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《特集》世界の軍用機メーカー2024──その②ヨーロッパ

  • 特集

2024-10-9 17:30

軍用機を1機作り上げるには約1万社の企業が関わるとも言われる。本特集は2024年のいま、世界各国を代表する軍用機メーカーの一部をピックアップしてその横顔を紹介するものだ。「その②」では欧州の企業を取り上げよう。稲葉義泰 INABA Yoshihiro

*本記事は、月刊『Jウイング』2023年6月号初出の記事をアップデート、再編集したものです。

BAEシステムズ(BAE Systems / イギリス)

防衛装備のあらゆる領域をカバー 英国を代表する防衛企業

 1977年にイギリスの航空産業4社が統合・国有化されて誕生したブリティッシュ エアロスペース社(BAe)に起源を有し、同社が1999年にマルコーニ エレクトロニック システムズと合併したことで、現在のBAEシステムズが創設された。陸・海・空、さらに宇宙や電子戦などあらゆる領域に関連する防衛装備品の開発・製造を行うグローバルな防衛関連企業で、製造業としてはイギリス国内で最大級である。他国の防衛産業との連携も推進しており、身近なところでは、日英伊による共同戦闘機開発計画「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)に参画している。

会社情報

本社所在地:イギリス ファーンボロー
防衛関連売上高(2021年実績):260億2000万ドル
設立:1999年 グループ社員数:9万500人

主な製品

ユーロファイター戦闘機(欧州4か国共同)
クイーン エリザベス級空母
アスチュート級攻撃型原子力潜水艦
26型フリゲート
GCAP戦闘機開発計画

日本・イギリス・イタリアの3か国で共同開発が進む「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」の戦闘機の想像画 画像:BAE Systems
欧州諸国が共同開発したユーロファイター タイフーン。BAEシステムズも出資するユーロファイター社が生産する 写真:Luftwaffe

ロールス ロイス(Rolls-Royce / イギリス)

航空機や船舶用エンジンの世界的メーカー

 ロールス ロイスといえば名門自動車ブランドのイメージだが、それはロールス ロイス モーターカーズという別会社。防衛関連の製品を扱うのは、ロールス ロイス ホールディングスだ。そもそも両社は1906年にイギリスで創設されたロールス ロイス社に起源を有するが、自動車部門が分離して現在の形になった。ロールス ロイス ホールディングスでは航空機や船舶用のエンジンや発電装置などを開発・製造している。日本では、海上自衛隊の護衛艦用ガスタービンを納入していることでも知られる。

会社情報

本社所在地:イギリス ロンドン
防衛関連売上高(2021年実績):49億7000万ドル
設立:1987年
社員数:5万人

主な製品

リフトシステム(F135エンジン)
スペイ ガスタービン エンジン
MT30ガスタービン エンジン
AE1107Cターボシャフト エンジン

ロールス ロイス製エンジンは海上自衛隊の救難飛行艇US-2にも採用されている 写真:Jウイング

レオナルド(Leonardo / イタリア)

GCAPにも参画するイタリア随一の防衛企業

 レオナルド社の源流は、第二次大戦後の1948年3月、イタリアの産業復興研究所IRIの製造業(メカニカ)金融(フィナンツィアリア)部門として創設された「フィンメッカニカ S.p.A.」にある。その後、多くの製造業をその傘下に収めて、自動車や船舶、さらには鉄道車両などその他の分野にも進出していたが、2017年までに事業を再編、防衛・航空宇宙産業にほぼ一本化して社名を「レオナルド」に変更した。航空関連では、アグスタウェストランド社によるヘリコプター事業や、アレーニア・アエルマッキ社による航空機事業をそれぞれ引き継いでいる。日英伊共同開発の戦闘機計画「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)の一翼を担う。

会社情報

本社所在地:イタリア・ローマ
防衛関連売上高(2021年実績):138億7000万ドル
設立:1948年
グループ社員数:5万人

主な製品

AW101汎用ヘリコプター
AW139汎用ヘリコプター
M-346高等練習機

M-346は練習機として優れた性能を有し、これをベースとした軽攻撃機型M-346FAが2020年に初飛行した 写真:Leonardo

エアバス(Airbus / 欧州共同)

旅客機を改造した空中給油機や輸送機を展開

 欧州を代表する航空宇宙企業。民間旅客機事業に加え、軍用輸送機やヘリコプター、宇宙関連分野に進出し、さらにアビオニクスなどの開発も担う。もとはアメリカ企業の国際的な航空機市場の独占に対抗する形で創設され、世界の大型旅客機市場をアメリカのボーイング社と二分してきた。
 現在のエアバス社には紆余曲折を経てたどり着いており、まずフランスのアエロスパシアル・マトラとドイツのダイムラー・クライスラー・アエロスペース(DASA)の2社共同出資でエアバスが創設され、さらにスペインのコンストルクシオネス・アエロナウティカス S.A.(CASA)が合併して、2000年に欧州の航空宇宙防衛総合企業EADSが誕生した。2013年にEADSがエアバス・グループに改名し、2017年に現在のエアバス社が誕生した。

会社情報

本社所在地:フランス・トゥールーズ、オランダ・ライデン
防衛関連売上高(2021年実績):108億5000万ドル
設立:1970年(エアバス・インダストリーとして)
グループ社員数:12万6000人

主な製品

A320旅客機
A350旅客機
A400M戦術輸送機
EC225汎用ヘリコプター

エアバス社が開発した戦術輸送機A400M。現在、イギリスやドイツ、フランスといった欧州諸国に加え、マレーシアでも運用中 写真:MBDA

タレス(Thales / フランス)

全世界に拠点。自衛隊にも製品を納入する

 タレス・グループは、航空宇宙産業分野や交通系システム、さらに防衛関連分野に手広く進出している企業グループ(コングロマリット)だ。南北アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカなど、世界43か国で活動しており、日本においても現地支社のタレスジャパンが1973年以来、約50年にわたり活動している。自衛隊でもタレス・グループの製品を運用しており、代表的なものでは、アルジェリアでの邦人人質事件を受けて2015年に急遽導入されたブッシュマスター装甲車(タレス・オーストラリア開発・製造)、もがみ型護衛艦に搭載・運用される無人機雷捜索システムOZZ-5用の高周波合成開口ソナー「SAMDIS」、さらに航空機用のアヴィオニクスや通信システムなどがある。

会社情報

本社所在地:フランス・ラ デファンス
防衛関連売上高(2021年実績):97億7000万ドル
設立:2000年(それ以前はトムソンCSF)
社員数:7万7000人

主な製品

ブッシュマスター
ハウケイ
CAPTAS

ヘッドマウントディスプレイ「TopOwl」。左右に装着されている光増幅器によるナイトビジョン機能が付与されている 写真:Thales

ダッソー・アビエーション(Dassault Aviation / フランス)

ラファールやミラージュなど名機種を手掛けてきた

 戦闘機のミラージュやラファールだけを製造している企業だと思われがちだが、実際にはもう少し複雑だ。航空産業や防衛産業において名が知られる「ダッソー」は、ダッソー・アビエーション社のこと。親会社「グループ・ダッソー」の下に、各種子会社が傘下に置かれる形になっている。ベストセラー戦闘機のミラージュ・シリーズや、民間ビジネスジェット機ファルコン・シリーズが代表作で、ファルコンはフランス軍で哨戒機として運用されている。現在はエアバスなどとともに次世代航空戦闘システム「FCAS」の開発に参画し、戦闘機の開発を担っている。

会社情報

本社所在地:フランス・パリ
防衛関連売上高(2021年実績):62億5000万ドル
設立:1929年
社員数:1万2440人

主な製品

ミラージュ戦闘機
ラファール戦闘機
FCAS 戦闘機
ファルコン ビジネスジェット機

その曲線美が特徴的なマルチロール戦闘機のラファール。写真は複座型のラファールB。艦載型のラファールMも存在する 写真:Jウイング

サフラン(Safran / フランス)

光学・赤外線センサーは自衛隊や日本の警察でも採用

 サフラングループは、2005年にフランスのエンジンメーカーであるスネクマ社と、同じくフランスの軍用エレクトロニクスや通信システムメーカーであるSAGEM社が合併して誕生した複合企業体(コングロマリット)。エンジンや耐熱材など航空宇宙関係の部品、軍事用の通信システム、光学・赤外線センサー、航法システムなどを取り扱っている。とくに光学・赤外線センサーは、日本でも海上自衛隊の艦艇や警察機関のヘリコプターなどに搭載される。また、海上自衛隊の潜水艦に搭載される潜望鏡にも進出するとの話も聞かれる。

会社情報

本社所在地:フランス・パリ
防衛関連売上高(2021年実績):50億5000万ドル
設立:2005年 グループ社員数:8万3000人

主な製品

M88エンジン
光学・赤外線装置
各種航法システム

戦術用パラシュートMMS360。光学機器だけでなくこうした特殊部隊の潜入などに用いられるパラシュートも開発している 写真:Safran

サーブ(Saab / スウェーデン)

スウェーデンの名戦闘機を開発

 スウェーデン語で「Svenska Aeroplan AB」(スウェーデン航空機会社)という社名のサーブは、当初スウェーデン軍向けの航空機を開発・製造する企業として1937年に創設された。第二次世界大戦中に開発したサーブ18爆撃機に始まり、35ドラケン、37ビゲン、そしてJAS39グリペンなど数々の軍用機を生み出してきたほか、民間航空機の世界においてもサーブ340など旅客機などで参入している。最近ではボーイングと組み、アメリカ空軍の次期練習機T-7レッドホークの開発にも参画。陸上自衛隊も導入した対戦車火器「カールグスタフ」や各種レーダー、さらに軍艦なども開発・製造している。

会社情報

本社所在地:スウェーデン・ストックホルム
防衛関連売上高(2021年実績):40億9000万ドル
設立:1937年
グループ社員数:1万9000人

主な製品

JAS39戦闘機
対戦車砲カールグスタフ
シージラフ対空レーダー

小型のマルチロール戦闘機、JAS39グリペンE型。短い滑走路でも離着陸できるなどの特徴を有している 写真:ブラジル空軍
稲葉義泰INABA Yoshihiro

軍事ライターとして自衛隊をはじめとする各国軍や防衛産業に携わる国内外企業を取材する傍ら、大学院において国際法を中心に防衛法制を研究。著者に『「戦争」は許されるのか 国際法で読み解く武力行使のルール』『“戦える”自衛隊へ 安全保障関連三文書で変化する自衛隊』(イカロス出版)などがある。

https://x.com/japanesepatrio6

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