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《レポート》「南海レスキュー2024」南海トラフ巨大地震を想定した大規模災害対処訓練(1月13日〜17日)

  • 日本の防衛

2025-1-20 11:55

 南海トラフ巨大地震を想定した陸上自衛隊中部方面隊の災害対処実動訓練「南海レスキュー2024」が、2025年1月13日(月)から17日(金)にかけて近畿・東海・中国・四国地方で行われた。陸・海・空自の隊員約1万1300名、航空機32機、艦艇7隻のほか、26の自治体や40社の企業、そして在日米軍から約210名が参加し、過去最大規模での災害対処訓練となった。

中部・近畿・四国の119か所で訓練を実施

 今回の訓練は「紀伊半島沖を震源にマグニチュード9.0の地震が発生し、東海・近畿南部・四国が大きく被災」という想定。能登半島地震の教訓等を踏まえ、“孤立地域における”発災直後から72時間の初動対処を焦点とした実動訓練を行い、災害対処能力の向上を図るのが目的だ。主な訓練項目は、情報共有、人命救助、生活・インフラ支援、物資・人員輸送である。

 中部方面総監部(伊丹駐屯地)には災害対処の指揮所が設置され、陸自の指揮システム、内閣府の新総合防災情報システム(SOBO-WEB)、防災科学研究所のSIP4D-Xedgeなどのネットワークシステムを用いて情報共有や活動の指揮を執った。
 48件の実動訓練が119か所で行われ、その内容は孤立地域への人員・物資の輸送、負傷者の搬送、道路啓開、インフラ復旧、生活支援など多岐に渡った。報道公開されたいくつかを、以下に紹介する。

1月13日 四国

 徳島県・高知県では沖合の輸送艦「くにさき」を拠点にして、AAV7水陸両用車、LCACエアクッション艇、各種ヘリコプターで救援物資や重機や通信車両等を輸送した。

徳島県海陽町の大里松原海岸に上陸する陸自・第1戦闘上陸大隊(崎辺)のAAV7水陸両用車。輸送艦「くにさき」から5両のAAV7と4艇の戦闘強襲偵察用舟艇が上陸し、救援物資を第15即応機動連隊(善通寺)の高機動車に手渡した。災害救助用に武装をはずしている。写真:鈴崎利治
高知県東洋町の生見海岸に上陸する海自・第1エアクッション艇隊(呉)のLCACエアクッション艇。津波で沿岸部の道路が寸断されたという想定で、輸送艦「くにさき」から発艦し、陸自の油圧ショベル・バケットローダ―と通信会社の通信車両等を揚陸させた。写真:鈴崎利治

1月14日 琵琶湖

 琵琶湖では海上自衛隊のUS-2救難飛行艇が着水して重傷者を遠隔地の病院に搬送し、陸上自衛隊の94式水際地雷敷設車で医師や医薬品等を運んだ。

琵琶湖に着水し、傷病者を収容した海自・第71航空隊(岩国)のUS-2救難飛行艇。滋賀県警の警備艇から傷病者を移し、遠隔地の病院に搬送する想定だ。洋上救難が主任務のUS-2が淡水湖に離着水するのは珍しく、事前訓練(2024年10月17日)に続いて2度目。写真:鈴崎利治
US-2の訓練支援で琵琶湖源氏浜に展開した陸自・中部方面移動監視隊(今津)の広域用監視装置GOB-206。可視光・赤外線カメラで監視任務を行い、通称は「千里眼」。US-2の動画を撮影し、指揮所等に伝送した。写真:鈴崎利治
琵琶湖周辺の道路が寸断されたという想定で、陸自・第304水際障害中隊(和歌山)の94式水際障害敷設装置が医師(DMAT)・警察官・滋賀県職員を孤立地域に運ぶ。本来は水際地雷(機雷)を海岸線に敷設する水陸両用車だが、荷台に手すりを設置すれば、災害時の人員・物資輸送用にも使用できる。写真:鈴崎利治

1月15日 淡路島

 淡路島では陸自のUH-1J多用途ヘリ、米陸軍のUH-60L多用途ヘリで負傷者を搬送したり、民間のドローンで情報収集や物資輸送が行われた。

淡路島では、聖隷淡路病院横に陸自・中部方面衛生隊(伊丹)が救護所を設営し、トリアージと応急処置を行った。そこに陸自・第3飛行隊(八尾)のUH-1J多用途ヘリ2機が飛来し、傷病者の一部を島外の医療施設に搬送した。写真:鈴崎利治
八尾空港(大阪府)から淡路島夢舞台に飛来した在日米陸軍航空大隊(座間)のUH-60L。避難民を収容して徳島空港(徳島県)に向かった。徳島空港では、陸自のV-22オスプレイが岩国基地(山口県)から米海兵隊員を乗せて飛来し、物資輸送や患者空輸を行った。写真:鈴崎利治
淡路島夢舞台では、民間が開発した7種類のドローンのデモが行われた。写真は三菱重工業の輸送用無人機で、全長約6mで約200kgの物資を運べる。現在は電動のみで約20分の飛行時間だが、今後はエンジンを併用してハイブリッド化し、飛行時間を延ばすという。写真:鈴崎利治

1月16日 大阪

 大阪府の大和川では92式浮橋を架設し、警察・消防車両を対岸に渡し、UH-1Jで負傷者を搬送した。

大阪府柏原市の大和川で行われた渡河訓練。橋が崩落したという想定で、陸自・第102施設器材隊(大久保)が92式浮橋を設置して警察・消防車両を対岸に渡した。今回は9個の橋節をつなぎ、約36mの浮橋を架設した。段差をなくすため、92式浮橋の上にパネル橋MGBを置いている。写真:鈴崎利治

 訓練の一部は一般見学もでき、地方協力本部では募集対象者を中心に見学ツアーも行われた。

 1月17日は阪神淡路大震災から30年目の節目となり、各地で追悼式典や災害対応訓練等が行われた。この30年間で自衛隊の災害対処能力や自治体・関係機関との連携は向上しているが、いくら準備しても万全とはいえないだろう。官民の連携だけでなく、国民一人一人が防災意識をしっかりと持ち、自助・共助・公助の取り組みをさらに強化していくことが必要だ。

(以上)

※「南海レスキュー」は、月刊『Jウイング』4月号(2月21日発売号)、不定期刊『JグランドEX AFV大百科』(2月25日発売)でも、詳しくレポートする予定です。

鈴崎利治SUZUSAKI Toshiharu

地域密着と遠征取材を両立する職業カメラマン。陸上自衛隊と航空自衛隊について造詣が深く、自衛隊の訓練や演習、駐屯地記念行事、航空祭などのレポーターとして四半世紀以上の経験を持つ。月刊『Jウイング』、不定期刊『JグランドEX』、月刊『軍事研究』などに寄稿多数。表の顔は、埼玉県飯能駅前のスズサキ写真店 店主。キャッチフレーズは「幼稚園児から戦車まで」「卒業アルバムから戦闘機まで」。

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