《ニュース解説》陸自オスプレイが木更津から佐賀へ 7月9日に正式配備
- ニュース解説
2025-4-22 14:00
2025年7月9日、陸上自衛隊のティルトローター輸送機V-22オスプレイが、暫定配備されている千葉県の木更津駐屯地から、佐賀県に新たに開設される「陸上自衛隊 佐賀駐屯地」に移駐し、正式配備されます。2015年度の調達開始から、まる10年。陸自オスプレイのこれまでの道のりを、元 陸上自衛官の影本賢治が解説します。
輸送航空隊の新編と木更津駐屯地への暫定配備──5年期限のカウントダウン開始(2020〜2025年)
2020年3月26日、陸自オスプレイの運用を担う「輸送航空隊」が木更津駐屯地に新編されました。輸送航空隊の主要任務は、高速かつ長距離飛行が可能なオスプレイの特性を活かし、島嶼部などにおける各種作戦での部隊機動と物資輸送を迅速に行うことです。
2020年5月、陸自向けの最初の機体が岩国基地に到着し、同年7月10日に木更津駐屯地へ移動、陸自への引き渡しが行われました。この時点をもってオスプレイの暫定配備が開始され、その終了期限は2025年7月9日を目標とすることになりました。以降、機体は順次納入され、2024年6月19日には17機目が配備されて予定していたすべての機体が揃いました。
木更津での暫定配備期間は、輸送航空隊にとって、オスプレイ運用部隊としての基礎を築く重要なフェーズとなりました。航空機がその能力を発揮するためには、パイロットやクルー・チーフ、整備員などの個々の能力も重要ですが、指揮官の統率のもと、人事を整え、情報を収集し、作戦を立案し、兵站を維持するといった部隊としての能力の向上(チームワーク)が不可欠なのです。
しかし、木更津への暫定配備には、大きな制約も伴っていました。最も重要な問題は地理的な離隔でした。オスプレイの運用目的の一つである水陸機動団との連携を考えると、長崎県佐世保市に司令部を置く同部隊から千葉県の木更津は遠く離れており、訓練や有事における迅速な連携が困難でした。
屋久島事故と飛行制限(2023〜2024年)
2023年11月29日、米空軍横田基地所属のCV-22Bが、日本の屋久島沖に墜落し、乗員8名全員が死亡するという重大事故が発生しました。この事故を受け、米軍は保有する全てのオスプレイ派生型機(MV-22、CV-22、CMV-22)について、全機の飛行停止を指示しました。日本政府も、陸上自衛隊のオスプレイ全機の飛行を停止しました。この全面的な飛行停止は3ヶ月以上に及びました。
事故の原因は、プロップローター・ギアボックス内部の部品に致命的な不具合が発生したことでした。安全対策として、プロップローター・ギアボックスのより詳細な点検・検査手順の導入、点検頻度の増加、異常発生時の搭乗員の対処手順の更新、運用計画の見直しなどが実施されました。
全機飛行停止措置は2024年3月8日に解除され、2024年3月14日以降、必要な安全対策と点検が完了した機体から段階的に飛行再開が進められました。ただし、搭載しているプロップローター・ギアボックスが一定の飛行時間に到達するまでの間は、不具合発生時に所定の飛行時間で飛行場に着陸できるように飛行範囲を限定するなどの運用上の制限が続けられています。
こうした制約の中でも、輸送航空隊は、可能な範囲内での訓練を継続しました。2024年10月には沖縄県与那国駐屯地での訓練中に機体の一部が損傷する事故も経験しましたが、その後も着実に練度を向上させてきました。
→(参考)鹿児島県 公式サイト|屋久島沖での横田基地所属CV-22オスプレイの墜落について
→(参考)AVIATION ASSET|アメリカ空軍航空機事故調査委員会報告書(CV-22B, 機番:10-0054)事実の概要(部分訳)
佐賀駐屯地への移駐決定──期限の約束を遵守(2025年)

2025年4月15日、防衛省(九州防衛局)は、佐賀駐屯地の開設と輸送航空隊の移駐に関する具体的な計画を発表しました。その計画によると、2025年6月末までに主要な施設(隊庁舎、格納庫等)の建設工事を完了し、2025年7月9日に佐賀駐屯地を開設、同日に輸送航空隊が木更津駐屯地から移駐します。その後、8月中旬にかけて、17機のオスプレイが段階的に佐賀駐屯地に移駐する予定です。
移駐完了までに1か月以上の期間を要する理由について、防衛省は「飛行の安全確保が最優先であり、機体の整備状況や天候などを総合的に判断しながら順次進めていく必要がある」と説明しています。また、暫定配備の終了期限である7月9日に輸送航空隊が移駐するので、暫定配備期間に関する木更津市との合意は、かろうじて守られることになります(木更津駐屯地に残っている機体も、佐賀駐屯地に所在する輸送航空隊の保有機なので、佐賀駐屯地に配備されていることになるからです)。
移駐完了時点での佐賀駐屯地の隊員数は420名程度になると見込まれており、駐屯地周辺の経済活性化や人口増加などの効果も期待できます。
正式配備の意義──能力の最大化へ
佐賀駐屯地への移駐による最大のメリットは、水陸機動団との連携の強化です。佐賀駐屯地から水陸機動団の司令部がある相浦駐屯地まで約60キロメートル、オスプレイだと15分ほど、車でも約1時間の距離です。これにより、水陸機動団の部隊展開をより迅速に支援することが可能となります。
また、南西諸島へのアクセスも良好であり、島嶼防衛の最前線となる地域への展開時間も大幅に短縮されます。これは、オスプレイが持つ長距離飛行能力と高速性という特性を、より効果的に活用できることを意味します。
さらに、恒久的な駐屯地を持つことで、専用の施設・設備を整備し、整備体制を確立することができます。駐機場(エプロン)、格納庫、隊庁舎、燃料タンク施設、弾薬庫、整備施設、水処理施設など、オスプレイの運用に最適化された施設が整備されることで、より効率的な運用が可能となります。
なお、機体の運用上の制限についても、米国において新型のプロップローター・ギアボックスの開発が進められており、2026年には米軍機への搭載が開始されると報じられています。陸自機への搭載も、そう遠くない時期に開始され、制限が解除されることが見込まれます。
結び──10年越しの恒久配備実現
オスプレイの佐賀駐屯地への移駐は、輸送航空隊が本領を発揮する新たなステージの始まりを意味します。様々な立場の関係者が多くの困難を乗り越えることで実現したこの計画は、国と地方自治体、防衛と地域社会、技術革新と伝統のバランスを模索した一つの事例として、今後の防衛基盤整備の貴重な先例になるはずです。
陸自オスプレイが佐賀の空に飛び立つ日が、ついに目前に迫っています。
陸自V-22オスプレイ配備の歩み:2013〜2025年
年月/時期 | 出来事 |
---|---|
2013年12月 | 中期防衛力整備計画の閣議決定、V-22オスプレイ17機の導入を正式決定 |
2014年頃 | 防衛省が佐賀空港を配備先として選定 |
2016年 | 陸自V-22要員の米国での育成開始 |
2016年12月13日 | 沖縄県名護市沖に米海兵隊MV-22Bが不時着水(操縦ミス) |
2018年8月 | 山口祥義佐賀県知事が配備計画受入れを表明 |
2019年3月〜2020年5月 | 米国での集中教育訓練実施(陸自隊員約70名参加) |
2020年3月26日 | 木更津駐屯地で輸送航空隊新編 |
2020年7月10日 | 初号機木更津駐屯地に到着、暫定配備開始 |
2022年3月18日 | ノルウェーでNATO演習中に米海兵隊MV-22Bが墜落(操縦ミス) |
2022年6月8日 | カリフォルニア州で米海兵隊のMV-22Bが墜落(器材の不具合) |
2022年11月 | 県有明海漁協が公害防止協定付属資料の見直しを容認 |
2023年5月 | 地権者協議会が駐屯地用地の防衛省への売却を決定 |
2023年6月頃 | 佐賀駐屯地の建設工事着工 |
2023年8月23日 | オーストラリア北部の島で米海兵隊MV-22Bが墜落(操縦ミス) |
2023年11月29日 | 米空軍CV-22Bの屋久島沖墜落事故発生(全V-22飛行停止へ) |
2024年3月8日 | V-22の飛行再開(運用制限付き) |
2024年10月27日 | 与那国駐屯地で陸自V-22が機体の一部を損傷(操縦ミス) |
2025年4月15日 | 防衛省が佐賀駐屯地への移駐スケジュールを正式発表 |
2025年6月末 | 佐賀駐屯地の主要施設完成予定 |
2025年7月9日 | 佐賀駐屯地開設、輸送航空隊移駐開始予定 |
2025年8月中旬 | 全17機の佐賀駐屯地への移駐完了予定 |
佐賀駐屯地 関連資料



→陸上自衛隊V-22オスプレイ等の佐賀空港利用について
→佐賀駐屯地(仮称)の整備に係る工事について
→佐賀駐屯地(仮称)に係る全体事業計画について
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