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《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか 
〜第6回 サーブ製品の最先端技術

  • 特集

2026-9-6 21:35

北欧5か国の総人口は、日本の約4分の1。しかし、彼らの生活に溶け込んだリアリズムの安全保障は、個性豊かで、かつ世界トップレベルの防衛産業をこの地に育て上げた。今回は、サーブ社のものづくり思想とその最新技術を紹介する。宇梶 慧 _UKAJI Akira

 2026年8月22日、スウェーデン空軍創設100周年を記念してリンシェーピングのマルメン航空基地で開催された航空ショーにおいて、サーブ社(Saab)は将来無人戦闘航空システム「A3-001」の実寸大コンセプトモデルを初公開した。低被探知性と高度な自律性を備え、電子戦、SEAD(敵防空網制圧)、精密打撃といった高脅威任務を想定し、グリペン戦闘機などの有人機と協調して戦う、いわゆるCCAやロイヤル・ウイングマンとよばれるUAV(無人航空機システム)の一つである。

スウェーデン空軍創設100周年エアショーで初披露された、将来無人戦闘航空システム「A3-001」のコンセプトモデル 写真:Saab AB

 同様の協調型無人戦闘機(Collaborative Combat Aircraft、以下CCA)については英米を中心として各国で既に研究が進められており、先日のコンセプト発表を通じサーブが開発競争の最前線に加わった形になる。人口1,000万人の国が欧米の軍事強国に伍して、最新鋭のCCAを開発する意義とは何なのか。CCAはこれまで紹介してきた北欧の防衛思想にどう位置づけられるのか。そして、何よりもサーブはCCAを開発する最先端技術を有しているのか。
 今回はこのA3-001の発表に触発された形で、改めてサーブの有する最先端技術とそれが描く将来について語ってみたい。

サーブの強み:自己強化型のテクノロジーエコシステム(技術生態系)

 サーブを同業他社と比較して特徴づける最大の点は、柔軟で強靭な「自己強化型のテクノロジーエコシステム」を有することだと筆者は考えている。
 いきなり「自己強化型のテクノロジーエコシステム」と言われても、なんのことか? という印象もあろうかと思う。伝えたかった内容は、つまりこういうことだ。サーブは戦闘機、早期警戒管制機、レーダーを含む各種センサー、電子戦、C2(指揮通信)システム、火砲弾薬、水上艦、潜水艦、サイバー、宇宙領域そして無人機に至る極めて幅広い領域で、自ら基幹技術を研究・開発してきた、世界でも稀有な防衛企業である。これらの技術はそれぞれ発展し進化していく中で、実は相互に影響を与えあっている。

サーブが手掛ける幅広い分野の製品群。同社公式サイトのトップメニュー[Products]からAir、Land、Naval、Securityを選ぶと表示される 出典:Saab AB

 例えば、電子戦とレーダーの技術基盤には高い親和性や共通性があり、相互に技術革新を取り込み合っている。その一方、誘導弾と電子戦はある種の「矛と盾」の関係にあり、ここではそれぞれの有効性を反対の観点から検証し続けることでお互いの性能を高めている。加えて、サーブが得意とするセンサー・データフュージョンは陸海空のC2システムの共通コアを構成しており、各ドメインにおける独自性を平準化した上でフィードバックし、ドメイン横断的な技術革新の基盤となっている。豪州海軍に標準採用されている艦船用コンバット・マネジメント・システムである「9LV」はその代表例である。
 そうして相互に響き合い、関連し、絡み合いながら発展してきた技術は、その後、グリペンやグローバルアイのようなプラットフォームに統合され、そこで今度はシステムとしての最適化を経験し、その経験がまたそれぞれの技術にフィードバックされる。技術発展におけるこの一連の相互関係性と自律的なフィードバック・ループこそが、筆者の言う「自己強化型のテクノロジーエコシステム」である。これは広範な技術領域に加え、高いインテグレーション能力と感度を有したサーブだからこその、唯一無二な強みの源泉であると筆者は確信している。

「第6世代有人戦闘機」を作らない(かもしれない)という選択

 現在、主要国では「第6世代」と呼ばれる次世代戦闘航空システムの開発が進められている。本邦の安全保障動静に詳しい読者諸氏であればご存じの方も少なくないと思うが、我が国が英国、イタリアと共同で進めるGCAP(Global Combat Air Programme)は、その代表である。
 一方、フランス、ドイツ、スペインが進めてきた同様の次世代戦闘機航空システム開発プログラムであるFCASは、2026年6月、大きな転換点を迎えた。長年続いてきた産業分担、主導権、知的財産を巡る問題を解消できず、計画の中核であった次世代有人戦闘機NGF(New Generation Fighter)の共同開発は事実上行き詰まった。ただし、FCASという思想全体が消滅したわけではないようで、コンバット・クラウドなど、戦闘機、無人機、センサーをネットワーク化する構想とそれに係る開発は、引き続き参加国共同で進める話もあるようである。
 米国が進めるNGAD(Next Generation Air Dominance)プログラムも同様で、F-47という有人戦闘機を中核にした、次世代型の航空戦闘システムの開発が進められている。

左から、GCAPの戦闘機模型、NGFの実大模型、F-47の想像図 画像・写真:編集部、竹内修、US Air Force

戦闘機はあとまわしでいい

 つまり、結局のところその目指すところや設計運用思想に違いはあるものの、現在進められている主要な次世代戦闘航空システム開発は、総じて「有人機」の開発が中核となり、そこに紐づき、強化する形で無人アセットの開発が進められているという構造と理解できる。
 これに対して、現在のスウェーデンとサーブが採りつつあるアプローチは興味深い。端的に言えば、順序が逆なのである。次世代有人戦闘機の開発ではなく、まず高性能なCCAの開発からスタートする。そして有人戦闘機についてはその必要性を含め、CCAの運用で得られた知見をベースにその後検討していく。
 一見突飛にも見えるこの思考プロセスを成立させ、しかもそれがまさにスウェーデンにとっての最適解となっている最大の理由が、「グリペンE」である。つまり、グリペンEがあるからスウェーデンは「次の有人戦闘機」を急がなくてよいのである。

ステルス以外の要素においては最先端をゆく、グリペンE戦闘機 写真:Jamie Hunter / Saab

 グリペンEはステルス性が高くないことに起因して世間的には「4.5世代戦闘機」に分類されているが、これまでの論考で述べた通り、その分類に従うとこの機体の本質をかなり見落としてしまう。確かにグリペンEはF-35のように機体形状そのものを徹底的に低被探知化したステルス戦闘機ではない。しかし、現代航空戦で重要となるセンサー融合、電子戦、ネットワーク、AI(人工知能)、ソフトウェア更新能力、人間と機械の協調という観点から見れば、従来の「第4世代」「第5世代」という区分では捉えにくいほど新しい思想で設計されている。設計年代もF-35より新しいことを踏まえれば、むしろグリペンの方が最新の設計思想・技術を部分的に有していると言えなくもない。

スマートフォンのように新機能を獲得する

 そして、その最大の特徴は、そのアビオニクス・アーキテクチャにある。グリペンEでは、飛行安全に関わるクリティカルな機能と、レーダー、電子戦、兵器などのミッション機能を分離することで、新しい能力を航空機全体の大規模な再設計なしに追加しやすくしている。つまり、機体という「ハードウェア」の寿命と、戦闘能力という「ソフトウェア」の世代を切り離したのである。
 その思想を象徴したのが、2025年の「プロジェクト・ビヨンド」だった。サーブはヘルシング社Helsing)のAIエージェント「センタウル」(Centaur)をグリペンEへ統合し、AIによる機体コントロール(飛行)とBVR(目視外戦闘)における有効性を検証し、実機のグリペンD戦闘機を相手とする戦闘シナリオまで実施している。

ヘルシング社のAIエージェントを搭載した「プロジェクト・ビヨンド」のグリペンE 写真:Jörgen Ericsson @Saab

 ここにおいて重要なのは、「AIが戦闘機を飛ばしてBVR戦闘を実施した」ことだけではない。最も核心的な点は、既存の戦闘機に対しほぼ無改修でAIを実装し、短期間で実際の空戦環境へ持ち込める技術基盤をサーブが有し、またグリペンもそれに対応するよう設計されているということなのである。そして、それは将来の拡張性についてもとても重要な示唆を含んでいる。我々が日常使うスマートフォンのように、グリペンは今後もソフトウェアアップデートを通じ様々な新機能を獲得し、その時々の戦闘様態に合わせ自らを最適化していくことができるのである。

各種の戦闘要素を分散して“群れ”で戦う

 ここまで示してきた通り、グリペンEはこういった複数の優れた技術アドバンテージを有する「機体」である一方、グリペンEの真価は単なる「機体」を超えたところにある。なぜならグリペンEは常に「群れ」で戦うことを前提に設計された、「戦闘航空システム」だからである。現代戦、つまり「ネットワーク中心戦」というパラダイムにおいて、グリペンEは単機で戦うことを前提としていない。常に複数機がレーダー、IRST、電子戦装置などから得た情報を共有し、協調戦闘を行う。
 例えば、1機が電波を発し索敵を兼ねた「囮役」をやりつつ、他機はパッシブのまま情報を利用し、異なるアングルや手段、タイミングで攻撃をするといった形である。つまり、グリペンEは「複数の独立した戦闘機」ではなく、一つの有機的且つ分散した巨大なセンサー・シューター・メッシュとして存在するのである。そしてこの背景にある哲学こそ、最も高性能な一つのプラットフォームへすべての能力を集中するのではなく、センサー、電子戦、AI、有人・無人プラットフォームを戦場の各所へ分散し、それらをネットワークによって一つの戦闘システムとして機能させるという北欧流の分散防衛思想である。

グリペンEの編隊。実際の作戦で1機1機は遠く離れて連携し、ひとつの戦術システムを構築する 写真:Saab AB

 では、これほど将来戦を見据えて設計されたグリペンEを持つスウェーデンは、その「次」をどのように考えているのだろうか。第6世代有人戦闘機は作らないのだろうか。当然そんなことはない。“After グリペン” についてはこの原稿を書いている今もサーブで検討が進められているし、今日現在の検討状況を聞く限り、将来においても有人の航空プラットフォームは必要になるという意見が少なくない。
 これは機能的な必要性という観点も勿論だが、AI駆動の無人プラットフォームがいずれ戦闘の主要な部分を占めてくる未来世界においても、そこには人の意志や関与が必要であると考えるサーブのフィロソフィも踏まえたものだろう。そして、その結論が出るまで、スウェーデンとサーブは静かに検討を進めつつ、グリペンEを有人側の中核として進化させながら、その周囲を先に次世代化するのである。

戦場を監視する二つの「目」──グローバルアイとロイヤルアイ

 グリペンEが戦闘航空システムとして体現したこの分散型戦闘システムを、戦闘レベルではなく戦術レベルで成立させるための中心的存在が、「グローバルアイ」(GlobalEye)である。これまでに幾度となく紹介している通り、グローバルアイはAESAレーダー「エリアイER」を中核に、空・海・陸を監視する複数のアクティブ/パッシブ・センサーと優れたセンサー・フュージョン・エンジンを搭載し、そこにマルチドメインC2を統合した世界最先端のAEW&C(空中早期警戒&管制)システムである。その性能と重要性は世界中で高く評価されており、ローンチカスタマーのUAEを皮切りにスウェーデン、フランス、カナダ、NATOで導入が進められている。

グローバルアイ。ボンバルディア社のビジネスジェットに板状のエリアイERレーダーを搭載した早期警戒管制機 写真:Saab

 しかし、グローバルアイを従来の早期警戒管制機の最新版と考えるだけでは、その将来性を十分に捉えきれたとは言えないだろう。
 グリペンEに関して触れたように、将来の戦場はAI駆動型の無人プラットフォーム(いわゆるフィジカルAI)が戦場の主役になり、圧倒的な数と種類のプラットフォームが、人間と混在し、協調する形で戦闘が遂行されていくことになるだろう。そういった中で、特にエンゲージ(交戦)に係る意思決定のスピードが求められる航空戦闘において、例えば戦闘機パイロットが自身も戦闘行動をとりつつ多数のUAVを継続的に指揮管制することは、仮にAIが支援をしたとしても現実的ではない。加えて、ミッションによっては陸海や電子戦・サイバー等の他アセットとの連携も必要になる。この世界観において必要となるのは「有人・無人を含むアセットをクロスドメインで(陸・海・空をまたいで)束ねる指揮・管制プラットフォーム」であり、それこそが将来のグローバルアイの目指す姿であり、それが体現する圧倒的なバリューである。
 この点についてはサーブも様々な場所や機会において繰り返し情報発信しており、グローバルアイを単なるAEWレーダーではなく、他の戦闘アセットを指揮統制する空中司令部として位置付けている。戦闘レベルのAI技術についてヘルシングとのコラボレーションが進む一方、戦術レベルのAI技術については2026年に投資したフランスのコマンドAIとの協業を通じ、その独創的なAI技術をグローバルアイを含むC2/C5ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・サイバー・情報・監視・偵察)システムへ取り込む方針を明らかにしている。

グローバルアイの管制能力を拡大するロイヤルアイ

 そして、まさにグリペンEに対してA3-001やその他のCCAが想定されているように、グローバルアイにとってその索敵警戒能力を圧倒的に拡大させ、管制能力をはるか前方へ投射する為の分散型ノードが、ロイヤルアイ(LoyalEye)である。
 ロイヤルアイはジェネラル アトミクス社が開発したUAVの名機であるMQ-9Bに、サーブが開発したポッド型のAEWレーダーを搭載した、無人型早期警戒機の名称である。サーブの意見であるという点を差し引いたとしても、このシステムはまさに画期的である。

2026年5月に初飛行したロイヤルアイ。MQ-9B無人機にポッド型AEWレーダーを載せた無人型早期警戒機 写真:Saab

 そもそも早期警戒機の運用特性や求められるニーズを考慮すれば、これほど滞空型無人機に向いているものは無い。警戒任務は必然的に常続的或いは長時間の滞空飛行を要求するし、また敵もその有用性がわかっているので戦闘開始後真っ先に狙われることになる。少なくともこの両方の観点において、有人プラットフォームはネガティブでしかありえない。仮に機体が無限に飛行し得るとしてもその中で勤務する人は急速に疲弊していくし、真っ先に狙われるとなれば人命リスクの塊のようなものである。
 しかし、そういった点が自明である一方、ロイヤルアイ以前に無人型の早期警戒機は存在しなかった。なぜであろうか。細かく見ていけば理由は幾つかあるが、単純化してしまえば「(最適サイズの)無人機に搭載可能なAEWレーダーがなかったから」ということになる。
 グローバルアイや米国のE-2D、E-3、E-7に搭載されている板状、円盤状のレーダーを見て頂ければわかると思うが、あれを搭載可能なMALE UAV(中高度長時間滞空型無人機)は少ない(※なぜHALEではなくMALEがプラットフォームとして選ばれたのかという点については、長くなるので割愛する)。これに対し、サーブはエリアイERレーダーをダウンサイズした上で半分に分割し、左右ウィングの下に配置することで解決した。
 文字にすれば簡単なことだが、これを実現するのは至難の業だ。アンテナを小さくするということはアンテナ利得(ゲイン)が小さくなるということなので、小型化しつつ求められる広域探知・分解能を維持していることがまず奇跡的である。これが実現できた背景には、最先端のGaN(窒化ガリウム)技術やスマートエネルギーマネジメントに関する知見は勿論のこと、そもそも360度全周を見ることを求めないサーブのAEWフィロソフィの影響も大きい。機体の左右240度から300度程度が常に見えていればいいと最初から割り切っているから、設計も大胆に簡素化できる。

ロイヤルアイで監視する周囲240度エリアのイメージ

 加えて、探知したデータの処理や伝送にもサーブ独自の技術が培われている。無人機の限られた通信能力で、数百にも及ぶトラックデータとその属性情報等を如何に後方のコントロールセンターに送るのか。これは、サーブが最初に開発したサーブ340 AEW&C早期警戒管制機が、管制(指揮統制)機能を地上側に持たせていたシステム構成であったところからの知見と技術の積み重ねがあればこそである。
 このようにグローバルアイとロイヤルアイは、MUM-T(有人機 - 無人機チーミング)というコンセプトのもと、お互いを補完する関係を構築している。管制機能の有無という機能的な差異は当然あるにせよ、ここにもサーブが大切にしている「人間の関与」というフィロソフィがあるように思える。

電子戦にも強いサーブ──アレクシスとシリウス・コンパクト

 グリペンE並びにグローバルアイに搭載されている最新鋭の電子戦システムである「アレクシス」(Arexis)は、超広帯域デジタル受信と高度な信号処理を統合し、敵の電磁波を単に検知するだけでなく、その位置や特性、作動状態をリアルタイムに把握し、最適化されたジャミング(ノイズ電波送信)やスプーフィング(なりすまし)を行う高度な電子戦システムである。

グリペンEの主翼端は特徴ある形状をしており、アレクシス電子戦システムが内蔵されている 画像:Linus Svensson @Saab

 その基幹部分には最先端のGaN技術を用いたAESAジャマーとDRFM(デジタル無線周波数メモリ)、高性能GPU(画像処理装置)を採用している。1世代前の標準的手法であった高出力電波で相手のセンサーにノイズを与える抑圧ジャミングのみならず、アレクシスは敵レーダー自身の波形をデジタルに複製・加工し、存在しない目標を作り出し、距離や位置を誤認させる欺瞞ジャミングまで行う。つまりアレクシスは、敵レーダーを単に「見えなくする」のではなく、敵が見ている電磁波上の現実そのものを書き換えるシステムなのである。これは控えめに見ても、現代における世界最高水準の航空機用電子戦システムの一つと言ってよい。
 そして今、アレクシスはAIを組み込むことで「コグニティブEW」(認知的電子戦)能力の獲得を進めている。プリプログラムされた脅威ライブラリとそれに基づく対抗パターンをベースにした従来型の脅威対処から、未知のエミッターに遭遇しても、その信号や挙動をAIが分析し、脅威の種類や意図を推定しながら、複雑な電磁環境において最適な対処方法をリアルタイムに導き出す方向への進化である。電子戦システムが「知っている脅威に反応する装置」から、電磁波環境を自ら理解し、適応しながら戦うシステムへ変わろうとしている。これは遠い未来の話ではない。現在すでにドイツのユーローファイターEK電子戦機向けに、ヘルシングのAI技術をアレクシスへ統合する「コグニティブEWシステム」の開発が進められている。

シリウス・コンパクトの巨大な受信センサー網

 アレクシスがサーブの電子戦関連ポートフォリオにおいてEA/EP(電子攻撃/電子防御)を象徴するものだとすると、ESM(電子戦支援)領域を代表するのが「シリウス・コンパクト」(Sirius Compact)である。
 シリウス・コンパクトは、低SWaP(サイズ・重量・電力)のパッシブEWセンサーであり、R-ESM型では1~18GHzという広い周波数帯を監視し、1度未満という高精度な方向探知能力を持つ。自ら電波を発することなく敵のレーダー放射を捕捉するため、いわば「相手を見ているが、相手からは見えない」センサーである。そして、その真価は単体性能よりも、小型センサーを車両、艦艇、UAV、固定拠点など戦場の各所へ分散配置し、ネットワークによって一つの巨大なパッシブセンサー網を構成できることにある。複数のシリウス・コンパクトが異なる位置から同じエミッターを捕捉すれば、方向探知情報を融合して敵の位置を割り出し、自らの存在を秘匿したまま、C2(指揮通信)やアレクシス等を通じて敵への対抗手段へつなげることもできる。

車両後部のポール上にあるのがシリウス・コンパクト。小型・軽量なため人やマルチコプターで運ぶこともできる 写真:Okidoki Kommunikation AB

 しかもサーブのパッシブセンシングは、レーダー波だけに留まらない。シリウス・コンパクトには敵部隊の無線通信を検知・分類・測位・追跡するC-ESM型も存在する。そしてそのさらに奥には、CRS(小型偵察システム)やARS(自動偵察システム)に代表されるサーブが長年蓄積してきた本格的なSIGINT(信号情報収集)技術がある。それらのシステムではHF帯(3〜30MHz)を中心に、広帯域監視、信号捕捉、復調・分析に加え、ネットワーク型ジオロケーションまで可能であり、妨害波を空間的に抑制しながら多数の通信信号を並列に監視・処理する。

シリウスによって構築する大きなセンサー網のイメージ イラスト:Saab AB

 つまり、サーブは単に「電子戦装置」を作るメーカーではなく、電磁波の「検知」から「情報化・分析」、そして「対処」までを一つにつなぐ、EWキルチェーンに係る一貫した技術体系を持っている企業なのである。
 なお余談だが、グリペンEでは翼端部のウェポンステーション1にアレクシスが配置されている。グリペンC/DやF-16、F-2では通常ここに空対空ミサイルが搭載されていることから、ここにアレクシスを取り付けることでミサイル搭載数が減り、攻撃力が低下するのではないかという質問をたまに受ける。そういった心配をお持ちの方は、是非安心していただきたい。グリペンEは、なんとEWユニットのさらに外側にウェポンレールを設け、そこに空対空ミサイルを搭載できるようにしているのである。電子戦か、火力か。そのどちらかを選ぶのではなく、「ならばEW装置の外側にミサイルを付ければよい」という回答を機体設計で実現してしまった。これもまた、サーブらしいエンジニアリングの一例であると筆者は思っている。

おわりに

 紙幅並びに(自分が設定した)テーマとの兼ね合いで、今回紹介できなかった最新技術やそれを活用したユニークな製品は他にも多数存在する。RBS-15グングニル地対艦誘導弾や、ジラフ1x小型3Dマルチミッションレーダー、A26型潜水艦やNATO標準のレーザー交戦訓練装置「GAMER」等、なんとかこれらも次回以降紹介する機会を持っていきたい。
 北欧の防衛思想を紹介するという大テーマがあるので、個社の製品・技術紹介という印象が強くならないよう改めて留意するところだが、その一方日本の安全保障にも十分示唆を与えられるテーマに即して、企業の人間が自社技術のユニークさや貢献可能性について、熱量を持って語るのも悪くないのではないかと思っている。本稿が、北欧やサーブはもちろんのこと、ご同業の技術や製品についても関心を持って頂く端緒になれば、それほど幸せなことはない。

《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか_〜 タイトル一覧 〜

 第1回 そもそも北欧とは !?
 第2回 北欧国家の安全保障政策
 第3回 北欧の防衛産業 その①
 第4回 北欧の防衛産業 その②
 第5回 サーブ製品と北欧デザイン
◎第7回は、10月初旬の公開予定です。お楽しみに!

宇梶 慧_UKAJI Akira

うかじ・あきら。サーブ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー兼代表取締役。慶應義塾大学法学部卒。住商エアロシステム、デロイトトーマツコンサルティング、BAE Systemsを経て、一貫して航空宇宙・防衛分野における戦略立案および事業開発に従事。2022年Liberawareに執行役員兼事業部長としてジョインし、ドローン技術を活用したインフラDXをリード。2024年Saab入社、2025年より現職。日本市場における事業基盤の強化と事業拡大を指揮している。

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