日本の防衛と安全保障の今を伝える
[Jディフェンスニュース]

site search

menu

Jディフェンスニュース

《「こんごう」乗艦レポート》リムパック2026 #4 艦上体育と医療搬送体制

  • 日本の防衛

2026-8-13 16:45

アメリカ海軍が主催して環太平洋諸国の軍が集う、ハワイ周辺海域での多国間海上演習「リムパック」。今年は6月下旬から7月末にかけて開催された。海上自衛隊の護衛艦「こんごう」に同乗取材した、柿谷哲也がお届けします。柿谷哲也 KAKITANI Tetsuya

 ハワイ沖で多国間演習リムパック2026演習に参加中の護衛艦「こんごう」。各国艦と共同で対潜戦訓練が行われているさなか、艦内放送がかかった。
「後部上甲板での艦上体育を許可する。天候晴れ、風、右艦首から14ノット、気温26度、湿度92%、WBGTグリーン、本日右回り」

上甲板を走る“艦上体育”

 後部甲板にあがると、隊員が思い思いに身体を動かしている。傍らで見守る、看護長の山口(やまぐち)2曹に尋ねた。
──WBGTって何ですか?
山口2曹 :ウェット・バルブ・グローブ・テンプラチャー・インデックスの略で、気温、湿度、輻射熱、気流から算出した指数のことです。艦上体育をする上で日射病とか熱射病とかの高温障害から身を守るために導入したのですよ。
──熱射病で倒れて医務室に担ぎ込まれるランナーはいるのですか?
山口2曹 :みなさん、注意事項を守って自己で管理していますから、艦上体育中に倒れる人はいませんね。

看護長の山口2曹と一緒に応援するのは海上自衛隊マスコット “カイジョウジエイ鯛”。「こまめに水分補給ね~」 写真:柿谷哲也

 陰で一休みしているのは、今井健士郎(いまいけんしろう)2曹だ。
──今日はどのくらい走りましたか? おっカッコいい、スニーカー。
今井2曹 :1時間ぐらいですね。今日のスニーカーはHOKAですが、予備でNIKEも持ってきました。
──予備を持ち込むほど走るのが好きなのですね。上陸中もワイキキとかに走りに行きますか?
今井2曹 :ワイキキまではいきませんが、パールハーバー基地内を走ります。
──いいですねぇ。軍艦を背景に走るなんて、カッコいいです。軍艦マニアの記者にとってはうらやましい。
 後部VLS(垂直発射装置)で「いぶすき菜の花マラソン2026」のTシャツを着て腕立て伏せしているのは、垂直発射装置(VLS)を担当する長田(おさだ)曹長だ。
──甲板に手をついて熱くないですか?
長田曹長 :白い部分は温度が低いんですよ。
──ホントだ。灰色部分は熱いのに、ヘリコプター発着艦標識の部分だけ温度が低い。さすが! VLSのことは表面温度まで知っているのですね。
長田曹長 :乗員にとって、艦上体育は「体力づくり」だけでなく、「ストレス解消」の意味もありますね。心身を整えて訓練に望むことが大切と思っています。今日は1時間ぐらい運動したかな。

長田曹長が後部VLSで腕立て伏せ。白い塗装部分はかなり温度が低い 写真:柿谷哲也

「こんごう」艦内の医療搬送体制

「こんごう」艦内にある医務室で、山口(やまぐち)看護長と広瀬(ひろせ)衛生員長、及川(おいかわ)医務長に聞いてみた。
──みなさん、気温や日射、甲板の温度などをよく考慮しながら運動していましたが、艦内ではほかにどのような注意をしていますか?
山口看護長 : 街の消防士が着るような防火衣を着用する訓練などでは脱水症状に注意し、こまめに水分補給をするよう促しています。
──なるほど、洋上補給で甲板に長く作業する時は、艦内通路に「かき氷コーナー」が特設されていました。補給科は自販機のスポーツドリンクが売り切れにならないように補給するとも言っていましたし、艦全体で対策が施されていることがよく分かります。
 艦内で重度の急患が発生した場合はどう対応しますか?
広瀬衛生員長 :急患への対応、判断が一番重要なのです。患者をここで診るのか、陸上の病院に搬送するのか判断します。軽度の熱中症であれば、艦内で対応できます。
 しかし、重症化すると運ぶか否かの判断を迫られますが、すぐは運べません。特に「こんごう」はヘリコプターを搭載していないので、病院まで時間がかかります。この海域ですとオアフ島のアメリカ陸軍トリペラー病院まで搬送するのですが、その間をどうつなぐか、見極めが重要です。
 通常なら判断に迷いが出たときは陸上の医官に相談しますが、今回の航海は自衛隊呉病院から医師の及川2尉が乗艦しています。
──及川先生の専門はなんですか?
及川医務長 :専門は内分泌代謝内科です。バセドウ病や橋本病など甲状腺疾患とか、糖尿病、クッシング病などです。
──医務室では手術もできるのですか?
及川医務長 :縫合もできますが、レントゲン設備がないので手術は限定的です。薬が潤沢にあるわけではなく、種類も限られています。自衛隊病院の先生と衛星電話でやり取りして対処を判断できる体制があります。一番大事なのは、ここで診ることができるものなのか、今ある薬で対応できるのかを判断して、対応できないと判断するならば、速やかに搬送することです。
 なるほど、ヘリコプターを搭載しない「こんごう」では、医官は搬送時間も考慮した処置を念頭に置いているということだ。アメリカ第3艦隊はリムパック演習で、毎回ヒッカム統合基地にMH-60Sヘリコプターを数機派遣して、医療搬送に備えている。搬送先となるトリプラー陸軍病院(オアフ島)は、脳神神経外科、心臓血管外科など高度な医科がある総合病院。ホノルル空港管制圏内ではトリプラーに着陸するヘリコプターは優先されている。
 日本から離れての長期航海でも、艦内に医療体制があるので、乗員は安心して訓練、艦内生活を送れるということだ。

左から、医務室の呉病院医官及川2尉、「こんごう」の山口看護長と広瀬衛生員長 写真:柿谷哲也

 おっ、サーファーの前川(まえかわ)3曹が走っている。動揺のある艦上でのジョギングは、サーフィンに必要な体幹のバランス感覚を鍛えるのにうってつけだ。

イタリア海軍の哨戒艦艇OPV「ジョバンニ・デッレ・バンデ・ネーレ」と対潜戦訓練中も艦上体育が許可され、乗員は汗を流す 写真:柿谷哲也
柿谷哲也KAKITANI Tetsuya

フリーランス・フォトジャーナリスト。1966年生まれ。航空機使用事業を経て、自衛隊や外国軍を取材し内外に記事と写真を発表する。外国軍の取材は公式・非公式合わせて74か国。著書多数。

Ranking読まれている記事
  • 24時間
  • 1週間
  • 1ヶ月
bnrname
bnrname

pagetop