《ニュース解説》陸自が導入を急ぐ「小型攻撃用UAV」とは?
- ニュース解説
2025-1-26 11:55
防衛省の令和7年度予算案に、“空中を遊弋(ゆうよく)して車両等を迅速に撃破可能な小型攻撃用UAV”として盛り込まれた「小型攻撃用UAV」(32億円)。計画の全貌と有力候補機種について、元陸上自衛官の影本賢治氏が解説します。
防衛省の令和7(2025)年度予算案では、陸上自衛隊の「小型攻撃用UAV」の導入に32億円が割り当てられています。UAVとはUnmanned Aerial Vehicleの略で、無人機のことです。防衛省は偵察用のUAVを何機種か運用していますが、攻撃用のUAVの導入は初めてです。
今回の予算で導入するのは自爆型のもので、その機数は310機、時期は令和8(2026)年度とする方針を固めました。
「小型攻撃用UAV」は緊急性の高い事業
「小型攻撃用UAV」の導入準備は、令和5(2023)年に防衛省が公示した「攻撃に用いる飛翔タイプの小型無人プラットフォーム等に関する情報・提案要求書」で始まりました。
その要求書によると、小型攻撃用UAVは「弾頭を有して目標に突入する飛翔タイプの無人プラットフォームや爆発物を搭載・投下して目標を無力化させる無人航空機等」と定義されています。つまり、小型攻撃用UAVには「自爆型」と呼ばれる使い捨ての機体だけではなく、非自爆型で再利用が可能な「多用途/攻撃用UAV」も含まれています。
導入する小型攻撃用UAVはⅠ型からⅢ型までの3つの種別に区分され、そのスケジュールが定められています。その期間が2年から3年と非常に短くなっているところに、この事業の緊急性の高さが見て取れます(別事業である「火力誘導用UAV」は約5年間)。
そして、令和8(2026)年度に導入するのは、他の種別よりも1年早く準備を完了する予定の「Ⅱ型」だと考えられます。
導入する機種の決定は、受注企業を広く募ったうえで最も条件の良い企業を選ぶ「一般競争入札」により行われることとなっています。その準備として、試作機や実機を用いて実現性、有用性、費用対効果などを確認する「運用実証」が行われてきました。
運用実証機は12機種
令和5年(2023年)以降、「運用実証」のために調達する(可能性がある)と報道されたUAVは12機種に及びます。ただし、そのすべてについて調達されたかどうかは分かりませんし、これ以外にも調達された機種があるかも知れません。当然のことながらその結果も不明ですが、導入の方針を固めたということは、必要な事項の確認を完了したか、その見込みがあるということでしょう。
重視されるのは価格か? 技術か?
どの機種が導入されるかは「一般競争入札」で決定されるため、予測することが極めて困難です。運用実証が行われていない機種が選ばれることも、あり得ないことではありません。
ただし今回の入札は、令和7(2025)年に導入準備を完了すると計画されている「Ⅱ型」の機種が対象になるはずです。また、「自爆型」であるとの報道から「多用途/攻撃用UAV」に分類される機種ではなさそうです。
なお、一般競争入札とは言っても、「総合評価落札方式」が用いられる可能性があるので、必ずしも一番価格の安い機種になるとは限りません。「総合評価落札方式」とは、価格以外の技術的要素についても提案を受け、それらの評価を価格に加えたうえで競争する方式です。価格よりも技術の差が成果に影響を及ぼす装備品については、価格のみで競争する「最低価格落札方式」に代えて、この方式を適用することが認められています。
小型攻撃型UAVの入札において、どのような技術的要素が評価されるのかについても情報はありません。ただし、ウクライナ戦争では、敵の電波妨害などの「電子攻撃」によりUAVが正常に飛行できなくなるケースが少なくありませんでした。その評価にあたっては、敵の電子攻撃に対する「電子防御」能力を有しているかどうかが重要なチェックポイントになりそうです。
注目の機種はUビジョンの「ヒーロー120」
運用実証が行われ、Ⅱ型に該当すると考えられる4機種の中で筆者が最も注目するのは、アメリカ海兵隊に舟艇搭載用などとして採用された「ヒーロー120」です。
自爆型の小型攻撃用UAVであるヒーロー120は、キャニスターと呼ばれる容器(発射装置)の中に翼を折りたたんだ状態で格納され、空気圧で発射されます。発射されると翼が開き、あらかじめプログラミングされた経路上を電気モーターを動力として飛行します。
特徴的な十字型の翼は、トップ・アタック(装甲車の弱点である上面を攻撃すること)に必要な精密操縦を行うのに適しています。操作員は搭載された赤外線カメラで目標を確認しながら攻撃の方向などを選択できますし、いつでも攻撃を中止できるようになっています。
ただし、重量が18キログラムとかなり重い(84mm無反動砲M4は約7キログラム、81mm迫撃砲L16の砲身は約13キログラム)ため、これを背負った状態で長距離を移動するのは困難です。それでも、ヘリコプターや車両などで移動した後、敵に発見されにくい場所まで徒歩で移動してから発射するというような運用は可能でしょう。
ちなみに「我が国の防衛と予算-令和5年度概算要求の概要-」の10ページには、ヒーロー120の上位機種である「ヒーロー400」と思われる写真が添付されており、それ以来、防衛省の資料には、十字型の翼を持った無人機のイメージ図がたびたび描かれています。
国産UAVが採用される可能性も
運用実証が行われたと考えられる機体の中で唯一の国産機が、SUBARUの「VTOL機」です。VTOL(ヴイトール)とは Vertical Take-Off and Landing の略で、「垂直離着陸」という意味です。
SUBARUはこれまで陸上自衛隊向けに、垂直離着陸型のUAVである「遠隔操縦観測システム FFOS」と「遠隔操縦偵察システム FFRS」を開発・製造してきた企業です。提案しているUAVも機種名が「VTOL機」なので、当然、垂直離着陸機でしょう。それ以外の諸元や性能に関する情報はなく、Ⅰ型からⅢ型のどの種別なのかも判断できません。ただし、「多用途/攻撃用UAV」であり、自爆型UAVに該当しないことから、令和8(2026)年度に導入されることはないようです。
装備品を国外からの供給に依存せずに国内で開発や生産することが重要なのは、兵器の調達に苦慮しているウクライナの状況からも明らかです。ただし、価格が高額になり、開発に長期間を要するというデメリットもあります。
ちなみに、SUBARUからはその航空機製造技術を活かしたスノーボードも発売されています。その製品名はなんと「VTOL」。そこには、垂直離着陸を追求し続ける同社の誇りと自信が表れている気がします。
国産の「VTOL機」が、並み居る外国勢を退けて、今後導入されるということはもちろんあり得ますし、可能な限りそうであるべきでしょう。
(以上)
Ranking読まれている記事
- 24時間
- 1週間
- 1ヶ月
- 《ニュース解説》陸自が導入を急ぐ「小型攻撃用UAV」とは?
- 人事発令 1月21日付け、1佐人事(陸自1名)
- 《ニュース解説》陸自が導入を検討する「火力誘導用UAV(仮称)」とは?
- 第216回臨時国会に、自衛官の俸給月額やボーナス引き上げについての法律案が提出
- 人事発令 1月20日付け、1佐人事(海自3名、空自1名)