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自衛隊のパイロット不足を技術で解決する──CAEの訓練ソリューション

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2025-6-13 16:55

世界の民間パイロットの8割がそのプログラムに触れ、各国の軍隊に最新鋭の訓練環境を提供する企業 CAE。同社幹部へのインタビューから、日本の防衛力を根底から支えるパイロット育成の未来像を探る。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

訓練の提供を通して、操縦能力と即応性を確かにするCAE

 2022年以降、各国は防衛予算を増額し、自主防衛力の強化に勤しんでいるが、戦闘機や各種支援機の数自体は増やせても、それを操縦するパイロットの育成がネックとなる。日本に関しても、F-35や今後開発が進められる次期戦闘機(GCAP:グローバル戦闘航空プログラム)、さらに空中給油機や輸送機など、大幅な能力強化が進められる航空自衛隊において、いかにパイロットを効率的に育成できるかが、防衛力整備のカギとなるといってもよい。そのソリューションを提供できるのが、世界をリードする訓練・シミュレーション企業であるCAEだ。

CAEはレオナルド社と提携し、イタリアの国際飛行訓練学校(IFTS)においてイタリア空軍および同盟国のパイロット訓練生に向けて包括的なリードイン・ファイター訓練(移行段階戦闘機訓練)を提供している。写真:CAE

 1947年に設立されたCAEは、世界で初めて本格的な軍用機シミュレータを開発した企業として知られている。現在は250か所以上の拠点を世界中に配置して、民間機および軍用機のパイロット教育プログラムをグローバルに展開している。世界中の民間パイロットのじつに80%以上が、CAEが設立した訓練学校の卒業生、もしくは同社の訓練プログラムを受けているという。また、防衛の分野においては、陸・海・空軍に加えて、訓練範囲をマルチドメインへと拡張することによって、統合演習や国際共同演習にも対応している。

 日本ではまだあまり名前が知られていないCAEだが、訓練の提供においてはすでに国内外で非常に大きな役割を担っている。日本では、同社はJAL(日本航空)との共同事業として国内に訓練学校を設立し、JALのパイロットだけでなく、海外からの訓練生も受け入れている。同様にANA(全日本空輸)とも協力し、高度な技術を有するシミュレータを供給している。さらに、航空自衛隊の戦闘機パイロット要員の一部は、イタリアのサルディニア島にある国際飛行訓練学校(IFTS)において、同社の提供する最新の教育プログラムとシミュレータによる訓練を受けており、所定の水準の技術を身につけ、F-35戦闘機での任務能力を獲得する。

 そんなCAEは日本に向けてどのような提案を行おうとしているのか。それを探るべく、同社のグローバル防衛・安全保障部門長であるマーク・オリヴィエ・サボラン氏と、主席技術官であるギャリー・イヴス博士にお話を伺った。

CAEグローバル防衛・安全保障部門長のマーク・オリヴィエ・サボラン氏(右)と主席技術官のギャリー・イヴス博士(左) 写真:編集部

深刻なパイロット不足をテクノロジーで解決する

 冒頭でも触れた通り、現在自衛隊ではパイロットの増勢が急務となっているが、既存の教育・訓練システムでは教官一人当たりの負担が大きくなってしまう。そこで、CAEが提案しているのが「テクノロジーの活用」だ。サボラン氏は次のように説明する。

「この課題に対して、我々が提案するのは、AI(人工知能)や機械学習を活用したテクノロジーです。これにより、若年層が慣れ親しんだ没入型環境を提供でき、学習速度も大きく向上すると考えています。結果として、訓練に必要な期間を約50%短縮することが可能だと見ています。訓練に必要な人員も、半分以下に抑えることができるかもしれません。これにより、パイロットの養成ペースを上げ、運用要求に応えてその数を大幅に増加させることが可能となります」

 テクノロジーの活用によって、訓練に必要な人員、つまり教官の数を減らすことができるという。これは、具体的にはどういうことなのだろうか。イヴス博士によると、これは「AIによるサポート」がカギとなるようだ。

「AIが訓練サイクルのあらゆる瞬間において、訓練生が実際に行っている操作をモニタリングします。そして、理想的な操作との比較を行い、まるで『コーチ』のようにリアルタイムでフィードバックを提供します。訓練生が操縦している間、AIのコーチが横から声をかけている、そんなイメージです。

 このソリューションは、2年前に航空自衛隊の一部訓練生を対象に試験導入したことがあり、非常に短時間で目覚ましい成果を挙げました。わずか2時間で、訓練生の評価を『良好』から『優秀』へ、あるいは『不十分』から『良好』へと引き上げることができたのです。つまり、誰もが適切なパフォーマンスを発揮できるようになりました」

2023年に航空自衛隊で試験導入された「CAE スプリント」バーチャル・リアリティ・トレイナー 写真:CAE

重要になってきた「能力ベース」の評価

 さらに、とくに有事のパイロット教育を考えた場合、イヴス博士は訓練の評価基準を「時間」から「能力」へと変化させることが肝要だと話す。

「教育制度全体を見てみると──それが学校であれ、大学であれ、医療であれ、軍事であれ──共通しているのは『時間』が訓練の基準として用いられてきたという点です。一定の訓練時間で所要のプログラムこなすというのが長年の慣習であり、それを続ければ当然ながら、得られる結果も同じままです。

 しかし今の時代においては、『能力』こそが基準となるべきで、時間は可変要素でなければなりません。つまり、『一定時間で仕上げる』のではなく、『一定の能力を習得するまで、必要に応じて時間を調整する』という発想です。

 この時間の可変性は、現代技術によって操作可能になってきました。平時においては、こうした技術を使うことで、訓練の効率化を実現できます。一方で、もし有事や紛争が起こった場合には、この『時間を自在に操作できる能力』が極めて重要になります。

 というのも、人間の教官がシステムのボトルネックになっている場合──すなわち、訓練生を多く処理しようとしても、教官の人数が足りずに処理能力が制限されてしまうような状況では──訓練を加速させることができません。

 そのようなときこそ、技術によって『教官の負担を軽減する統合システム』を導入して、人材のスループット(処理量)を増加させるのです。そうすることで、有事において急増する需要にも対応できる柔軟性を得られるのです」

米空軍の有人機および無人機のパイロット候補生、そして海外のパイロット候補生に初歩的な教育をおこなう米コロラド州のプエブロ訓練センター。「空軍航空の登竜門」であるここでも、CAEの飛行訓練プログラムが導入されている 写真:CAE

シミュレータでの没入型訓練がパイロットの実機操作に自信をもたらす

 では、CAEが思い描く訓練環境の変化とは、一体どのようなものなのだろうか。サボラン氏によると、まずは「訓練システムのあり方」を変化させることが重要だという。

「日本で現在使われている訓練システムは、世界の多くの軍と似たような構造をしています。ただし、我々はこれまでに多くの国々の訓練システムを近代化する支援を行ってきました。

 例えば、イタリアで戦闘機パイロットを訓練しているCAEのシステム(前述したIFTSで使用されているもの)では、実機飛行とシミュレータ飛行の割合がそれぞれ50%ずつです。つまり、訓練時間の半分は実機、半分はシミュレータで行われています。

 このシステムでは、訓練生はまずシミュレータ上であらゆる新しく複雑なタスクを学びます。そしてシミュレータにおいて『このタスクは習得済み』と判定された段階で、初めて実機に乗り、同じタスクを再現します。つまり、シミュレータでの習得を飛行によって確認するという流れです」

オーストラリア空軍の戦闘機パイロットは、全員がCAEによるリードイン・ファイター訓練(移行段階戦闘機訓練)をパスしている。再現性の高いシミュレータ、訓練プログラム、技術サービス、メンテナンス支援、教員による指導をシームレスに組み合わせることで、CAEはこの重要な訓練段階において、運用に焦点を当てた、品質・コスト効果・信頼性の高い訓練を学生に提供している。写真:CAE

 そして、まさにこのシミュレータの活用に関して、CAEには比類なき強みがあるとサボラン氏は語る。

「世界中の我々の教官や空軍関係者は皆、シミュレーション訓練が重要であることを理解しています。そしてそれは、単に『飛ばす技術』を育てるのではなく、『ミッションを成功裏に遂行する技術』を育てる上で、極めて重要な役割を果たします。

 問題は、どれだけの訓練時間をシミュレータに割き、どれだけを実機に割くべきか、正確な基準が存在しないということです。実際、多くの現場では『経験的な比率』に頼って判断しており、それはほとんど勘に近いのが実情です。科学的な裏付けは存在しません。

 そこで私たちが提供できるのがデータ分析(データ・アナリティクス)です。これを活用すれば、『シミュレータで訓練の70%あるいは80%を実施し、実機の高コストな訓練時間と必要なメンテナンスは自信を持って最小限に抑える』といった科学的な判断が可能になります。

 このやり方は、民間航空の世界では、すでに非常に一般的な手法になっています。たとえば、ある機種から別の機種に移行する際、パイロットが一度も実機に乗ることなく、すべての訓練と認定(タイプ・レーティング)をシミュレータのみで完結する、いわゆる『ゼロ・フライトタイム訓練』が行われています。」

統合作戦の訓練でこそシミュレータは真価を発揮する

 サボラン氏は続ける。

「任務と運用環境がより複雑になるにつれ、実機での訓練は限定され、海上や陸上部隊との統合訓練はライブ・バーチャル・コンストラクティブ(LVC:実機と仮想空間における訓練を統合する方式)環境のもとで行われるようになるでしょう。なぜなら、そこにこそ真に価値ある訓練が存在するからです」

大規模・小規模のシミュレーション・ベースを提供できる「CAE Ridge」での訓練風景。この技術は、実環境での訓練に比べてずっとエコで安全なマルチドメイン訓練を可能にする。写真:CAE

 現代戦は、陸・海・空などの領域を担当する軍種がそれぞれに独立した作戦を行えばうまくいく、というものではない。統合作戦によって、複数の領域における軍種の垣根を越えた連携により、相互補完や相乗効果を生み出すことが必要不可欠となってくる。しかし、それを実際の兵器やシステムを用いて訓練するとなると非常に大規模になってしまうし、訓練にかかる費用、リスク、そして時間はとてつもなく大きくなってしまう。そこで、これをシミュレータの活用により解決しようというのがCAEの提案であると、サボラン氏は語る。

「統合作戦のための訓練を実施する際、重要となるのが『イマーシブ・シンセティック・エンバイロンメント』(没入型合成環境)です。これは、極めて現実的な戦場を仮想空間上に創出するというもので、しかもその戦場は『全領域統合型』(マルチドメイン)です。つまり、空・海・陸だけでなく、サイバーや宇宙領域まで、抜かりなく一つの合成環境内に統合するのです。

 このような環境は、空軍隊員、海軍隊員、陸軍隊員、そして少人数部隊から国際統合訓練まで、あらゆる訓練対象者に活用可能なツールとなります。従って、私たちが提供するあらゆる訓練プログラムは、こうした環境の構築が可能であり、効果的なマルチドメイン訓練を実施できる現在唯一のアプローチです。

 マルチドメイン作戦の複雑さは、現実世界で再現しようとすると莫大なコストがかかる上、実任務への影響やリスクも伴うため、非常に難しいのです。つまり、それを真に効果的に訓練する唯一の方法は『シンセティック=合成的』に行うことなのです。

 加えて、防衛技術の進化は非常に速いです。ある脅威に対する対抗手段が開発されると、すぐにその対抗手段に対する新たな対応策が登場します。実際の装備でその状況を再現しようとすると、訓練が間に合う前に現実の脅威が変化してしまう、というのが現実です。したがって、部隊の即応態勢を保つためには、やはりシンセティックな方法で訓練するほかありません。

 私たちが考える今後の展望としては、数年以内に多くの国々が協働可能な『合成環境』(synthetic environment)を導入し、複数の部隊が合同で訓練を行い、こうしたマルチドメインの複雑な状況に対応するための即応力を高めていくという方向に進むだろうと予測しています」

「CAE VISTA」を含む統合ドメイン作戦向けソリューションは、仮想のC4ISR資産(指揮・統制・通信・演算・情報・監視・偵察機器)から情報分析員やC2端末に向けて、変化するデータをリアルタイムに直接供給する。写真:CAE

変化の入口は日本企業との協業

 それでは、CAEが日本に提案している変化とは、一体どのようなものなのだろうか。サボラン氏によると、それは根本的で変革力のある考え方の転換だという。

米海軍の飛行士官は、実機での訓練段階へ移行する前に、CAEが開発したマルチ・クルー・シミュレータを使用して多様なミッション・クルー訓練を経験する。写真:CAE

「従来、日本の防衛産業は『飛行機をつくる』こと、つまり機体に特化してきました。しかし我々が提案しているのは、必要な訓練成果を達成するために『機体そのものはそれほど重要ではない』という考え方です。飛ばす機体は限られていますし、それほど多くのバリエーションは必要ありません。むしろ、日本の防衛産業が真に注力すべきなのは、熟練したパイロットとクルーを養成・輩出するために、その機体に搭載される訓練システムとソフトウェアの開発と運用です。

 このソフトウェアこそが、地上の統合訓練システムと接続され、訓練を年々進化させていく基盤となります。ソフトウェアによって、データが連携し、訓練内容がアップデートされ、要求の進化に応じて訓練スピードが向上します。

 さらに重要なのは、ソフトウェアがあれば、F-35における日本独自のミッションを模擬環境の中で忠実に再現できるという点です。これは、最終的な任務である『複雑なシナリオで実機を飛ばす』ことに直結する、極めて実践的な訓練を可能にします。

 こうした取り組みには、多くの関係者が自らの立ち位置を理解し、何を目指すべきかを明確にすることが必要です。しかし、我々はここ日本において、すべての関係者にとって有益となる解決策が見いだせると信じています。それには、多くの対話を重ね、共通理解を形成するプロセスが欠かせません」

 そして、こうした変化をもたらすにあたり、CAEは日本企業との協業を模索していると、サボラン氏は説明する。

「我々はグローバル企業でありながら、常に現地の防衛産業を支援し、パートナーシップを築いてきた長い歴史を有しています。日本でも同様です。

 我々は技術、ノウハウ、情報を提供しますが、持続的な運用には現地に根ざした体制が不可欠であり、それを実現するためには国内産業との協働が欠かせません。イタリアではレオナルド社と共同で訓練校を運営していますし、日本では20年以上にわたりJALとの合弁事業を成功裏に展開しています。今まさに、日本の複数の防衛関連企業との協業可能性を模索しているところです」

 歴史を振り返ると、かつては訓練において実現できなかったようなことが、テクノロジーの進歩によって容易に実現可能なものへと変化し続けてきた。そして、どのような課題の解決に向けて、どのような訓練ソリューションを、どのように活用していくべきかという一連の考え方があり、これをいかに根付かせるかということが大切になってくる。

 CAEは、まさにそれを日本において、日本企業と緊密に連携しながら、実現させようとしているのだ。

稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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