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次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第1回 SPY-6(V)のいろは

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2024-10-10 20:20

次世代のレーダーとして注目されているAN/SPY-6をご存知だろうか。米海軍イージス艦への搭載が開始され、この先新しく建造されるすべての艦種に装備される予定のこのレーダーは、次世代のスタンダードと言っても過言ではないだろう。果たしてSPY-6(V)とは何か、その登場は日本にとって何を意味するのか。レイセオン日本支社の社長である永井澄生氏のお話を交えてご紹介しよう。井上孝司 INOUE Koji

タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の16番艦ロバート・スモールズ。次期巡洋艦計画は中止となり、DDG(X)が同級とアーレイ・バーク級の後継を兼ねることになった 写真:USN

米国で続々就役するSPY-6(V)搭載艦

 米海軍とは現時点で37セット分が契約済み、14セットがすでに納入済みとなっている。今後10年間で65セットの調達を見込む。
 前述のように、AN/SPY-6(V)1を搭載するアーレイ・バーク級駆逐艦フライトⅢの一番手、ジャック・H.ルーカス(DDG125)は2023年10月に就役した。さらにアーレイ・バーク級フライトⅢの発注と建造が進んでおり、2024年5月の時点でDDG142まで合計17隻の追加建造が決定、あるいは建造中。
 回転式アンテナを持つAN/SPY-6(V)2搭載の一番手はサン・アントニオ級ドック型揚陸輸送艦フライトⅡのリチャード・M.マックールJr.(LPD29)で、2024年4月に引き渡しが完了した。
 AN/SPY-6(V)3は、まずジェラルド R.フォード級空母のうち、2番艦のジョン・F.ケネディ(CVN79)から搭載を開始する。同級は3番艦エンタープライズ(CVN80)と4番艦ドリス・ミラー(CVN81)まで、建造工程が走っている。
 AN/SPY-6(V)4は既存のアーレイ・バーク級駆逐艦フライトⅡAにバックフィットするもので、レーダーの換装に併せてイージス戦闘システムもベースライン10に更新する。改修の一番手はピンクニイ(DDG91)で、2028年度の竣工を予定している。その後に順次、同型艦の改修が進む予定。この改修をDDG mod 2.0と呼ぶ。
 しつこく繰り返すと、これらはみんな同系列の製品である。モデルによって、3 ~ 4面の固定式アンテナか回転式アンテナかの違いがあり、RMAの数が異なれば、探知能力には差異が生じる。とはいえ、キー・コンポーネントが高い共通性を備えていれば、それは長期的に大きなメリットとして効いてくる。

社長のひとこと

バックフィット改修を担当する専任部署として、米海軍は2023年5月に、PMS 451(Guided Missile Destroyer Modernization 2.0)を発足させました

米海軍のSPY-6(V)搭載艦納入計画
※番号の無いものは艦番号が未定。 ※計には引き渡し済みのDDG125、LPD29も含まれる。 図版:おぐし篤

新型駆逐艦DDG(X)にも搭載

 アーレイ・バーク級はもともと、「ハイ」のタイコンデロガ級に対して「ロー」と位置付ける形で計画が始まったこともあり、スペースや重量の面で余裕に乏しい。その限られた余裕は、すでに使い果たされたも同然で、これから出てくる新型艦載兵装を受け入れるのは難しい。
 そこで構想がスタートしたのが新型駆逐艦DDG(X)だ。船体の大型化により、新たな兵装を受け入れられるように、重量・空間の余裕を増やす。また、レールガンやレーザー兵器、新型レーダーに対応できるように、発電能力も強化する。
 ただし、艦も戦闘システムも一挙に新型化すると開発リスクが増大するため、当初は新設計の船体や機関にアーレイ・バーク級フライトⅢの戦闘システムを移植する。その後に順次、新型の兵装を加えていく構想となっている。具体的には、レーザー兵器や極超音速飛翔体CPS( Conventional Prompt Strike)の名前が挙がっている。
 この、「ドンガラ」(艦や機体)と「アンコ」(センサーやコンピュータ、武器システム)を交互に新形化しながら発展させるやり方は、すでにF/A-18E/Fスーパーホーネットでおなじみのものだ。
 DDG(X)では船体の大型化と発電能力の増大により、AMDRを構成するRMAの数を37から最大で57まで増やす話も取り沙汰されている。
 このように拡張性に優れ、米海軍のあらゆる新造艦に搭載されるSPY-6(V)は、まさに次世代のスタンダード・レーダーと言っていいだろう。次回以降は、SPY-6(V)と日本との関わりなど、さらに注目すべきポイントに迫っていこう。

2022年水上海軍協会シンポジウムで発表されたDDG(X)のコンセプトアート。アーレイ・バーク級より大型の船になるようだ 画像:USN

レイセオン日本社長 永井澄生(ながい すみお)

1961(昭和36)年 1月生
1983(昭和58)年 3月 防衛大学校卒業(27期)
同年 4月 海上自衛隊入隊
1987(昭和62)年 2月 護衛艦よしの応急長
1989(平成元)年 3月 海洋観測艦あかし航海長
1990(平成2)年 3月 防衛大学校訓練教官
1994(平成6)年 6月 アメリカ海軍士官学校教官
1996(平成8 )年 8月 護衛艦ゆうぎり砲雷長
2000(平成12)年 9月 護衛艦おおよど艦長
2002(平成14)年 4月 在インドネシア日本国大使館防衛駐在官
2010(平成22)年 8月 第15護衛隊司令
2011(平成23)年 12月 対潜資料隊司令
2014(平成26)年 12月 海洋業務群司令
2015(平成27)年 12月 海洋業務・対潜支援群司令
2018(平成30)年 3月 海上自衛隊退役
同年 8月 レイセオン入社 レイセオンインターナショナルインク配属
2019(令和元)年 12月 レイセオンミサイル&ディフェンス配属
2023(令和5)年 12月 レイセオン日本社長代理
2024(令和6)年 5月 レイセオン日本社長

提供/RTX

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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