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《特集》アデン湾海賊対処に就く海自護衛艦──水上部隊DSPEの現場を見る

  • 特集

2024-9-20 11:30

2009年にその活動を開始し、現在も続けられている、ソマリア沖アデン湾における海賊対処行動。水上部隊、航空隊、支援隊とそれぞれの活動状況を現地で取材した。自衛官たちはどのように任務に取り組み、灼熱の地で生活しているのだろうか。その姿に迫ってみた。菊池 雅之 KIKUCHI Masayuki

アデン湾にてパトロールを実施する派遣海賊対処行動航空隊DAPEのP-3Cと派遣海賊対処行動水上部隊DSPEの「さざなみ」。各船舶は同海域を通過する際、安全回廊IRTC内を航行する。各国軍はそのIRTC内を一緒に航行し、各船舶を直接防護する。または、担当区域を警備(ゾーンディフェンス)している 写真:菊池雅之

2009年にはじまった海賊対処行動

 内戦で混乱状態に陥ったソマリアでは、一部の漁師が貧しさに耐え切れず海賊へとその身を転じた。一攫千金のチャンスとばかりに、テロリストが元締めとなって組織的に海賊行為を行うケースもあり、国際社会もこの事態を看過できなくなった。
 この事態に際して、各国海軍及び法執行機関は、海賊取り締まりのための部隊をソマリア沖アデン湾へと派遣した。
 日本にとってもこの海域は非常に重要な貿易路である。そこで2009年3月、海上警備行動を発令した。こうして第4護衛隊群第8護衛隊の「さみだれ」と「さざなみ」の2隻がアデン湾へと派遣される。次いで同年5月、上空からパトロールを実施するため2機のP-3C哨戒機を派遣。さらにこのP-3Cを警備するため、陸自・中央即応連隊も派遣された。
 同年7月24日には海賊対処法が施行され、海上警備行動から切り替えられた。その後も、第2次隊、第3次隊と日本から部隊を送り続け、気が付けば早10年の歳月が経過している

※編注:本稿の初出は隔月刊『Jシップス』2019年12月号です。

派遣海賊対処行動航空隊DAPEとして、毎回哨戒機2機が派遣されている。取材時は第36次隊として、第5航空群第5航空隊が派遣されていた(2019年7月12日~10月19日) 写真:菊池雅之

 この海賊対処部隊は3本柱で構成されている。それが、
派遣海賊対処行動航空隊DAPE(DeploymentAir force Counter Piracy Enforcement)、派遣海賊対処行動水上部隊DSPE(Deployment Surface Force CounterPiracy Enforcement)、派遣海賊対処行動支援隊DGPE(Deployment Support-Groupfor Counter Piracy Enforcement)だ。いずれも自衛艦隊司令部の隷下部隊となっているが、陸海自衛官で構成されている。さらに空自も医官を派遣したり、C-130H輸送機を使った物資輸送を行った実績もあり、陸海空自衛隊統合オペレーションといっても差し支えない。
 自衛隊の活動拠点となっているのは、ソマリアの隣国であるジブチ共和国だ。当初は市内に設置された小さな事務所が拠点だった。それが2011年より、ジブチ国際空港と隣接する場所に活動拠点を構築した。
 この活動拠点の維持管理、そして警備を行うのがDGPEの仕事だ。陸自約80名、海自約30名の合計約110名で構成されている。このDGPE司令は1等陸佐の階級の幹部が務めている。2019年の取材時は第12次隊が活動しており、指揮官は1等陸佐、主たる部隊は陸自の中央即応連隊で構成されている。

派遣海賊対処行動支援隊DGPEは、P-3Cを含め、ジブチにある自衛隊活動拠点の維持・管理・警備を行う。取材時は第12次隊として中央即応連隊などが派遣されていた 写真:菊池雅之

 また活動拠点の駐機場には2機のP-3Cが翼を休める。取材時のDAPEは、第36次隊が派遣されていた。
 活動拠点から車で20分程度の場所にあるジブチ港を中心に、安全回廊IRTC(International Recommended Transit Corridor)内を守るゾーンディフェンスや、船舶と一緒に航行しながら直接護衛を行っているのがDSPEだ。取材時は第34次隊として護衛艦「さざなみ」が任務に就いていた。なんという巡り合わせか、「さざなみ」は第1次隊としても派遣されており、活動開始10年という節目にもこの地にいる。艦としては今回で4回目の派遣となる。
 気温50度の中、日本を遠く離れた地で、戦う自衛官たちの姿をみていこう。

派遣海賊対処行動水上部隊第34次隊として現地で活動を行う「さざなみ」。今回で4回目の派遣となった。第33次隊「あさぎり」に代わり、2019年7月28日に日本を出国している 写真:菊池雅之

情報提供を呼びかける啓蒙活動AAを実施

 2019年9月某日、派遣海賊対処行動水上部隊DSPEとして活動する護衛艦「さざなみ」に乗艦する機会を得た。訓練とは違い実行動中の艦艇に乗艦取材できる機会はなかなかない。
 取材時のDSPEは第34次隊である。指揮官を務めるのは「さざなみ」艦長の2等海佐だ。当初、DSPE指揮官は護衛隊司令(1佐)が務めていたが、第33次隊以降は派遣された各艦長が務めている。
 ジブチ港を出港すると、「さざなみ」はアデン湾へ。陸上では50度近くあった気温、そして刺すような日差しで5分と立っていられなかったが、洋上では海風が意外に涼しく、熱波を和らげてくれていた。とはいえ、もちろん日本とは比べものにならないほどの暑さであることは変わりない。
 乗艦2日目、「さざなみ」の搭載ヘリが、3隻の船影を発見した。いずれも漁具を積んだ漁船であった。日本だけでなく海賊対処にあたる各国軍は、監視や警戒だけでなく「漁船を発見したら気を付けてください。そして情報提供してください」といった啓蒙活動も行っている。それがAA(Approach and Assistance)だ。「さざなみ」もAAを実施することになった。
 士官室のテーブルの上には拳銃や89式小銃が並べられていく。万が一に備えての護身用だ。これを受け取るのが「さざなみ」乗船隊だ。護衛艦には立入検査隊、通称“タチケン”が乗っている。他の職種と兼務しており、中には日頃は食事を作る給養員が立検隊員となるケースもある。この乗船隊は立検と同じ部隊であるが、法的にできる行動が異なっている。

「さざなみ」を出発する乗船隊。写真は訓練の様子。RHIBと呼ばれる高速ボートを使用する。護身用として89式小銃や9mm拳銃を携行する 写真:菊池雅之
AAの実施を前に、士官室で装具の準備が行われた。万が一の事態に対処するため、89式小銃や9mm拳銃も準備され、テーブルの上に並べられた。今回の派遣で「さざなみ」がAAを実施するのはこのときが初めて。隊員たちの顔に緊張の色がうかがえる 写真:菊池雅之
舷側にあるボートダビットからRHIBを下ろす。乗船隊はこの時点ですでに乗り込んでおり、このまま一緒に海へと降ろされる。不測の事態に迅速に対処できるよう、必ず2艇を降ろすという 写真:菊池雅之

 お揃いの黒いツナギの上からタクティカルベストを着用し、銃を受け取り上甲板へ。ここから2艇のRHIBに分乗し、漁船を目指す。発見時は3隻いた漁船であるが、もう1隻は遠く離れてしまったので、残り2隻に対してAAを行う。まずLRADを使い「こちらは日本海上自衛隊(Japanese Navy)です」と呼びかけ、身分を明らかにする。特に拒否する動きもなかったことから、RHIBは漁船に近づいた。
 まずは「ハロー」と笑顔で声をかける。これに対し漁師たちは多少驚いた顔をしていたが、「ハロー」と返してきた。「どこからきたの?」と英語で聞くと「ソマリランド」という回答が。そこで、プラスティックでラミネート加工された紙をタモにいれて、漁師に渡す。そこには、ソマリ語でいくつかの質問が書かれていた。お互いにこれを見ながら会話することで、YesかNoかシンプルに答えられる。「魚は釣れてる?」と質問すると、「No」といって、空のバケツを大げさに指さして笑う。
 船長と思しき者と片言の英語と筆談でコンタクトしている間、ほかの隊員は手の空いている漁師たちに水の入ったペットボトルを配った。キンキンに冷えた水は、かなり魅力的だったようで、受け取るや否やみなゴクゴクと飲み始めた。
 最後は「それでは気を付けて、ありがとう!」とソマリ語で伝えると、漁師たちは全員こちらに笑顔で手を振ってきた。AAは無事成功した。

漁師たちに冷えた水を渡す。どうやらみな喉が渇いていたらしく、受け取るや否やキャップを開けてゴクゴクと飲み始めた。魚がまったく取れていないようで、暇そうにゴロンと横になっている漁師もいた 写真:菊池雅之
会話を迅速に進められるように、ソマリ語で書かれた質問状(ラミネート加工済み)や海賊対処行動のPR用写真などを渡す。あとはお互いに片言の英語で会話を進める 写真:菊池雅之

初出:隔月刊『Jシップス』 2019年 12月号 Vol.89

菊池 雅之KIKUCHI Masayuki

軍事フォトジャーナリスト。各国軍、自衛隊、警察、海保を取材。主な著書『陸自男子』『試練と感動の遠洋航海』『がんばれ女性自衛官』『特殊部隊の秘密』『なぜ自衛隊だけが人を救えるのか』など、共著含めると多数。『東京マグニチュード8.0』『ヱヴァンゲリヲン』などで軍事監修も行う。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員

Jシップス編集部J Ships magazine

“艦艇をおもしろくする海のバラエティー・マガジン” 隔月刊『Jシップス』の編集部。花井健朗氏・柿谷哲也氏・菊池雅之氏ら最前線のカメラマン、岡部いさく氏・井上孝司氏・竹内修氏ら第一線の執筆陣とともに、熱のこもった記事や特集をお届けしています!

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