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《レポート》IMDEX Asia 2025 - シンガポールの海洋防衛展示会

  • 特集

2025-5-10 20:12

5月上旬、シンガポールで海軍装備の展示会「IMDEX Asia 2025」が開催されました。井上孝司氏のレポートでお届けします。井上孝司 INOUE Koji

IMDEX Asia 2025 ── 艦艇と艦載装備品の展示会

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5月6日の開会式でスピーチする、シンガポール国防省の上級国務大臣、ザキ・モハマド氏。最近の情勢を反映して、「海底ケーブルのようなインフラに対する脅威」に言及する場面もあった。これに限らず、この種の展示会は安全保障情勢が色濃く反映されるものである。写真:井上孝司

 2025年5月6日から8日にかけて、シンガポールのチャンギ・エキジビジョン・センターとチャンギ海軍基地において、海軍分野の展示会「IMDEX Asia 2025」が開催された。

 IMDEX(発音は「いむでっくす」)とは “International Maritime Defence Exhibition” の略。つまり「国際海洋防衛展示会」という意味になる。その名の通り、海軍分野に特化した展示会だ。よって、艦艇とそこに載せる装備品が展示の主役となる。機関(エンジン)、統合艦橋システム、航法関連機器など、フネを構成する機器をいろいろと見ることができる。

 ただし、アジア市場に向けてアピールしたいというメーカーでなければ出てこない。だから世界的な大手でも、出展していないメーカーはある。また、広いブースを構えているのに中味はスカスカ、なんていうことも(たまには)ある。

 そうした中、会場の中央で広いスペースを構えて、もっとも大きなプレゼンスを発揮していたのは、やはり地元のSTエンジニアリング(シンガポール)。陸戦兵器も航空機も手掛けている会社だが、展示会の性質上、さまざまな艦艇に関する模型展示を前面に押し出していた。

 そのSTエンジニアリングと組んでシンガポール海軍向けの艦艇建造に関わったり、スウェーデンの中古潜水艦をシンガポールが導入したりしている関係で、サーブ(スウェーデン)もかなり目立っていた。

地元のSTエンジニアリングは、さまざまな艦艇の模型を展示してアピール。頭上にはUAVの模型も。写真:井上孝司
会場に入ってすぐの中央にあるのが、STエンジニアリングとサーブのブース。その奥にはロッキード マーティン(米)とフィンカンティエーリ(イタリア)が見える。写真:井上孝司

 こうした、「どこのメーカーが来ているか、どれぐらい目立つ場所でどれぐらいスペースをとっているか」は、各社の思惑を推し量る材料となる。売れる見込みがないのに経費をかけて展示会に出展する物好きなメーカーはそうそういない。

 また業界のトレンドを反映して、「無人モノ」に関する出展が多かった。海軍装備の展示会だからUUV(無人潜水艇)やUSV(無人水上艇)は当然だが、日本でも採用を決めた「V-BAT」や、シーベル・エアクラフトの「カムコプター」などUAV(無人航空機)も登場していた。

ドイツのユーロアトラスは、さまざまな無人ヴィークルを出展。特に目立っていたのは、大型UUVの「グレイシャーク」。写真:井上孝司
少人数でフネを動かすために欠かせないのが、航法・操舵・機関制御・レーダーなどの見張りといった機能を集約する統合艦橋システム。これはアンシュルツ(Anschütz)の製品。写真:井上孝司
「こんなに多様なプラットフォームに対応できる」と模型を並べてアピールしていたのは、インドのブラモス超音速巡航ミサイル。「世界最良の超音速巡航ミサイル」といっている。写真:井上孝司
日本でも導入を決めた「V-BAT」がこれ。甲板から運用し、機体を立てて発着艦し、機体を横にして巡航、任務を実施する。写真:井上孝司
こちらは筆者がいうところの「人面ヘリコプター」、オーストリア シーベル社のカムコプターS-100。日本の展示会にも出展されている。写真:井上孝司

各国海軍のVIPが多数集結

 こうした展示会は各国海軍にとってみれば、交流の場、情報や意見を交換する場でもある。装備品に関する展示だけでなく、海軍に関わるさまざまな議題を掲げたカンファレンスがいろいろ開かれており、そこには現役の海軍軍人などが集結する。

 よって会場は、肩章に星が付いた制服姿(つまり将官ということ)の海軍軍人だらけとなる。月並みだが「この会場全体で、いくつの星があるんだろうな」なんていうことを考えてしまった。

 その中には、我が国の斉藤 聡(さいとう・あきら)海上幕僚長の姿も見られた。開会式が終わった後は、斉藤海幕長もそうだったが、こうした各国海軍のVIPが会場を見て回る。そして、興味を持って立ち寄ったブースでメーカー関係者に話を聞く場面が見られる。

 もちろん、後述する艦艇展示のために寄港している艦の乗組員も、会場に姿を見せていた。他国のメーカーや他国の製品を目の当たりにして、さらに話を聞いてみる絶好の機会となろう。

会場でメーカーの担当者から説明を受ける斉藤海上幕僚長(右)。写真:井上孝司

チャンギ海軍基地に12か国14隻の艦艇を展示

 IMDEX Asia展示会の特徴として、“Warships Display” すなわち、実艦の展示がある。こちらはチャンギ海軍基地で行われており、本会場との間はバスで行き来する。そこでは地元のシンガポール海軍だけでなく、他国の艦も姿を見せる。

 今回は、以下の艦が登場した。

・イギリス海軍の哨戒艦「スペイ」
・タイ海軍の哨戒艦「プラチュアップキリカン」
・インドネシア海軍の高速戦闘艇「クラミット」と戦闘艇兼迎賓艇の「ブン・カルノ」
・マレーシア海軍のコルベット「レキル」
・オーストラリア海軍のフリゲート「アランタ」
・スリランカ海軍の哨戒艦「サムドラ」
・中国海軍のフリゲート「許昌」と掃海艇「赤水」
・ブルネイ海軍の哨戒艦「ダルサラーム」
・イタリア海軍のフリゲート「アントニオ・マルチェリア」
・海上自衛隊の護衛艦「やはぎ」(FFM 5)
・インド海軍のコルベット「キルタン」
・アメリカ海軍の駆逐艦「デューイ」

 これらのうち、日本、アメリカ、イタリアの艦は、インド太平洋方面派遣(IPD25)の一環として合同訓練を実施した後で、チャンギに立ち寄った。「アントニオ・マルチェリア」がそれに先立ち、横須賀と大阪に寄港していたのは、本サイトの閲覧者ならご存じのとおりだ。《レポート》イタリア海軍フリゲート「アントニオ・マルチェリア」が横須賀来港)

チャンギ海軍基地の泊地を北側から眺める。左はタイの「プラチュアップキリカン」。写真:井上孝司
中国海軍艦艇。左が054A型フリゲート「許昌」、右が掃海艇「赤水」。写真:井上孝司
手前が「やはぎ」、奥が「デューイ」。「デューイ」はレーザー兵器AN/SEQ-4 ODIN(Optical Dazzling Interdictor, Navy)を備える艦だ。写真:井上孝司
スリランカ海軍「サムドラ」。外見でお分かりの方もいよう、元は米沿岸警備隊のリライアンス級カッター。写真:井上孝司

 単に寄港して艦を見せるだけでなく、乗組員が互いに他国の艦を訪れる場面も出てくる。筆者は2017年にもIMDEX Asiaを訪れているが、このときには中国海軍の士官が米海軍の沿海域戦闘艦「コロナド」を見に来ていた。

 もちろん、地元のシンガポール軍にしてみれば、他国の艦を間近で見る絶好の機会。よって、シンガポールの軍人もしばしば姿を見かけた。こうした相互訪問も重要なイベントといえよう。

筆者にとってのハイライト、中国海軍054A型フリゲート

 2017年も今年も、あるいはその間に開催されたIMDEX Asiaでも、中国海軍の054A型フリゲート、別名「江凱(ジャンカイ)II型」は常連となっている。実は、その中国の艦を間近に見てみたいというのが、筆者がシンガポールまで出掛けていった大きな理由。

 そして今回、その江凱II型の「許昌」が艦内(といっても上甲板レベルだけだが)を見せていたので、乗艦してきた。ただし艦内は撮影禁止、写真を撮ってよいのは外から見える部分に限られた。これは他国でもよくある話で、中国が特別というわけではない。

 乗組員の応対は穏やかなもので、こちらが日本人だからといって、特に対応が変わるようなことはなかった。

岸壁から眺めた、中国海軍の054A型(ジャンカイII型)フリゲート「許昌」。写真:井上孝司
「許昌」にかけられた舷梯。クレストには「忠勤 勇正」とある。写真:井上孝司

 2017年にも同じ江凱II型の「黄山」を外から眺めているが、細々(こまごま)した装備については、「黄山」と「許昌」で少なからぬ相違があった。そのことが分かっただけでも、シンガポールまで来た甲斐があった。

 また、公開していなかったので外から眺めただけだが、中国の掃海艇は初見。見慣れた日本の掃海艇とはいろいろ違う部分があり、それを自分の眼で見られたところに意味がある。

 ライフルを持った警備担当が舷門に立っている艦がいくつもあったが、ことに中国の艦では、蒸し暑い中でビシッと立ち続けている様子が目立った。他国の艦と比べて、ちょっと無表情じゃないのかなあと思うところはあったが。

会場で販売していた700円のONIGIRI(おにぎり)

 朝から夕方まで会場にいると、訪問者も出展者もお腹が空く。だから会場ではお弁当などの販売も行われている。2017年に来たときよりも、その内容は充実しているように見受けられた。

 ビックリしたのは「おにぎり」が売られていたことだが、そのお値段は6シンガポールドル。約700円近いという高価なおにぎりであった(!)

「KANI MAYO(蟹マヨ)ONIGIRI」と「TSUNA MAYO(ツナマヨ)ONIGIRI」。いずれもお値段は6SGD。写真:井上孝司

 以上、速報として、かいつまんでレポートした。7月11日発売の『Jシップス』誌では、詳報を掲載する予定だ。

井上孝司INOUE Koji

1966年7月生まれ、静岡県出身。1999年にマイクロソフト株式会社(当時)を退社してフリーライターに。現在は航空・鉄道・軍事関連の執筆を手掛けるが、当初はIT系の著述を行っていた関係でメカ・システム関連に強い。『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリーのゲームチェンジャー』(潮書房光人新社)、『F-35とステルス』『作戦指揮とAI』『軍用レーダー』(イカロス出版、わかりやすい防衛テクノロジー・シリーズ)など、著書・共著多数。『Jウイング』『新幹線エクスプローラ』『軍事研究』など定期誌や「マイナビニュース」「トラベルウォッチ」などのWEBメディアにも寄稿多数。

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