DSEI Japan 2025 総括──日常的な改良をいかに機敏に柔軟に実現していくか(井上孝司)
- 日本の防衛
2025-6-9 12:00
2025年5月下旬に千葉県の幕張メッセで開催された、日本で唯一の統合型防衛・セキュリティ展示会「DSEI Japan 2025」。イベントレポートのまとめとして、速報・短報を担当した井上孝司による総括をお届けする。
同じ会場に並んだ矛と盾
今回のDSEI Japanは前回以上に、無人機(UAV)を筆頭とする、いわゆる「無人モノ」が目立つイベントになった感がある。それは単に、人的リソースの不足を補う手段というだけの話ではない。ウクライナなどの実戦の場において、さまざまな無人ヴィークルが使われている現状を反映してもいるからだ。
ただしそれと同時に、C-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)、いわゆる「ドローン対策」に関する展示も目についたことを指摘しておかなければならないだろう。つまり、「矛盾」の故事を地で行っており、「矛」と「盾」の両方が同じ会場に並んでいたわけである。
加速する武器開発のシーソーゲーム
無人機に限らず、たいていの武器体系では同じことになるのだが、新手の武器体系が登場して威力を発揮したり、あるいは有用そうだと見なされたりすると、それに対抗する手段の開発が行われるのが常である。少なくとも、対抗手段を開発しようという取り組みはなされる。
そして対抗手段が出現すると、今度は「いかにして対抗手段を打ち破るか」という研究開発が始まる。そうやって、いたちごっこやシーソーゲームが繰り返される。武器の発達史とは、そうしたシーソーゲームの歴史でもある。そして近年、そのシーソーゲームのスピードが上がってきているのではないか。
ロシアがウクライナに侵攻してから、3年3ヶ月あまりが経過した。その間に「○○が活躍している」といわれて、そのうち有用性が減じられて、やがて話題にのぼらなくなった装備が、いったい何種類あっただろうか。
いま、用兵側にしても、あるいは装備品の研究開発を行う側にしても、従来以上に機敏さ・柔軟さが求められている。自軍の装備や、それの運用がどれだけ有用性を発揮できているか、有用性を発揮できなくなった場合、敵軍はどんな対抗手段を開発・配備してきたのか。それに対してどう対抗すればよいか。そうしたフィードバックと改善のループを次々に回していかなければならない。そういう時代である。
いいかえれば、何かひとつの装備やシステムを完成させても、それで終わりというわけではなく、継続的な改善が必要になる。時間をかけて高い完成度のものを作り上げたらそれで終わり、という考え方では対応できない。
これはなにも今に始まった話ではない。たとえば第二次世界大戦中、イギリスとドイツの間で戦われた電子戦の分野でも、同じようなことが起きていた。次々に新しい装備や新しい運用が繰り出されて、それに対抗しようとして技術者が脳漿を絞る展開が繰り返された。
こうしたハイピッチの改良は、戦争以外の分野でも存在する。たとえば、自動車レースの世界では日常的に起きていることである。
柔軟な思考が求められる時代
そのフィードバックと改善のループをいかにして機敏に、柔軟に実現するか。「○○とはこういうものだ」といった類の固定観念を、いかにして打破するか。まず、決まり切った「勝利の公式」に拘泥するような意識は捨て去らなければならないだろう。
それは装備品というハードウェアに限った話ではなく、それを実際に使う戦術、あるいは運用の面でも同じである。先例通り、常識通りにやってばかりいたのでは、いずれ敵軍に手の内を読まれてしまう。新しい使い方、敵軍のやり方に対して裏をかいて有用性を発揮できる使い方を考え続けなければならない。
それを実現してくれるモノや技術こそが、本当の「ゲームチェンジャー」というものではないのか。単に「目新しい」「画期的」「大幅な性能向上」のことをゲームチェンジャーというのは、ゲームチェンジャーの大安売りに過ぎない。
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