防衛省、「令和7年版 日本の防衛」(防衛白書)及び中谷防衛大臣の発言要旨を公表
- 日本の防衛
2025-7-17 10:30
防衛省は令和7(2025)年7月15日(火)、「令和7年版 日本の防衛」(防衛白書)を公表し、同日に開催された閣議での中谷 元(なかたに・げん)防衛大臣の発言要旨について以下のように発表した。
「令和7年版日本の防衛」(防衛白書)について
令和7年7月15日(火)閣議
防衛大臣発言要旨
本年の防衛白書は、中国、北朝鮮、ロシアの軍事動向などのわが国を取り巻く安全保障環境や、戦略三文書を踏まえて進めている防衛力の抜本的強化のための防衛省・自衛隊の取組を、国民の皆さまに分かりやすくご理解いただけるよう、令和6年度の事象を中心にまとめております。
特に、統合作戦司令部の新設や自衛官の処遇・勤務環境の改善など、防衛省・自衛隊の取組を特集やコラムを活用して多角的に紹介しております。
(以上)
令和7年版防衛白書の概要について
1 構成
令和7年版 | 令和6年版 |
---|---|
第Ⅰ部 わが国を取り巻く安全保障環境 | 第Ⅰ部 わが国を取り巻く安全保障環境 |
第Ⅱ部 わが国の安全保障・防衛政策 | 第Ⅱ部 わが国の安全保障・防衛政策 |
第Ⅲ部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど | 第Ⅲ部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ |
第Ⅳ部 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化 | 第Ⅳ部 共通基盤などの強化 |
第Ⅴ部 防衛力を維持・強化するために必要な基盤や取組 | - |
2 内容
(1)全般
○ 防衛白書は、わが国の防衛政策への理解の促進を図るために毎年夏頃に刊行
○ 第Ⅰ部では、諸外国の防衛政策や国際社会の課題などについて記述
○ 第Ⅱ部では、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の概要を含むわが
国の安全保障と防衛に関する政策や防衛力整備などについて記述
○ 第Ⅲ部では、わが国自身の防衛体制、日米同盟、同志国などとの連携について記述
○ 第Ⅳ部では、自衛官の処遇・勤務環境の改善などを含む人的基盤について記述
○ 第Ⅴ部では、防衛生産・技術基盤、地域社会や環境との共生に関する取組について記述
(2)主な記述内容
第Ⅰ部
○ 概観
・普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大し、力による一方的な現状変更やその試みは、既存の国際秩序に対する深刻な挑戦に。国際社会は戦後最大の試練のときを迎え、新たな危機の時代に突入。また、政治・経済・軍事などにわたる国家
間の競争が顕在化
・わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面。ロシアによるウクライナ侵略と同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない
○ ロシアによる侵略とウクライナによる防衛
・ロシアによるウクライナ侵略は、国連憲章を含む国際法の深刻な違反。このような力による一方的な現状変更は、欧州のみならずアジアを含む国際秩序の根幹を揺るがす行為。このような侵略を容認すれば、他の地域でも力による一方的な現状変更が認められるとの誤った含意を与えかねず、わが国を含む国際社会として、決して許すべきではない
・欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識のもと、その戦略的な影響を含め、今後の欧州情勢の変化に注目していく必要。さらに、ウクライナ侵略を受けた欧州情勢の変化は、米中の戦略的競争の展開やアジアへの影響を含め、グローバルな国際情勢にも影響を与え得るもの
○ 米国
・2024年11月に行われた米国大統領選の結果、トランプ前大統領が第47代大統領として当選、2025年1月に第2期トランプ政権が成立
・トランプ大統領は就任以前から安全保障分野について発信、第2期政権成立以降、同大統領及び国防長官等は精力的に活動
・米国の動向はわが国の所在するインド太平洋地域の安全保障環境に大きく影響。今後の動向が要注目
○ 中国(全般的評価)
・中国の軍事動向などは、わが国と国際社会の深刻な懸念事項であるとともに、これまでにない最大の戦略的挑戦。わが国の総合的な国力と同盟国・同志国等との協力・連携により対応すべきもの
・近年、尖閣諸島に関する独自の主張に基づくとみられる活動をはじめ、中国海上・航空戦力は、尖閣諸島周辺を含むわが国周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、行動を一方的にエスカレートさせる事案も
・中露両国による度重なる共同での活動は、わが国に対する示威活動を明確に意図したものであり、わが国の安全保障上、重大な懸念
○ 米中関係
・近年、米中両国の政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化。特に技術分野における競争は、米国が二国間および多国間での協力強化に動くなど、今後一層激しさを増す可能性。第2期トランプ政権においても、対中抑止を念頭にインド太平洋地域へのコミットメントを重視する姿勢
・米中の軍事的なパワーバランスの変化は、インド太平洋地域の平和と安定に影響を与える可能性。南シナ海や台湾などの地域の米中の軍事的な動向について一層注視
○ 台湾の軍事力と中台軍事バランス、台湾をめぐる国際情勢
・中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化。台湾も自身の防衛努力を強化
・中国は台湾周辺での軍事活動を活発化。2024年も台湾周辺海空域で軍事演習たびたび実施。中国軍が常態的に活動している状況の既成事実化を図り、実戦能力の向上を企図しているとみられる。
・国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定について、わが国を含め国際社会全体において急速に懸念が高まっている
・力による一方的な現状変更は世界共通の課題との認識のもと、同盟国たる米国や同志国、国際社会と連携しつつ、関連動向を一層の緊張感を持って注視
○ 北朝鮮
・北朝鮮の軍事動向は、わが国の安全保障にとって従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威。地域と国際社会の平和と安全を著しく損なうもの。大量破壊兵器などの不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題
・2023年以降、固体燃料推進方式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の「火星18」や「火星19」の発射、衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射などを実施。保有する装備体系の多様化や、核・ミサイル運用能力を補完する情報収集・警戒監視・偵察(ISR)手段の確保といった、質的な意味での核・ミサイル能力の向上に注力
○ ロシア
・ロシアによるウクライナ侵略は、欧州方面における防衛上の最も重大かつ直接の脅威と受け止められている。ロシア軍は、極東方面にも最新の装備を配備する傾向。わが国を含むインド太平洋地域におけるロシアの軍事的動向は、中国との戦略的な連携と相まって安全保障上の強い懸念
・「強い国家」を掲げ、核戦力を含む装備の近代化を推進。極超音速ミサイルなどの新型兵器の開発・配備を進め、電子戦装備など非対称的な能力も重視
○ その他の地域
・中東地域の平和と安定は、わが国を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要
・イスラエル・ガザ情勢や湾岸地域情勢を引き続き注視
○ 情報戦などにも広がりをみせる科学技術をめぐる動向
・科学技術とイノベーションの創出は、わが国の経済的・社会的発展をもたらす源泉であり、技術力の適切な活用は、安全保障だけでなく、気候変動などの地球規模課題への対応にも不可欠
・各国は、技術的優越を確保すべく、AI、量子技術、次世代情報通信技術など、将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなりうる先端技術の研究開発や、軍事分野での活用に注力
・偽情報の拡散などを通じた情報戦などが恒常的に生起
第Ⅱ部
○ 国家安全保障戦略などの「三文書」
・国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画について、図表を活用して説明
・反撃能力に関する解説コラムや、抑止力の意義に関する防衛研究所研究者のコラムを掲載
○ 防衛力整備と予算
・戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しているという基本認識のもと、防衛力の抜本的強化の実現に向け、歳出ベースで8兆4,748億円、契約ベースで8兆4,332億円を計上
・防衛力の抜本的強化の7つの分野※を引き続き推進。2025年度は特に、スタンド・オフ・ミサイルの整備、衛星コンステレーションの構築、次期防衛通信衛星(Xバンド)の整備などを重視
・「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」に基づき、関連事業に必要な経費を計上
・防衛力強化のための、税制措置を含めた財源確保について、解説コラムも活用して詳説
○ 安全保障と防衛を担う組織
・統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断作戦を実現できる体制を構築するため、2025年3月に統合作戦司令官を長とする「統合作戦司令部」を市ヶ谷に新設
第Ⅲ部
○ わが国自身の防衛体制
・陸・海・空の領域と宇宙・サイバー・電磁波の領域における作戦能力などを有機的に融合させるとともに、統合作戦を行い、わが国に対する侵攻を阻止・排除
・平素から情報収集・警戒監視、領空侵犯や領海侵入にも迅速かつ的確に対応
・防衛力の抜本的強化の7つの分野を推進。12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の配備、米国製トマホークの取得に加え、衛星コンステレーションの構築を開始
・無人アセットについては、滞空型無人機MQ-9B(シーガーディアン)の導入を決定、次期戦闘機を支援する無人機の開発を計画
・サイバー対処能力強化法と同整備法の成立を受け、関係省庁と連携して政府の取組に積極的に貢献
○ 日米同盟
・石破総理とトランプ大統領との日米首脳会談において、日米同盟が、インド太平洋やそれを超えた地域の平和、安全および繁栄の礎であり続けることを強調
・中谷防衛大臣はヘグセス米国防長官と日米防衛相会談を実施、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現のために両国が緊密に協力し、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくことを確認
・沖縄をはじめとする地元の基地負担を軽減するため、在日米軍再編に向けた取組を推進
○ 同志国などとの連携
・FOIPを実現するため、多角的・多層的な防衛協力・交流を推進
・同志国などとの間では、円滑化協定(RAA)、物品役務相互提供協定(ACSA)、防衛装備品・技術移転協定などの制度的枠組みの整備をさらに推進
第Ⅳ部
○ 自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する関係閣僚会議など
・2024年、石破総理を議長とする「関係閣僚会議」を設置し議論を重ね、「基本方針」をとりまとめ
・「基本方針」では、防衛力の抜本的強化の担い手である自衛官の確保が至上命題であるとして、
①過去に例のない30を超える手当等の新設・金額の引き上げを含む、自衛官が誇りと名誉
を得られるような処遇改善、
②若い世代のライフスタイルに合った生活・勤務環境の改善や組織文化の改革、
③退職後の生活に不安を感じさせないような再就職先の拡充など新たな生涯設計の確立、
に取り組むこととしている。
・防衛副大臣を委員長とする人的基盤の抜本的強化に関する検討委員会において、人的基盤
の取組の方向性として、①処遇面を含む職業としての魅力化、②AIなどを活用した省人化・無人化による部隊の高度化、③OBや民間などの部外力の活用を提示
○ 人的基盤強化のための各種施策
・サイバー人材確保のため、外部サイバー人材へアプローチなど部外との協力関係を構築・深化
・テレワークの推進、男性育休の取得促進など、職員が働きやすい職場環境の確立などを推進
・女性活躍の推進のため、女性の採用・登用の拡大や教育基盤の整備、女性自衛官の増勢を見据えた隊舎・艦艇などにおける女性用区画の整備などに取り組む
・自衛隊における血液製剤の自律的確保・備蓄や、防衛医科大学校の機能強化など、戦傷医療対処能力の向上のための取組を推進
第Ⅴ部
○ いわば防衛力そのものとしての防衛生産・技術基盤の強化
・優れた装備品等の確保に不可欠の要素である防衛生産・技術基盤は、いわばわが国の防衛力そのものであり、その抜本的な強化が必要
・科学技術とイノベーションの創出は、安全保障にかかわる総合的な国力の主要な要素
・防衛イノベーションや画期的な装備品などを生み出す機能を抜本的に強化するため、2024年10月、防衛装備庁は防衛イノベーション科学技術研究所を創設
・日英伊3か国の技術を結集し、将来の航空優勢を担保する優れた戦闘機を共同開発するため、2023年にGIGO設立条約に署名、2024年12月に国際機関であるGIGOを設立
・長期的に重要な能力の需要を満たし即応性を維持するためにそれぞれの産業基盤を活用することを目的とし、2024年から新たに日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)を開催
・潜水艦修理契約に関する特別防衛監察の中間報告における指摘事項に対して、原価調査や制度調査の実効性のさらなる向上などの見直しを実施。これらを通じて不祥事の再発防止などに取り組んでいる
○ 地域社会や環境との共生に関する取組
・防衛省・自衛隊の活動や、在日米軍が安定して駐留するためにも、地域社会・国民の理解と協力の獲得を推進
・防衛省・自衛隊の活動や取組などを国民に理解してもらえるよう、公式HPやSNS、各種イベントなど様々な方法で積極的に広報活動を実施
(以上)
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