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吉田統幕長が年頭の挨拶「動乱の先に見える光明」

  • 日本の防衛

2025-1-2 18:03

 統合幕僚監部は令和7(2025)年1月1日(月)、吉田圭秀(よしだ・よしひで)統合幕僚長の年頭の挨拶を、公式サイト上で公開した。
 以下に全文を掲載する。

統合幕僚長 年頭のご挨拶──動乱の先に見える光明

 謹んで新年のお慶びを申し上げます。
 皆様におかれましては、平素より自衛隊に対する深い御理解と御厚情を賜り、心より御礼申し上げます。

 この1年を振り返ると、残念ながら国際社会の分断は一層深まり、情勢は悪化の一途を辿っています。国際社会は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持できるか否か、正に瀬戸際にあります。

 まず、欧州ですが、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵略は、間もなく3年目を迎えますが、未だ出口が見えず、継戦能力に勝るロシアが膠着している戦線を少しずつ押し込んでいます。

 中東では、2023年10月に始まったハマスとイスラエルのガザにおける局地紛争が、レバノンのヒズボラやイランにまで広がる一方、ガザの深刻な人道的状況にも拘わらず、未だ停戦が見通せない状況です。

 インド太平洋地域では、南シナ海において、中国によるフィリピン艦船や航空機に対する危険な行為が一昨年8月以降、年々激しさを増しています。
 台湾海峡でも、中国は、2022年8月以来、台湾を威嚇する演習を度々実施しています。昨年も頼清徳総統就任時及び「双十節」演説を受けて、5月に「聯合利剣2024A」、10月に「2024B」演習が台湾周辺で行われました。
 東シナ海及び我が国周辺地域においても、昨年8月上旬~10月下旬の間、中東情勢が悪化する中、8月26日男女群島付近上空でY-9情報収集機による中国軍機として初めてとなる領空侵犯、31日中国測量艦による口永良部島・屋久島近傍の領海通過、9月18日中国空母「遼寧」による与那国島と西表島の間の接続水域通過、23日には、中露艦艇が宗谷海峡共同航行中にロシア哨戒機IL-38による礼文島上空での3回にわたる領空侵犯が発生しました。
 朝鮮半島においては、露朝連合が急速に強化され、北朝鮮は、短距離弾道ミサイル等に加えて兵員をウクライナ方面に派遣し、参戦させました。その見返りに北朝鮮は、ロシアから軍事技術を得ているとも言われており、朝鮮半島情勢にも様々な影響を及ぼすことが懸念されます。

 以上見てきたように、欧州・中東・インド太平洋の情勢は、お互いに連動しつつ、益々複雑・不確実・不安定の様相を呈しています。

 こうした深刻な国際情勢の中、統合幕僚監部は、①複合事態への対処(Respond)、②統合運用態勢の抜本的強化(Deter)、③同盟国・同志国との連携強化(Shape)の3つを隊務の柱として、我が国の防衛及び地域の平和と安定に資するため、任務に邁進しています。

 第1の複合事態への対処については、国際情勢の著しい悪化や気候変動の進行等により、昨年も、引き続き「複合事態の常態化」への対応が求められました。ここでは、2つの事例を紹介します。

 まず、元旦に発生した能登半島地震対応については、今回の災害派遣ほど、陸・海・空部隊の統合運用が緊密に行われたことはないと感じています。発災と同時に陸路が遮断し、陸の孤島と化した能登半島へのアクセスは当初の間、空路・海路に限られました。1月2日の朝には、大臣命令により、中部方面総監を指揮官とし、舞鶴地方隊を海災部隊に、中部航空方面隊を空災部隊とした統合任務部隊(JTF)が編成され、小松基地をヘリの集中運用の拠点とし、艦艇をシーベースとして、ヘリやLCACにより、人員・物資の輸送を開始しました。警察・消防も、ヘリや艦艇で輸送し、国交省の重機部隊TEC-FORCEもLCACで陸揚げしました。この間、陸路からは、自力で道路を啓開しながら陸上部隊も逐次推進しています。ところで、1月1日の発災時点で、既に現地に所在していた部隊がおりました。休暇間のため40名態勢の空自輪島分屯基地の隊員達です。発災後、津波警報と共に高台にある分屯基地へ約千名の住民が押し寄せました。基地の隊員は、住民を基地内に受け入れ、入間から夜中に空輸された毛布等の物資を千名の住民に配るとともに、隊を2つに分け、1個組を輪島市内に派遣し、自衛隊最初となる人命救助活動を行い、4名を救出しました。後に彼らは、「輪島40’s」として名を馳せることとなりました。

 次に紹介するのは、8月~10月の中国軍等への対応です。前述したように、度重なる領空侵犯、空母や我が国を周回する中露艦艇及び台湾周辺での演習など、中国等による一連の軍事活動の拡大・活発化に対し、約2か月にわたり、三自衛隊が有機的かつ厳正に警戒・監視、対領空侵犯措置等を実施し、正に「探知による抑止(Deterrence by detection)」を発揮しました。

 第2の統合運用態勢の抜本的強化については、①本年3月の「統合作戦司令部」新設、②令和7年度末から導入開始される「スタンドオフ防衛能力(反撃能力)」の戦力化、③統合演習等を通じた「領域横断作戦」能力の向上を重点に進めています。中でも、「統合作戦司令部」は、新設と同時に平素から生起する複合事態対処を行うとともに、有事に際しては、各軍種・領域の作戦を束ねた戦役(Campaign)構想を策定し、作戦指導できなければなりません。そのための準備が今正に大詰めを迎えています。

 第3の同盟国・同志国との連携強化については、インド太平洋地域において、日米豪、日米韓、日米豪印、日米豪比等のミニラテラルな協力が進展しました。特に、豪州は、同志国の中でも別格の存在で、運用面の協力が急速に進展しています。また、韓国とは、8年ぶりに二国間のハイレベル交流が再開されるなど関係が正常化するのみならず、日米韓でミサイル警戒情報のリアルタイム共有や複数領域にわたる新たな共同訓練「フリーダム・エッジ」を開始するなど、防衛交流から防衛協力の関係に進化しました。さらに、南シナ海における法の支配に基づく海洋秩序を維持するため、日・米・豪・加・新・比の海軍が海上協同活動(MCA)を数次にわたり、実施しました。

 加えて、昨年は、NATO諸国との連携が急速に強化された年でもありました。特に6月~9月にかけて、英・仏・独・蘭・伊・西・土の海・空アセットや陸上部隊が、相次いで日本及び周辺に展開し、各軍種の共同訓練が行われました。特に圧巻だったのは、イタリアで、空軍がF-35Aを展開するとともに、海軍がF-35Bを搭載した空母カブールを展開し、空自・海自と共同訓練を行いました。本年も、英・仏が空母の展開を予定するなど、ウクライナにおける戦争が続く中、NATO諸国のインド太平洋地域への関与が強化されています。

 自衛隊は、本年も、動乱の時代の先に光明を見出すべく、抑止力・対処力の強化に邁進し、時代の責任を果たすことをお誓い申し上げますとともに、皆様にとって心穏やかな一年になるよう心からお祈り申し上げ、年頭のご挨拶と致します。

(以上)

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