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DSEI Japan 2025 総括──コラボレーションへと向かう日本の防衛装備(稲葉義泰)

  • 日本の防衛

2025-6-9 12:01

2025年5月下旬に千葉県の幕張メッセで開催された、日本で唯一の統合型防衛・セキュリティ展示会「DSEI Japan 2025」。イベントレポートのまとめとして、速報・短報を担当した稲葉義泰による総括をお届けする。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

方々で聞かれた「国際化した」という感想

 今回のDSEI Japan、じつは筆者はあまり細かいブースまでしっかり見ることができたわけではない。というのも、インタビューやメディアブリーフィングへの参加を優先的にスケジュールに組み込んだ結果、会場内を常にシャトルランしている状態となってしまったためだ。そのため、あまり細かな部分について「あれが展示されていた」とか「これが面白かった」ということをお伝え出来ない点を、どうかご容赦いただきたい。

DSEI Japan に初参加した企業の一つ、シンガポールのSTエンジニアリング社の展示ブース 写真:稲葉義泰

 しかし、全体の雰囲気というものはよく分かった。会場内を移動していても、そこかしこで立ち話やメーカー間の情報共有が行われており、明らかに前回(2023年)と比べて会場内に活気があった。これを裏付けるように、とくに海外の主要企業幹部から耳にしたのは、「DSEI Japanは国際化した」という言葉だ。今回、運営発表によると出展企業数は約450社で、そのうち6割が外国企業とのことであるから、ざっと計算するとその数は270社ということになる。前回の2023年は出展企業数が約290社で、そのうち外国企業が7割、つまり約200社であったことを考えると、大幅な増勢ということになる。

 これは、やはり市場としての日本が意識されるようになったということを意味していると考えられる。実際、外国企業の方と意見交換をしていても、日本の防衛費増額についての話題が多かった。つまり、そこで自社の製品を試験導入という形であれ納入することができるチャンスを感じ取っているということになるのだろう。

 また、今まで日本では、アメリカの防衛産業との連携がどうしても強い傾向にあった。しかし、最近ではこれが多様化しており、フィンランドのパトリア社が開発した8輪装甲車「AMV」の陸上自衛隊における導入や、日英伊共同開発の「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」などはその好例と言える。また、UAV(無人航空機)やUUV(水中無人機)、UGV(無人地上車両)などについても同様の傾向がある。これらを踏まえて考えると、日本という国が「開かれた市場」になったという認識が、各国に広まりつつあるのではないだろうか。

イギリス企業のプレゼンス

 この多様化という意味において、筆者が今回とくに注目したのはイギリス企業の存在感だ。といっても、BAEシステムズやロールスロイスのように、すでに日本において一定のプレゼンスを有している大企業ではなく、中小企業を含めたもう少しコンパクトな企業群である。

英SEA社が展示したデコイランチャー「アンサイリア」(Ancilia)の模型 写真:稲葉義泰

 たとえば、イギリスで長年にわたり艦艇の自己防御システムを開発してきたSEA社は、2023年に発表したばかりの新型艦載デコイランチャーである「Ancilia」の模型を展示していた。Anciliaは、すでにイギリス海軍の26型・31型フリゲート、並びに45型駆逐艦への搭載が決定されているシステムで、海上自衛隊においても同様のシステムについて関心が高まっていることから今回の展示に至ったとされる。

 また、世界で最も歴史あるホバークラフトメーカーの一つであるグリフォン・ホバーワークは、今回同社が開発している新型のホバークラフト「ワイバーン」を展示していた。ワイバーンは、現在海上自衛隊が運用しているLCACに近い規模感のホバークラフトであり、今回はまさにそのLCAC後継選定を見据えた動きであるという。LCACと異なり、ワイバーンは運用者の要求に合わせてカスタマイズや改修が比較的用に行えることが特徴であり、またアメリカ製ではないからITAR規制(アメリカの防衛物品に関する輸出管理規制)の制約も受けない。

 こうしたイギリス企業の積極的なアプローチは、「日英同盟復活」とも称されるような近年の日英関係強化の文脈に沿ったものであることは間違いない。つまり、イギリス軍で採用された装備やシステム、さらにイギリス企業が開発したモノを自衛隊でも導入できる見込みがあると考えられているわけだ。

日本企業とのコラボレーション

 そしてもう一つ、今回のDSEI Japanで感じ取れたのが、主要な外国企業幹部が一様に口にした「日本企業との協業(コラボレーション)」という考え方の浸透だろう。

RTX社の新型レーダーSPY-6(V)4の模型。構成部品の製造には複数の日本企業が参画する 写真:Jシップス編集部

 従来のように、外国の防衛装備品を単に輸入する、あるいはライセンス生産を行うというだけではなく、文字通り日本企業とタッグを組んでさらなる価値を創出していくということに、この協業という概念の真髄があると筆者は考えている。

 たとえば、大きな話でいうとDSEI Japanでは大きな発表が筆者の関心領域において2件あった。1つは、アメリカのRTXが日本の三波工業との間で、アメリカ海軍向け艦載レーダー「SPY-6」の構成部品製造に関する第二次契約が締結されたことだ。これにより、すでに契約を結んでいる三菱電機も含め、アメリカ海軍で運用される最新鋭艦載レーダーの構成品の一部を日本企業が製造することになる。

 もう1つは、同じくアメリカのロッキード マーティンが富士通との間で、艦載レーダー「SPY-7」の構成品製造について署名を交わしたことだ。SPY-7は、ロッキード マーティンが開発した最新鋭艦載レーダーで、海上自衛隊で運用されるイージス・システム搭載艦(ASEV)に搭載される。富士通は、まずこのASEV用SPY-7の構成品を製造することになるが、いずれはロッキード マーティンのグローバルサプライチェーンの1つになっていくとみられる。

三菱電機に見る国際協業の最前線

 このほかにも、実に多くの企業が、日本企業との協業によって自社製品を日本とともに作り上げ、あるいはサプライチェーンに組み込んだりすることで、お互いにとってメリットのある関係を構築しようとしていることがうかがえた。一方で、日本側にもこうした協業を企業戦略として積極的に進める会社がある。それが、SPY-6の件で触れた三菱電機だ。

三菱電機の展示ブース。防衛分野における自社PRだけでなく、海外企業との協業も意欲的に進めている 写真:稲葉義泰

 三菱電機は、RTXをはじめ、ノースロップ・グラマンやインドの大手防衛関連企業であるバーラト・エレクトロニクス、さらにシンガポールのSTエンジニアリングなど、名だたる海外の主要メーカーと相次いで協業に関する覚書(MOU)を交わしている。これにより、とくにアメリカ企業との間では日米同盟を前提としたアメリカ軍と自衛隊との連携をよりスムーズに行えるよう、共通性を高めることができるほか、よりグローバルな視点でいえば、海外市場に打って出ていく機会の創出やセカンドソースの確保といった意義が見込まれる。

 こうした協業関係の構築については、さらにモノづくりの方法や考え方を相互補完的に高めあっていくことができるという側面からの意義もある。たとえば、最近欧米企業が進めているデジタルエンジニアリングの導入(DX化)に代表されるような、装備品のより効率的な開発・生産方法を日本企業にも適用することが可能となる。一方で、日本企業のもつユニークな技術力や納期管理などの考え方を、外国企業に共有することもできるだろう。

 つまり、今後は日本企業が外国企業と協業することにより、海外への防衛装備品移転も含めたメリットを享受しながら、お互いに高めあっていく時代が来るのではないかということを、今回のDSEI Japanでは肌で感じたということだ。

◎JディフェンスニュースでDSEI Japan 2025の速報・短報を担当した、井上孝司、竹内 修による総括も、以下のリンクからぜひご覧ください。

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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