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《ニュース解説》オスプレイ配備と佐賀:反対派と賛成派の論点

  • ニュース解説

2025-7-8 11:12

陸自オスプレイの配備を巡り、反対派と賛成派が10年以上対立する佐賀県。配備を目前にした先月と今月、元陸上自衛官の影本賢治が、両者の主張を聞くために現地に赴きました。双方の論点をまとめます。影本賢治 KAGEMOTO Kenji

陸上自衛隊が17機を運用する、ティルトローター輸送機V-22オスプレイ。2020年7月10日から5年間、千葉県の木更津駐屯地に暫定配備されてきた 写真:鈴崎利治

 陸上自衛隊V-22オスプレイの佐賀駐屯地(佐賀県佐賀市)への配備は、計画浮上から10年以上にわたり、地域社会を揺るがしてきました。国の安全保障を巡る期待と、生活の平和を脅かされるという懸念が今も激しく交錯しています。

 私は、配備直前の2025年6月から7月にかけて開催された二つのイベントに参加しました。反対派の「オスプレイ反対配備直前決起集会」と賛成派の「佐賀駐屯地開設記念防衛シンポジウム」です。私がそこで見聞きし、感じたことを元に、双方の主張の違いを整理し、共存への道筋を考察してみたいと思います。

約400人が参加した「オスプレイ反対配備直前決起集会」で挨拶する〈オスプレイ反対住民の会〉会長の古賀初次氏 写真:影本賢治
約150人が参加した「佐賀駐屯地開設記念防衛シンポジウム」で挨拶する〈オスプレイ誘致推進佐賀県民会議〉会長の宮原知司氏 写真:村岡康孝

1 双方の主張の違い

賛成派と反対派は、以下の4つの論点について、全く異なる主張をしています。

1-1 オスプレイの安全性

- 反対派の主張:墜落の危険性と「欠陥機」への不信
 反対派は、オスプレイの機体構造そのものが抱える危険性を最大の懸念としています。弁護団長の東島浩幸(ひがしじま・ひろゆき)弁護士は、2023年11月の屋久島沖墜落事故に言及し、「原因が不明である以上、有効な対策は打ちようがない」として、オスプレイは「欠陥機」であると断じています。
 ジャーナリストの吉田敏浩(よしだ・としひろ)氏も、「米軍以外で使っているのは日本だけ」と指摘し、その危険性が国際的にも認知されているとの見方を示しています。

- 賛成派の主張:安全性は確保可能、「認知戦」による誤解
 賛成派はオスプレイの危険性を「誤解」や「認知戦」の結果であると反論しています。元西部方面総監の本松敬史(もとまつ・たかし)氏は、オスプレイの事故が多発して問題化したのは、導入初期の段階のことであり、現在は少なくとも他の機体より事故が多いわけではないと分析しています。
 そのうえで、陸上自衛隊が配備する機体については、
①米軍によるソフトウェアのアップデート
②自衛隊パイロットの技量
③徹底した予防整備
 により、「安全性は十分に確保されている」と断言しています。

1-2 台湾有事の可能性

- 反対派の主張:「煽られた危機」で、戦争誘発の危険性あり
 反対派は、政府が煽る「台湾有事」論に懐疑的です。吉田氏は、「中国政府は基本的に平和的統一を掲げている」ことなどから、中国が直ちに武力侵攻に踏み切る可能性は低いと見ています。
 そのうえで、日本の政治家による「台湾有事は日本有事」発言が、日本を戦争に巻き込むことに繋がりかねないと警鐘を鳴らしています。

- 賛成派の主張:「今そこにある危機」であり、備えに猶予なし
 賛成派は極めて切迫した危機認識を持っています。元陸上幕僚長の岩田清文(いわた・きよふみ)氏は、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が2027年までに台湾を占領できる軍事力の構築を目指し、「数日での短期決戦を狙っている」のではないかと危惧しています。
 この「今そこにある危機」に対処するため、防衛力の抜本的強化は待ったなしであり、オスプレイ配備はその中核をなす具体的な一手と主張しています。

1-3 佐賀が攻撃対象となる可能性

- 反対派の主張:基地が戦禍を呼び込み、「米国の捨て石」になる
 反対派にとって自衛隊基地の存在は、戦禍を呼び込む「的」に他なりません。吉田氏は、「オスプレイによって佐賀空港が軍事要塞化されれば、敵の攻撃対象になり、周辺住民も戦火に巻き込まれる」と強調しています。
 さらに、佐賀のオスプレイ部隊が米軍の作戦に組み込まれている現実を指摘し、佐賀が米国の対中戦略の駒として利用される「捨て石」にされかねないと懸念しています。

- 賛成派の主張:「拒否的抑止」で攻撃を未然に防ぐ
 賛成派は、佐賀が攻撃対象となる可能性を「抑止力」で捉え直しています。本松氏は、「やられたらやりかえすような、懲罰的な抑止」ではなく、「やっても無駄だと思わせるような、拒否的な抑止」が必要と説明し、岩田氏も「習近平にやっても勝てないと思わせる意志と能力」の重要性を説いています。
 佐賀駐屯地は、この「戦う能力」を具体的に示す象徴であり、基地があるからこそ相手は攻撃を躊躇し、戦争が未然に防がれるとしています。

1-4 佐賀県への貢献の可能性

- 反対派の主張:宝の海を壊し、交付金で県民を愚弄するな
 反対派は、配備がもたらす経済的メリットに極めて批判的です。オスプレイ反対住民の会会長の古賀初次(こが・はつじ)氏は、駐屯地建設が有明海の環境を破壊し、基幹産業である海苔漁業に深刻な打撃を与えていると訴えています。
 また、交付金についても「佐賀県民を馬鹿にしている」として、目先の金で地域の未来を売り渡すものと強く批判しています。

- 賛成派の主張:地域活性化と抑止力を担う誇り
 賛成派は、駐屯地開設が地域に多岐にわたる恩恵をもたらすと主張しています。本松氏は、与那国島の例として
①隊員とその家族の移住による税増収
②消費による地域経済活性化
③少子化の歯止め
④祭事参加による地元活性化
⑤基地対策事業によるインフラ整備
 といった地域貢献効果が見込まれると述べています。
 オスプレイ誘致推進佐賀県民会議会長の宮原知司(みやはら・ともじ)氏は、「日本の南西をしっかりと守る抑止力となるのは、我々佐賀県民の大きな誇り」として、経済的メリットを超えた価値があることを強調しています。

2 主張に違いが生じる理由

 なぜこれほど主張が食い違うのでしょうか。私は、その理由が「戦争」をどう捉えるかという認識の違いにあると考えます。
 反対派は、「戦争」を「やってはならないこと」と捉えています。「やってはならないこと」を準備してはならないと考えるがゆえに、オスプレイは危険、台湾有事はありえない、佐賀が攻撃対象になる、佐賀への貢献はないと決めつけてしまうのです。
 一方、賛成派は、「戦争」を「あってはならないこと」と捉えています。「あってはならないこと」は抑止しなければならないと考えるがゆえに、オスプレイは安全、台湾有事はある、佐賀への攻撃は防げる、佐賀への貢献があると信じてしまうのです。
 つまり、「戦争」の捉え方の違いが、視点や信頼する情報、優先する価値観の違いをもたらし、違う判断を生み出しているのです。本当はどうなのか誰にも断言できないことなのに、反対派と賛成派の双方が、それぞれ異なる判断をまるで認知バイアスのように決めつけ、信じ込んでしまっているのではないでしょうか。

3 異なる主張を持つ住民が共存するための手立て

 この深い溝を埋め、異なる意見を持つ住民が同じ地域で、互いに尊重しあいながら生きていくためには、何が必要なのでしょうか。

 オスプレイの歴史書『ドリーム・マシーン』の著者リチャード・ウィッテルは、「オスプレイに関しては、信仰者と非信仰者がいて、そのどちらもが相手のことを理解しようとすることが、ほとんどなかった」と述べています。佐賀はまさにこの状態に陥っているのかもしれません。
 相手を理解しようとするためには、相手の主張に耳を傾けるようお互いが努力するしかありません。幸いなことに、今回私が参加した二つのイベントは、どちらも「日の丸」を掲げた会場で行われていました。反対派も賛成派も、日本を愛し、日本の平和を守りたいと願っている人たちであることに変わりはありません。
「戦争」の捉え方という、いわば宗教的なことに起因する対立が完全に解消されることは恐らくないでしょう。しかし、共存への道筋は残されているはずです。オスプレイが我々に与える試練は、航空技術だけではないのです。

影本賢治KAGEMOTO Kenji

昭和37(1962)年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。アメリカ陸軍や関連団体が発信する航空関連の様々な情報を翻訳掲載するウェブサイト『AVIATION ASSETS』の管理人。在職中は主に航空機の補給整備に関する業務に携わった。翻訳書に『ドリーム・マシーン』『イーグル・クロー作戦』。

https://aviation-assets.info/

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