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《特集》「もがみ」型護衛艦とは? オーストラリア海軍の新型フリゲートに能力向上型が選定

  • 特集

2025-8-7 12:00

2025年8月5日、オーストラリア政府は、同海軍の次期汎用フリゲート導入計画で、日本とドイツが提案していたうち、日本の「もがみ」型護衛艦の能力向上型である「令和6年度型護衛艦」を選定したと発表した。今後、日豪は新型フリゲート共同開発のスタートを切ることとなる。では、その新型艦のベースとなる「もがみ」型(FFM)とはどんな艦艇なのか?竹内 修 TAKEUCHI Osamu

すでに8艦が就役、海自初のフリゲート「もがみ」型

「もがみ」型の5番艦 FFM5「やはぎ」 写真:花井健朗

 海上自衛隊は1991年から約四半世紀にわたって、汎用護衛艦の整備を進めてきたが、平成26(2014)年度から開始された中期防衛力整備計画では、これまでの汎用護衛艦とは異なる新型護衛艦を建造する方針が打ち出された。その方針に基づいて建造されたのが「もがみ」型だ。

 ヨーロッパをはじめとする諸外国の海軍では、「もがみ」型クラスの排水量と能力を備えた水上戦闘艦に「フリゲート」(Frigate)の艦種記号を与えている事例が多い。「もがみ」型は従来の護衛艦と同様の対空戦、対潜戦、対水上戦能力に加えて、機雷戦(Mine Warfare)能力や、大規模災害の救助といった、さまざまな任務に対応できる多機能性(Multi-purpose)を付与される。そこでフリゲートの頭文字の「F」と機雷戦の頭文字の「M」、多機能性の頭文字の「M」を組み合わせた、「FFM」という新たな艦種記号が付与された。「もがみ」型は12隻の建造が計画され、2025年8月時点で8隻が就役済みである。

従来の護衛艦と「もがみ」型の基本装備はどう違うか

 装備面から見ると、まず対空兵装は近接防御用短距離対空ミサイルSeaRAMの11連装ランチャー1基のみ。DDが装備するVLSは6番艦まで後日装備となっているが、7番艦以降はMk.41VLSの装備が確認されており、今後はVLSを装備した状態で就役するものと思われる。ただしシースパロー/ESSMの運用能力が付与されるのかは明らかにされていない。

 本級は艦首や艦底部に大型の対潜ソナーを装備しておらず、個艦としての対潜捜索能力は従来型のDDやDEに比べれば劣るといえる。しかし曳航式の可変深度ソナー(VDS)と戦術曳航ソナー(TASS)からなるバイスタティック・ソナーを搭載しており、TASSを搭載する複数の「もがみ」型が共同で潜水艦の捜索にあたるマルチスタティック作戦を実行できるものと考えられる。

 就役済みの「もがみ」型の対潜兵装は3連装短魚雷発射管のみだが、将来的にはVLSからの07式垂直発射魚雷投射ロケットの運用も検討されていると見るべきだろう。

 主砲は船体規模からすると大口径のMk.45 Mod4 5インチ単装砲を装備。対艦ミサイルは陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾をベースに開発された17式艦対艦誘導弾(SSM-2)の4連装発射筒が装備されている。SSM-2は慣性誘導装置とGPSを併用して中間誘導を行うことで90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)よりも高い命中精度を得られるとしている。また射程もSSM-1Bに比べて延伸されているほか、発射後の目標情報更新や同時弾着機能も付与される。

7番艦 FFM7「によど」。本級は6番艦まで「むらさめ」型以降のDDが搭載していた個艦防御用のシー・スパロー/ESSMのVLSが装備されていなかったが、本艦からついにVLSの装備が実現した。主砲後方にMk.41 VLS(16セル)が装備されており、令和5(2023)年度予算では10隻分のMk.41の取得費が計上されている 写真:花井健朗
6番艦 FFM6「あがの」。船体は徹底したステルス性を追求し、従来の海自護衛艦から隔絶したシルエットになった。艦尾には左舷側にVDS展開ハッチ、中央に後部汎用区画ハッチ、右舷側に曳航ソナー繰り出し口がある 写真:花井健朗
開放された後部汎用区画のハッチ。上開きで開き、搭載艇を格納することができる。その左舷側に見えるのは新開発された可変深度ソナー(VDS)の展開用ハッチ。右舷側には曳航ソナーを繰り出す丸い金物が見える 写真:Jシップス編集部

特筆すべきは、他国にも例のない対機雷戦能力

 最大の特徴は、機雷の掃討(処理)という、他国海軍のフリゲートではあまり例のない能力が付与されていることだ。このためOQQ-11対機雷戦用ソナーシステムに加えて、機雷を探知するUUV(無人潜水艇)と、UUVが発見した機雷を処理する無人機雷排除システム、UUVと無人機雷排除システムを搭載するUSV(無人水上艇)の搭載も予定されている。

 航空機はSH-60K/L哨戒ヘリコプター1機が搭載できる。SH-60K/Lの代わりに回転翼機型UAV(無人航空機)の搭載も構想されていたが、防衛省が内定していたMQ-8C「ファイアスカウト」の生産が中止されたため、2025年8月の時点でUAVは搭載されていない。

 レーダーはXバンドのOPY-2多機能レーダーが搭載されている。これは「あさひ」型DDが搭載するOPY-1を基にしたレーダーと、OPS-48潜望鏡探知レーダーを統合したもので、目標の捜索から探知・追尾、そして砲による射撃指揮までを担当する。

 電子光学センサーは可動式センサーと固定式センサーを組み合わせたOAX-3光学複合センサーが搭載されており、OAX-3は砲の管制にも使用できる。戦術データリンクには衛星通信を使用せずに、見通し線外の通信が可能なリンク22が採用されている。

後部には飛行甲板を設け、SH-60K/L、もしくはより大型のMCH-101を1機搭載可能な格納庫を有する。飛行甲板は格納庫に向かってやや下り坂になっている 写真:Jシップス編集部
右舷側にはUUV投入用のハッチ(写真右)があり、写真上方に見えるUUV投入用のクレーンに写真中央に見えるUUVを吊り下げて海面に降ろす。写真奥には大型舷側歩板があり、洋上給油用の受油プローブが備わる 写真:Jシップス編集部

徹底した省人化により乗員数は60〜90名で運用可能

 CICには14基のコンソールが外周部に配置されるとともに、開口部を除いてほぼ360度にわたりCICを囲む形で、OAX-3の高感度カメラ6基による画像を投影できるビデオウォールが設置されている。中央にはコラボレーション・テーブルと航跡自画器(DRT)の2つのテーブルが配置されるとともに、指揮官および哨戒長などのコンソール4基が設置されている。

 推進システムはガスタービン・エンジン1基とディーゼル・エンジン2基を併用するCODAGで、ガスタービンエンジンにはロールス・ロイスのMT30、ディーゼルエンジンにはMANの12V28/33Dがそれぞれ採用されている。

 乗員数は平時で約90名、有事の際は約60名でも運用可能とされ、従来型の護衛艦に比べて格段に少ない。少ない人員での運用を可能にするため省人化が徹底されており、独立した無線室とダメージコントロールセンターの応急指揮所は設置されていない。応急指揮所を置かない代わりに火災対策は徹底されている。従来型の護衛艦の厨房では炊飯など多くの調理が蒸気によって行われていたが、本級は補助ボイラーを廃止。またガス器具を用いないため、オール電化艦となっている。

左舷側から見た艦橋。本級は「統合艦橋システム」を採用しており、通常の航海なら艦橋で配置に就くのはわずか4名で済むという大幅な省力化・省人化を達成した 写真:Jシップス編集部
2番艦 FFM2「くまの」のCIC。全周に円形のスクリーンが設置され、天井に設置されたプロジェクターから映像を投影する。写真は右舷後方から見ており、写真中央、右手の座席が艦長席、その左隣の電測員席を挟んで、その左は隊司令席となる 写真:Jシップス編集部

FFM「もがみ」型データ

全長  133.0m
 16.3m
基準排水量  3,900t
主機  CODAGガスタービン1基・ディーゼル2基 2軸 70,000PS
速力  30kt
船型  長船首楼型
乗員  約90名
搭載機  哨戒ヘリSH-60K×1機、もしくは掃海・輸送ヘリMCH-101×1機

海上自衛隊「もがみ」型艦艇一覧

建造順艦名竣工日建造計画年度所属(定係港)
1番艦FFM1 もがみR4.4.28竣工三菱長崎H30年度護衛艦隊第11護衛隊(横須賀)
2番艦FFM2 くまのR4.3.22竣工三井玉野H30年度護衛艦隊第11護衛隊(横須賀)
3番艦FFM3 のしろR4.12.15竣工三菱長崎R1年度護衛艦隊第13護衛隊(佐世保)
4番艦FFM4 みくまR5.3.7竣工三菱長崎R1年度護衛艦隊第13護衛隊(佐世保)
5番艦FFM5 やはぎR6.5.21竣工三菱長崎R2年度護衛艦隊第14護衛隊(舞鶴)
6番艦FFM6 あがのR6.6.20竣工三菱長崎R2年度護衛艦隊第14護衛隊(舞鶴)
7番艦FFM7 によどR7.5.21竣工三菱長崎R3年度護衛艦隊第12護衛隊(呉)
8番艦FFM8 ゆうべつR7.6.19竣工三菱MSR3年度護衛艦隊第15護衛隊(大湊)
9番艦FFM9 なとりR7.12竣工予定三菱長崎R4年度艤装中
10番艦FFM10 ながらR8.3竣工予定三菱長崎R4年度艤装中
11番艦FFM11 たつたR8.12竣工予定三菱長崎R5年度艤装中
12番艦(艦名未定)R9.3竣工予定三菱長崎R5年度建造中

初出:隔月刊『Jシップス』2025年 6月号 Vol.122

竹内 修TAKEUCHI Osamu

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書に『最先端未来兵器完全ファイル』、『軍用ドローン年鑑』、『全161か国 これが世界の陸軍力だ!』など。

Jシップス編集部J Ships magazine

“艦艇をおもしろくする海のバラエティー・マガジン” 隔月刊『Jシップス』の編集部。花井健朗氏・柿谷哲也氏・菊池雅之氏ら最前線のカメラマン、岡部いさく氏・井上孝司氏・竹内修氏ら第一線の執筆陣とともに、熱のこもった記事や特集をお届けしています!

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