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海自SH-60K哨戒ヘリの2機墜落事故 事故調査結果を公表

  • 防衛省関連

2024-7-10 11:56

 防衛省 海上幕僚監部は令和6(2024)年7月9日(火)11時すぎ、今年4月20日の海自SH-60K哨戒ヘリ衝突事故について、事故調査結果がまとまったことを明らかにした。

 公表された資料では、航空機の運用と指揮管理において事故につながる要因が認められたとし、事故原因として「見張り要領不適切」と「複雑な作戦環境下における高度管理不十分」の2点が挙げられた。運用環境、航空機とその管理、人的要因については、事故に結びつくものは認められなかったとされた。

 また、5月3日に再開した同型機の昼間訓練において再発防止策による安全性が確認できたことから、夜間または複数の指揮系統での複数機による訓練を段階的に行っていくとしている。
 公表されたリリースの全文は、以下を参照されたい。

海上自衛隊のヘリコプター墜落事故について

 令和6年4月20日(土)に発生した海上自衛隊のヘリコプター2機の墜落事故に関してお知らせします。

 事故発生後から進めてきました事故調査結果がまとまりましたので、別添のとおりお知らせします。

 また、当面は昼間の良好な視認環境下で単一の指揮系統の訓練から開始し、具体的な再発防止策を講じて安全性を確認したことから、夜間又は複数の指揮系統での複数機による訓練を段階的に再開いたします。

添付資料:
 1 航空事故調査報告書(概要)
 2 海上自衛隊ヘリコプター航空事故調査結果等

※:書類のタイトルは《海上自衛隊護衛艦「はぐろ」搭載機8416号機及び護衛艦「きりさめ」搭載機8443号機の航空事故調査報告書について》

(資料1)海上自衛隊護衛艦「はぐろ」搭載機8416号機及び護衛艦「きりさめ」搭載機8443号機の航空事故調査報告書について

 令和6年4月20日(日)、海上自衛隊護衛艦「はぐろ」搭載機8416号機及び護衛艦「きりさめ」搭載機8443号機が対潜戦訓練中に空中衝突する事故が生起した。

 翌21日00時15分、海上幕僚監部監察官を委員長とする航空事故調査委員会を設置し、同委員会は、事故の実態を明らかにし、航空事故の防止に資することを目的として、関係者からの聞き取り、フライト・データ・レコーダーの解析などの調査を行うとともに、再発防止策をとりまとめた。その内容は以下のとおりである。

1 事故の概要

(1)発生日時
 令和6年4月20日(土)22時33分

(2)発生場所
 東京都小笠原村鳥島東方 約150NM

(3)事故発生部隊
 海上自衛隊護衛艦「はぐろ」
 海上自衛隊護衛艦「きりさめ」

(4)事故機
 SH-60K 8416号機 搭乗員4名
 SH-60K 8443号機 搭乗員4名

(5)天候
 天気:曇り、風:西 約11ノット、視程:20km
 月出:1442、月没:0300、月齢:11.4

(6)事故関係者
 ア 8416号機(以後「16号機」という。)
  機長 3等海佐(35歳)
  副操縦士 2等海尉(27歳)
  主航空士 3等海曹(31歳)
  副航空士 海士長(21歳)

 イ 8443号機(以後「43号機」という。)
  機長 3等海佐(36歳)
  副操縦士 3等海尉(25歳)
  主航空士 海曹長(47歳)
  副航空士 2等海曹(32歳)

2 事故発生時の状況

(1)18時11分頃、16号機は、護衛艦「はぐろ」を発艦した(21時18分~21時26分の間、「いせ」において燃料補給を実施)。

(2)21時17分頃、43号機は、護衛艦「きりさめ」を発艦した。

(3)22時27分頃、43号機がレーダー探知、確認に向かう。一方43号機のレーダー探知点近傍を飛行していた16号機も指揮官(第4護衛隊群司令)の命令により同地点に向かうこととなった。

(4)22時33分頃、両機は同一捜索起点付近を飛行中、衝突し墜落するに至った。

3 事故の原因

 事故の原因を究明するため、事故生起の要因を、環境上の要因、器材上の要因、管理上の要因、人的要因、航空機運用上の要因及び指揮管理上の要因について分析、検討した。
 環境上の要因、器材上の要因、管理上の要因、人的要因には、事故に結びつく要因は認められなかった。
 航空機運用上の要因及び指揮管理上の要因の一部に、事故につながる要因が認められた。

(1)見張り要領不適切

ア 2機ともに相互の存在を認識しつつも、衝突の瞬間まで回避操作が行われていないことから、視認距離の把握が困難な夜間において相手機の距離を誤認した可能性がある。

イ 2機ともに、視認した目標に関する機長への報告、機内クルー間の共有、機長からの確実な動静把握の指示が十分に行われておらず、見張り報告要領、動静把握対応が不十分だった。

ウ 16号機は自動飛行も用いつつ時計回りに旋回する中、43号機の近接への警戒が不足しており、また43号機においても16号機の飛行経路に対する警戒が不足していた。

(2)複雑な作戦環境下における高度管理不十分

ア 第4護衛隊群司令は自らが指揮する16号機を当該目標の捜索に向かわせる意図をすずなみ艦長に、また、すずなみ艦長は自らが指揮する43号機を同一目標の捜索に向かわせることを第4護衛隊群司令に、明確に伝えていなかった。

イ 当該海上戦闘の全般を指揮する第4護衛隊群司令は、すずなみ艦長が指揮する13号機・43号機を含めた当時飛行中の航空機3機全体の状況の把握が不十分だった。また、16号機と43号機2機間の連携を監督し、高度管理を指示する等の対応をしなかった。

ウ このような状況の下、第4護衛隊群司令、すずなみ艦長、16号機及び43号機のいずれも、2機が同一目標を捜索すること、2機間の捜索の順番及び2機の位置関係を認識し得たにもかかわらず、高度セパレーションの設置を行わなかった。

4 事故の防止方法に関する意見等

(1)搭乗員による見張りの徹底

ア 見張り報告要領、対応の再徹底
 搭乗員にとって目視による見張りは、安全運航の基礎であり、各種教範類に則り厳格に行う必要がある。ただし、目視による見張りには限界があるため、利用可能なリソースを全幅活用し、他機の位置及び動静を正確に把握、機内外で情報共有する必要がある。

イ CRM(Crew Resource Management)※1の正しい理解と訓練の実効性の向上
 機内でのCRMスキルの一部が十分に発揮されなかった可能性が考えられる。特に搭乗員間のコミュニケーションは、一方通行ではなく、メッセージを確実に相手に伝えると同時に正しく伝わったかを確認する必要がある。また、危険を感じたり、危険との認識に至らなくても違和感を感じた場合は、その認識をチーム全体で共有する必要がある。

ウ 航空生理教育等の実施
 海上自衛隊において搭乗員を養成するにあたり、夜間視力に関する正規の教育は行われていない。海上自衛隊においても航空生理に対する考えを一新し、教育訓練に取り込む必要がある。

エ 自動飛行への理解の深化
 システム化された航空機の運航は、有効活用により操縦士の負担軽減につながるが、自動飛行への完全な委任が誤って慢心となる可能性があることは注意すべきであり、システム機の運用時に考えられる問題点と克服する方策を明示し、自動飛行の理解の深化につなげる必要がある。

※1 安全運航を達成するため、航空機内で得られる利用可能な全てのリソース(人、機器、情報)を、有効かつ効果的に活用し、クルーの力を結集して、航空機として任務/業務の遂行能力を向上させようとする考え方

(2)複雑な作戦環境下における高度管理

ア 高度管理の厳格化
 複数の航空機が同一空域に集まる事態が発生した場合、各機が指揮系統上異なる指揮官の指揮下にあろうとも、各機は明確に高度間隔を設定することを最優先させ、不意の近接を物理的に避ける対策を常に講じることが肝要である。いかなる状況においても、高度管理等に関する責任を、当該海上戦闘指揮官に統一し、隷下部隊長や現場の先任機長も自発的に高度セパレーションを行う必要がある。

イ 指揮官の意図の明確化
 指揮官は、状況に合わせて自身の方針を確実に示す態勢を強化するとともに指揮官の意図が明確に隷下部隊に示され部隊が正確に運用されるように日々の訓練を継続しなければならない。

ウ 部隊間及び司令部内での情報共有の強化
 各級部隊指揮官は、実施する(した)行動、命令は関係指揮官に共有し、指揮官に仕える幕僚等は、指揮官の情勢判断に資する幕僚活動を行うとともに、指揮官の意図を明確に関係先に展開、その結果を指揮官へフィードバックするループを止めてはならない。

(3)装備品の改修等
ア 自動飛行時の設定に関するシステムの改修
 従来、自動飛行するヘリコプターの洋上ホバリングに移行する高度について、一度共通の高度での水平飛行を経由するシステムが採用されていたが、この仕様を改修する必要がある。

イ 近接警報等の衝突防止に関する調査・検討僚機間リンクの連接如何に関わらず、かつ実施任務に制限を加えない中で衝突回避の機能が作動する装備品の導入について調査、検討を推進する必要がある。

(資料2)海上自衛隊ヘリコプター 航空事故調査結果等

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