日本とEUが第1回日・EU外相戦略対話を実施、「日EU安全保障・防衛パートナーシップ」を公表
- 日本の防衛
2024-11-5 12:50
外務省は令和6(2024)年11月1日(金)、岩屋毅(いわや・たけし)外務大臣とジョセップ・ボレル・フォンテジェス欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表 兼 欧州委員会副委員長が第1回日・EU外相戦略対話を実施し、その機会に「日・EU安全保障・防衛パートナーシップ」を発表したことを公表した。
リリース文と「日・EU安全保障・防衛パートナーシップ」の和文仮訳を以下に転載する。
報道発表 日・EU安全保障・防衛パートナーシップの公表
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11月1日、岩屋毅外務大臣とジョセップ・ボレル・フォンテジェス欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長(H.E. Mr. Josep Borrell Fontelles, High Representative of the European Union for Foreign Affairs and Security Policy, Vice-President of the European Commission)は、第1回日・EU外相戦略対話の機会に、日・EU安全保障・防衛パートナーシップを公表しました。
1 2023年7月の第29回日EU定期首脳協議共同声明において、首脳間で安全保障パートナーシップを更に発展させることで一致したことを受け、日EU間で安全保障分野における協力を強化してきています。
2 本パートナーシップは、日本とEUが、厳しさを増す安全保障環境に直面する中、安全保障及び防衛に関するあらゆる分野において、協力及び対話の更なる発展・強化を目指すものです。具体的には海洋安全保障、宇宙、サイバーセキュリティ、外国による情報操作と干渉(FIMI)を含むハイブリッド脅威といった分野における協力を進めていきます。
(以上)
日EU・安全保障・防衛パートナーシップ(仮訳)
序文
1.欧州とインド太平洋は高度に相互連結し、相互依存している。この相互依存には、地政学的、経済的、安全保障的な側面がある。日本と欧州連合(EU)は、力による一方的な現状変更の試みによって示されたように、一層厳しさを増す、相互に結びついた安全保障環境に直面している。日本とEUは、法の支配及び国連憲章の尊重に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する必要性を強調する。
同時に、安全保障はもはや伝統的な軍事・防衛関連の案件に限定されるものではなく、サイバー・ハイブリッド脅威、海洋・宇宙空間、経済安全保障など、密接に結びついたますます広範な分野を包含している。
2.日本とEUの戦略的パートナーシップは、共通の価値と利益に基づいている。日EU定期首脳協議(2023年7月13日、ブリュッセル)の共同声明は、欧州の安全保障とインド太平洋の安全保障が密接に結びついていることを認識した。また、包摂的で、繁栄し、安全であり、主権、領土一体性、紛争の平和的解決、法の支配、人権、基本的な自由を含む共通の原則を守る、自由で開かれたインド太平洋の重要性を再確認した。同共同声明は、日・EU間の安全保障パートナーシップをさらに発展させ、特に海洋安全保障、サイバーセキュリティ、外国による情報操作と干渉(FIMI)を含むハイブリッド脅威、テロ対策、軍縮、不拡散、国際平和協力に関する協力の拡大を促進することを求めた。
3.日本とEUはそれぞれ、今後の安全保障・防衛政策の指針となる重要な戦略文書を採択した。2021年に採択された「インド太平洋における協力のためのEU戦略」と2022年に採択された「安全保障と防衛のためのEU戦略コンパス」は、強力な個別に適合された連携関係を核とし、安全保障と防衛におけるEUの役割をより強固なものとするための明確なビジョンを示している。日本は2022年に国家安全保障戦略を策定し、同盟国やEUを含む志を同じくするパートナー間の重層的なネットワークを構築するため、安全保障協力を強化することの重要性を強調した。これらの戦略文書は、日本とEUの間の強力な戦略的連携を裏付けている。
4.この文脈において、日本とEU双方は、共有する課題によりよく対応するため、協力を一層強化する機運と機会を捉える。したがって、我々は、特に2018年7月17日の日・EU戦略的パートナーシップ協定を始めとする既存の枠組みを活用し、また、他の分野における取組を強化することにより、安全保障及び防衛に関するあらゆる分野における協力及び対話の更なる発展、深化及び強化を目指す。
一般的枠組み
5.日本とEUは、テーラーメイドの互恵的な安全保障・防衛パートナーシップを確立し、実施することを決定した。このパートナーシップは、次に挙げる一連の対話メカニズムによる舵取り(運営)と監督によって支えられる:
- 安全保障・防衛関係を監督し、適切な指導を行うため、毎年開催される日EU定期首脳協議及び毎年開催される日EU外相級戦略対話(日本の外務大臣とEU外務・安全保障政策上級代表/欧州委員会副委員長)を活用する。安全保障・防衛関連問題は、日EU戦略対話の主要議題となる。
- 既存の非公式で定期的な協議を局長・総局長レベルの年次開催される日EU安全保障・防衛対話に格上げし、広範な戦略的環境、テーマ別の安全保障・防衛問題を議論し、協力の可能性を探り、必要に応じて閣僚級会合のための成果を準備する。
- インド太平洋における安全保障の状況や脅威の評価など、共通の関心を有する特定の領域に関する既存のテーマ別で構成される対話を構築・継続し、課長レベルでのテーマ別対話の設置を追求する。
- これらの対話は、毎年開催される安全保障・防衛対話に報告される。
6.日本とEUは、ルールに基づく国際システムを維持・改善し、開かれた経済を維持しつつ、経済的強靱性と経済安全保障をグローバルに確保するための交流を強化する必要性を再確認する。
7.日本とEUは、日EU情報保護協定の可能性を追求する。
8.日本とEUは、能力構築や他のパートナーへの支援の調整の機会を模索することや、EUが資金を拠出する「インド太平洋における重要海路」(CRIMARIO)や「アジアにおける及びアジアとの安全保障協力の強化」(ESIWA)プロジェクト等のプログラムを活用することを含め、安全保障及び防衛に関する協力を更に発展させる。
9.日本とEUは、関連分野における他の志を同じくするパートナーとの協力を含め、多国間フォーラムにおいて協力する。
具体的な協力分野
10.日本とEUは、お互いの政策をより連携させるために安全保障・防衛政策及び関連する地域の安全保障並びに戦略的・地政学的諸問題におけるそれぞれの進展について協議することに加え、以下の分野において、的を絞った対話を行い、協力を強化する:
作戦・演習を含む海洋安全保障
11.日本とEUは、国際法、特に国連海洋法条約(UNCLOS)に従って、安全な海上交通路並びに航行及び上空飛行の自由を含む、開かれた、ルールに基づく海洋地域安全保障アーキテクチャを促進することを目指し、海洋安全保障に関する交流を深める。
12.日本とEUは、以下の分野における協力を強化する:
- EU海軍部隊アタランタ作戦(EUNAVFOR Atalanta)と日本の自衛隊(統合幕僚監部)との間の事務的取決めを通した協力を含む、具体的な海軍種協力の促進。
- 相互に指定した第三国が随時参加するものを含む活動(共同訓練、寄港等)を通じた海洋安全保障に関する協力の発展。
- 特に北西インド洋におけるEUの調整海洋プレゼンス(CMP)イニシアティブの枠組みにおける協力の探求。
- インド太平洋地域における第三国の海洋能力構築に関する協力の可能性の探求。
宇宙安全保障と防衛
13.日本とEUは、既存の日EU宇宙政策対話を拡大し、宇宙安全保障に関連する事項を含める可能性を追求する。
14.日本とEUは、特に宇宙空間における責任ある行動の規範、ルール及び原則を共同で促進するため、国連を含む多国間及び二国間の場における対外的関与の調整を促進する。この点に関し、日本とEUは、国連総会軍縮・国際安全保障委員会(第1委員会)及び政治・脱植民地化特別委員会(第4委員会)の合同パネル・ディスカッションに貢献し、宇宙の安全保障及び持続可能性に対する潜在的な課題について議論する。
サイバー
15.日本とEUは、サイバーセキュリティ上の脅威の状況、それぞれのアプローチ及び悪意のあるサイバー活動への外交的対応を調整するための実際的な協力の取組に関する定期的な意見交換の強化、並びにサイバー能力構築の取組における調整及び協調を通じたものを含め、既存の日・EUサイバー対話を深化させる。
16.日本とEUは、特に、サイバー空間における責任ある国家の行動のための国連の枠組みの促進及びこの目的を達成するための行動計画(PoA)の設立、並びにASEAN地域フォーラムにおけるサイバー信頼醸成措置の開発及び実施に関して、多国間、地域及び二国間レベルで引き続き協調・協力する。
「外国による情報操作および干渉」(FIMI)を含むハイブリッド脅威
17.日本とEUは、双方の学術機関、シンクタンク及びセンター・オブ・エクセレンス間の緊密な協力を通じたものを含め、ハイブリッド脅威に関する調査研究を深める。日本とEUは、EUが資金提供する「アジアにおけるアジアとの安全保障協力強化」(ESIWA)プロジェクトの支援の下、東京大学公共政策大学院(GraSPP)に戦略的コミュニケーション教育・研究ユニット(SCERU)が設立されたことを歓迎し、同ユニットとの協力強化の機会を追求する。
18.日本とEUは、ハイブリッド脅威への外交的対応を含む戦略及び政策の策定におけるベストプラクティスを共有し、適切な場合には双方が主催する演習に参加する。
19.日本とEUは、二国間の情報交換を通じて、悪意ある影響力行使といったFIMIに関する脅威評価に係る情報を積極的に共有し、協調と運用協力の可能性を追求する。
不拡散、軍縮、小型武器を含む通常兵器
20.日本とEUは、日・EU戦略的パートナーシップ協定を踏まえ、不拡散、軍縮、小型武器を含む通常兵器に関する協議を深める。
21.日本とEUは、日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」及び核軍縮に関する「G7首脳広島ビジョン」(2023年)を念頭に置き、軍縮及び不拡散に関連する重要な問題に関する認識の共有を促進する。
22.日本とEUは、核兵器不拡散条約(NPT)、化学兵器禁止条約(CWC)、生物兵器禁止条約(BWC)、包括的核実験禁止条約(CTBT)及びその他の主要な多国間文書並びに輸出管理レジームにおける協調を促進する。
23.日本とEUは、将来の可能な核軍備管理の枠組みに向けて、核兵器国間の対話の強化を促進する。
防衛産業関連事項に関する情報交換を含む、日本とEUの防衛イニシアティブ
24.日本とEUは、防衛産業関連事項に関する情報交換を含む、それぞれの防衛イニシアティブの開発に関する協議を行う。日本とEUは、それぞれのプロセスに沿って、それぞれの防衛イニシアティブへの相互関与の可能性を追求する。
平和、紛争予防及び危機管理
25.日本とEUは、調停及びベストプラクティスの共有に関する交流、共通安全保障・防衛政策(CSDP)分野での協力、第三国に対する共同支援、共同演習及び訓練等、平和維持、紛争予防及び危機管理に関する協力の可能な分野を探求する。
26.日本とEUは、国連機関を含む多国間の場において、平和、紛争予防及び危機管理における共通の優先事項に関する連携を強化する。日本とEUは、国連平和維持活動へのそれぞれの貢献及び支援について意見交換する。
テロ対策(CT)、暴力的過激主義への対処(P/CVE)
27.日本とEUは、過激化のオンライン上の側面への対処や暴力的過激主義に対抗するための地域警察アプローチ等、CT-P/CVE関係機関のより一層の相互作用のための活動を設計することにより、CT関連事項に関する協力の可能性を追求する。
28.日本とEUは、ASEAN地域フォーラム(ARF)等の多国間及び地域の場における協調を促進する。
「女性・平和・安全保障」
29.日本とEUは、国連安保理決議(UNSCR)第1325号及びそのフォローアップ決議から成る「女性・平和・安全保障(WPS)」アジェンダの完全な実施にコミットしており、安全保障及び防衛に関する協力の分野においてジェンダー平等が統合されることを確保する。
30.したがって、日本とEUは、「女性・平和・安全保障」に関するコミットメントの実施に関するグッド・プラクティスを交換し、政治的及び安全保障上の優先事項としてのジェンダー平等を確保するため、また、現在及び新たな安全保障及び地政学的変化への共同対応を強化することを目的として、緊密な協力を継続する。
今後の方向性
31.安全保障・防衛パートナーシップにおいて特定された分野は、「日・EU安全保障・防衛対話」(局長・総局長レベル)の枠組みにおいて定期的に見直される。同対話は、進捗状況を把握し、更なる弾みをつけ、協力の更なる強化及び発展の方法を探求する観点から、毎年開催される日EU外相級戦略対話及び日EU定期首脳協議に報告する。
32.安全保障・防衛パートナーシップの内容は、適宜見直される。
(了)
(以上)
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