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《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか 
〜第5回 サーブ製品と北欧デザイン

  • 特集

2026-8-7 20:40

北欧5か国の総人口は、日本の約4分の1。しかし、彼らの生活に溶け込んだリアリズムの安全保障思想は、個性豊かで実力的にもトップレベルの防衛産業をこの地に育て上げた。今回はサーブ社の製品を例に、北欧の防衛装備品に共通する設計思想に触れてみよう。
※予告した「グローバルアイ物語(仮)」は別の機会にお届けいたします。
宇梶 慧 _UKAJI Akira

簡素で温かみがあり、長く使える「北欧デザイン」

 デザインに詳しい人でなくとも、おそらくどこかで一回は「北欧デザイン」という単語を聞いたことがあるのではないかと思う。
 これは主に家具や建築、日用品等について、北欧諸国に共通したプロダクトデザインの特徴を指す言葉であり、明確な定義は無い一方、世界的にも「スカンジナビアン・デザイン」として広く認識されている。デザインとしての特徴は ①シンプル、②ミニマル、③ファンクショナルとされており、もう少しわかりやすく表現するならば、簡素で無駄がなく、温かみがあり、使いやすく、そして何より長く使うことができる、ということになろうかと思う。

スウェーデン国内のインテリアショップ。北欧らしい、素材の色がそのままの、シンプルな形状の商品が並ぶ 写真:Marie Ullnert / imagebank.sweden.se

 日本においても、近年はIKEA(スウェーデン・家具)やVOVLO(スウェーデン・自動車)、マリメッコ(フィンランド・アパレル)、バング&オルフセン(デンマーク・AV機器)、ストッケ(ノルウェー・家具(特にベビー用椅子))、66°North(アイスランド・アウトドア)等を中心に、北欧5か国すべてのブランドが広く世間に親しまれている。これら北欧地域のプロダクトデザインには、明確な「北欧らしさ」があり、その他の欧州大陸やそれ以外の地域と比較してとてもユニークであり、また特徴的でもある。
 しかしなぜ、「北欧らしさ」は国や企業、さらには製品分野を超えて共通するのだろうか。その背景には、「デザインとは機能美」であり、その本質は「人と道具の関係の最適化」であるという一貫した哲学が存在している。そしてこの思想は、家具や建築だけでなく、防衛装備品の設計思想にも一貫して受け継がれているのである。

サーブ製品にも宿る「北欧デザイン」

 こういった北欧のプロダクトデザインは、実際の防衛装備品にどのように反映されているのか。今回はその点について、弊社(Saab、サーブ)を代表する3つの製品を例に挙げ、できるだけ多角的に考察を深めていきたいと思う。
 もちろん他にも北欧デザインを体現する優れた防衛装備品は数多く存在するが、筆者の立場でサーブ以外の製品のデザインについて詳細を論じることは僭越であるしまた不適当であろうと考える為、今回は諸々のご批判も甘受しつつ敢えてサーブの製品のみを取り上げることとする。読者の皆様におかれては、是非他の装備品がどのように北欧デザインを体現しているのか、関心を持って調べていただければ幸いである。
(編注)記事末に北欧の防衛各社ウェブサイトへのリンクを掲載しました

84mm無反動砲:カールグスタフ 簡素な基本設計を変えずに機能を向上

 北欧デザインコンセプトを最もよく体現するサーブ製の防衛装備品は何なのかと考えた場合、筆者は自信をもって「84mm無反動砲:カールグスタフ」と申し上げたい。
 ご存じの方も多いと思うが、84mm無反動砲は1948年の実用化以来、70年以上に亘り改良を重ねながら世界各国で使用されてきた携行型火器である。日本でも1979年から陸上自衛隊で導入が開始され、当初導入されたM2モデルからM3、M4とバージョンアップしつつ、本日現在に至るまで陸上自衛隊の主力正面装備品の一つとして配備され続けている。

カールグスタフの最新モデルであるM4 写真:Saab AB
「84mm無反動砲」、「84mm無反動砲(B)」といった名称で陸上自衛隊でも長年使われてきた。中央の隊員が構えているのがカールグスタフ 写真:鈴崎利治

 各バージョンのアップデートを通じては、炭素複合材やチタン等新素材の採用による軽量化や操作性の改善、使用可能な弾種の拡充など、時代に応じた機能向上が着実に図られてきた。それにもかかわらず、砲身を中心とする基本構造や、ひと目でカールグスタフと分かる外観は、驚くほど変わっていない。さらに、各種最新機能を盛り込み高価で複雑な誘導兵器へ変貌させるのではなく、簡素で信頼性の高い発射機と多様で低コストな弾薬の組合せによって、各種任務に対応する思想が貫かれている。

カールグスタフの各種砲弾。対戦車榴弾(HEAT)、多目的弾(HEDP)、タンデム弾頭弾(MT)、対構造物用榴弾(ASM)、フレシェット弾(ADM)、発煙弾(SMOKE)、照明弾(ILLUM)などが並ぶ 写真:竹内 修

 完成されたプラットフォームとしての本質には不用意に手を加えず、あくまでも使い勝手を改善させていきつつ、使用可能な弾薬のポートフォリオを随時拡充させることでその時々の最新のミッションニーズに応えていく製品哲学は、当世風に言えばまさに「サスティナブル」であり、北欧デザインの最高到達点とも言える装備品だろう。陸上自衛隊で採用されている火器・火砲の中で、40年以上に亘り使い続けられており、且つ最新であり続けているのは84mm無反動砲だけである。

戦闘機:グリペンE ステルス化を重視しないという最適な選択

 サーブが世界に誇るマルチロール戦闘機の傑作であるグリペンもまた、違った観点から北欧デザインの特徴を良く体現する装備品である。
 グリペンの最新モデルであるE/F型は世間では「4.5世代機」と呼ばれており、F-35のような「第5世代」ステルス機に対して「やや古い世代の戦闘機」の印象もある。しかし実際のところ、開発時期や運用開始年度を見るとグリペンEの方がF-35よりも10年以上新しい。それにも関わらず4.5世代機と分類されているのはなぜか。それはグリペンが「ステルス機」ではないからである。しかし、まさにそれこそがグリペンの北欧らしさを象徴している部分でもある。

多用途戦闘機JAS39グリペンの最新型グリペンE。先行型からの改造開発では敢えてステルス化を選ばなかった 写真:Saab /Linus Svensson
欧州の最先端兵器のひとつである長射程空対空ミサイル「ミーティア」を、翼下に4発搭載したグリペンE 写真:2021 Saab AB

 グリペンEが全面的なステルス化という道を選ばなかったのは、ステルス技術を軽視したからではなく、そのために犠牲となる整備性、運用性、コスト効率まで含めて最適解を追求した結果である。例えば、ステルス機は機体形状だけでなく、レーダー吸収材や特殊塗装の維持・補修にも多大な手間とコストを要し、稼働率や運用の自由度にも少なからず影響を与える。その一方グリペンEは、短時間で再武装・再給油を行い、高速道路を含む簡易滑走路から分散運用できることを前提に設計されており、限られた人員でも高い稼働率を維持できる点を重視している。この為、ステルス性の追求はグリペンの基本的設計思想の逆を行くものであり、従ってグリペンはステルス性を重視しないこととなった。
 もちろん、だからと言って現代航空戦における生存性が低いとか、戦力としての有効性が低いというわけでは全くない。むしろ最新のAESAレーダー、強力な電子戦システム「AREXIS(アレクシス)」、そしてデータリンクと各種センサーを統合したネットワークセントリックな戦い方を実現することで、極めて高い次元での戦闘力を総合的に実現している。つまり重要なのは特定の技術トレンドのみに拘泥するのではなく、自国を取り巻く安全保障環境や直面する脅威を踏まえた上で、何が必要で何が不要なのかという緻密なバランス計算を実施し、それに基づく機能美を追求している点である。

 また、最近ではグリペンにAIを搭載したモデルでの各種実証実験プログラムが行われている。元々グリペンは、将来的なソフトウェアアップデートやAI搭載を見据え、大規模な改修を要さずシステムにそういった新機能を搭載できるようになっている。現在各国で自律型無人機の開発が急ピッチで進められているが、その一方、有人機の無人機転用やそれに係るAI搭載はあまり聞いたことがない。これもリソース制約が厳しい北欧ならではのイノベーティブなアプローチと言えるものだろう。
 その時々のユーザーニーズの変遷に合わせ、自己を最適化していく余地を残している設計も、84mm無反動砲同様、北欧らしい。ちなみに余談だが、グリペンへのAI搭載プログラムに参加した人間から聞いた話では、AI対人間の目視外戦闘(BVR:Beyond Visual Range)における勝負は、極めて興味深くエキサイティングな展開を示しているとのことだった。

グリペンEに搭載されたAI(人工知能)は、ヘルシング社のAIエージェント「ケンタウルス」。2025年6月の飛行試験では、視程外戦闘を想定した内容で自律による機動とパイロットへの発射指示を実証した 写真:Linus Haegermark /Saab

長射程地対地ミサイル:GLSDB 実績ある装備を組み合わせた新装備

 最後に紹介するGLSDB(Ground-Launched Small Diameter Bomb)は、サーブがアメリカのボーイングと共同開発した長射程地対地誘導弾であり、これはさらに興味深い。
 GLSDBは、新たに高価な長射程誘導兵器をゼロから開発するのではなく、既に大量に配備されていたM26ロケットモーターと、実戦で実績を積んだGBU-39小径誘導爆弾(SDB)を組み合わせることで誕生したシステムである。

長射程地対地ミサイルGLSDBの発射。ロケットモーターで長距離を飛翔した後、爆弾部分が切り離され、展張翼を開いて滑空爆弾になる 写真:Saab AB
展張翼を開き、目標に向かって突入するGLSDBのイメージ画。画像が小さいが、右手からも1発が目標に向かっている 画像:Saab AB

 新たに付加されたのは両者を結び付ける最小限のインターフェースと誘導・制御機能であり、既存技術を最大限活用しながら射程、精度、運用の柔軟性を飛躍的に向上させている。これは「古いものを捨てて新しいものを作る」という発想ではなく、「古いもの同士を活かし、組み合わせて新たな価値を創出する」という思想である。限られた資源を徹底的に活用し、必要最小限の追加によって最大の効果を生み出すという考え方もまた、北欧デザインコンセプトそのものと言えるのではないだろうか。
 機能を足し続けるのではなく、既存の資産を見極め、最適に組み合わせることで新しい価値を生み出す。GLSDBは、北欧に根付く合理性と持続可能性を体現した防衛装備品と言えるだろう。

限られた資源で合理的に目的を達成する「北欧デザイン」のコンセプト

 こうして見ていくと、84mm無反動砲、グリペン、GLSDBは、それぞれ全く異なる製品でありながら、一つの価値観を共有していることが分かる。それは「最も高性能なものを作る」という発想ではなく、「限られた資源の中で、最も合理的な解を作る」という発想である。
 この違いは小さく見えて、実は極めて大きい。世界には、圧倒的な性能を持つ装備品は数多く存在する。しかし、その性能を維持するためには、多額の予算、多くの人員、巨大な後方支援体制が必要になる。これは米国のような超大国であれば賄えるものである一方、小国であるスウェーデンはそのような前提に立つことができない。だからこそ、一つの装備が複数の役割を担い、整備が容易で、長く使え、運用全体を効率化することに価値を見いだしてきた。これこそが、防衛装備品における北欧デザインの本質であろう。

スウェーデン海軍のヴィスビー級コルベット(サーブ・コックムス製)。2002年の納入開始で、艦艇においてはかなり早い段階でステルス形状を採用した例と言え、ここにも運用構想を突き詰めた「北欧デザイン」がある 写真:Medieanvändning

 こういった北欧デザインの特徴は、翻って日本にも重要な示唆を与えてくれるのではないだろうか。東アジアの安全保障における日米安全保障同盟の重要性は論をまたず、また日本の国家安全保障にとっても日米同盟はその要石となるものである。その意味で、日本はこれまで米国政府並びに米軍との連携を基軸とする防衛戦略方針を採用してきており、装備品についても主に空・海のドメインを中心に、米国製を多く採用してきた。
 筆者もこの方針についてまったく異論はない一方、近年特に、両国の国情における「違い」についてももう少し目を向けた方が良いのではないかと考え始めてきている。両国を取り巻く近年の経済的・内政的状況を鑑みると、年を追うごとに乖離が広がっている印象を受ける。脅威環境に直接接している日本と、大陸として直接的な脅威環境から隔絶されている米国。或いは、人口減少局面にある日本と、人口増加局面が継続する米国。こうした違いを踏まえれば、米国の装備や戦略・運用思想をそのまま日本へ適用することが、必ずしも最適解とは限らないのではないかと考えることには一定の合理性がある。
 むしろ、ロシアという現実の脅威と向き合い、限られた人的・財政的資源の中で防衛力を構築してきたスウェーデンの安全保障コンセプトには、日本が学ぶべき点が少なくない。特に人口減少という制約が避けられない日本にとって、少ない資源で最大の効果を発揮するという北欧の発想は、今後ますます重要性を増していくのではないだろうか。その意味で、今こそ北欧デザインと日本美学の融合が、防衛装備品の領域でも求められていると言えるだろう。

[付録]北欧の主な防衛企業リンク

🇸🇪 サーブ|Saab 日本語サイト
🇸🇪 ボフォース|Bofors・へグランド|Hägglunds ※いずれも英BAEシステムズ傘下
🇫🇮 パトリア|Patria 日本語サイト
🇫🇮 サコ|Sako
🇳🇴 コングスベルク|Kongsberg
🇳🇴 ナーモ|Nammo
🇩🇰 テルマ|Terma

《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか_〜 タイトル一覧 〜

 第1回 そもそも北欧とは !?
 第2回 北欧国家の安全保障政策
 第3回 北欧の防衛産業 その①
 第4回 北欧の防衛産業 その②
 第5回 サーブ製品と北欧デザイン

◎ 第6回は9月初旬の公開予定です。おたのしみに!

宇梶 慧_UKAJI Akira

うかじ・あきら。サーブ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー兼代表取締役。慶應義塾大学法学部卒。住商エアロシステム、デロイトトーマツコンサルティング、BAE Systemsを経て、一貫して航空宇宙・防衛分野における戦略立案および事業開発に従事。2022年Liberawareに執行役員兼事業部長としてジョインし、ドローン技術を活用したインフラDXをリード。2024年Saab入社、2025年より現職。日本市場における事業基盤の強化と事業拡大を指揮している。

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