《ニュース解説》自衛隊ヘリの “巨大バケツ” 火災の森に撒く水は1度に数トン
- 特集
2025-3-5 09:33
空気が乾燥すると発生しやすい山林火災。最近は大規模なものも増えています。その報道で目にするのが、自衛隊ヘリや防災ヘリが上空から水を撒くのに使う「空中消火器材」。元陸上自衛官の影本賢治氏が解説します。
2025年2月26日に岩手県大船渡市で発生した大規模な山林火災では、陸上自衛隊などのヘリコプターによる空中消火が行われました(本記事を執筆している時点では、引き続き行われています)。その際に用いられた空中消火器材にはどのようなものがあるか、紹介してみたいと思います。
バンビ・バケット
カナダのSEI Industries社が製造している空中消火器材です。さまざまな大きさのものがありますが、陸上自衛隊にはCH-47輸送ヘリ用の大型のものが、「野火消火器材Ⅰ型」という名称で装備されています。
傘のように折りたたんだ状態にして、人力で機内に搭載することが可能です。火災現場付近で機体のカーゴフックにケーブルで吊り下げます。ダム、湖、河川などの水中に沈めることで水を補給できる自汲式です。周囲のベルトの長さを調節することにより、水の量を調節できます。自立できないので、消防車などで給水するのには適しません。放水は機体の電源を利用して行う電気式となっています。
陸上自衛隊が装備している「野火消火器材Ⅰ型」は容量が約7,500リットル(通常は5,000リットル程度に調節して使用)の大型のもので、CH-47で用いられています。海上自衛隊や航空自衛隊でも装備していて、海上自衛隊では容量が約1,200リットルの中型のものをSH-60哨戒ヘリで用いています。地方自治体も保有しているようです。
ビッグ・ディッパー
アメリカのSims Fiberglass社が製造している空中消火器材です。陸上自衛隊は「野火消火器材Ⅱ型」という名称でCH-47用に装備しています。
可塑性のある素材でできているので、折りたたんで機内に搭載することができます。また、自立するので火災現場付近で消防車などから給水することができます。バンビ・バケットと同様に機体のカーゴフックにケーブルで吊り下げます。底面の弁を開放してからダムなどの水中に沈めることで自汲式として使用することもできます。周囲の穴のキャップを取り外すことで、水の量を調節できます。放水は機体の電源を利用して行う電気式です。
陸上自衛隊の「野火消火器材Ⅱ型」は容量が7,500リットル(通常は5,000リットル程度に調節して使用)の大型のものです。航空自衛隊も装備しているようです。
自立自汲式消火バケット
空中消火器材には、自衛隊ではなく地方自治体のものも使用されます。その主流となっているのは「自立自汲式消火バケット」などと呼ばれるものです。その名前が示すとおり、自立できるので消防車などで給水することができますし、自汲式なのでダムなどに沈めて給水することもできます。600リットルから1,000リットル程度まで、さまざまな容量のものがあります。
給水および放水時の底面バルブの開閉は、バルブにつなげられたロープを引く手動式です。構造が簡単で故障が少ないのが特長です。自汲式で使用する際には、水中に沈める深さで水量を調節します。陸上自衛隊のUH-1多用途ヘリの場合は500リットル程度で運用されているようです。
その他の器材
各地方自治体が保有している空中消火器材には、他にもさまざまなものがあります。
胴体下部取付式消火装置
都道府県などの消防・防災ヘリには、「ファイア・アタッカー」「ウォーター・ドロップ・タンク」などと呼ばれる胴体下面に直接取り付けるタンクが装備できる機体もあります。
吊り下げ式の空中消火器材
吊り下げ式の空中消火器材には、自汲式ではない「空中散布用水のう」と呼ばれるものもあります。その場合は、あらかじめ消火液などを注入した水のうをヘリコプターに吊り下げることになります。
カーゴ・フックの機能
空中消火器材は、胴体に直接取り付けるものを除き、カーゴ・フックに吊り下げて使用することになります。カーゴ・フックとは、ヘリコプターの外部に弾薬・燃料などの補給品や車両・火砲などの装備品など、機内には搭載できない大型の荷物を吊り下げて空輸するための装置です。通常は、メイン・ローター真下の胴体下面に装備されています。CH-47の場合は、前部、中央、後部の3箇所にカーゴ・フックがありますが、空中消火器材は中央のカーゴ・フックに吊り下げられます。
カーゴ・フックには、油圧、電気または機械式の切り離し機構に加えて、火薬または手動式の緊急切り離し機能が装備されています。荷物を吊り下げた状態で飛行中に、エンジン出力の低下などの不具合が生じた場合には、切り離して機体への負担を取り除くことが必要だからです。このため、空中消火器材も何らかの原因で切り離されて、落下する可能性があります。空中消火器材を吊り下げているヘリコプターの下には、絶対に立ち入るべきではありません。(他に、地上にいた消防団員が上空で放水された水の直撃を受けて負傷した事例もあるようです。)
空中消火の基本は、延焼を防止する「間接消火」
空中消火の要領には、「直接消火法」と「間接消火法」があります。直接消火とは、火災場所の上空を通過しつつ、水や消火剤を直接散布する方法で、主に発生初期の規模の小さい火災に用いられます。間接消火とは、延焼が予想される地域にあらかじめ水や消火剤を散布して防火帯を作る方法であり、この方法が用いられることが多いようです。
空中消火に何機くらいのヘリコプターを投入すれば効果があるかは、状況によって異なるので一概に言えません。ただし、重要なのは何と言っても初期消火です。今回の山火事においても、初動対応に割り当てられていた自衛隊などのヘリコプターが直ちに投入されたはずです。残念ながら初期消火ができず、投入機数の増加が必要になりましたが、空中消火の準備を行う離発着場やダムなどの給水場所の数や大きさによって機数に制約を受けた可能性があります。(今回の山火事では、海からの給水も行い始めたようです。)
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