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《ニュース解説》陸自オスプレイが木更津から佐賀へ 7月に正式配備

  • ニュース解説

2025-4-22 14:00

2025年7月、陸上自衛隊のティルトローター輸送機V-22オスプレイが、暫定配備されている千葉県の木更津駐屯地から、佐賀県に建設中の「陸上自衛隊 佐賀駐屯地」に移駐し、正式配備されます。2015年度の調達開始から、まる10年。陸自オスプレイのこれまでの道のりを、元 陸上自衛官の影本賢治が解説します。影本賢治 KAGEMOTO Kenji

東京湾上空を飛行する、陸自V-22オスプレイ。千葉県の木更津駐屯地に、2020年7月10日から5年間の期限付きで、17機が暫定配備されている。写真:鈴崎利治

 V-22オスプレイを保有する輸送航空隊が、木更津駐屯地への暫定配備の目標期限であった2025年7月9日に佐賀駐屯地に移駐します。
 慣れない異国の地での訓練や暫定的な勤務先での不安定な生活に耐えてきた隊員たちは、ようやく「本当の自分たちの家」と呼べる場所を得ることになります。
 この計画の始まりから現在までの長く複雑な道のりを振り返り、暫定配備から正式配備への移行が持つ意義を考えます。

計画の始まり──オスプレイ導入決定(2013〜2014年)

 2013年末、平成26年度から30年度(2014〜2018年度)の中期防衛力整備計画で、17機のティルトローター機(V-22オスプレイ)の導入が正式に決定されました。この計画の目的は、巡航速度や航続距離等の性能が優れるオスプレイを装備することで、南西諸島の防衛を強化することにありました。

 2014年頃、防衛省は複数の候補地の中から佐賀空港を配備先に選定しました。理由は、水陸機動団司令部がある相浦(あいのうら)駐屯地に近接し、滑走路が2,000メートルと十分な長さを持ち、周囲に市街地が少なく海に面しているため、環境への影響が比較的小さいことにありました。当初の計画では、2018年度末から2019年にかけての初号機納入にあわせて佐賀空港に駐屯地を開設し、配備を開始する予定でした。

 しかし、この計画は大きな障壁に直面することになります。

陸自唯一の水陸両用部隊である、水陸機動団。長崎県の相浦駐屯地に司令部があり、隷下部隊も九州北部に集められている。写真:水陸機動団 公式X

佐賀配備計画の停滞──公害防止協定の壁(2014〜2018年)

 最大の障壁となったのは、1990年3月に佐賀県と当時の地元8漁協(後に佐賀県有明海漁業協同組合に統合)との間で結ばれた「佐賀空港建設に関する公害防止協定書」でした。その付属資料に「(佐賀空港を)自衛隊と共用しない」と明記されていたのです。この協定の存在が、防衛省の配備計画に対する最も直接的かつ強力な反対理由となりました。

 さらに、オスプレイの安全性に対する懸念、騒音の問題、環境への影響(特に漁業)、空港の軍事利用への反対といった様々な不安の声が上がりました。こうした状況を踏まえた佐賀県有明海漁協が「自衛隊との共用」を認めない姿勢を崩さなかったことが、この計画を大きく停滞させる要因となりました。

 そうした中、2016年12月13日に沖縄県名護市沖で発生した米海兵隊所属MV-22Bオスプレイの不時着水事故は、パイロットの人的ミスによるものでしたが、一歩間違えば住民の生命や財産を脅かしかねない重大な事故でした。この事故は、佐賀県民に強い不安と憤りを与え、佐賀空港へのオスプレイ配備に対する反対運動がさらに勢いを増すきっかけとなりました。

訓練の始まり──米国での要員育成(2016〜2020年)

 一方、陸自はオスプレイ導入に向けた準備を着実に進めていました。オスプレイは全く新しいカテゴリーの航空機であるため、パイロット、クルー・チーフ(機上で搭載機器の作動状態の監視などを行う搭乗員)および整備員の新たな養成が必要でした。このため、2016年から2019年にかけて、その中核となる要員が米国に留学し、それぞれの職務に応じた米海兵隊の教育課程を修了しました。

 さらに、配備先の準備が整わなかったことを受け、2019年3月から2020年5月にかけて、ノースカロライナ州のニューリバー海兵隊航空基地において、米海兵隊の協力のもと陸自が調達した最初のオスプレイ5機を使った教育訓練が実施されました。この訓練には、パイロット10名、クルー・チーフ18名、整備員40名の合計約70名の隊員が参加しました。

 訓練内容には、飛行訓練(米海兵隊機との編隊飛行を含む)や実機を用いた整備訓練などが含まれ、日米の相互運用性の向上も図られました。この米国での訓練は、日本国内でオスプレイのパイロットなどを養成する教官要員を育成する上でも重要な役割を果たしました。

日本国内に配備先がなかったため、2020年5月まで米国ニューリバー海兵隊航空基地で継続された、陸自オスプレイ要員の教育訓練。写真:アメリカ海兵隊
ノースカロライナ州ニューリバー海兵隊航空基地 地図作成:編集部

暫定配備先(木更津駐屯地)の確保と5年期限の設定(2015〜2020年)

 佐賀での調整が長期化する見通しが明らかになる中、防衛省は機体の受け入れ先を確保する必要に迫られました。2019年12月、防衛省は千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地をオスプレイの暫定的な拠点とすることに決定しました。

 暫定配備先に木更津駐屯地が選ばれた理由には、オスプレイの運用に必要な滑走路長(約1,500m)を有していること、駐屯地内にオスプレイ17機を配置するための十分な地積があること、既存施設(格納庫等)が利用でき、運用基盤を整えやすいことなどがありました。

 木更津市と防衛省の間で取り交わされた合意文書には、暫定配備の期間を「5年以内を目標」とすることが明記されました。これは暫定配備がなし崩し的に恒久配備になるのを避けるための措置であり、市は配備開始後もこの合意の遵守を繰り返し要請し続けました。

恒久配備先(佐賀駐屯地)の準備(2018〜2023年)

 佐賀空港へのオスプレイの配備について、反対派は、「佐賀空港への自衛隊オスプレイ等配備反対地域住民の会」といった団体を中心に、抗議集会、デモ、署名活動を展開し、公害防止協定違反への懸念、安全性や騒音、漁業への影響などを訴えました。メディアもこうした反対派の活動や、オスプレイの事故(特に2023年11月の屋久島沖での米軍CV-22墜落事故)を大きく報じ、計画への逆風を強めました。

 このような状況を打開するため、防衛省は、地元説明会や協議を重ね、安全性や環境対策について丁寧な説明に努めました。また、経済団体や防衛関連団体は、配備による地域経済への貢献や国防上の必要性を訴え、佐賀県や佐賀市、県有明海漁協へ要望書や陳情書を提出しました。2021年には「オスプレイ誘致推進佐賀県民会議」が設立され、県民有志による賛成の立場からの情報発信やイベントが行われました。

 転機が訪れたのは、2018年8月に山口祥義(やまぐち・よしのり)佐賀県知事が配備計画の受入れを表明したことでした。「国防上の問題」であり「負担は国全体で分担」すべきとの認識に基づく判断でした。これを受け、県有明海漁協との公害防止協定付属資料の見直し協議が本格化しました。

 2022年11月、県有明海漁協は「苦渋の選択」としながらも、協定付属資料の見直しを受け入れるという重大な決断を下しました。続いて2023年5月には、主に県漁協南川副支所の組合員で構成される地権者協議会が、駐屯地建設に必要な用地を防衛省に売却することを決定しました。こうして、佐賀空港への配備計画が推進される上での最大の障壁が取り除かれ、2023年6月頃からは佐賀駐屯地の建設工事が開始されました。

輸送航空隊の新編と木更津駐屯地への暫定配備──5年期限のカウントダウン開始(2020〜2025年)

2020年5月8日、民間輸送船で山口県の米海兵隊岩国基地に陸揚げされた陸自オスプレイ。写真:アメリカ海兵隊
2020年7月10日、千葉県の木更津駐屯地に到着した陸自オスプレイ。最初に到着したのは91705号機。写真:菊池雅之

 2020年3月26日、陸自オスプレイの運用を担う「輸送航空隊」が木更津駐屯地に新編されました。輸送航空隊の主要任務は、高速かつ長距離飛行が可能なオスプレイの特性を活かし、島嶼部などにおける各種作戦での部隊機動と物資輸送を迅速に行うことです。

 2020年5月、陸自向けの最初の機体が岩国基地に到着し、同年7月10日に木更津駐屯地へ移動、陸自への引き渡しが行われました。この時点をもってオスプレイの暫定配備が開始され、その終了期限は2025年7月9日を目標とすることになりました。以降、機体は順次納入され、2024年6月19日には17機目が配備されて予定していたすべての機体が揃いました。

 木更津での暫定配備期間は、輸送航空隊にとって、オスプレイ運用部隊としての基礎を築く重要なフェーズとなりました。航空機がその能力を発揮するためには、パイロットやクルー・チーフ、整備員などの個々の能力も重要ですが、指揮官の統率のもと、人事を整え、情報を収集し、作戦を立案し、兵站を維持するといった部隊としての能力の向上(チームワーク)が不可欠なのです。

 しかし、木更津への暫定配備には、大きな制約も伴っていました。最も重要な問題は地理的な離隔でした。オスプレイの運用目的の一つである水陸機動団との連携を考えると、長崎県佐世保市に司令部を置く同部隊から千葉県の木更津は遠く離れており、訓練や有事における迅速な連携が困難でした。

屋久島事故と飛行制限(2023〜2024年)

 2023年11月29日、米空軍横田基地所属のCV-22Bが、日本の屋久島沖に墜落し、乗員8名全員が死亡するという重大事故が発生しました。この事故を受け、米軍は保有する全てのオスプレイ派生型機(MV-22、CV-22、CMV-22)について、全機の飛行停止を指示しました。日本政府も、陸上自衛隊のオスプレイ全機の飛行を停止しました。この全面的な飛行停止は3ヶ月以上に及びました。

 事故の原因は、プロップローター・ギアボックス内部の部品に致命的な不具合が発生したことでした。安全対策として、プロップローター・ギアボックスのより詳細な点検・検査手順の導入、点検頻度の増加、異常発生時の搭乗員の対処手順の更新、運用計画の見直しなどが実施されました。

 全機飛行停止措置は2024年3月8日に解除され、2024年3月14日以降、必要な安全対策と点検が完了した機体から段階的に飛行再開が進められました。ただし、搭載しているプロップローター・ギアボックスが一定の飛行時間に到達するまでの間は、不具合発生時に所定の飛行時間で飛行場に着陸できるように飛行範囲を限定するなどの運用上の制限が続けられています。

 こうした制約の中でも、輸送航空隊は、可能な範囲内での訓練を継続しました。2024年10月には沖縄県与那国駐屯地での訓練中に機体の一部が損傷する事故も経験しましたが、その後も着実に練度を向上させてきました。

→(参考)鹿児島県 公式サイト|屋久島沖での横田基地所属CV-22オスプレイの墜落について
→(参考)AVIATION ASSET|アメリカ空軍航空機事故調査委員会報告書(CV-22B, 機番:10-0054)事実の概要(部分訳)

佐賀駐屯地への移駐決定──期限の約束を遵守(2025年)

佐賀市が公表した、輸送航空隊とオスプレイの移駐スケジュール。機体の移動は、8月中旬をめどに段階的に実施される。出典:佐賀市 公式サイト

 2025年4月15日、防衛省(九州防衛局)は、佐賀駐屯地の開設と輸送航空隊の移駐に関する具体的な計画を発表しました。その計画によると、2025年6月末までに主要な施設(隊庁舎、格納庫等)の建設工事を完了し、2025年7月9日に佐賀駐屯地を開設、同日に輸送航空隊が木更津駐屯地から移駐します。その後、8月中旬にかけて、17機のオスプレイが段階的に佐賀駐屯地に移駐する予定です。

 移駐完了までに1か月以上の期間を要する理由について、防衛省は「飛行の安全確保が最優先であり、機体の整備状況や天候などを総合的に判断しながら順次進めていく必要がある」と説明しています。また、暫定配備の終了期限である7月9日に輸送航空隊が移駐するので、暫定配備期間に関する木更津市との合意は、かろうじて守られることになります(木更津駐屯地に残っている機体も、佐賀駐屯地に所在する輸送航空隊の保有機なので、佐賀駐屯地に配備されていることになるからです)。

 移駐完了時点での佐賀駐屯地の隊員数は420名程度になると見込まれており、駐屯地周辺の経済活性化や人口増加などの効果も期待できます。

正式配備の意義──能力の最大化へ

 佐賀駐屯地への移駐による最大のメリットは、水陸機動団との連携の強化です。佐賀駐屯地から水陸機動団の司令部がある相浦駐屯地まで約60キロメートル、オスプレイだと15分ほど、車でも約1時間の距離です。これにより、水陸機動団の部隊展開をより迅速に支援することが可能となります。

 また、南西諸島へのアクセスも良好であり、島嶼防衛の最前線となる地域への展開時間も大幅に短縮されます。これは、オスプレイが持つ長距離飛行能力と高速性という特性を、より効果的に活用できることを意味します。

 さらに、恒久的な駐屯地を持つことで、専用の施設・設備を整備し、整備体制を確立することができます。駐機場(エプロン)、格納庫、隊庁舎、燃料タンク施設、弾薬庫、整備施設、水処理施設など、オスプレイの運用に最適化された施設が整備されることで、より効率的な運用が可能となります。

 なお、機体の運用上の制限についても、米国において新型のプロップローター・ギアボックスの開発が進められており、2026年には米軍機への搭載が開始されると報じられています。陸自機への搭載も、そう遠くない時期に開始され、制限が解除されることが見込まれます。

佐賀空港と相浦駐屯地、そして南西諸島の位置関係。オスプレイによる南西諸島の防衛強化が大きく進展する。地図作成:編集部

結び──10年越しの恒久配備実現

 オスプレイの佐賀駐屯地への移駐は、輸送航空隊が本領を発揮する新たなステージの始まりを意味します。様々な立場の関係者が多くの困難を乗り越えることで実現したこの計画は、国と地方自治体、防衛と地域社会、技術革新と伝統のバランスを模索した一つの事例として、今後の防衛基盤整備の貴重な先例になるはずです。

 陸自オスプレイが佐賀の空に飛び立つ日が、ついに目前に迫っています。

陸自V-22オスプレイ配備の歩み:2013〜2025年

年月/時期出来事
2013年12月中期防衛力整備計画の閣議決定、V-22オスプレイ17機の導入を正式決定
2014年頃防衛省が佐賀空港を配備先として選定
2016年陸自V-22要員の米国での育成開始
2016年12月13日沖縄県名護市沖に米海兵隊MV-22Bが不時着水(操縦ミス)
2018年8月山口祥義佐賀県知事が配備計画受入れを表明
2019年3月〜2020年5月米国での集中教育訓練実施(陸自隊員約70名参加)
2020年3月26日木更津駐屯地で輸送航空隊新編
2020年7月10日初号機木更津駐屯地に到着、暫定配備開始
2022年3月18日ノルウェーでNATO演習中に米海兵隊MV-22Bが墜落(操縦ミス)
2022年6月8日カリフォルニア州で米海兵隊のMV-22Bが墜落(器材の不具合)
2022年11月県有明海漁協が公害防止協定付属資料の見直しを容認
2023年5月地権者協議会が駐屯地用地の防衛省への売却を決定
2023年6月頃佐賀駐屯地の建設工事着工
2023年8月23日オーストラリア北部の島で米海兵隊MV-22Bが墜落(操縦ミス)
2023年11月29日米空軍CV-22Bの屋久島沖墜落事故発生(全V-22飛行停止へ)
2024年3月8日V-22の飛行再開(運用制限付き)
2024年10月27日与那国駐屯地で陸自V-22が機体の一部を損傷(操縦ミス)
2025年4月15日防衛省が佐賀駐屯地への移駐スケジュールを正式発表
2025年6月末佐賀駐屯地の主要施設完成予定
2025年7月9日佐賀駐屯地開設、輸送航空隊移駐開始予定
2025年8月中旬全17機の佐賀駐屯地への移駐完了予定

佐賀駐屯地 関連資料

佐賀駐屯地配置図 ※水色の線は水路 出典:陸上自衛隊V-22オスプレイ等の佐賀空港利用について
佐賀駐屯地配置図 出典:佐賀駐屯地(仮称)の整備に係る工事について
佐賀駐屯地全体図 出典:佐賀駐屯地(仮称)に係る全体事業計画について

→陸上自衛隊V-22オスプレイ等の佐賀空港利用について
→佐賀駐屯地(仮称)の整備に係る工事について
→佐賀駐屯地(仮称)に係る全体事業計画について

影本賢治KAGEMOTO Kenji

昭和37(1962)年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。アメリカ陸軍や関連団体が発信する航空関連の様々な情報を翻訳掲載するウェブサイト『AVIATION ASSETS』の管理人。在職中は主に航空機の補給整備に関する業務に携わった。翻訳書に『ドリーム・マシーン』『イーグル・クロー作戦』。

https://aviation-assets.info/

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