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軍事評論家・岡部いさくが語る「サーブ」
《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか 〜特別編

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2026-10-14 06:06

2026年春から月イチでお届けしている「なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか」。今回は特別編として、軍事評論家の岡部いさく氏が、北欧を代表する防衛技術企業「サーブ」を紹介する。岡部いさく OKABE Isaku

イラスト:岡部いさく

サーブ──この面白い会社

 サーブという会社はつくづく面白い会社だ。当年72歳の私にとっては、サーブの名前を知った始まりは子供時代に乗り物図鑑で見た1950~60年代の流線型のサーブ92~95というクルマだったような気がする。それから間もなく飛行機好きの子供になると、当時の航空雑誌でJ35ドラケンを見て、ダブルデルタの主翼とマッハ2の性能に感心したものだ。さらに後になって、サーブ92シリーズは小柄な乗用車のくせに風洞実験までして空気抵抗を減らしたということや、ドラケンは飛行性能ばかりか、出撃から帰還して燃料を補給、機関砲弾やミサイルを補充して再出撃するまでのターンアラウンド時間がたったの10分ということを知って、サーブの名前は他の国にはない独特なクルマや飛行機を作る会社として頭に染みついた。
 1980年代に航空雑誌の記者としてパリ(仏)やファーンバラ(英)の航空ショーに行くと、そこにももちろんサーブがあって、カナードつきダブルデルタ翼戦闘機JA37ヴィゲンが飛ぶのも、そして着陸してスラストリバーサーを吹かすのも見られた。当時は実用機でカナードつきの機体などヴィゲンぐらいのものだったし、戦闘機のくせにスラストリバーサーがついていて着陸滑走距離を短縮するのもヴィゲンと、あとはトーネード攻撃機しかなかった。サーブの飛行機は面白いなあ、と思ったものだ。ちなみに言うと、ヴィゲンはトンネルや洞窟の格納庫に収まるように垂直尾翼が折りたたみ式なのだ。面白いだろ?
 そんなサーブは1990年には自動車部門を分離して、サーブというクルマのブランドはその後2011年には消えてしまっている。しかし今のサーブは飛行機だけでなく、レーダーや電子装置、さらには艦艇や潜水艦に至るまで、500品目以上の製品を作る多彩な防衛技術会社となっている。従業員数は全世界で27,865人(2025年末)、その内23,553人がスウェーデンで働いている。アメリカの大手航空宇宙メーカーなどに比べると小さいが、それでもスウェーデンでは人口1070万人のうち0.22%がサーブに雇用されていることになる。
 しかも相変わらずサーブのやることは面白い。現在サーブが生産している戦闘機はJAS39グリペンで、そもそもアメリカのF-16やF/A-18よりも小さいクラスを狙うというところからして独特な戦闘機だ。グリペンは機体が小さく、エンジンも単発。小さくて軽いと搭載量や機内容積も少なくなって、装備できる電子装置も限られるのだが、そこのところをサーブは良いレーダーとコンピューターを採用して、兵装搭載量もハードポイント8か所に合計約5トンを実現してみせた。その前のヴィゲンが輸出に成功してなかったが、グリペンはスウェーデン以外にも数々の国に採用されている。

左から、J35ドラケン、JA37ヴィゲン、JAS39グリペンC 写真:Saab AB, shaun, Linus Haegermark / SaabAB

「戦闘機のカタチをした電子戦機」

 そのグリペンは改良を重ねて、今のグリペンE型では機体も大型化して、兵装搭載量や航続距離も向上した。とはいってもステルス性を持つ“第5世代”戦闘機が増えている現在、グリペンEも所詮は“第4世代+”の最新版じゃないか、と思うかもしれない。しかしサーブはグリペンEにアレクシスという電子戦システムを搭載して、高度で精密な電波妨害を行うことで敵のレーダーによる探知を防ぐことができるとしている。敵側のレーダーに映らない機体を「パッシブなステルス」とするなら、グリペンEは「アクティブなステルス」ということになる。パッシブなステルスでは兵装を機内に収容するため機体が大きくなり、それは機体価格の上昇につながる。低価格で小型な機体では兵装は外部に搭載することになるが、それでレーダー探知を避けるにはアクティブなステルスが必要になる、という考え方だ。しかも敵のレーダーを妨害する専門の電子戦機を持たない(持てない)空軍では、戦闘機がレーダー妨害もしなくてはならない。そのためにグリペンEは高度な電子戦能力を備えていて、サーブは「戦闘機のカタチをした電子戦機」と評している。
 このグリペンEのレーダーはサーブとイタリアのレオナルド社が共同開発したES-05というフェーズドアレイ・レーダーだ。スウェーデンにはエリクソンという電子機器メーカーがあるが(ここもここで面白いレーダーを作っていた)、2006年に防衛部門がサーブに吸収されている。今のサーブはレーダー・電子装置のメーカーでもあって、それがまたサーブに独特な能力を与えることとなっている。

グリペンE 写真:Saab

じつは空飛ぶレーダーも30年くらいやってきた

 サーブの新しい製品の一つが早期警戒管制機(AEW&C)「グローバルアイ」だ。早期警戒管制機にとって一番肝心なレーダーはサーブ製のフェーズドアレイのエリアイERで、最大探知距離は高度35,000ft(約1万m)で650kmという。グローバルアイはカナダのボンバルディア社の長距離大型ビジネスジェット機グローバル6500の機体を改造して、背中にこのエリアイERの板状のアンテナを搭載している。
 早期警戒管制機というとアメリカのE-2やE-3などのように円盤形の回転式レーダーアンテナを背負っているイメージがあるが、グローバルアイのエリアイERレーダーは固定式だ。アンテナは四角い板状なので「バランスビーム」(平均台)とあだ名がついていて、しかも運用効率を最大化するためにちょっと前下がりの斜めに装備される。
 円盤型の回転式レーダーならば360度全周を見渡せるが、このグローバルアイの固定式板状アンテナでは左右150度ずつ、合計300度しか見渡せず、前後の30度ずつは死角となってしまうが、そこは機体を旋回させたり、僚機と監視範囲を分担したりすることでカバーする方法がある。
 また、エリアイERとともに下方の海上や陸上を監視、捜索するために機体下面にイタリアのレオナルド社製シースプレイ7500Eという別のフェーズドアレイ・レーダーも装備している。

グローバルアイAEW&C 写真:Saab AB

 サーブはグローバルアイ以前に、すでに1990年代に自社製のサーブ340ターボプロップ双発小型旅客機を元にエリアイ・レーダーを装備した機体を作り、スウェーデン空軍をはじめ数か国に販売しており、ブラジル製のローカル路線用双発ジェット旅客機エンブラエルERJ-145にエリアイ・レーダーを搭載した早期警戒管制機も輸出している。グローバルアイはその最新・最強バージョンということになり、アラブ首長国連邦空軍への2機を皮切りにスウェーデン空軍に2機が採用され、その後フランス、カナダ、オランダについても採用が決定されたり、前向きに導入検討が進められている。加えて、2026年7月にはNATOがアメリカ製E-3A空中警戒管制機の後継として10機を採用することを発表している。グリペンといい、このグローバルアイといい、このところサーブの輸出は好調のようだ。
 このグローバルアイとともに、サーブは「ロイヤルアイ」という無人早期警戒機を開発している。これはアメリカのジェネラル アトミクス社製のMQ-9B無人航空機の機体を基に、左右主翼下に小型化したエリアイER・レーダーのアンテナ面を外側にしてポッドとして装備し、レーダーの電源や信号処理部分、冷却機などを胴体下に装備するものだ。レーダーが探知した目標の情報はデータリンクでグローバルアイや地上の施設に送られ、ロイヤルアイは無人機なので長時間にわたって飛行することができる。グローバルアイと組み合わせて運用すれば、グローバルアイとロイヤルアイでレーダーの死角をカバーして全周を警戒・監視することもできるわけだ。

左から、エリアイ・レーダー搭載サーブ340、同ERJ-145、ロイヤルアイ 写真:Saab AB, Sgt A. Souza / Força Aérea Brasileira, Saab AB

イノベーション、パートナーシップ、インテグレーション

 グリペンEのレーダーがイタリアとの共同開発で、グローバルアイはレーダーがサーブ製で機体はカナダ製、それにイタリア製レーダーがつく。ロイヤルアイはアメリカ製無人機にサーブのレーダーを搭載している。サーブが作った昔のドラケンやヴィゲンでは、ジェットエンジン以外の装備や部品はスウェーデンの自国製にこだわって、やはり当時の東西冷戦下でのスウェーデンの強固な武装中立政策の現れなのだと感心したものだが、今のサーブはむしろ自国製・自社製にこだわらない、むしろ積極的に外国の製品を採り入れている。外国のメーカーとの技術的なネットワークの中で、性能や能力はもちろん、コストや開発リスク、開発スケジュールを勘案して最適な組み合わせを見出して、統合して作り上げて行こう、というのが今日のサーブのやり方であり、得意技のようだ。
 その実例がオーストラリア海軍の次期フリゲート、ハンター級だ。ハンター級はイギリスのBAEシステムズが設計、建造しているイギリス海軍向けタイプ26グラスゴー級を基に、戦闘指揮システムとしてアメリカのロッキード マーティン社のご存知「イージス」を搭載し、しかもレーダーはオーストラリア自国製のCEAFAR 2フェーズドアレイ・レーダーを装備し、このCEAFAR2レーダーとイージス・システムを統合するインターフェイスを担当するのが、サーブ・オーストラリアなのだ。
 このハンター級の他にもサーブは海軍・艦艇にも関与していて、スウェーデンの歴史ある造船所・艦艇メーカーのコッカムス社も今ではサーブ社が吸収している。コッカムス社は冷戦時代には潜水艦の有力メーカーで、スターリング機関を用いたAIP潜水艦を最初に建造したのもコッカムス社だった。今のサーブは通常動力潜水艦A26型をスウェーデン海軍向けに建造しており、さらにポーランド海軍での採用も決まっている。A26型は特異なステルス形状のセイルや、艦首に開いた特殊部隊や水中無人機を出し入れする為のエアロックなど、バルト海での隠密行動や水中での情報収集などを意識した特異な潜水艦だ。

左から、ハンター級フリゲート、A26潜水艦の想像図 画像:BAE Systems, Saab AB

 このA26潜水艦や先に述べた「戦闘機のカタチをした電子戦機」グリペンE、無人早期警戒機ロイヤルアイのように、サーブは相変わらず革新的(イノベーティブ)な、独特な製品を作り出している。それとグリペンのレーダーやグローバルアイの機体、ハンター級フリゲートで見るように外国のメーカーやユーザーとのパートナーシップが今日のサーブが拠って立つ地盤になっている。そのサーブの得意技が、グローバルアイやロイヤルアイの機体とレーダーや、ハンター級フリゲートのようなインテグレーション(統合)だ。
 日本にとってみれば、これからの防衛はさまざまな兵器やシステムを作り、導入していくだけではなく、それらが総合して最大の効果を発揮できるようにするには、それらを組み合わせて、連携させなくてはならない。そのためには各種の兵器と指揮システム、兵站システムなどの統合、インテグレーションが重要になる。それを考えると、日本はサーブがやっていることをよく見ておくといいんじゃないだろうか。それにとにかく、サーブは面白いし。

イラスト:岡部いさく

《連載》なぜ北欧はいま安全保障の教科書なのか_〜 タイトル一覧 〜

 第1回 そもそも北欧とは !?
 第2回 北欧国家の安全保障政策
 第3回 北欧の防衛産業 その①
 第4回 北欧の防衛産業 その②
 第5回 サーブ製品と北欧デザイン
 第6回 サーブ製品の最先端技術
◎第7回は、11月の公開予定です。お楽しみに!

岡部いさくOKABE Isaku

1954年埼玉県出身。航空雑誌、艦艇雑誌の編集者、編集長を経て、フリーの軍事評論家として幅広いジャンルで活躍。テレビでの軽妙な語りや、初心者にも分かりやすい解説には定評がある。『世界の駄っ作機』(大日本絵画刊)などの著書、翻訳書も多数。

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