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高度な人材を育てるSTEM教育と「国際ロケットチャレンジ」

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2025-5-8 06:00

あらゆる科学技術は、人類の探求の積み重ねによって育まれ、その最先端は若者の手で未来へと切り開かれていく。防衛企業も支援する、学生のモデルロケット国際大会を紹介しよう。大貫 剛 OHNUKI Tsuyoshi

先端技術企業による未来への投資「STEM教育」

 防衛産業をはじめとする先端技術企業にとって、知識と独創性を兼ね備える高度な人材の確保は今後ますます重要であり、創造的な活動を通じて能力を育くむための企業による教育支援が広がりを見せている。このうち、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野を重視した教育アプローチは、その頭文字から「STEM(ステム)教育」と呼ばれ、多くの企業が取り組んでいる。

画像生成:ChatGPT × 編集部

 例をあげれば、グーグル社によるオンラインのデジタルスキル教育プラットフォーム「Applied Digital Skills」、マイクロソフト社の女子学生向けテクノロジーキャリアプログラム「DigiGirlz」、レゴ社の国際ロボティクス競技会「FIRST LEGO League」、村田製作所が2006年から行っている「出前授業」、日本国内の企業と学校が連携した女子中高生向けの「Girls Meet STEM」など、枚挙にいとまがない。またその取り組み方も、教育そのものを提供するもの、その分野の仕事に触れる機会をつくるもの、コンテストを開催するものなど、まことに多彩である。
 最近は、STEMに自由学芸(Liberal Art)の「A」を加えた「STEAM」という取り組みもある。

学生によるモデルロケット開発の頂点「国際ロケットチャレンジ」

 そのSTEM教育のひとつが、学生によるモデルロケット開発だ。モデルロケットは個人が自作可能な小型ロケットで、胴体や翼、回収装置などをすべて自作する。黒色火薬やコンポジット固体推進薬を組み込んだロケットモータは専門メーカーで製造されたものを使用するため、製作上の安全性は高い。素材選定や軽量構造の工夫など高い知識と創造性が要求され、打ち上げを通じてロケットの飛行の安全管理などを総合的に学ぶことができる。

 日本では中高生を対象に「モデルロケット全国大会」と「ロケット甲子園」という全国大会が開催されている。前者は直径25mm以上・全長250mm以上のロケットを設計・製作し、打ち上げて到達高度を競う。後者は、全長650mm以上・総重量650g以下のロケットを設計・製作し、目標高度と滞空時間への精度を競う。ロケットには宇宙飛行士に見立てた生卵2個を搭載し、着地までに割れていれば失格というルールもあり、飛行性能だけでなく安全回収までを含めた総合的な設計・製作が求められる。

 ロケット甲子園の骨子は、アメリカで始まった「ARC」(American Rocketry Challenge:全米ロケットチャレンジ)大会が基本となっており、現在は日本のロケット甲子園のほか、イギリスとフランスでも同様の大会が開催されている。これら日米英仏の大会優勝チームは、国際大会である「IRC」(International Rocketry Challenge:国際ロケットチャレンジ)へと進出できる。この大会では、モデルロケットの打ち上げのほか、英語でのプレゼンテーションも審査対象になる。

ARC(全米ロケットチャレンジ)の公式サイト

 これまで、これらの大会には日本ロッキードマーティン、IHI、ナブテスコなどの防衛・航空宇宙産業が支援を行ってきた。また学生たちのIRC参加は、日本の航空・宇宙企業によって構成される日本航空宇宙工業会がサポートしている。

2025年は東京の小石川中等教育学校チームが挑戦

 IRCは、フランスで奇数年に開催される「パリ国際航空ショー」およびイギリスで偶数年に開催される「ファーンボロー国際航空ショー」の会場内で実施される。2025年のIRCパリ大会は6月19日~20日の予定で、2024年のロケット甲子園を制した東京都立小石川(こいしかわ)中等教育学校のロケットチームが出場する。同校は東京都が設置する中高一貫校で、生徒の自主性を重視する方針のもと、課外活動が盛んに行われている。

 ロケットチームを率いるのは高校2年生の橋本龍之介さん。小学生時代にJAXAのロケット打ち上げを見学したことをきっかけに宇宙開発への関心を持ち、中学入学後は自ら校長にプレゼンテーションしてロケット制作のクラブ活動を立ち上げた。現在のチームは中学生6名・高校生12名の計18名で構成され、ロケット甲子園やIRCへ向けた活動は主に高校生が行っている。

2024年のモデルロケット全国大会で獲得した「ロッキード マーティン奨励賞」の賞状を持つ、小石川中等教育学校 物理研究会 ロケット班長の橋本龍之介さん。机の上に並ぶのは、モデルロケット全国大会の優勝機体(小)とロケット甲子園の優勝機体(大) 写真:編集部

 胴体にはガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、尾翼には木材を使用、複雑なパーツは3Dプリンタで製作しており、素材や製法にも工夫が凝らされている。学生たちはネット上の知識だけでなく、モデルロケット経験者や他校のチームに話を聞きに行くなど自分達で幅広く学んでおり、担当教員も一緒に学んでいるという。

 現在、小石川チームはIRC出場に向け、旅費と機体製作費をまかなうためのクラウドファンディングを実施している。STEM教育の実践として、小石川チームの参加は大きな機会となるだろう。

【クラウドファンディングのご案内】

モデルロケットの世界大会「IRC」に高校生チームが出場!世界1位を目指します!

プロジェクトページ:https://ubgoe.com/projects/916
募集期間:2025年4月28日(月)18:00〜2025年6月29日(日)23:59
目標金額:500万円
募集形式:All-in
お返し:お礼の動画、HPへのお名前掲載、デイリーレポート、記念冊子への名入れ、ユニフォームへのロゴ掲載(※5月15日までの限定特典)など

大貫 剛OHNUKI Tsuyoshi

サイエンス・ライター。1973年、東京都生まれ。「世界」を宇宙に拡げることを仕事にする自営業者。著書に『ゼロからわかる宇宙防衛 』(2019年 イカロス出版)、『完全図解 人工衛星のしくみ事典』『日の丸ロケット進化論』(2014年 マイナビ)など。

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