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《特集》世界の軍用機メーカー2024──その③ロシア、アジア、中東

  • 特集

2024-10-9 17:33

軍用機を1機作り上げるには、じつに1万社の企業が関わるとも言われている。本特集は、2024年における世界各国を代表する軍用機メーカーの中から、一部をピックアップしてその横顔を紹介するものだ。「その③」ではロシア、アジア、中東の企業を取り上げよう。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

*本記事は、月刊『Jウイング』2023年6月号初出の記事をアップデート、再編集したものです。

UAC(United Aircraft Corporation=統一航空機製造会社 / ロシア)

ロシア航空機メーカーを統一した国有企業

 UAC(統一航空機製造会社)はロシアの国有企業(公共株式会社)で、軍用および民間航空機の開発・製造を行う。誕生したのは2006年で、プーチン大統領の命でミグやスホーイ、イリューシン、ツポレフ、ミルといったロシアの主要航空機メーカーを統合する形で設立された。現在、UACには上述の企業を含む約30社がその傘下に置かれている。民間航空機も製造しているとはいえ、その利益の大半は軍用機の販売を通じたもの。国外への輸出によるものもあるが、現在ではその大半はロシア軍向けの国内市場によって賄われている。

会社情報

本社所在地:ロシア・モスクワ
防衛関連売上高(2021年実績):44億5000万ドル
設立:2006年
グループ社員数:9万8000人

主な製品

Su-35戦闘機
Su-57戦闘機
MiG-35戦闘機
Mi-35強襲ヘリコプター

イタリアのアエルマッキ社(現レオナルド)と協定を結んで開発された高等練習機Yak-130。軽攻撃機としても運用可能 写真:UAC

中国航空工業集団(Aviation Industry Corporation of China[AVIC] / 中国)

中国の航空機メーカを傘下に束ねる

 中国航空工業集団は、2008年に中国航空工業第一集団(AVIC Ⅰ)と中国航空工業第二集団(AVIC Ⅱ)を合併して創設された国有企業。その傘下には中国の主要航空機開発メーカーがグループ企業として名を連ねており、中国の国産第4世代戦闘機J-10や、中国初のステルス戦闘機J-20を開発・製造している成都飛機工業(集団)や、中国海軍の空母に搭載されているJ-15戦闘機(Su-33試作機から開発した国産機)の瀋陽飛機工業(集団)、中国初の本格的な国産攻撃ヘリWZ-10を開発した昌河飛機工業(集団)、そして汎用ヘリのZ-9や、Tu-16爆撃機のライセンス生産版であるH-6を生産するハルビン飛機工業集団などがある。

会社情報

防衛関連売上高(2021年実績):201億1000万ドル
設立:2008年
グループ社員数:40万7000人

主な製品

J-10戦闘機
J-15艦上戦闘機
J-20ステルス戦闘機
WZ-10攻撃ヘリ
H-6爆撃機

AVIC傘下の瀋陽飛機工業集団が開発するステルス戦闘機FC-31の模型。F-22とF-35を組み合わせたような形状で、同機をベースとした艦載戦闘機が開発されていることも確認されている 写真:鈴崎利治

中国電子科技集団(China Electronics Technology Group Corporation[CETC] / 中国)

中国の治安システムを司る一大電機産業

 主に通信システム、コンピューター、電子機器、各種ソフトウェアなどを開発する国有企業。民間用の需要に応えるものばかりではなく、軍需製品も多く手掛ける。軍事用レーダーや通信システム、さらにミサイル関連の電子部品や半導体などを製造しており、さらに中国の衛星測位システムである「北斗システム」の衛星コンポーネントも担当。中国国内での監視カメラを用いた治安管理システムの構築にも関わり、とくに子会社であるハイクビジョン(杭州海康威视数字技术股份有限公司)は、世界規模での監視カメラに関するシェアを獲得していたことで、アメリカほか各国での安全保障上の懸念が高まっている。

会社情報

防衛関連売上高(2021年実績):149億9000万ドル
設立:2002年 グループ社員数:18万人

主な製品

北斗システム、通信システム、監視カメラ

中国航天科技集団(China Aerospace Science and Technology Corporation[CASC])

ICBMも宇宙ロケットも担う

 改革開放路線の中の一環として設立された国有企業で、中国の宇宙開発計画に関する主契約企業。宇宙船や人工衛星、そしてその運搬手段であるロケットなどを、傘下のグループ企業が開発・製造する。また、こうした比較的平和的な宇宙開発事業だけではなく、純粋な軍事分野である弾道ミサイルの開発や製造も担う。中国のロケット軍で運用される最新鋭の大陸間弾道ミサイル(ICBM)であるDF-41は、グループ傘下の中国運載火箭技術研究院(China Academy of Launch Vehicle Technology:中国キャリアロケット技術研究院)が開発・製造する。同社は中国の国産ロケットである長征シリーズの製造も担ってきた。

会社情報

防衛関連売上高(2021年実績):191億ドル
設立:1999年 グループ社員数:17万人

主な製品

DF-41弾道ミサイル
「長征」宇宙ロケット

中国北方工業公司(China North Industries Group Corporation[NORINCO])

中国兵器の他国への輸出を手掛ける

 中国の軍需関連企業を取りまとめる親会社で、国有企業を統括する中華人民共和国 国務院 国有資産監督管理委員会(国資委)の管理・監督を受ける国有企業。もともと中国人民解放軍の兵器廠を企業化したことで誕生した中国国内の軍需企業のとりまとめは、1980年に創設された中国北方工業公司(Norinco)が担った。しかしその後、中国兵器工業集団有限公司が創設されたことで、その役割はこちらに移管された。
 一方、中国北方工業公司は同グループの傘下入りし、以降、同社では主に兵器の輸出事業を手掛けている。中国兵器工業集団有限公司は、傘下企業により各種兵器の開発および製造が行われ、各種ミサイルや誘導兵器、99式戦車といった戦車や装甲車両、通信システムなどが主な製品。民需用のトラックや、インフラ、エネルギー開発なども担う。

会社情報

防衛関連売上高(2021年実績):215億7000万ドル
設立:1988年 グループ社員数:23万人

主な製品

戦車
装甲車
各種ミサイル

ヒンダスタン航空機(Hindustan Aeronautics / インド)

インド国産戦闘機TEDBFを開発中

 ヒンダスタン航空機は、英訳の「Hindustan Aeronautics Limited」の頭文字に由来する略称であるHALの名でも知られている。1940年に創業され、第2次世界大戦中にインド政府により国有化された。1961年に初飛行したインド初の国産ジェット戦闘機であるHF-24「マルート」や、現在開発が進められている軽戦闘機「テジャス」をはじめ、各種航空機の開発・製造や、エンジン、航法装置なども手掛けている。また、各国の航空関連企業とも連携し、Su-30MKIやBaeホークなどをライセンス生産している。また現在では、インドの国産双発艦載戦闘機であるTEDBF(Twin Engine Deck Based Fighter)の開発にも携わっている。

会社情報

本社所在地:インド・ベンガルール
防衛関連売上高(2021年実績):33億ドル
設立:1940年
グループ社員数:2万6500人

主な製品

テジャス戦闘機
ドゥルーブ汎用ヘリ
Su-30MKI戦闘機(ライセンス生産)

インド国産の軽戦闘機テジャスをベースとする、インド海軍向け「TEDBF」(双発艦載戦闘機)のモデル 写真:柿谷哲也

ラファエル(Rafael Advanced Defense Systems / イスラエル)

ミサイル開発に携わるイスラエル企業

 ラファエル社(正式にはラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ)は、イスラエルをめぐる特殊な情勢の下で数々の装備品を開発してきた実績がある国有企業。もともとは、イスラエル国防軍の技術部門から独立した組織が前身であり、ラファエルの名称を冠することになったのは1950年代のこと。空対空ミサイル「パイソン」や地対地ミサイル「スパイク」、さらに地対空ミサイルシステム「アイアンドーム」など、主に各種の誘導兵器などを開発・製造している。

会社情報

本社所在地:イスラエル・ハイファ
防衛関連売上高(2021年実績):30億1000万ドル
設立:1948年
社員数:8000人

主な製品

パイソン空対空ミサイル
スパイク空対地ミサイル
アイアンドーム対空ミサイルシステム
アイアンビーム レーザー兵器システム

中射程空対空ミサイルの視程外射程空対空ミサイルのダービー(翼端)と短距離空対空ミサイルのパイソン5(その右) 写真:Rafael

三菱重工業(Mitsubishi Heavy Industries:MHI / 日本)

自衛隊機の開発に深く関わる日本のトップメーカー

 旧三菱財閥を前身とする独立起業の緩やかな集合体である三菱グループの中でも「御三家」と呼ばれ、中核とされるのが、三菱UFJ銀行、三菱商事、そして三菱重工業である。三菱重工業は、船舶、エネルギー関連、航空機、鉄道車両などあらゆる分野において日本の産業界を引っ張る企業であるが、防衛関連分野においても同様だ。海上自衛隊の護衛艦や潜水艦、陸上自衛隊の戦車を含む装甲車両、そして3自衛隊の各種航空機など、陸海空自衛隊で運用される数多くの装備を開発・製造する。現在進められている日英伊の戦闘機共同開発計画「GCAP」にも参画している。

会社情報

本社所在地:東京、横浜
防衛関連売上高(2021年実績):40億6000万ドル
設立:1950年 グループ社員数:7万7430人

主な製品

SH-60L哨戒ヘリコプター
10式戦車
もがみ型護衛艦
そうりゅう型潜水艦

F-2戦闘機はF-16戦闘機をベースに、日本の地理的特性等へ適合させる形で日米共同開発された。プロジェクトは三菱重工が主契約社となった 写真:中井俊治
稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

月刊Jウイング編集部JWings magazine

1998年7月創刊、毎月21日頃発売のミリタリー航空専門月刊誌『Jウイング』の編集部。最新号(2024年11月号)の特集は、「島嶼防衛の最前線をゆく 築城基地とF-2戦闘機」。

https://books.ikaros.jp/search/g105694.html

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