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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第1回 SPY-6(V)のいろは

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2024-10-10 20:20

次世代のレーダーとして注目されているAN/SPY-6をご存知だろうか。米海軍イージス艦への搭載が開始され、この先新しく建造されるすべての艦種に装備される予定のこのレーダーは、次世代のスタンダードと言っても過言ではないだろう。果たしてSPY-6(V)とは何か、その登場は日本にとって何を意味するのか。レイセオン日本支社の社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介しよう。井上孝司 INOUE Koji

SPY-6(V)のハードウェア構成

 AN/SPY-6(V)ファミリーは、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーである。つまり、単体で電波を出したり受けたりする機能を備える「送受信モジュール」を束ねて、アンテナ・アレイを構成している。そして、個々の送受信モジュールごとに送信のタイミングを変えて特定の方向に電波を指向したり、受信のタイミングを比較して探知目標の方位を割り出したりする。
 アクティブ・フェーズド・アレイでは、束ねる送受信モジュールの数を変えれば、大きなレーダーも小さなレーダーも作り分けられる。
 また、冗長性が向上する利点もある。ひとつの送信管を複数のアンテナ素子が共用するパッシブ・フェーズド・アレイは、その送信管が故障したり壊れたりしたときに、影響が及ぶ範囲が大きい。しかし、独立した送受信モジュールを束ねるアクティブ・フェーズド・アレイは、一部の送受信モジュールが故障しても影響は限定的。多少の能力低下は生じても、残った送受信モジュールで機能を維持できる。
 もっとも、それを1970年代の技術で実現するのは不可能だったろうから、AN/SPY-1がパッシブ・フェーズド・アレイになったのは必然である。その後の技術の進化による恩恵を、開発年次が新しいAN/SPY-6(V)の構成で活かしたのだといえよう。
 実際に派生型を生み出す際には、個別の送受信モジュールではなく、もっと大きな単位を使用している。それはどういう意味か。
 AMDRを構成する最小単位は、TRIMM(Transmit/Receive Integrated Multichannel Module)と呼ばれるパーツだ。個々のTRIMMは6個の送受信モジュールを持ち、個別に送信・受信を行う。
 そして、交換する最小単位も、このTRIMMとなる。TRIMMが故障したり壊れたりしたときには、アンテナ・アレイの後ろ側から、故障したTRIMMを外して新しいTRIMMに付け替える。この作業は、2種類の工具だけで迅速に実施できる設計になっている。といっても、そう頻繁に故障するわけではない。
 そのTRIMMを、縦・横・高さがそれぞれ2フィート(約610㎜ )の筐体に収めたのが、RMA(Radar Modular Assembly)。ひとつのRMAに24個のTRIMMを収容するので、ひとつのRMAは24×6=144個の送受信モジュールを持つ計算となる。SPY-6(V)1のアレイには、5,328個の送受信モジュールが搭載されているため、1隻あたり21,312個の送受信モジュールが搭載されることとなる。これは、SPY-1の送信機1基の能力をはるかに上回るものだ。このRMAの数を増減させることで、大きなレーダーも小さなレーダーも作れる。RMAはAN/SPY-6ファミリー全体の共通コンポーネントだから、派生型が増えても交換部品の種類は増えない。
 そのRMAを並べたアンテナ・アレイに加えて、レーダーの動作を司るRSC(Radar Suite Controller)、受信した反射波を解析して探知・捕捉・追尾を成立させるシグナル処理装置、電源・冷却機材などでワンセットとなる。これらの機材と、そこで走らせるソフトウェアもファミリー内すべてで共通だ。
 TRIMMの中核となるパワー半導体素子の素材は、窒化ガリウム(GaN)を使用している。GaNはパワー密度がガリウム砒素(GaAs)と比べて高く、小型で高出力の送受信モジュールを作れる。すると探知可能距離の延伸につながるだけでなく、同じ性能のレーダーを、よりコンパクトに作ることもできる。そのGaNベースのパワー半導体素子と、半導体素子をベースとするレーダーのコンポーネントについて、国防イノベーション・ラボと提携して自社で開発・設計を行うとともに、半導体素子の製造拠点となるファウンドリを自社で所有・運用しているのがレイセオンの強みである。

社長のひとこと

米海軍の艦は、いったん任務航海に出ると、半年程度は帰ってきません。ですから、そうした長期航海を前提として、6ヶ月間の連続運用ができること、との要求がなされました。しかし試験では、要求を上回る実績を記録しています

RMA単体の様子。このRMAが複数連結してSPY-6(V)のアレイを構成する。箱の中に板状のTRIMMが並んでいるのが分かる 写真:RTX
SPY-6(V)1のアレイの枠にRMAを挿入して組み立てている様子。(V)1は37個のRMAで構成される 写真:RTX
RMAとSPY-6(V)の構成
図版:おぐし篤

SPY-6(V) 4つの派生モデル

 AN/SPY-6(V)ファミリーには、AMDRのほかに、EASR(Enterprise Air Surveillance Radar。「イーサー」と読む)という製品がある。「エンタープライズ対空監視レーダー」という意味になるが、この場合のエンタープライズと、有名な原子力空母は関係ない。“enterprise”という単語の本来の意味は、「企て」「事業」「企業」だが、ここでは「企て」が近い意味といえるだろうか。
 EASRは、RMAの数を減らしてコンパクトにまとめて、対空監視や航空管制といった用途に重点を振っている。回転式アンテナを使用する、既存の対空捜索レーダーを置き換えるのが主な狙いとなっている。
 EASRの実証試験に関する契約が発注されたのは、2014年6月のこと。つまり、同じRMAを共用するAMDRの熟成が進んだところで、新たな派生型の話が出てきたことになる。
 AN/SPY-6(V)ファミリーには、現時点で以下の4モデルがある。

◯AN/SPY-6(V)1:AMDR計画の下で最初に開発されたモデルで、37個RMAの4面構成。アーレイ・バーク級フライトⅢが搭載する。
◯AN/SPY-6(V)2:EASR計画の下で開発された。9個RMAの1面構成回転式。サン・アントニオ級ドック型揚陸輸送艦の最新グループが搭載する。
◯AN/SPY-6(V)3:これもEASRの一員で、9個RMAの3面構成。コンステレーション級フリゲートとフォード級空母の2番艦以降が搭載する。
◯AN/SPY-6(V)4:アーレイ・バーク級フライトⅡAの既存レーダー換装用で、AN/SPY-1D(V)と同等のサイズ・消費電力とするため24個RMAの4面構成としたモデル。

この一覧を見ると、AN/SPY-6(V)ファミリーはAN/SPY-1シリーズと違い、「イージス艦の専有物」ではないことが分かる。

工場に置かれているSPY-6(V)3。9個のRMAで構成され、3面一組である。新型フリゲートのコンステレーション級やフォード級空母などに搭載される 写真:RTX
工場に置かれたSPY-6(V)2。こちらも9個のRMAで構成されるが、1面が回転するデザインとなっている。サン・アントニオ級輸送揚陸艦やニミッツ級航空母に搭載される 写真:RTX
SPY-6(V)ファミリーと搭載艦
図版:おぐし篤
井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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