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《ニュース解説》消火活動のため初の国緊派遣 陸自CH-47と海自「くにさき」がインドネシアへ

  • ニュース解説

2026-9-8 07:30

防衛省は8月30日、インドネシアにおける山林火災の消火のため、陸自CH-47JA輸送ヘリ3機を海自輸送艦「くにさき」に載せて派遣しました。この任務にCH-47と「くにさき」が選ばれた理由を、元陸上自衛官の影本賢治が解説します。影本賢治 KAGEMOTO Kenji

インドネシアの山林火災 ── 東京都より広い焼失面積

インドネシアに向けて出港する輸送艦「くにさき」(8月30日) 出典:防衛省・自衛隊X

 防衛省は2026年8月28日、陸上自衛隊のCH-47JA輸送ヘリ3機をインドネシアに派遣し、国際緊急援助隊として山林火災の消火にあたらせると発表しました。8月30日、3機のCH-47JAは海上自衛隊の輸送艦「くにさき」に搭載され、陸海の自衛隊員約350人や車両とともに、呉基地から現地に向けて出発しました。
 今年7月から8月までの間に、インドネシアのスマトラ島とカリマンタン島(ボルネオ島)を中心とした地域において山林火災が急拡大し、約28万5,000ヘクタールが焼失したと報じられています。これは、東京都の面積(約22万ヘクタール)を上回り、昨年2月の岩手県大船渡市の火災(焼失約2,900ヘクタール)のおよそ100倍という広さです。この火災によって発生する濃い煙(ヘイズ)と灰の蔓延は、呼吸器疾患の患者を急増させ、多くの航空便を視程障害で欠航・遅延させるなど、深刻な被害を生じさせています。その煙害は、海と国境を越えてマレーシアやブルネイまで達しているとのことです。
 現地は泥炭地が多く、枯れた植物が堆積してできた地層そのものが燃えるため、水を撒いても地中でくすぶり続け、再び燃え上がることが多いようです。また、乾季は、例年10月ごろまで続くので、今後もさらに被害が拡大することが懸念されています。
 インドネシア政府は、2万4,000人を超える地上要員と、ヘリコプター37機を含む航空機52機を投入して消火を続けています(8月末時点の報道)。ただし、そのヘリコプターの多くはベル412やMi-17といった中型機であり、一度に大量の水を散布できる大型ヘリコプターは保有していません。

国際緊急援助隊とは ── “海外版の災害派遣”

 国際緊急援助隊とは、1987年に施行された「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」(JDR法)に基づき、海外で大きな災害が起きたときに派遣される救援チームの総称です。その救援チームには、被災者を捜索・救出する〈救助チーム〉、診療や防疫にあたる〈医療チーム〉と〈感染症対策チーム〉、火山や耐震の専門家からなる〈専門家チーム〉、そして〈自衛隊部隊〉の5種類があり、これらを災害の種類や被災国の要請に応じて組み合わせて派遣することになっています。
 その自衛隊部隊は、1992年の法改正で派遣できるようになったもので、1998年のホンジュラス(ハリケーン災害)を皮切りに、輸送機による物資の空輸、艦艇による仮設住宅の輸送、医療部隊の展開など、これまで20回以上にわたって派遣されてきました。自衛隊部隊が派遣されるのは「大規模な災害が発生し、特に必要があると認められた場合」となっています。つまり、ほかのチームでは担いきれない規模や自己完結性が求められる場合にだけ、自衛隊が派遣されるのです。

ヘリコプターによる国際緊急援助 ── 陸自ヘリは5回目、消火活動は初めて

 国際緊急援助活動にヘリコプターが初めて派遣されたのは、2004年12月のスマトラ沖地震・津波のときでした。その後も、2010年のパキスタン洪水、2022年のトンガ火山噴火などに際して、物資空輸などの任務を遂行してきました。陸上自衛隊のヘリコプターの派遣は今回で5回目ですが、消火活動そのものを担うのは今回が初めてです。
表1:ヘリコプターが派遣された国際緊急援助活動

派遣先(災害)ヘリコプター現地への輸送手段主な活動
2005インドネシア
(スマトラ沖地震・津波)
陸自CH-47JA×3機
陸自UH-60JA×2機
輸送艦「くにさき」物資・人員の空輸、医療・防疫
2005パキスタン
(地震)
陸自UH-1×6機空自C-130H輸送機×4機で空輸物資・人員の空輸
2010パキスタン
(洪水)
陸自CH-47×3機
陸自UH-1×3機
輸送艦「しもきた」など(CH-47)
C-130H×6機(UH-1)
物資・人員の空輸
2013フィリピン
(台風)
海自の艦載ヘリコプター護衛艦「いせ」に搭載物資輸送、医療・防疫支援
2022トンガ
(火山噴火)
陸自CH-47×2機輸送艦「おおすみ」物資輸送、離島への給水
2026インドネシア
(山林火災)
陸自CH-47JA×3機輸送艦「くにさき」山林火災の消火

出典:防衛白書、防衛省・海上自衛隊の発表などから筆者作成

なぜCH-47なのか ── 一度に5トンの水を運べる機体は、ほかにない

 陸上自衛隊が保有する機体のうち、中型のUH-1であれば、分解して航空自衛隊の輸送機で空輸できます。また、V-22オスプレイであれば、空中給油を受けながら自力で飛んで行くことも理論上は可能です(米海兵隊では給油機を用いた長距離自己展開が実施されています)。
 これに対し、CH-47チヌークはこれらのいずれの方法も採れません。航続距離は約1,040kmで、約5,000km先のインドネシアへは、島伝いでも台湾、フィリピン、ボルネオ島のマレーシア領を経由する必要があり、台湾とフィリピンの間のバシー海峡など数百kmの洋上飛行も行わなければなりません。
 また、CH-47の胴体幅は4.78mあり(JAの場合)、航空自衛隊のC-2輸送機の貨物室(幅・高さ約4m)には入りません。ローター・ブレードや後部パイロン(後側のローターを支える塔)を外しても、米軍のC-17(貨物室の幅5.49m)やC-5といった大型輸送機でなければ空輸できません。つまり、CH-47は速度の遅い輸送艦で運ぶ以外に方法がなく、派遣に時間がかかってしまいます。過去の派遣においては、2005年のインドネシア・アチェへの派遣では出港から現地到着までに12日、2010年のパキスタン・カラチへの派遣では23日を要しています。
表2:陸自機の「海の渡り方」と消火能力

機体海の渡り方消火器材の容量
UH-1分解してC-130H輸送機で空輸(2005年パキスタンの実績)約680リットル(通常500リットル程度で使用)
V-22空中給油を受けた自力飛行が理論上可能訓練例のみ(米軍、約3,600リットル級)
CH-47輸送艦による海上輸送約7,500リットル(通常5,000リットル程度で使用)

 その一方で、CH-47は高い空中消火能力を有しています。最大容量約7,500リットルの消火バケットを機体下面のカーゴフック(吊り下げ装置)に装着し、大量の水を一度に散布できます。実際の消火では水の量を5,000リットル程度に調節して使いますが、それでもUH-1用の消火器材(通常500リットル程度で使用)の10倍にあたります(消火バケットの仕組みは以前の解説記事で詳しく紹介しています)。また、V-22は、米海兵隊が約3,600リットル級の消火バケットを吊り下げる訓練を行った例はあるものの、実任務での運用実績はありません。

空中消火を行うCH-47(写真はイメージ) 出典:防衛省・自衛隊X

 なお、注意すべきは赤道直下の高温です。気温が高いほど空気は薄くなり、エンジンの出力にもローターの揚力にも余裕がなくなります。このためインドネシアでは、国内での消火活動のときよりも水や燃料の量を減らす必要があるかもしれません。それでも、現地で使われている中型ヘリコプターを大きく上回る能力を有することに変わりはありません。
 また、輸送艦を使うことにはメリットもあります。輸送艦は、ヘリ3機に加えて車両、予備部品、整備員、隊員を一度に運べます。しかも、現地到着後も艦上を活動拠点とし、駐機、燃料補給、機体整備などが行えます。宿泊や食事も艦上で完結できますので、災害で混乱している被災国への依存を最小限にすることができるのです。
「動き出しの早さ」も輸送艦の利点です。航空機で行く場合、搭載できる物資が限られますので、経由地や現地の飛行場が使えること、燃料や地上支援を受けられることが確認できなければ出発できません。輸送艦であれば、受け入れ側との調整が固まっていなくても、まず大量の物資を積んで出発し、細部は航海中に決定することができるのです。
 連日の消火飛行を続けるインドネシア側のヘリコプターは、時間の経過とともに点検や整備が必要となり、可動機数は少しずつ目減りしていくはずです。数か月にわたって続くと考えられるこの派遣に求められるのは、一瞬の急行ではなく、大きな消火能力を丸ごと届けて活動を継続することなのです。

なぜ「くにさき」なのか ── 陸自部隊の輸送に特化した設計

 今回の派遣に使用される「くにさき」は、おおすみ型輸送艦(基準排水量8,900トン、全長178m)の3番艦です。これまでも、2005年には「くにさき」、2010年には「しもきた」、2022年には「おおすみ」と、いずれもおおすみ型の輸送艦がCH-47の海外輸送を担ってきました。いずれの輸送艦も能力は変わりませんが、整備や訓練のローテーションの関係で、「くにさき」が使われるようになったと考えられます。
 おおすみ型の艦内には長さ100mの車両甲板のほか、330名分の陸自隊員専用の居住区があります。また、艦尾のドックにはエアクッション艇(LCAC)2隻が収容されており、港が使えない場所でも海岸へ直接車両や物資を揚陸できます。

甲板に車両とヘリコプターを搭載した、おおすみ型2番艦「しもきた」 出典:海上自衛隊

 ところで海上自衛隊は、全通甲板を持つ護衛艦(ひゅうが型・いずも型)も4隻保有していますが、輸送艦と護衛艦では役割が違います。ひゅうが型・いずも型は、潜水艦を警戒するヘリ部隊を洋上で運用することを主な任務とする、自衛艦隊の中核を担う艦船です。いずも型には、陸自隊員400名と3.5トントラック50台を運べる輸送機能もありますが、これは多任務艦としての予備的な能力であり、車両の積み降ろしには港への接岸が必要となるなどの欠点があります。

輸送艦へのヘリコプターの搭載 ── ブレードを外し、カバーをかけ、縛る

 おおすみ型にはヘリコプター用の格納庫がありません。飛行甲板と艦内をつなぐエレベーターは車両用(長さ14m×幅6m)で、胴体だけで15.88mの長さがあるCH-47は載らないため、飛行甲板に置いたまま運ぶしかありません。UH-60多用途ヘリであれば、ブレードを外して尾部を折りたたむことでエレベーターに載せ、艦内の車両甲板に収容できますが、今回は派遣されません。空中消火という任務の特性上、中型機は不要と判断されたものと考えられます。
 CH-47を輸送艦に搭載する場合には、出港前に陸上自衛隊の整備員による入念な準備が必要となります。まず、CH-47からローター・ブレードを取り外します。これは、甲板上の占有面積を減らすためだけではなく、長い航海の間に風でブレードがあおられて損傷するのを防止するためです。次に、機体を甲板にしっかりと固縛(固定)しなければなりません。外洋の激しい波の中で艦船が揺れても、移動しないようにするためです。さらに、機体全体に防錆用カバーをかけます。塩分を含んだ飛沫が絶えず降りかかる海の上が、金属の機体にとって最悪の環境だからです。

輸送艦「しもきた」の艦上でCH-47のブレードを取り外す陸上自衛隊員(2010年のパキスタン派遣時) 出典:海上自衛隊
ブレードを取り外し、防錆用カバーをかけられたCH-47(2010年のパキスタン派遣時) 出典:海上自衛隊

 このため、現地に到着しても、逆の手順でブレードを取り付け、整備確認飛行を経てからでなければ消火活動を開始することはできません。

国際ミッションを支える、裏方の存在

 艦船を使用したヘリコプターの派遣には、どうしても時間がかかります。しかし、ひとたび到着すれば、燃料も部品も整備員も丸ごと携えた状態で、ヘリコプターの能力を最大限に発揮できます。災害における支援活動の価値は駆けつける速さだけでは測れない。これが、高速なヘリコプターを低速な艦船で運ぶという一見無駄に見える方法を20年にわたって続けてきた理由なのです。
 この派遣を成功させるための戦いは、現地への到着前から始まっていました。現地での飛行時間を確保するため、現地の情報収集に駆け回るパイロット、派遣機の整備を前倒しで行う整備員、大量の部品や油脂を見積もって箱詰めする補給担当者など、華やかなニュースの陰にある裏方の仕事が発令から出港までわずか2日という迅速な対応を可能とし、遠い国での我が国の貢献を確かなものにしようとしています。その成功は、自衛隊の本当の強さを世界に示すことに繋がるに違いありません。

影本賢治KAGEMOTO Kenji

昭和37(1962)年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。アメリカ陸軍や関連団体が発信する航空関連の様々な情報を翻訳掲載するウェブサイト『AVIATION ASSETS』の管理人。在職中は主に航空機の補給整備に関する業務に携わった。翻訳書に『ドリーム・マシーン』『イーグル・クロー作戦』。

https://aviation-assets.info/

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