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《特集》日米共同の輸送特別訓練で活躍する、輸送艦「しもきた」と第1輸送隊

  • 特集

2024-9-19 12:00

2016年に第1輸送隊が配属されたことで、掃海隊群が海自の水陸両用戦を担う部隊となったことがはっきりした。

第1輸送隊は「おおすみ」型3隻とLCAC 6隻を隷下に収め、海自の作戦を支える作戦輸送もその主な任務としている。菊池 雅之 KIKUCHI Masayuki

2022年の国際観艦式で雄姿を披露した3番艦「くにさき」。「おおすみ」型は同型艦3隻が建造され、全艦が第1輸送隊に所属している 写真:菊池雅之

戦後すぐに誕生した海上輸送の要

 日本の水陸両用戦における海上パートを担うのが第1輸送隊だ。呉に隊司令部を置き、第1輸送隊司令(1等海佐)の下、「おおすみ」「しもきた」「くにさき」の3隻の「おおすみ」型輸送艦を配備するとともに、6隻のLCACからなる第1エアクッション艇隊を隷下に収める。“第1”と冠しているが、第2以降は存在しない。海上自衛隊唯一無二の海上輸送部隊だ。

「おおすみ」型は空母のような全通甲板を備えているが、実際には前半分は車両甲板として各種車両の積載、係止のスペースとして用いられている 写真:菊池雅之
後ろ半分はヘリ甲板となっており、ヘリスポットが二つ設けられている。陸自の各種ヘリはもちろん、オスプレイも発着艦が可能である 写真:菊池雅之

 日本の輸送部隊の母体は、戦後すぐ、米海軍から供与された揚陸艇LCUやLCMがによって形作られた。そして1961年に、基準排水量1,650tと、当時としては大型のLST542級戦車揚陸艦を3隻供与され、「おおすみ」「しもきた」「しれとこ」と命名、第1揚陸隊が新編された。これが第1輸送隊のルーツとなる。
 新編当初は横須賀地方隊隷下部隊であったが、1962年より自衛艦隊直轄部隊となり、1971年4月1日、第1輸送隊へと改称する。
 その主たる任務は名称の通り海上輸送だ。現在の防衛省もなく、冷戦下の防衛庁時代、まだまだ陸海空自衛隊統合運用には遠かったものの、毎年陸自が行っていた「北方機動演習」を支援し、本州以南の陸自部隊を北海道の浜大樹訓練場へと輸送し、着上陸訓練を行うなど、早くから現在と変わらぬ任務も行っていた。輸送艦も1970年代には国産化され、基準排水量1,480tの「あつみ」型、次いで2,000tの「みうら」型と、大型化していった。
 時を経て、「みうら」型の後継として「おおすみ」型が建造される。ネームシップである「おおすみ」が1998年3月11日、2番艦「しもきた」が2002年3月12日に就役し、この2隻が揃ったところで、自衛艦隊直轄部隊として第1輸送隊が新編(2002年3月12日)された。翌年2月26日に「しもきた」が就役し、これで第1輸送隊は今の形を整えた。
 「おおすみ」型は従来の輸送艦と違い、上陸の際に砂浜に乗り上げるビーチングはできなくなったため、上陸用舟艇としてエアクッション艇LCACも同時に導入されている。LCACは「おおすみ」型艦内のウェルドックに各艦2隻が格納され、当初は搭載艇という位置付けだった。しかしその後6隻揃ったところで、LCACは自衛艦へと格上げされ、これに伴い2004年4月8日には第1輸送隊隷下に第1エルキャック艇隊が新編された。
 2004年12月10日に閣議了承された「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱(16大綱)」にて、自衛艦隊をフォースユーザーとし、平時における護衛艦隊をフォースプロバイダーとする新たな体制が構築された。これにより、2006年4月3日、第1輸送隊は護衛艦隊司令官が一元管理すべく護衛艦隊所属となる。

2022年の日米統合演習「キーンソード23」に参加した1番艦「おおすみ」。この演習では陸自のAAV7を搭載、島嶼防衛のため逆上陸作戦を念頭に置いた訓練を実施した 写真:菊池雅之
LCACは軍用のホバークラフトで、「おおすみ」型の艦尾ウェルドックに格納されて海岸への車両等の揚陸を行う。LCACは同型艦6隻が導入され、第1エアクッション艇隊に所属する 写真:菊池雅之

統合運用化とともに進化する水陸両用戦

 防衛省自衛隊自体も2006年3月27日に統合幕僚監部を発足させたことに伴い大きく変わっていく。よりシームレスに各種事態に対応させるため、陸海空自衛隊の統合運用化を急ピッチで推し進めていったのだ。
 特に日本南西島嶼部の防衛強化が重要となり、陸自は2002年3月27日に新編した西部方面隊直轄の西部方面普通科連隊を海兵隊のような水陸両用戦部隊としていくことになる。そこで、2005年よりカリフォルニア州キャンプペンデルトン等にて日米共同訓練「アイアンフィスト」がスタートし、以降毎年実施されている。
 2013年には、この「アイアンフィスト」を発展させた日米共同統合演習「ドーンブリッツ13」が初めて開催される。この時は「しもきた」が参加。部隊の指揮を執ったのは、第2護衛隊群司令だった。しかし2年後に開催された「ドーンブリッツ15」では、掃海隊群司令が「ひゅうが」「あしがら」「くにさき」の3隻を指揮した。米海兵隊のMV-22Bオスプレイが初めて「ひゅうが」及び「くにさき」に着艦。現在の水陸両用戦の輪郭が見える画期的な訓練となった。
 こうして、水陸両用戦を掃海隊群が担当することになった。それに伴い、2016年7月1日に第1輸送隊は掃海隊群の隷下部隊となった。
 現在、陸上自衛隊は、独自に輸送艦を保有すべく準備に入った。輸送学校内に「船舶準備室」を立ち上げ、2019年に1期生たる幹部5名、陸曹2名の艦艇乗組員教育を実施。第1輸送隊はその支援を行っており、「おおすみ」型輸送艦での艦艇実習を担当している。
 2024年度には陸海共同部隊となる「海上輸送群」(仮)が新編される予定である。今後、この新部隊と第1輸送隊はどのように関わって行くのだろうか。いずれにせよ今後も第1輸送隊、あるいはその後継部隊が海自の水陸両用戦の中心を担っていくことになるのは間違いないだろう。

船体前部の両舷にはサイドランプがあり、岸壁からスムーズに車両を搭載できる。艦内に入ってすぐの車両甲板にはターンテーブルがあり、効率的に積載することが可能だ 写真:菊池雅之
艦内の艦尾側はLCAC 2隻を搭載できるウェルドックになっている。LCACは近年艦齢延伸工事を実施しており、「おおすみ」型もそれに対応してウェルドックの改修を実施している 写真:菊池雅之
艦内車両甲板に係止されている陸自のAAV7。艦内の前半分は車両甲板になっており、写真奥の艦首側には上甲板へ車両や航空機を上げ下ろしできるエレベーターが設けられている 写真:菊池雅之

初出:Jシップス 2023年 4月号 Vol.109

菊池 雅之KIKUCHI Masayuki

軍事フォトジャーナリスト  各国軍、自衛隊、警察、海保を取材。主な著書「陸自男子」「試練と感動の遠洋航海」「がんばれ女性自衛官」「特殊部隊の秘密」「なぜ自衛隊だけが人を救えるのか」など、共著含めると多数。「東京マグニチュード8.0」「ヱヴァンゲリヲン」などで軍事監修も行う。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員

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