャック・H.ルーカスは現在、乗組員の錬成や、搭載する各種システムの試験を進めているところ。2024年8月頃には初度運用能力(IOC:Initial Operational Capability)を達成できる見込みだという。
同艦は試験の一環として、米ミサイル防衛局(MDA:Missile Defense Agency)と米海軍が実施したイージスBMDの迎撃試験FTX-23(Flight Test Other 23)“Stellar Sisyphus”およびFTM-32(Flight Test Aegis Weapon System 32)"Stellar Laelaps" の両方の試験に参加した。FTX-23では、駆逐艦マッキャンベル(DDG85)のイージス武器システムが、難しい対処を求められる中距離弾道ミサイルの模擬標的に対して追尾、識別を行い、SM-3ブロックⅡAで迎撃を行った。FTM-32はハワイの太平洋ミサイル試験場(PMRF:Pacific Missile Range Facility)を拠点として実施したもので、主役は駆逐艦プレブル(DDG88)。同艦がSM-6デュアルⅡ SWUP(Software Upgrade)ミサイルを用いて、中射程弾道ミサイル標的を迎え撃った。
ジャック・H.ルーカスが、FTX-23とFTM-32にどのような形で関与したかは明らかにされていないが、おそらく、AMDRによる捕捉追尾の試験を行ったのではないだろうか。従来のアーレイ・バーク級が搭載していたAN/SPY-1Dシリーズと比べて大幅に能力が向上しているAN/SPY-6(V)1が、どの程度の能力を発揮したか、関心を持たれるところである。
拡張性を備えた統合防空・ミサイル防衛用レーダー
ジャック・H.ルーカスが搭載したレーダーはAN/SPY-6(V)1というモデルだが、後で述べるように、さらに3種類のモデルを揃えて「AN/SPY-6(V)ファミリー」を構成している。
このファミリーの特徴は、単に「新しい高性能のレーダー」というだけではない。スケーラビリティ、つまり「共通性を持たせながら多様な規模の製品を生み出せる」ところがポイントだ。
これは、そもそもの米海軍の要求に沿ったものである。「米海軍の空母や揚陸艦、巡洋艦や駆逐艦は、クラスごとにさまざまな機種の対空捜索レーダーを搭載しています。これでは調達も維持管理も、そして乗組員の訓練も面倒なことになります」。レイセオン ジャパン社長の永井氏も従来型レーダーについての問題点をこう語っている。
そこでレーダーを整理統合できれば、予備品は共通化できるし、教育・訓練体系もシンプルに集約できる、というわけだ。
では、レーダーそのものの機能・能力はどうか。
Air and Missile Defense Radar、つまり「防空・ミサイル防衛用レーダー」という計画名称の通り、航空機への対処だけでなく、弾道ミサイルや巡航ミサイルへの対処も視野に入れている。それを実現するためには、小さくて飛翔速度が速い弾道ミサイル、あるいはそこに載せる再突入体を探知できる能力を持たせなければならない。
使用する電波の周波数帯は、AN/SPY-1と同じSバンド(2 ~ 4GHz)だ。AMDR計画当初は、広域捜索・ミサイル防衛用のSバンド・レーダー(AMDR-S)に加えて、精密追跡・ミサイル誘導用のXバンド(8 ~ 12GHz)・レーダー(AMDR-X)を開発する構想だったが、AMDR-Xの計画は棚上げされたため、現時点でモノがあるのはAMDR-Sのみとなる。そのため、本稿で単にAMDRと書いた場合にはAMDR-Sと同義である。
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