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JA2024速報──RTX[W4-020]①センサー編

  • その他

2024-10-18 08:00

2024年10月16日から19日まで開催されている「2024国際航空宇宙展」(JA2024)。出展者のひとつである米国のRTX社について、AN/SPY-6(V)1フェーズド・アレイ・レーダーの展示と、そこから見える日本での展望をさぐってみよう。井上孝司 INOUE Koji

「AN/SPY-6(V)1のアンテナ・アレイと同じサイズです」

 2024国際航空宇宙展の会場で、受付のある2階から会場入口のある1階にエスカレーターで降りた先の足元に、こんな仕掛けがあった。

中央に「SPY-6(V)1 actual size」と記されている。つまり「これはAN/SPY-6(V)1のアンテナ・アレイと同じサイズです」ということ 写真:井上孝司

 筆者は現物を生で見たことがあるからともかく、普通は「AN/SPY-6(V)1のフェーズド・アレイ・アンテナ1面は、37個のRMAで構成されています」といわれても、アンテナ・アレイのサイズ感がピンとこない。それをうまく解決した展示だと思う。

 ちなみにRMAというのは「Radar Modular Assembly」の頭文字略語で、写真をよく見ていただくと、正方形が37個並んでいるのがわかるだろう。

モジュラー構成だから大きさが自在、故障にも強い

 一方、西4ホール展示会場のブースでは、AN/SPY-6(V)1とAN/SPY-6(V)4の模型展示が行われていた。いずれも、海上自衛隊でこれから新造するイージス・システム搭載艦、あるいは既存のイージス護衛艦に搭載するレーダーの候補として名前が挙がっている。

左がAN/SPY-6(V)1、右がAN/SPY-6(V)4の模型。アンテナ・アレイの規模の違いがよく分かる 写真:井上孝司

 先日このウェブサイトで掲載された「次世代レーダーSPY-6(V)を学ぶ──第1回」でも述べたように、さまざまな機種のレーダーが混在して、教育・訓練や兵站支援の負担を増やしていた状況を解決したい、という状況が、米海軍においてAN/SPY-6(V)を開発するきっかけとなった。

 だから、RMAという約60cm四方のモジュールをひとつの単位として、組み合わせる数の大小によって大きいレーダーも小さいレーダーも作れるようにした。それは、単独で機能できるレーダーの集合体だから、一部が故障しても、いきなり全体が機能不全を起こす訳ではない。

 モニタリング・システムが動作を監視しているだけでなく、一部の送受信モジュールが使えなくなっても、隣接する健在な送受信モジュールでカバーして運用を継続できる。この冗長性の高さは、アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーの強みである。

 また、整備点検にかかる時間が短くなり、それを担当する技術要員の所要は半減したという。

米海軍における導入状況

 では、AN/SPY-6(V)の導入状況はどうか。

 まず、37個RMA・4面アレイのAN/SPY-6(V)1は、アーレイ・バーク級駆逐艦フライトIIIの「ジャック H. ルーカス」(DDG 125)が就役して、初度運用能力(IOC:Initial Operational Capability)達成に向けた試験を進めているところ。

 9個RMAの回転式アンテナを備えるAN/SPY-6(V)2は、ドック型揚陸輸送艦「リチャード M. マックール Jr.」(LPD 29)が就役したところ。このモデルは今後、新造の揚陸艦に加えて、空母や揚陸艦が搭載する既存のAN/SPS-48レーダーを置き換える計画。

艦橋構造物にAN/SPY-6(V)1を4面搭載する、アーレイ・バーク級駆逐艦フライトIIIの「ジャック H. ルーカス」 写真:アメリカ海軍

 そして、24個RMA・4面アレイのAN/SPY-6(V)4は、アーレイ・バーク級駆逐艦フライトIIAの「ピンクニイ」(DDG 91)が、2025年度からレーダー換装の作業に入り、2028年に完成の予定。

 これら3モデルに加えて、9個RMA・3面アレイのAN/SPY-6(V)3は、フォード級空母の2番艦「ジョン F. ケネディ」(CVN 79)以降と、新形フリゲート「コンステレーション」(FFG 62)以降で搭載する。

RMAとSPY-6(V)の構成
画:おぐし篤
SPY-6(V)ファミリーと搭載艦
画:おぐし篤

 これら4モデルを、今後10年間で60隻以上の艦に導入していく計画だ。それによって「ESSM、SM-2、SM-6(いずれも艦対空ミサイル)に対して、より正確な目標情報を提供してミサイルの性能を最大限に発揮できる」とアピールする。

 その米海軍向けの製品と同じものを日本でも導入すれば、「米海軍の調達に相乗りして実績ある製品を手に入れられるし、量産効果が上がるのでコストダウンにもつながるのではないか」というのがRTXの説明である。

日本における展望

 日本では目下、「こんごう」型イージス艦の後継艦や「まや」型・「あたご」型のAN/SPY-1D(V)レーダーを対象とするバックフィットについて、その機種をどうするかという話になっている。そこでRTXでは、製品に関する調査に協力する形でAN/SPY-6(V)に関する情報を提供している。

「米海軍と同じレーダーにすればメリットが大きいですよ」
 というのがRTXのスタンス。

 しかし、米海軍と同様に“機種統合の実”(ようするに量産効果など)を挙げようとすれば、仮に10隻のイージス艦にAN/SPY-6(V)を載せるとしても、まだ物足りなくはないか。他の汎用護衛艦などにも対象を広げるぐらいのことがあってもいいのではないか、その場合の候補は9個RMAのAN/SPY-6(V)3あたりか……と水を向けてみた。
 すると、もちろんRTXとしては「納入できるレーダーの数が多い方が嬉しい」が、そうなると「日本国内の産業基盤との兼ね合いをどうする?」という課題に直面する。

 AN/SPY-6(V)では先に、三菱電機ならびに三波(さんぱ)工業の生産参画が決定している。しかもこれは、米軍向けの装備品を製造する過程で海外の企業が参画するという画期的な出来事。そこからさらに踏み込んで、日本で補用品を製造するとともに日米共用のリージョナル・デポのような施設を開設する可能性もあり得よう。

 まず、一部の生産参画で実績と信頼を積み上げていけば、将来、もっと大きな分担ができる話につながるやも知れぬ。そういう形での産業基盤維持・育成という選択肢も、あっていいと思うのだが。

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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